語の構成要素 V

Vからはじまる構成要素はとてもすくなく、ラテン語由来のものしかないのが特徴です。ギリシャ語にはVがないんでしょうかね。特に目をひくものもありませんね。

構成要素 語源・意味 例語
vag(o)- ラ「迷走神経」 vagolability: 迷走神経不安定(性).
vagin(i/o)- ラ「膣(vagina)」 vaginismus: 腟痙.
valvul(o)- ラ「小弁」「弁膜」「皺襞」 valvulotomy: 弁切開(術)、弁膜切開(術).
varic(o)- ラ「静脈瘤(varix)」 varicose: 静脈瘤の; 結節状構造の.
vas(i/o)- ラ「脈管」 vasoconstriction: 血管収縮.
vascul(o)- ラ「(小さな)導管」「血管」 vasculogenesis: 脈管形成.
ven(i/o)- ラ「脈」「静脈」「葉脈」「翅脈」「鉱脈」 venospasm: 静脈攣縮.
ventr(i/o)- ラ「腹」 ventrodorsal: 腹背両面の; 腹背側の.
ventricul(o)- ラ「心室」「(脳の)室・空洞」 cardiac ventriculography: 心室造影(法).
-version ラ「回転」「傾斜」 anteversion: 前傾 ⇔ retroversion: 後傾.
vesic(o)- ラ「膀胱(bladder)」「水疱(blister)」 vesica: 〔解剖〕嚢, (特に)膀胱.
viscer(i/o)- ラ「内臓の」 viscera: 内臓.
vitr(o)- ラ「ガラス(glass)」 vitreous body: 硝子体.
vitre(o)- ラ「硝子体の(vitreous body)」 vitreitis: 硝子体炎.
vulv(o)- ラ「陰門(vulva)」 vulvodynia: 外陰痛.

参考資料

語の構成要素 U

予想どおり、アルファベットの後半になると、ぐっと構成要素がへってきます。Uからはじまる構成要素もすくないです。ひろくつかわれていて重要なのは-uleくらいでしょう。-uleは指小辞(diminutive)といわれるちいさいものを意味することばをつくります。たとえば、導管を意味するductにつけ、ductuleとなると、「小導管」という意味になります。

構成要素 語源・意味 例語
-ula, -ule ラ「小さい」 nodule: 小結節. uriniferous tubule: 尿細管.
ultra- ラ「…の範囲を越えた」「極端な(に)」「超…」 ultrasound: 超音波診断(法)
umbil(i)- ラ「へそ(the navel, the umbilicus)」 umbilical cord: へその緒、臍帯.
ungu(i)- ラ「つめ」「かぎつめ」 unguiform: adj. つめ上の. ungual: n. つめ; adj. つめの.
un(i)- ラ「単一の」「1つから成る」 unilateral hearing loss: 片側性難聴.
ur(i/o)-, urin(o)-, -uria ラ「尿」「尿道」「排尿」「尿素」 urology: 泌尿器学,泌尿器科. uriniferous tubule: 尿細管.
ureter(o)- ギ「尿管(ureter)」 ureterocele: 尿管瘤(尿管ヘルニア).
urethr(o)- ギ「尿道(urethra)」 urethroblennorrhea: 尿道膿漏.
uric(o)- ギ「尿酸」 uricolysis: 尿酸分解.
uter(o)- ラ「子宮(uterus/womb)」 uteralgia: 子宮痛.

参考資料

Ngram Viewerでくらべよう

さて、医療英語についていろいろしらべるうえでの情報ソースでどうしても紹介したものがあります。それは、Google Books Ngram Viewerです。これは、とても便利で、知っている人は知っているのですが、日本語版がまだないので、なかなか浸透していないようですね。

Googleは世界中のあらゆるものをデータ化(デジタル化)するというミッションにもとづいて事業をおこなっています。書籍も同様で、出版された書籍すべてのデジタル化をすすめています。そして、デジタル化された書籍は、出版年代ごとに整理されています。Ngram Viewerをつかうと、どのようなことばがどの年代にどの程度つかわれていたのかということが明らかになります。

こう説明しても、ピンとこないでしょう。それでは、cancer(がん)とtuberculosis(結核)ということばをつかって、Ngram Viewerで検索してみましょう。結果、このようなグラフをえることができました。1800年代の半ばから、1950年代の後半まで、tuberculosisということばが、cancerを上まわって、書籍にでてきたことがわかります。その後、登場頻度が逆転すると、1960年代以降は、その差が急速にひろがっていたことがわかります。あくまで、英語の書籍をもとにしたものでありますが、がんのほうが肺炎よりも今では登場頻度がはるかに高いということは実感覚としても「やっぱり」とおもうのではないでしょう。

