医療通訳の制度、東京オリンピックまでに時間はあるのか

最近、質問をいただくことが多いのが、どの医療通訳の資格を受けた方がいいのか、ということです。とくに日本医療教育財団が「医療通訳技能認定試験」をスタートすることから、一般社団法人日本医療通訳協会の「医療通訳技能検定試験」とくらべて、どちらを受けた方がいいのかという質問をうけます。

私の答えは「どちらでも受けやすいものを受けた方がいい」ということです。その理由はすでに書いたことなので、こちらをお読みいただければいいとおもいます。ただし、私は一般社団法人日本医療通訳協会とおつきあいがあるので、バイアスがかかっているのではないかと思う方もいるかもしれません。そこで、もうすこし、医療通訳の公的制度整備についての可能性についてふれたいとおもいます。

東京オリンピックは医療通訳の公的制度導入への追い風か

私が医療通訳をとりまく現状とともに注目しているのが、2020年に開催される東京オリンピックです。世界的な一大イベントに国内はいい意味でも、悪い意味でも、おおいにもりあがっています。リオのオリンピックもおわったことから、開催まであと4年をきっています。医療の分野でも、省庁間で訪日外国人むけの医療について、予算のとりあいがはじまったようです。

東京オリンピックまで4年弱という残り時間を、医療通訳制度に公的制度の導入・整備という観点からかんがえてみましょう。現存しない公的制度をあらたにもうけ、それを定着させ、急増する訪日外国人に対応できるまでに整備する、これは現実的に実現可能でしょうか。

訪日外国人はここ5年で3倍以上にふえています。さらにふえていくことが見込まれているのです。語学系の唯一の公的資格である通訳案内士でさえ、業務独占資格でなくなる方向で話がすすんでいて、訪日外国人をむかえいれる環境をととのえています。訪日外国人を迎えいれるためにおおくの人材が必要とされているのです。そのなかで、医療通訳について公的制度をあたらしく導入するということは、むしろハードルをもうけることになりかねない可能性があります。現実的には、とてもかんがえづらいのではないでしょうか。

東京オリンピックはボランティアで乗りきる気マンマン

オリンピックというのは、ものすごいお金がうごいているにもかかわらず、ボランティアによってささえられているイベントです。リオでは、通訳ボランティアとして日本人学生が送りこまれました(送りこまれたといっても旅費は自腹です)。

リオ・オリンピックへの通訳ボランティアの派遣については、ネット上で批判をよびました。とくに通訳を専門職としている方からは、きびしい声があがりました。もちろん、こういった声は、通訳ボランティアとして志高くリオへ向かった学生たちにむけられたものではありません。通訳ボランティアを組織した方たちの通訳というしごとへの認識の甘さについてのものでした。こういった批判をよそに通訳ボランティアが派遣され、リオ・オリンピックで活躍しました。

東京オリンピックも引きつづき、ボランティアによってささえられるイベントとなります。動員されるボランティアの数は、ロンドン、リオを上まわる8万人となるようです。実際に国内をみてみると、2018年には韓国の平昌で冬季オリンピックが、2019年には日本でのラグビーW杯がひらかれることもあり、全国7つの外語大が協同で「通訳ボランティア育成セミナー」をおこなってきています。ことし9月上旬におこなわれた第3回までに約450人が参加しています。

医療の分野では、Team Medicsという医学生有志のボランティア団体が組織されており、その活動のひとつが、「国際イベントで、医療に関する英語ボランティアスタッフとして患者の誘導を行う」こととなっています。Team Medicsのウェブサイトには、東京都医師会会長から応援メッセージがよせられており、訪日外国人への医療サポート分野での彼らの活躍への期待がしめされています。メッセージのなかには、「今後、激増する外国人観光客に対して、医療の専門家以外に多くのボランティアの方の協力が不可欠と考えられる」といったことばもふくまれています。Team Medicsメンバーの「素晴らしい志」に水をさしかねない公的医療通訳制度・資格の導入に、積極的に乗りだす省庁・組織・団体があるでしょうか。

東京オリンピックまでは、経験をつむチャンスかも

東京オリンピックを前に、医療通訳についての資格について、決定打となるものがでてくることは、かんがえづらいといわざるをえません。といっても、私が医療通訳の将来について否定的にかんがえているというわけではありません。

東京オリンピックまでの時間帯をいいチャンスだとおもって、とくに、医療従事者の方は、医療分野での経験をバックボーンとして、一歩踏みだされることがいいとおもいます。じぶんにとって受けやすい資格を受けて、それを取得し、じぶんの医療分野でのバックグラウンドとともにアピールすることで、どんどんと経験をつんでいったほうがいいのではないでしょうか。

私が主宰する医薬通訳翻訳ゼミナールでもおはなししているのですが、医療通訳の資格をとることは、医療通訳になることとイコールではありません。その過程でまなんだことをいかせば、キャリアの可能性がひろがっていくのです。 この時間帯を有効につかうことをおすすめします。

東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。