おおくの人には当然のことといわれるかもしれませんが、会話というものは予想でなり立っています。友だちと話していて、急に話題を変えられたらどうなるでしょうか。「えっなになに? なんの話?」となるのではないでしょうか。あるいは、道で知らないひとに急に声をかけられて、いきなり話をはじめられたらどうでしょうか。それことだけでもびっくりするでしょうけど、なんの話をしているのか理解するまでに時間がかかるでしょう。
こういった時に感じるとまどいは、無意識のうちに、ひとは会話の先行きを予想していることからおこります。つまり、予想の範囲をはずれたところに会話が急にいってしまうと、ひとはその流れにのれずに、とまどってしまうのです。
このことについてふれたのは、医療通訳をするときも予想をすることが重要なのではないかということをいいたかったからです。もちろん、医者ではないのですから、すべてを予想することはむつかしいでしょうし、すべきではありません。ですから、タイトルにも「予想にとらわれない」とくわえました。ですが、ある程度、どのように診察や検査などがすすんでいくかということをまなんでおくということは医療通訳をするうえで、とても大切だとおもいます。
こういった流れをまなぶということにはついては、なによりも経験をつむということにまさるものはありません。もっとも、おおくのひとにとって、経験をつむということはかんたんなことではありません。そういった機会をもとめることはとてもむつかしいでしょう。
ドラマやドキュメンタリーをみる
ひとつのやり方は、診療の場を舞台にしたドラマやドキュメンタリーなどをみることでしょう。たとえば、NHKで放送している「総合診察医 ドクターG」は医師のかんがえる方とともに診察の流れがわかるよくできた教育バラエティーだとおもいます。再現ドラマの中では、患者が自身の症状を訴え(主訴)、問診・検査をおこないながら診察をすすめていきます。問診・検査の結果をもとに、番組参加者(新米医師と芸能人)が診断にとり組みます。とてもおすすめです。
ドラマですと、米国医療ドラマの「ER」はお世話になった帝京大学医学部元教授の先生が「へたに大学で授業をやるよりも、あのドラマをみせたほうが1年生くらいにはちょうどよい」といったくらい医療現場をまなぶにはよくできているそうです。また、「ロイヤルペインズ」という米国ドラマもバラエティー色はつよいですけれども、診察上の表現をまなぶにはわるくないとおもいます。
ところで、病気や健康をテーマにしたバラエティ番組のおおくは、わかりやすく説明するために、うそとまではいいませんけれども、かなり脚色がはいっているので、おすすめしません。
医師用のマニュアルを読む
もうひとつのアプローチとしておすすめするのは、医師用のマニュアルを読むことです。「外来医マニュアル」(医歯薬出版)などはとてもいい教材だとおもいます。それぞれの症状(患者の主訴)によって、外来医がどのような点に注意して診察をすすめていくかが書かれています。
ところで、「外来医」って英語でなんていうんでしょうね。weblioでみると、なにもでてきませんですね。outpatient physician、outpatient care physicianとかambulatory care physicianなんていう言葉があるようですね。
脇役として予想にはとらわれない
さて、予想については、積極的に予想をたてるということよりも、ふつうの会話とおなじように無意識のうちに予想をたてられるくらい、診察のすすめ方(流れ)を身につけ、自然と流れにのれることが大切でしょう。あらためますが、自分の予想にとらわれてはいけないでしょう。あくまで通訳は脇役なのですから。