からだのしくみを理解するキーワード: ホメオスタシス(2)

前回は、ホメオスタシスについてわかりやすくとらえるために水分補給を例にあげてお話ししました。例として水分補給をあげたのは、ホメオスタシスの重要な作用のひとつが、からだのなかの体液(body fluid)の量(volume)と組成(composition)を一定に保つことだからです。体液は、細胞内液(intracellular fluid)と、細胞外液(extracellular fluid)または間質液(interstitial fluid)にわかれます。前者はICF、後者はECFと略されて使われますので、おぼえておきましょう。ICFとECFには、酸素や栄養素、たんぱく質や電解質(イオン)などがとけていて、体内で重要な役割をはたしており、バランスをくずすと命が危険にさらされます。血管内をながれるECFが血漿(blood plasma)なのですから、ECFの組成バランスがくずれると、重篤な血管疾患を招くということがわかるでしょう。

ところで、ホメオスタシスが維持されるときには、ネガティブ・フィードバック(negative feedback)というシステムがつかわれます。なぜ、ネガティブといわれるのかというと、血圧(blood pressure)でみてみましょう。なんらかの原因・刺激によって血圧があがってしまった(elevated)状況をかんがえてみてください。ホメオスタシスからみると、これは一定の状態から血圧が上の方向へくずれてしまったということです。ホメオスタシスのためには、上にいってしまった血圧を下にむかわせるという「逆」の方向でくずれた状態をもとの一定の状態にもどさなくてはいけないのです。

このように、からだは常に一定の状態をくずそうという刺激にさらされています。ホメオスタシスを維持するためには、ネガティブ・フィードバックによってくずされた状態を検知する受容器(receptor)から、それを調節するための調節中枢(control center)へと情報がとどき、その状態を逆転させるようという指令が効果器(effector)へとどけられ、逆の方向の調節がおこなわれるのです。

さて、ネガティブ・フィードバックのところで出てきた「指令」ですが、神経(神経系)とホルモン(内分泌系 the endocrine system)によってとどけられます。このため、神経系と内分泌系は、ホメオスタシスの観点からはとてもたいせつな器官系(the organ system)となっています。このため、器官系ごとにまとめられた解剖学(anatomy)や生理学(physiology)の教科書は骨格系(the skeletal system)や筋系(the muscular system)をのぞけば、まず最初に神経系と内分泌系をとりあげるものがおおいようです。

Bozeman ScienceのPaul Andersen先生が神経系内分泌系についてYouTubeにわかりやすい動画をのせているのでおすすめします。

参考資料

  • 「トートラ人体の構造と機能」(丸善)
  • 「しくみが見える体の図鑑」(エクスナレッジ)
  • Bozeman Science

からだのしくみを理解するキーワード: ホメオスタシス(1)

ホメオスタシス(homeostasis)は、恒常性とか、恒常性維持、均衡維持などと日本語に訳されます。和英辞典で恒常性とひくとconstancyといった言葉とともにhomeostasisが出てきます。フランスの生理学者クロード・ベナール(1813-1878)という人が19世紀にとなえた考え方です。結構古いですね。

では、このホメオスタシスとはなんだというと「多細胞生物(multicellular organism)が体内外の変化にもかかわらず、体内の環境(内部環境 milieu intérieurまたはinterior milieu)を一定に維持すること」となります。多細胞生物とは目が回りそうな話ですが、人間も多細胞生物なので、ここでは多細胞生物を人間と置き換えて、かんがえていきましょう。

人間って、赤ん坊としてうまれ、成長して大人になり、年をとって老人となり、死んでいきますよね。人生のながれの中で人間の体は常に変化していきます。でも、人生という時間軸の中である一部、たとえばいまのこの瞬間をきりとってみると、人間の体内ではその環境を一定に維持しようと働いているということなのです。体外環境は、温度が変わったり、天気が変わったり、場所が変わったり、常に変化しています。それに対して、人間の体はなんとかバランスをとって、体内環境を一定に維持しようとするのです。

