外国人旅行者の保険加入率は70%ほど — 観光庁調査

前回は、観光庁がおこなった「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」を取りあげました。訪日中に外国人旅行者がコミュニケーションが問題となって、けがや病気になっても、医療機関で受診できていないという現状をおつたえしました。

ところで、外国人患者の受診の話になると、よくあがるのが治療費の未払いの問題です。今月開催された「訪日外国人の医療支援情報セミナー」(訪日外国人医療支援機構開催)では、厚労省の方から、「旅行中の妊婦が新生児を早産」したケースが紹介されていました。

このケースでは、早産ということで、出産費・治療費におよそ800万円もかかりました。高額だったことから、その妊婦自身には支払い能力がなく、未払いともなりかねない状況だったといいます。幸いなことに、この早産のケースでは、日本在住の同国人が寄付金をあつめ、出産費をまかなったということです。

私がいろいろとアドバイスをうけている医師の方は旅行者を診察した経験から「保険にはいっていない方もおおいのでは」ないかと話していました。在日外国人の場合は、国民健康保険・社会保険の加入状況が治療費の支払い能力を左右します。訪日外国人旅行者の場合は、旅行保険にはいっているか、はいっていないかが問題となります。

訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」では、外国人旅行者の旅行保険の加入状況もしらべています。それによると、外国人旅行者の73%が旅行保険に加入していました。ただし、通訳や、受診支援などの追加サービスがついている旅行保険に加入している方は、そのうちの約半数にとどまっていたとのことです。

加入しなかった理由については、「けがや病気にならないだろうと思うから必要ない」という楽観的な見通しをもっていた方が圧倒的におおく、ほぼ半数(46%)をしめています。それにつづくのは、そもそも「保険に加入するという意識がなかった」という理由で、23%となっています。

この調査結果をみると、旅行保険への加入意識を高めることが外国人旅行者の医療費未払いを防ぐための課題だということがわかります。観光庁も「旅行保険などの加入促進」が対策として必要だとしています。

なお、先ほど紹介した早産のケースでは、治療費はなんとかなったものの、その後が大変だったそうです。というのは、新生児は日本で生まれたために、パスポートがなく、そのままでは帰国することができなかったからです。医療機関が大使館や出入国管理局とのやりとりに奔走し、なんとか帰国となったそうです。

このように、訪日外国人旅行者の数がふえると、想定していなかったさまざまな事態がおこる可能性があります。通訳の現場でも、おなじでしょう。医療通訳、医療通訳をめざす方には、柔軟な対応能力がもとめられるでしょう。