米国でも医療手話通訳の手配は困難とSTAT NEWS

医療の現場では手話通訳も不足

医療通訳というと、どうしても日本語vs外国語という関係で見てしまいがちですが、手話通訳も医療の現場では必要とされています。医療機関での手話通訳は、1986年に札幌病院が配置したことがはじまりだそうです。しかし、聴障・医ネットの手話通訳設置医療機関リストをみると、手話に対応できる医療通訳の数は全国でも限定的なようすです。

日本語vs外国語における医療通訳というと、日本は欧米諸国にくらべておくれがちだといわれています。では、手話通訳の分野ではどうなのでしょうか。残念ながら直接くらべている資料をみつけることはできませんでした。ですが、米国の高等教育機関での手話通訳教育にふれたこの資料をみると、どうやら米国の手話通訳教育にたいして、日本の手話通訳教育はおくれをとっているようすがうかがえます。医療手話通訳の分野でも、ちかい状況にあるのではと推察します。

米国でも医療手話通訳は課題あり

今回ご紹介するSTAT NEWSの記事は、米国でも医療手話通訳の手配については、まだまだ課題があるようだということをつたえたものです。この記事の主人公は、 John Paul Jebianさんといって、マイアミの高校でアメリカ手話(American sign language)の先生をされているとのことです。そして、舞台となった病院はBaptist Hospital of Miamiです。U.S. Newsによるとフロリダ州で7位、マイアミ圏で2位の病院との高い評価をえている病院です。

くわしくは、記事を読んでいただければと思いますが、胸痛で来院したJebianさんは手話通訳を要求したものの、病院側は手話通訳を現場によぶことなく、オンラインによる手話通訳で対応しようとしました。しかし、オンライン手話通訳のためのモニターを設置するのに手間どり、Jebianさんは大変なおもいをしたとのことです。この記事があきらかしているのは、米高評価をえている米国の病院でさえ、聴覚障碍者にたいして手話通訳を用意することができなかったという事実です。

手話についてなじみがない方(私もそのひとりですが)は、手話と対応言語はまったくちがう言語だということをしる必要があるでしょう。英語とアメリカ手話はまったくちがいます。今回の例では、病院側は筆談をこころみようとしたようですが、アメリカ手話の先生をしているほどのJebianさんでさえ、筆談には大変な困難をともなったようです。それは、両手に点滴がさされていたためだけではありませんでした。

With the minutes ticking by and staff still unable to operate the video interpreting service, the hospital turned to another option. For the next six hours or so, while undergoing tests and hooked up to IVs in both arms, Jebian said he wrote notes back and forth to doctors with his limited English — he communicates primarily through ASL. He was lying down on a hospital bed with his arms out, so he couldn’t see what he was scribbling.”

日本では「筆談でやるから手話通訳はいらないでしょう」という病院もあるそうです。しかし、それが適切な判断でないということがこういった米国の例からもわかるでしょう。

当記事のポイント

かなり長い記事で、Jebianさん以外の例についてもふれています。ここでは、基本的にJebianさんの部分だけに限定してポイントをあげておきます。

  • John Paul Jebianさんは胸痛で来院した。
  • Jebianさんは、アメリカ手話の通訳をもとめた。
  • 病院は、アメリカ手話通訳を現場によぶことなく、テレビモニターによる遠隔手話通訳で対応しようとした。
  • テレビモニターを設置するのにとまどり、時間が過ぎていった。
  • やむをえず、病院は筆談で対応しようとした。
  • Jebianさんは、日常的にアメリカ手話(American Sign Language、ASL)でコミュニケーションしているため、英語での筆談に困難があった。
  • Jebianさんは、両手に点滴を受けていた。
  • STAT NEWSの調査と裁判所の記録によって、全米で聴覚障碍者が適切な通訳サービスをえることができなかったという数おおくのケースがあることがわかった。
  • 病院にとっては、手話や多言語の通訳を現場に用意するのは金銭的にもきびしいし手配するのもむつかしい。
  • 病院は、遠隔通訳などの手段を選択している。
  • おおくの聴覚障碍者がSNSで、ビデオ手話通訳について通信の低クォリティ、画面の小ささ、セットアップできる人間がいないなどの問題点をあげ、不平をのべている。
  • Jebianさんたちが障碍者差別として病院を訴えたところ、一審ではしりぞけられた。
  • 上訴審では、効果的なコミュニケーションを否定されたとみるにたる証拠があると判断された。
  • 処置の結果の良し悪しにかかわらず、コミュケーションの手段を提供しなかった点が差別行為として認定された。
  • Americans with Disabilities Actという法律によって、連邦政府から資金をえているかぎり、聴覚障碍者にたいして効果的なコミュニケーションがとれるための支援をしなければならない。
  • コミュニケーション手段には、オンサイト通訳または遠隔通訳、筆談、字幕付き電話がふくまれる。
  • Affordable Care Actという法律によって、病院は患者の希望する選択肢について優先的に考慮しなければならない。
  • 聴覚障碍者の場合、コミュニケーションの問題で嫌な思いをしたくないために病院にいくことをそもそも避ける傾向がある。

この記事のなかでは指摘されていませんが、Affordable Care Actはオバマ・ケアとよばれる現在の保険制度をきめた法律です。トランプ新政権では、はげしくやり玉にあがってます。それをかんがると、米国ではさらに視覚障碍者にたいするケアが後退する可能性があるといえるでしょう。