一定というと静的(static)な状態のように聞こえるでしょうけど、体外環境の変化をかんがえれば、そんなに静的な状態であるわけはありません。実際には体内のすべての機能がおたがいにはたらきあって実現することができるとても動的(dynamic)な状態なんです。たとえば、からだから水分は常に蒸発(evaporate)していますよね。人はからだの中の水分が足りなくなると、のどのかわきをかんじて、水をのみ、のどのかわきをいやして、体内に水分を補給する。これって、ホメオスタシスにもとづく、からだのはたらきなんですよね。パッとかんがえただけでも、のどのかわきをかんじる神経系(the nervous system)とからだを動かして水をのむ筋系(the muscular system)と水分を吸収する消化器系(the digestive system)がこの行為のなかではたらいていることがわかるでしょう。

次回は、ホメオスタシスがどのように維持されているかなどにふれていきましょう。

参考資料

  • 「トートラ人体の構造と機能」(丸善)
  • 「しくみが見える体の図鑑」(エクスナレッジ)

語の構成要素 K

Kからはじまる構成要素はとてもすくないです。かんがえてみれば、Kからはじまる単語もそれほどおおくないですよね。「動き」「運動」といった意味の接尾辞-kinesisが商品名などで聞くのでなじみがあるくらいですね。これだけすくないと、今日はちょっと一休みといったところですね。

構成要素 語源・意味 例語
kal(i)- ラ「カリウム(potassium)」 kalemia: カリウム血(症).
kary(o)-, cary(o)- ギ「核」「仁」 eukaryote: 真核、真核細胞、真核生物
ket(o)- ギ「ケトン(ketone)」「ケトン基」 ketoacidosis: ケトアシドーシス
kerat(o)- ギ「角膜」 keratoscope: ケラトスコープ、角膜鏡
kin(e/o)-, kinesi(o)-, -kinesis ギ「動き」「運動」「動作」 kinesthesia: 運動感覚
koil(o)- ギ「空」「くぼみ」 koilocyte: 空胞細胞
klept(o)- ギ「盗み」 kleptolagnia: 窃盗淫欲(症), 窃盗性愛.
kyph(o)- ギ「こぶのある」 kyphoscoliosis: 脊柱後側弯症.

参考資料

語の構成要素 I

Iからはじまる構成要素はけっして、おおくありませんが。-icや-ia, inter、intraなどなじみ深いものがおおいですね。病名ということでいうと、「炎症」を意味する-itisはもらすことはできません。

構成要素 語源・意味 例語
-ia ギ→ラ「(病的)状態」 abasia: 失歩, 歩行不能(症).
-(i)asis ギ「病的状態」「~性の病気」「~に起因する病気」 mydriasis: 散瞳、瞳孔散大.
iatr(o)- ギ「医者」「治療」 iatrochemistry: 医療科学
-iatry ギ「治療」 podiatry: 足治療、足病学. psychiatry: 精神医学、精神病学.
-ic ギ「~の」「~のような」「~の性質の」「~から成る」「~によって生じる」「~を生じる」 hepatic artery: 肝動脈
ichthy(o)- ギ「魚」 ichythyosis: 魚鱗癬. 
-icle ラ「元来小さい」の名詞を作る(意味が失われたものもある) ovarian follicle: 卵胞.
-ics ギ→ラ「…学」「…術」「…論」 obstetrics: 産科(学).
idio- ギ「個人特有の」「自身の」「独自の」 idiopathic: 特発性.
ile(o)- ギ「回腸(ileum)」 ileocecal valve: 回盲弁.
ilio- ラ「腸骨(ilium)」 iliococcygeal muscles: 腸骨尾骨筋.
infra- ラ「下に」「下部に」「下位に」「の内に」 infrahyoid muscles: 舌骨下筋.
inter- ラ「中」「間」「相互」「以内」 interarticular: 関節間の.
intra- ラ「内」「内部」「間」 intracranial hemorrhage: 頭蓋内出血.
-ion ラ「状態」「動作」 ablation: 除去, 切除, アブレーション, 剥離.
-ior [AE], -iour [BE] ラ「動作」「状態」「性質」 tremor: 震え.
ipsi- ラ「自身」「同じ」 ipsilateral: 同側(性)
irid(o)- ギ「虹彩」 iridectomy: 虹彩切除.
isch(o)- ギ「制限」 ischemia: 虚血
ischi(o)- ギ「坐骨」 ischioanal fossa: 坐骨肛門窩
-ism, -ismus ギ「病的状態」 dwarfism: 小人症(侏儒症)
is(o)- ギ「等しい」「同じ」 isotonic: 等張(性).
-ist ギ「~の専門家・専門医」 pathologist: 病理医, 病理学者.
-ite ギ「~の(性質を持つ)人」 hermaphrodite: 雌雄同体.
-itis ギ「炎症」 tonsillitis: 扁桃炎
-ium ギ→ラ「~構造」「~組織」 pericardium: 心膜, 心嚢.
-ive ラ「の傾きのある」「の性質を有する」「のするのに役に立つ」 sedative: n. 鎮静薬; adj. 鎮静させる, 鎮静作用のある.

