ケーススタディをつうじて守秘義務についてまなぼう

医療通訳をめざす方にむけて『医療従事者としての姿勢が医療通訳にも求められている – 資格試験の新傾向について』を先日書いたところ、医療従事者の方から守秘義務についてはしっかりと理解し実践するのが当然であるという声があがるなど、関心が高いことがわかりました。

繰り返しになってしまいますが、医療通訳をめざす方は厚生労働省ウェブサイトの「医療通訳に関する資料 一覧」のページから『医療通訳』のPDFをダウンロードし、「専門職としての意識と責任」(31ページ〜50ページ)をよみましょう。

さらに理解をふかめていくには、ケーススタディが有効です。私が主宰する医薬通訳翻訳ゼミナールでの講義用のケーススタディの一部をシェアします。ケーススタデイについては、医療通訳をまなぶ仲間とディスカッションをすることをオススメします。

なお、通訳をするにあたりプレセッションが必要なときには、守秘義務にしたがうことをしっかりとつたえましょう。この機会にプレセッションについても見直しておきましょう。

もっと神経系をオンライン・ビデオで学ぶ(脳編)— Bozeman Scienceから

前回につづいて、米国・モンタナ州のPaul Andersen先生が公開しているビデオで脳神経を学んでみましょう。今日は神経系のなかでもとくに脳についてふれた The Brain を紹介します。

このビデオでとても興味深いのは、進化上のわたくしたちの祖先にさかのぼって、発生学的に脳の構造にふれていることです。このことで、脳の構造のおおまかな分類が理解しやすくなっています。

今回も参考のため、下にビデオ用の単語帳をのせました。字幕とともに活用しましょう。

English 日本語
plan 図面、配置図、見取り図
process v. 処理する
review v. 復習する、見直す、振り返る
organism 生物・生命体・有機体
organize v. 組織する。arrange, orchestrate
radially 放射線状に
symmetrical adj. 均整がとれている
in other words 言い換えると、別の言い方をすると
bilaterally adj. 両側の
sensory information 知覚情報
integrate v. 統合する
make sense of 理解する。cf. make sense to
loop ループ(輪状のもの)
motor nerve 運動神経
primitive adj. 原始的な、未発達な
hump こぶ(こぶ状のもの、場所)
consistent adj. 一貫している
embryo 胎児(8週末まで) cf. fetus
radically 劇的に
attribute A to B A(の原因など)がBにあるとする
jump out 飛び出す、(目に)飛び込んでくる
the brainstem 脳幹
the cerebellum 小脳
get oneself oriented 正しい方向に向ける、慣れる
the thalamus 視床. cf 間脳interbrain
the hypothalamus 視床下部
the cerebrum 大脳
dominant adj. 支配的な、優位
the medulla oblangata 延髄
the pons
the midbrain 中脳
need (可算)必要なもの
keep A …ing Aが…することを維持する、…させ続ける
circulation (血の)循環
digestion 消化
catastrophic adj. 壊滅的
route v. 配信する、(ある方向へ送り出す)
motor control 運動制御
coordination (不可算)(筋肉運動の)強調
motor memory 運動記憶
analogy 類比、たとえ
sort v. 分類する、整理する
accountable 責任がある。cf. If something accounts for a particular fact or situation, it causes or explains it (Collins COBUILDによる定義).
homeostasis ホメオスタシス、恒常性
osmolarity モル浸透圧濃度
circadian rhythms 24時間リズム. cf. circadian clock 体内時計
gland
the pituitary gland 下垂体
the posterior pituitary 下垂体後葉 (neurohypophysis)
antidiuretic adj. 抗利尿性の
oxytocin オキシトシン
integration 統合
neuron ニューロン、神経細胞
synapse シナプス
functional MRI fMRIと表記される; 機能的磁気共鳴画像法
switch back and forth 前後に切り替える
hemisphere 半球
the corpus collosum 脳梁
lateralization (大脳の)左右の機能分化, 側性化
facial recognition 顔認識
plastic adj. 形成の、可塑性
radical 過激な、(医学)根治的な
hemispherectomy 大脳半球切除術
the basal ganglia 大脳基底核(gangliaはganglionの複数形)
nucleus 核(中枢神経系の神経細胞群); (複数)nuclei
the cerebral cortex 大脳皮質
interaction 相互作用
inhibition 反応抑制
excitatory response 興奮性反応
lobe 葉(よう)
the frontal lobe 前頭葉
executive function 遂行機能、実行機能
emotional control 情動制御
emotional swings 情動の起伏
the parietal lobe 頭頂葉
sensation 感覚
the occipital lobe 後頭葉
primarily adv. 主に
vision 視覚
the temporal lobe 側頭葉
the somatosensory cortex 体性知覚皮質, 体性感覚野
the motor cortex 運動皮質、運動野
as opposed to … …に反して、…に対して
dedicated to 専用の、専門の
figure out わかる、理解する
map down 細かく書き留める
review 振り返る
fundamental adj. 基本的な、根本的な
property 特性
highly folded adj. (脳が)たくさんのシワがある

