プレセッションとCIFE(2)

CIFE

プレセッションを行う上で重要なポイントはCIFEと言った形でまとめられています。「シフ」と読みます。さて「シフ」は 、confidentiality(守秘義務)のC、一人称のI、flow(流れ)のF、Everything(すべて)のEで作られた造語(coinage)です。通訳はこの4つのポイントを使って患者(そして医師)に診察がどのように進んでいくか説明します。

守秘義務のC

まず、Cですが、患者に対し、守秘義務を守ることを約束します。患者が安心して症状など治療のための情報を診察の中で話せるようになってもらいことが重要だからです。本来であれば、患者と医師の一対一の関係であるはずの診察に、言葉の壁があるために参加せざるを得ないのが医療通訳です。医師に対してだけだったら話せたはずなのに、第三者である医療通訳がいたから口にできずにきちんとした診断を得られずに治療に影響が出たなどということがあっては絶対にいけません。診察室の中で話された内容は絶対外に漏れることはないということを伝えるのです。

一人称のI

通訳は一人称で行うと伝えます。患者に対しては、医師が”What can I do for you today?”と言えば、通訳はそのまま”What can I do for you?”と言った一人称の形で通訳することを伝えます。実は、医療機関で働く外国語能力がある方が医療通訳としてのトレーニングを受けないまま実践の場に立つと、三人称で通訳をするケースがあります。例えば、患者さんが”I have a headache.”というと「患者さんが頭が痛いと言っています」と通訳してしまうのです。研究によると、いくつかのメリットがあるため、一般的には一人称を使うことが多くなっています。ただし、国内ではかなり大きな病院でも三人称の使用を求める機関があるようです。その場合は、その機関の方針に従いましょう。

流れのF

流れ(flow)とは、診察の中で患者と医師の間で交わされる会話の流れのことです。会話がきちんと流れていくために、いくつかの注文を通訳はあらかじめプレセッションの中で出しておきます。具体的には「話すときは通訳ではなく、医師(あるいは患者)をみて話してください」とか「話すときはゆっくり話してください」「はっきりと話してください」「あまり長く話し続けたりしないでください」といったことを伝えます。その際に「正確な診断のためには、正確に通訳をする必要がありますので」などと言って、こういった注文は患者のためなんだということを伝えれば、患者も医師も納得しやすいでしょう。海外などでは、ストップサインについてプレセッションで合意しておき、話が長くなったときにそのサインを出して話を止めてもらうということをしています。しかし、日本ではむつかしいかもしれません。ストップサインを使うかは、それぞれの通訳の判断によるでしょう。使う場合は、必ずプレセッションの中で使用について合意を求めておきます。

全部のE

診察室の中で口にされた内容は全部訳しますよとあらかじめ伝えておきます。当然ですよね。患者と医師が同国人でしたら、そこで口にした内容はすべてお互いに伝わるのですから。しかし、医師などは外国人だと安心して余計なことを言ってしまうこともあります。通訳は発言が余計なことなのか、そうでないのか判断することができませんし、判断してはいけません。ですから、あらかじめすべて伝えますよと釘を刺すのです。患者についても同様です。医師は患者の何気ない一言なども含めあらゆる情報を基にして診断を下します。患者がたいしたことはないと思っている愚痴のようなものの中に、診断に至るキーが隠されている可能性があるのです。ですから、すべて訳すことについて伝えておくのです。個人的には、通訳が勝手につまらないことと決めつけ訳さないと言う判断をしないようにするための自戒を促すポイントだとも考えています。

CIFEを全部盛り込むとプレセッションは結構長くなります。通訳はあくまでサポートのために入っているのですから、ダラダラと言葉を続けるようなことは避けましょう。あらかじめどういったことをいうのがいいか決めておくといいかもしれません。医師は守秘義務は当然だと考えているでしょうから、医師へのプレセッションについてはCを盛り込まないといった工夫も必要でしょう。

参考資料
* 日本大学・押味貴之助教講演@日本医療通訳協会2016年9月セミナー
* The Art of Medical Interpretation by CCCS