さて、いきなり主観と客観なんて小難しいタイトルではじめてしまいましたね。まずは、主観(subjectivity)についてかんがえてみましょう。iOS版大辞林3.0には、主観の意味がふたつでています。とても哲学的な意味も書かれているのですが、ここでは 大辞林に書かれている「自分ひとりだけの考え」という意味にそって主観をみていきましょう。
では、診察の現場で「自分」とは誰のことでしょうか。もちろん、医師(physician)も医師自身にとっては「自分」ですし、看護師(nurse)だってそうです。受付(reception/receptionist)もそうでしょう。しかし、あえてここでは「自分」とは患者(patient)のことだとかんがえてみましょう。
なぜ、患者を「自分」とするのかということを診察のながれをみながらかんがえてみましょう。診察(medical examinationあるいは単にsession)というのは、一般に患者が症状(symptom)をかかえて病院(hospital/medical institution)に来院することからスタートするします。そして、その患者を担当した医師が症状についての患者の訴え(complaint)をもとに問診や検査をすすめるのが診察です。そもそも、この症状というのがなにかというと「患者により苦痛として経験されたり、心配や危険として解釈されたりする痛みあるいは不快の感覚。通常、自覚症状の意味で使う」(医学大辞典 第2版・医学書院刊)なのです。患者による主観的な経験(subjective experience)が症状なのです。
さて、症状に対する言葉は、徴候(sign、他覚的所見 objective finding)です。「第三者が客観的に観察できる所見」(同医学大辞典)のことをいいます。ここで、「客観」という「主観」と対になる言葉が出てきましたね。つまり、症状(主観)と徴候(客観)が対になっているのです。別の見方をすると、主観の主である「自分」は患者で、客観的に観察している「第三者」は医師(他の医療従事者 medical practitionerも含まれます)になります。
診察というは一般的に、患者が訴えている症状に、医師が耳をかたむけ、そして検査などをおこなって、所見をまとめ診断にいたるという流れ(プロセス)のことをいいます。すべてが主観と客観のわく組みにきれいにおさまるとはいえないものの、おおむね主観→客観にいたる流れだといえるでしょう。ですので、「主観」「客観」という考え方・見方がわかると、医療の現場でおこなわれていることの意味がみえてきます。
たとえば、なぜ病院にいくと、熱(body temperature)や血圧(blood pressure)などをはかったりするのかということがわかってくるでしょう。熱や血圧といった数値で表せるものは客観的なデータだからなんです。患者が「熱っぽいんです」と症状を訴えてきたときに熱をはかって「38.0度ですね」となれば、症状が徴候として客観化されるのです。こういった数字・数値であらわすことを「定量化する(quantify)」といいますが、患者の「主観」を「客観」化するのに大切なやり方なんですね。
なお、熱・血圧は、心拍数(heart rateまたはpulse)と呼吸数(respiratory rate)とあわせてバイタルサイン(vital signs)と呼ばれます。ここでサイン(徴候)という言葉が客観的な意味でつかわれていることが確認できます。徴候という言葉は、予兆(きざし)という意味でもつかわれたりするので、やや混乱しないように気をつけましょう。専門的には、こういった予兆は前駆症状(prodrome)といわれます。
つねに、主観か、客観かなんてことはかんがえていなくとも、考え方の整理をするときにとても役立つと思いますよ。
主観 | 客観 |
---|---|
患者 | 医療従事者(医師) |
症状 | 徴候・所見 |
定性化 | 定量化 |