Ngram Viewerは、単語だけでなく、単語列についても書籍への登場頻度をしらべ、比較することができます。一例をあげましょう。医療英語をまなぶ人からよく出る質問に、分泌腺の「松果体」はpineal glandなのか、pineal bodyなのか、どちらなのか、というものがあります。どちらも正解なのですが(松果体をあらわすことばには、ほかにもconariumとepiphysis cerebriがあります)、pineal glandとpineal bodyはどちらも人体図鑑とかによくでてきますし、pinealということばの後に「体」をあらわすbodyと「分泌腺」をあらわすglandがつづく2つのことばをみて、ことばと意味の食いちがいに頭をひねってしまうひとがおおいようです。ちなみにWikipediaの日本語版に載っている松果体の項目には、英語でpineal bodyというとでています。

さて、Ngram Viewerで松果体をあらわすことばをしらべてみましょう。結果はこちらです。いまでは、pineal glandが圧倒的におおくつかわれていることがわかります。ところが、1940~1960年くらいはpineal bodyの登場頻度もおおく、pineal glandとほぼおなじくらいだったことも結果はしめしています。これは、勝手な予想ですが、pineal bodyが比較的ひろくつかわれた時期に松果体ということばができたんじゃないでしょうか。

もう一つ、例をあげてみましょう。hay fever(花粉症)です。feverとなっているので、不定冠詞の「a」をつけるべきか、どうか、気になる人もいるでしょう。Googleで不定冠詞をつけて検索すると、日本語のウェブサイトがぞろぞろとでてきて、「花粉症です」は”I have a hay fever”っていうんだよと説明しています。

これをNgram Viewerで、不定冠詞をつけた表現とつけなかった表現で検索してみます。なんと、つけた表現はまったくでてきません。以前、「病名とか症状って可算名詞、それとも不可算名詞?」でもふれたとおり、病名であるhay feverは、単なるfeverとはあつかいがちがうんだということです。

こんな日本人が不得意な冠詞のあつかいなどもNgram Viewerをつかうとみえてきます。とても、便利ですので、つかってみてください。

語の構成要素 T

Tからはじまる構成要素は、Sほどではなくとも、そこそこありますね。「切開」を意味する-tomyは「切除」を意味する-ectomyと区別しておぼえるべきです。辞書などで-tomyをしらべると「切除」の意味もでていることから表にはのせましたが、-ectomyが「外」を意味するect-と-tomyの組みあわせからできていることをかんがえれば、ちがいは理解できるでしょう。

-trophyと-tropyはまちがいやすく、ネット上でもまちがいを目にしたりしますので、気をつけましょう。なお、-trophyからくるhypertrophyは、hyperplasiaとともに臓器の肥大につながることから、訳が混同されるケースがあるようです。hypertrophyは「肥大」、hyperplasiaは「過形成」と一般に訳されていますが、ここから前立腺肥大症をprostatic hypertrophyと訳してしまう人がいます。実際は、prostatic hyperplasiaです。hypertrophyは細胞そのものが大きくなっていくことで組織や臓器が肥大していく疾患です。一方、hyperplasiaは細胞の数がふえていくことで組織や臓器が肥大していく疾患です。-trophyをおぼえるうえで、このちがいもおぼえておきましょう。

