グレイズ・アナトミーで医療英語を勉強? ちょっと気をつけよう

英語圏、とくにアメリカの医療ドラマをみて、医療英語を勉強している方はすくなくないでしょう。私も「ER緊急救命室」などは熱心にみました。私が医療通訳をおしえた生徒のなかには「グレイズ・アナトミー」をみている方もいました。

医療ドラマは、ストーリーがあるので、楽しんで医療英語に接することができますよね。基本的には医療従事者のチェックがはいっているので、つかわれていることばにまちがいはまずないだろうという安心感もあります。わたくしがお世話になった元医学部教授が「ヘタな授業をうけるよりも『ER緊急救命室』をみたほうがよっぽど医学生にとっては勉強になる」といってましたから、ドラマによっては専門家からみても質がとても高いようです。

ただ、ちょっと気をつけなければいけない点があります。医療ドラマのなかでは、隠語(専門家同士の口語表現)がつかわれているということです。

日本の医療従事者の間でつかわれている隠語については、先日紹介しましたが、英語圏の医療ドラマでは、現場のリアルな感じをだすために、隠語がすくなからずつかわれています。しかも、隠語は隠語らしく医療従事者同士のシーンでだけつかってくれるのならばまだいいのですが、時として患者にむかって、隠語をつかうシーンがでることがあるのでこまります。

たとえば、「グレイズ・アナトミー」のあるエピソードでは、病院にかつぎこまれて、がんと診断されたばかりの患者にいきなり「mets」(転移)ということばをつかって説明するシーンがありました。患者役は質問もせずに、その説明をうけいれていましたが、実際のところ、どれだけ一般のアメリカ人が「mets」といきなりいわれて、ニューヨーク・メッツ以外のことをおもいつくのか、とても疑問です。

医療ドラマを真にうけて、医療通訳が隠語をつかってはいけません。当ブログでは、なんどもくりかえしてつたえていることですが、医療通訳は患者と医療従事者とのコミュニケーションの橋わたし役です(もちろん、医療通訳のなかには医療従事者同士の会議通訳にすすむ方もいるでしょうけれども、それは別の仕事です)。患者につたわることばを意識すべきです。専門用語ですらない隠語をぶつけても、患者にはまずはつうじないとかんがえるべきです。

そもそも、日本国内で医療通訳にたずさわると、患者の過半数はノン・ネイティブです。過剰にアメリカ的だったり、イギリス的だったりする口語表現はつうじないと心得るべきです。アメリカの医師がつかう隠語などをつかうのは、患者がアメリカ医療ドラマのファンであると期待するようなものでしょう。

とはいえ、医療ドラマをみるのは楽しいことです。参考までに「グレイズ・アナトミー」でつかわれている隠語をいくつかあつめてみました。

東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。
隠語 専門用語・一般用語
mets metastasis/metastases
peds pediatrics
derm dermatology
OR operating room
wet lab skills lab
piggybag heart transplant heterotopic heart transplant. cf. orthotopic
vitals vital signs
appie, appy appendix, appendectomy (US)/appendicectomy
OB obstetrics
pit emergency room/ER
tox screen toxicology screen