テキストを全部そろえると4万円? 厚労省の医療通訳育成むけ『指導要項』をよむ

先日おつたえしたとおり、厚生労働省はことし6月(2018年6月)に「医療通訳に関する資料 一覧」のウェブページを更新し、テキスト『医療通訳』の新版を公開しました。新版の特徴は、旧版のテキスト『医療通訳』にあった内容をわけて、テキスト『医療通訳』と『指導要項』との2冊構成にしたことです。

2冊構成にした理由は「〈医療通訳に必要な知識〉については、受講生の属性等によって学習すべき範囲が大きく異なるため本テキストでは扱わ」(テキスト『医療通訳』6ページ)ないこととしたからだとなっています。そして、〈医療通訳に必要な知識〉については「学習のための指針を示すことを主眼として、『指導要項』に移行」(同ページ)したと書かれています。さらに、「推奨書籍、参考書籍を提示して学習者の便宜を図りました」とつづいています。

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「医療通訳に必要な知識」ってなに?

では、ここでいわれている「医療通訳に必要な知識」ってなんでしょうか。新版『医療通訳』を旧版とくらべると、「通訳」の技術・知識についての内容がかなり充実しています。医療通訳としての職業倫理・コミュニケーションスキル、外国人患者の文化的・社会的背景については、いずれも内容が整理されていますが、旧版とくらべて取りあげ方がおおきくかわったということはないようです。

一方、新版『医療通訳』でなくなったのは、旧版の目次にもとづくと「身体の仕組みと疾患の基礎知識」(解剖生理学と病理学にあたるもの)、「検査に関する基礎知識」、「薬に関する基礎知識」、「感染症に関する基礎知識」、そして「日本の医療制度に関する基礎知識」です。

「医療通訳に必要な知識」というのは、「通訳」についての知識も当然ふくむべきものだとはおもいます。しかし、以上の変更点をかんがえると、新版『医療通訳』そして『指導要項』がいっている「医療通訳に必要な知識」とは「医療通訳に必要な〈医療分野の〉知識」ということのようです。

医療分野の知識の教科書は自分で購入?

それでは「医療通訳に必要な知識」は『指導要項』をみてまなべばいいのでしょうか。「推奨書籍、参考書籍を提示して学習者の便宜を図りました」(テキスト『医療通訳』6ページ)とあるということは、「推奨書籍」「参考書籍」をつかってまなべということなのでしょうか。

『指導要項』では、どのように医療通訳の教育・研修が進めれていくのがいいのかの提案がしるされています。そして「使用テキスト」として「【医療通訳に必要な知識】については本指導要項で推奨テキストを提示している」(『指導要項』4ページ)と書いてあります。「推奨書籍」「参考書籍」にくわえて、今度は「推奨テキスト」ということばがでてきました。

「推奨書籍」「参考書籍」「推奨テキスト」についてはそれぞれの意味するところが、今ひとつわかりづらくなっています。「推奨テキスト」ということばは、ここでしかつかわれていません。『指導要項』の19ページには次のように書かれています。

「医療通訳に必要な基礎知識」に関して既存の書籍をテキスト教材として使用することを推奨しており「医療通訳」のテキストでは取り扱っていません。以下に「医療通訳に必要な基礎知識」でまなぶべき項目とテキストとし推奨する推薦書籍と参考書籍を提示します。

さらに、19ページののこりと、つづく20ページをよむと、どうやら「推奨書籍」を教科書のようにつかい、「参考書籍」を参考書のように利用することをオススメすると『指導要項』はいいたいようです。しかし、一部の医療についての知識は、「参考書籍」にあげた本にしかでていませんので、「推奨書籍」だけで十分にカバーされているというわけではなさそうです。

「推奨書籍」だけでも1万5000円

図書館で借りるという選択肢もありますが、医療通訳の学習にはそれなりの期間がかかります。実際に医療通訳として活動をはじめると、振りかえって、確認したいこともでてくるでしょう。そうかんがえると、『指導要項』が紹介している「推奨書籍」「参考書籍」を購入して、どうしても手元におきたいとかんがる人はすくなくないでしょう(医療通訳の森へではおススメしませんが)。

となると、どのくらいの出費を覚悟しなければならないのでしょうか。下に「推奨書籍」「参考書籍」をそれぞれリストアップしましたが、税込ベースで、計算をすると「推奨書籍」だけで、1万5228円となります。「参考書籍」はあわせて、2万3868円です(「参考書籍」としてあげられていない『病気がみえる 〈vol.11〉 運動器・整形外科』をふくむと2万7972円)。すべてあわせると、3万9096円(同4万3200円)とかなりの高額になります。

これは、厚労省の担当者もはっきりといっていますが、厚労省のテキスト『医療通訳』と『指導要項』はあくまで参考資料です。『指導要項』にならって、医療通訳の学習や育成を進めなければいけないということはありません。『指導要項』が紹介しているのだからと「推奨書籍」と「参考書籍」をそろえる判断もあるでしょうけれども、相当な出費になります。はっきりいっておきますが、厚労省の『指導要項』で紹介されているからといって、購入しなければいけないとかんがえる必要はありません

ところで、医学書は全般的に高額ですので、以前も書きましたが、ブックオフなどの古本屋を利用するのも有効なオプションです。あまりに古い本は避けた方が賢明ですが、おもわぬ掘り出し物があることもあります。とくに、医学部や、看護学校のちかくにあるブックオフは穴場だといわれています。

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