生殖器系についての基本の基本 — 医療通訳資格試験にむけて

生殖器系(the reproductive system)は、「生命」という観点からみると、生命の誕生、つまり妊娠・出産にかかわる、とても重要な分野です。外国人患者の受診状況を調査した研究によると、産科の受診率は高いという結果がでているといいます(日本医療通訳協会研究会)。医療通訳としては十分にそなえておく必要がある分野といえるでしょう。排卵(ovulation)、 受精(fertilization)、 着床(implantation)といった妊娠(pregnancy、gestation)の過程や、月経(menstruation、period)といったことについてもしっかりおさえておきましょう。

一方、「性」という観点からみて、繊細な対応がもとめられる分野でもあります。この点については以前、当ブログで性感染症(sexually transmitted infection/STI、またはsexually transmitted disease/STD)に関連して取りあげています。「性」の分野は、文化の差異がはっきりとでるところでもあります。外国人患者の文化的背景の多様性をかんがえると、慎重な姿勢でのぞむことがもとめられているといえるでしょう。

ことばの点でかんがえると、「妊娠」や、「性」については俗語・俗称がおおいということが特徴といえるでしょう。たとえば、妊娠のことを「おめでた」といったりするように、日本語でもさまざまな表現がありますが、英語でもおおくの言い方があります。俗語・俗称は、その性格上、医学的にみて、あいまいであったり、不正確であったりすることもあり、注意する必要があるでしょう。

俗語・俗称ということで、個人的に医療英単語という意味からおもしろいとかんじたのは、米医療ドラマ「グレイズ・アナトミー」のあるシーンでつかわれたセリフです。このドラマのなかでは、医師同士でアパートをシェアしていることがおおいのですが、登場人物のひとりであるオマリー医師(男性、Dr. O’Malley)も同僚のスティーブン医師(女性、Dr. Stevens)らといっしょにすんでいます。オマリー医師は同僚たちに男性扱いされずによくおこっていますが、このシーン(01:05〜)では、スティーブン医師に「Me – gonads! You – ovaries!」といって男性としてみとめることを要求します(”No Man’s Land” Season 1/Episode 4)。

さて、このセリフのなかにある「gonad」ですが、医学書院の「医学大辞典 第2版」にもあるように「性腺」を意味し、配偶子(精子、卵子)を分泌する器官のことです。「sex gland、sexual gland、reproductive gland」ともよばれます。「gonad」という言葉は医学用語としては中性(包括的)で、男性であれば精巣、女性であれば卵巣をさします。

となると、オマリー医師が「Me – gonads! You – ovaries!」とgonads(性腺)とovaries(卵巣)を対比させたのはおかしくないでしょうか。ところが、オンライン・スラング辞典として有名な「Urban Dictionary」によると、俗称としてつかわれる「gonad」は、「nads」とも略されることもあり、精巣をあらわすというのです。俗語・俗称はこういった大ざっぱなところがあるのですね。

個人的には、医師役が口にするセリフとしては、やや雑なんじゃないかなとかんじてしまいました。「Me – gonads! You – ovaries!」というセリフにたいして「Hey! Ovaries are gonads too, moron」とやりかえしたりしたら、医師同士の会話としておもしろかっただろうにとおもいます。

生殖器 せいしょくき sex organ, reproductive organ, genitals, genitalia (genitalsとgenitaliaについては日本語の「局部」のように生殖器の目にみえる部分をさすものとして受けとめるむきもある)
卵巣 らんそう ovary
卵管 らんかん fallopian tube, Fallopian tube, uterine tube, (oviduct: 人間の場合、oviductよりもfallopian tubeをつかう傾向にある)
子宮 しきゅう uterus, womb
ちつ vagina
前立腺 ぜんりつせん prostate, prostate gland, (prostatic gland)
陰茎 いんけい penis
陰嚢 いんのう scrotum
精巣(睾丸) せいそう(こうがん) testicle, testis

【参考資料】