さて、今回はsicknessとillnessについて話します。diseaseと比べるとsicknessとillnessは、むつかしいかもしれません。カナダ医学部教員協会(AFMC)やエジンバラ大学のボイド教授によると、illnessというのは患者が主観的に感じている不健康な状態であるということで、診断としての「病気」とは関係ないとされています。その一方で、オーストラリアのジュラ先生は、 ほぼ同じ説明をsicknessについて示しています。医学的な根拠をもつ、diseaseに比べ、sicknessとillnessは地域性など、解釈に幅がでてくるようです。なお、sicknessは薬品系のデータベースMedDRAでは「嘔気」となっているように、吐き気やむかつきなどの症状につい ての意味をもちます。motion sickness 乗物酔いや morning sickness つわりを思い出していただければ、感じは掴めるとおもいます。
sicknessについては、AFMCとボイド教授が興味深いことを記しています。sicknessは社会的なものだと言うのです。社会的な価値観で「病気」となっているものを指すと言うのです。AFMCのウェブページには、面白い説明が載っています。
“For example, a patient complains of tiredness and malaise–his illness as he experiences it. He consults a doctor about it–because he believes that he might have a sickness. The doctor might attribute the patient’s symptoms to a thyroid condition–a disease. ”
(Susser MW. Causal thinking in the health sciences. New York: Oxford University Press, 1973)
つまり、sicknessは患者が主観的に捉えている(社会的に捉えさせられている)「病気」だというのですね。概念として差異を見つけるのがなかなかむつ かしいけれども、わかりやすい例だと思います。とはいえ、sicknessとillnessについては、一般用語として使う範囲では、吐き気を除く部分に おいては、これといった明確な違いを示すことはむつかしそうです。
ところで、ailmentですが、重篤ではないが慢性的な病気を 指すことが多いようです。といってもあくまでそういう傾向があるというだけで、「持病」と訳すのは違うかなと思います。例えば、”I have a minor ailment.”を「軽い持病があります」と訳すよりは、「体のことでちょっとした悩みがあります」と訳した方がより実感に近いのかなと感じます。
minor ailmentでネットを検索すると、英国のサイトが多く、引っかかります。ここら辺は地域性を感じます。こういった英国サイトをみると、minor ailmentsの例として挙げられているのは、coughs 咳、colds 風邪、mild eczema 軽い湿疹、athlete’s foot 水虫、heartburn/indigestion 胸焼け・消化不良、constipation 便秘、sore throat のどの痛みなどで、insect bites and stings 虫さされもあります。サイトによっては、こういったminor ailmentsでは病院に来るよりは、薬局にいくようにと指示しています。「慢性的な病気」でくくるのはむつかしいでしょう。