構成要素 語源・意味 例語
tachy- ギ「速い」「急速な」 tachycardia: 頻脈.
-tension, -tensive ラ「緊張」「圧(力)」 hypertension: 高血圧.
test(i)- ラ「睾丸(testicle)」「証人」 testicular ectopia: 睾丸転位.
tetan(o)- ギ→ラ「緊張」「破傷風(tetanus)」「持続性筋強直(tetanus)」 tetany: テタニー、強直(強縮).
tetr(a)- ギ「4」 tetrabrachius: 四腕奇形体.
thec(i/o)- ギ「さや(sheath)」「包皮」「被膜」「嚢」「小さな(さや型)ケース」 intrathecal: 髄腔内の.
thel(e/o)- ギ「乳首」(接頭辞としてはまれ) theleplasty: 乳頭形成術.
thely- ギ「雌」「女性」 thelygenic: 雌性産生の,雌性産生.
therap- ギ「治療」「療法」 hydrotherapy: 水治療法.
therm(o)- ギ「熱」「熱電気」 thermoacidophile: 好熱好酸菌.
thorac(i/o)-, thoracico- ギ→ラ「胸(chest)」 thorax: 胸部、胸腔、胸郭.
thromb(o)- ギ「血栓(症)」 thrombus: 血栓. thrombocytopenia: 血小板減少症; 血小板減少.
thyr(o)- ギ「甲状腺」 thyroactive: 甲状腺活性の.
thym(o)-, -thymia ギ 1. 「胸腺」 2. 「こころ」「精神」「感情」 dysthymia: 胸腺(機能)不全(障害)、気分変調.
-tic ギ 「~の」「~のような」「~の性質の」「~から成る」「~によって生じる」「~を生じる」(-icの異形. -sisで終わる名詞の形容詞を作る.) acrotic: adj. 無脈の, 無脈拍の.
toco-, toko- ギ「分娩」「出産」「育児」「子(孫)」 tokodynamometer: 陣痛計.
-tome ギ「切開・切断器具」 bronchotome: 気管支切開刀、気管支開口器.
-tomy ギ「分断」「切除」「切開(術)」 gastrotomy: 胃切開(術).
tonia, -tony ギ「(筋)緊張」 atony: アトニー、無緊張(症)、緊張減退(症)
tono- ギ「伸長」「圧力」「音調」 tonometer: トノメータ、眼圧計、血圧計.
tonsill(o)- ラ「扁桃(tonsil)」 tonsillectomy: 扁桃摘出(術).
top(o)- ギ「場所」「位置」「局所」 topical anesthetic: 局所麻酔剤.
tort(i/u)-, tors-, torqu ラ「ねじれ」「歪み」 torticollis: 斜頚.
tox(i/o)-, toxic(o)- ギ「毒」 toxoplasmosis: トキソプラズマ症.
trache(o)- ギ「気管」「導管」 tracheotomy: 気管切開(術).
trachel(o)- ギ「くび」「頸部」 tracheloplasty: 子宮頚形成(術).
trans- ラ「越えて」「横切って」「貫いて」「通り抜けて」「他の側へ」「別の状態[場所]へ」「超越して」「…の向こう側の」「トランス形の」「完全に変形[移転、転位]するように[な]. transfusion: 輸血.
tri- ギ「3」「3倍」「3重」 triad: 3組, 3主徴, 3徴候.
trich(o)- ギ「毛髪」「繊条」 trichocyst: 毛胞.
trigon(o)- ギ→ラ「三角の」 trigonocephalus: 三角頭蓋体.
-tripsy ギ「破砕」 lithotripsy: 砕石術.
trop(o)-, -tropal, -trope(s), -tropic, -tropism, -tropia, -tropous, -tropy ギ「回転」「変化」「屈性」「(ホルモンが特定の線の活動に)影響を与える」 adrenocorticotropic: adj. 副腎皮質刺激性.
troph(o)-, -trophy ギ「栄養」「発育」 pseudohypertrophy: 偽(性)肥大.
tympan(o)- ギ「鼓室」「鼓膜」 tympanocentesis: 鼓室穿刺(術)

参考資料

語の構成要素 S

Sからはじまる構成要素は、けっこうありますね。「半」を意味するsemi-や、「下」を意味するsub-、「上」を意味するsuper-やsupra-といった接頭辞が目につきますね。「硬化(症)」の-sclerosisと「狭窄(症)」の-stenosisはそのままでもつかわれますし、よく目にする構成要素ですね。