参考資料

切り分けて・整理して考える 主観と客観

さて、いきなり主観と客観なんて小難しいタイトルではじめてしまいましたね。まずは、主観(subjectivity)についてかんがえてみましょう。iOS版大辞林3.0には、主観の意味がふたつでています。とても哲学的な意味も書かれているのですが、ここでは 大辞林に書かれている「自分ひとりだけの考え」という意味にそって主観をみていきましょう。

では、診察の現場で「自分」とは誰のことでしょうか。もちろん、医師(physician)も医師自身にとっては「自分」ですし、看護師(nurse)だってそうです。受付(reception/receptionist)もそうでしょう。しかし、あえてここでは「自分」とは患者(patient)のことだとかんがえてみましょう。

なぜ、患者を「自分」とするのかということを診察のながれをみながらかんがえてみましょう。診察(medical examinationあるいは単にsession)というのは、一般に患者が症状(symptom)をかかえて病院(hospital/medical institution)に来院することからスタートするします。そして、その患者を担当した医師が症状についての患者の訴え(complaint)をもとに問診や検査をすすめるのが診察です。そもそも、この症状というのがなにかというと「患者により苦痛として経験されたり、心配や危険として解釈されたりする痛みあるいは不快の感覚。通常、自覚症状の意味で使う」(医学大辞典 第2版・医学書院刊)なのです。患者による主観的な経験(subjective experience)が症状なのです。

さて、症状に対する言葉は、徴候(sign、他覚的所見 objective finding)です。「第三者が客観的に観察できる所見」(同医学大辞典)のことをいいます。ここで、「客観」という「主観」と対になる言葉が出てきましたね。つまり、症状(主観)と徴候(客観)が対になっているのです。別の見方をすると、主観の主である「自分」は患者で、客観的に観察している「第三者」は医師(他の医療従事者 medical practitionerも含まれます)になります。

診察というは一般的に、患者が訴えている症状に、医師が耳をかたむけ、そして検査などをおこなって、所見をまとめ診断にいたるという流れ(プロセス)のことをいいます。すべてが主観と客観のわく組みにきれいにおさまるとはいえないものの、おおむね主観→客観にいたる流れだといえるでしょう。ですので、「主観」「客観」という考え方・見方がわかると、医療の現場でおこなわれていることの意味がみえてきます。

たとえば、なぜ病院にいくと、熱(body temperature)や血圧(blood pressure)などをはかったりするのかということがわかってくるでしょう。熱や血圧といった数値で表せるものは客観的なデータだからなんです。患者が「熱っぽいんです」と症状を訴えてきたときに熱をはかって「38.0度ですね」となれば、症状が徴候として客観化されるのです。こういった数字・数値であらわすことを「定量化する(quantify)」といいますが、患者の「主観」を「客観」化するのに大切なやり方なんですね。

なお、熱・血圧は、心拍数(heart rateまたはpulse)と呼吸数(respiratory rate)とあわせてバイタルサイン(vital signs)と呼ばれます。ここでサイン(徴候)という言葉が客観的な意味でつかわれていることが確認できます。徴候という言葉は、予兆(きざし)という意味でもつかわれたりするので、やや混乱しないように気をつけましょう。専門的には、こういった予兆は前駆症状(prodrome)といわれます。

つねに、主観か、客観かなんてことはかんがえていなくとも、考え方の整理をするときにとても役立つと思いますよ。

主観 客観
患者 医療従事者(医師)
症状 徴候・所見
定性化 定量化