構成要素 語源・意味 例語
sacchar(i/o)- ギ『糖質』「糖」 saccharephidrosis: 糖汗.
salping(o)- ギ「卵管(Fallopian tube)」「耳管(Eustachian tube)」「salpinx(卵管・耳管)の」 salpingectomy: 卵管摘出; 卵管摘除; 卵管摘除術; 卵管摘出術. salpingopharyngeus muscle: 耳管咽頭筋.
sangui-, sanguine- ラ「血」 sanguine: 1. 〈気質など〉陽気な,楽天的な, 楽観的で; 2. 楽観して,確信して; 〈顔色など〉血色のよい; 〈色が〉紅(くれない)の,血紅色の.
sarc(o)- ギ「肉(flesh)」「横紋筋」 sarcoma: 肉腫.
schist(o)-, schis-, -scisis ギ「裂けた」「割れた」 schistocephalus: 裂頭奇形体.
schiz(o)- ギ「分裂」「裂開」「精神分裂症」 schizophrenia: (精神)分裂病.
scler(o)- ギ「堅い」「強膜」 atherosclerosis: アテローム(性)動脈硬化(症)、粥状硬化(症).
-sclerosis ギ「硬化症」 multiple sclerosis: 多発性硬化症.
scoli(o)- ギ「ねじれ」「歪み」 scoliosis: (脊柱)側弯(症).
-scope ギ「…を見る器械」「…鏡」「…検器」 stethoscope: 聴診器.
-scopy ギ「(…scopeを使った)検査」「観察」 endoscopy: 内視鏡検査.
scoto- ギ「暗黒」 scotopic vision: 暗所視.
-sect ラ「切る」 bisect: vt 二等分にする; vi ふたつにわかれる, 交差する.
semi- ラ「半ば…」「幾分…」「やや…」 semicircular canal: 半規管.
sial(o)- ギ「唾液」「唾液腺」 sialagogue: 唾液分泌促進薬,催唾剤.
sicc- ラ「乾燥」 desiccation keratitis: 乾燥角膜炎.
sigmoid(o)- ギ「S状結腸の」「S字状の」 sigmoid colon: S状結腸.
sinistr(o)- ラ「左の」「左利きの」「左側の」「左巻きの」 sinistrophobia: 左側恐怖; 左側恐怖症
sino-, sinu- ラ「洞」「洞静脈」 sinusitis: 1.副鼻腔炎 2.静脈洞炎.
-sis ギ「過程」「活動」「病的な状態」「…によって起こる病気」 achoresis: 縮小症.
sito- ギ「穀粒」「食物」 sitomania: 暴食症,病的飢餓
solv-, -solu-, solut-, -sol, -soluble, -solubility, -solvent ラ「溶質」「溶解する」 cortisol: コルチゾール.
somat(o)- ギ「身体」「体(soma)」 somatology: 身体学.
somn(i/o)-, -somnia, -somniac ラ『睡眠」 insomnia: 不眠症.
son(i/o)- ラ「音」 sonography: 超音波検査(法).
-spadias ギ「裂けめ」 hypospadias: 尿道下裂. epispadias: 尿道上裂.
spasm(o)- ギ「ひきつけ」 spasmodic dysphonia: 痙攣性発声障害 [SD]
sperm(a/i/o)-, spermat(o)- ギ「精子」「種子」「精液」 spermatogenesis: 精子形成(生成).
sphygm(o)-, -sphyxia ギ「脈拍」 asphyxia: 仮死, 窒息, 無酸素症.
spin(i/o)- ラ→古仏『脊柱」「脊髄」 spinogram: 脊椎造影図, 脊髄造影図.
splanchn(o)- ギ「内臓(viscera)」 splanchnotomy: 内臓切開[解剖].
splen(o)- ギ「脾臓(spleen)」 splenectomy: 脾摘出(術)、脾摘.
spondyl(o)- ギ「脊椎」 spondylitis: 脊椎炎.
squam(o)-, squamos- ラ「鱗」 squamous cell: 扁平(上皮)細胞.
-stasis, -static ギ「停止」「安定状態」 adenodiastasis: 腺転位.
-staxis ギ「滴り落ちる」「したたる」 epistaxis: 鼻出血、鼻血(nosebleedの専門用語).
sten(o)- ギ「小さい」「狭い」「薄い」 stenography: 速記; 速記術.
-stenosis ギ「狭窄(症)」 restenosis: 再狭窄.
stern(o)- ギ→ラ「胸骨(sternum)」 sternebra: 胸骨分節.
steth(o)- ギ「胸(chest) stethoscope: 聴診器.
sthen(o)- ギ「強さ」 sthenometer: 筋力計.
-stoma, stom(o)-, stomat(o)- ギ「口」「小孔」 stomatognathic system: 顎口腔系
-stomy ギ「開口術」 colostomy: 人工肛門形成(術)、結腸造ろう(瘻)造設(術)、結腸フィステル 形成(術).
sub- ラ「下」「下位」「以南」「副」「亜」「やや」「半」⇔super subcutaneous tissue: 皮下組織.
super- ラ「(以)上」「付加」「過度」「極度」「超過」「超」 superior vena cava: 上大静脈.
supra- ラ「上の」「上に」「超えた」 supraorbital vein: 眼窩上静脈.
sy, syl-, sym-, syn-, sys- ギ「共に」「同時に」「類似」 synalgia: 交感疼痛,遠隔痛. synesthesia: 共感; 共感覚. syssarcosis: 筋骨連結.

参考資料