※adj. 形容詞; v.動詞; n. 名詞。品詞がわかりにくいものについて表に書きこんであります。

神経系をオンライン・ビデオで学ぶ — Bozeman Scienceから

当ブログで以前も紹介しましたが、モンタナ州のBozemanという町の高校で長年にわたり、科学を教えていたPaul Andersen氏のビデオは科学のさまざまな分野について実にわかりやすく解説しています。なかには、医学の基礎知識をまなぶうえで、すばらしく、よくできたものがあります。そのなかで、今日は脳神経系についておおまかにふれた The Nervous System を紹介します。

このビデオは、医学系というよりも、生物学よりに脳神経系を解説しています。しかし、神経系についてざっくりとまなぶためには、とてもよくできています。また、ビデオの右下に「CC」というボタンがあります(タブレットやスマートフォンでは表記がちがいます)が、これをオンにすると、字幕がでてきます。残念ながら日本語はありませんが、英語の字幕はあります(英語 – Bozeman Science; 字幕のごく一部にまちがいもあります)。字幕を利用すると、英語の学習効果もあがりますのでためしてみましょう。

参考のため、下にビデオ用の単語帳をのせました。ただし、訳というものは文脈によってかわります。単語帳の訳にこだわらずにつかいましょう。

English 日本語
action potential 活動電位(cf. 静止電位 resting potential)
jump off across 飛び越える
synapse シナプス
handedness 利き腕、利き手
dominant adj. 支配的な、優位
field of view 視野. visual field
go haywire おかしくなる、こわれる
seizure (てんかん)発作
electrical storm エレクトリカル・ストーム
epilepsy てんかん
radical procedure 根治的治療
sever 切断する cf. corpus callosotomy: 脳梁離断術
split brain 分離脳
trick 騙す
be set up 設定されている
stare じっと見る
flash チラッと見えたもの(この場合はイメージ)
be good to go 準備ができている
cartoon 漫画
portion 部分(他との違いを表す時にしばしば使われる)
base unit 基礎単位
polarize v. 二極化させる、極性を与える
sodium-potassium pump ナトリウムポンプ(細胞膜を通してのナトリウムイオンとカリウムイオンの交換能動輸送)cf. sodium: ナトリウム; potasssium: カリウム. (参考: 主要ミネラルはカルシウム(Ca)、リン(P)、カリウム(K)、硫黄(S)、塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)の7種類)
active transport 能動輸送(生体膜を通してイオン·糖·アミノ酸などを濃度勾配 [電位]の低い方から高い方へ送る細胞機能)
depolarize v. 脱分極する、減極する
ion channel イオンチャンネル(「膜に存在するタンパク質で、刺激に応じて開閉しイオンが通過する小孔を形成する」日本薬学会)
neurotransmitter 神経伝達物質
GABA ガンマアミノ酪酸
excitatory adj. 興奮性
inhibitory adj. 抑制性、阻害性
dendrite 樹状突起
cell body 神経細胞体
axon 軸索
nucleus
soma 細胞体
myelin ミエリン(神経軸索のミエリン鞘(髄鞘)を構成する脂質に富む物質)
Schwann cell シュワン細胞(神経線維鞘細胞)
Node of Ranvier ランヴィエ絞輪
myelin sheath ミエリン鞘
insulation 絶縁体、断熱材、防音材
axon terminal 軸索終末
positive charge 正電荷
negative charge 負電荷
sodium channel ナトリウムチャンネル(ナトリウムイオンを選択的に透過するイオンチャンネル (ion channel))
diffuse v. 拡散する、拡散させる
gradient n.(温度·気圧·速度などの)傾き、勾配
cascade カスケード、多段(階)、(情報の)連続的な伝達
phase 段階、局面
threshold 閾値
initiation 始動
critical point 臨界点
gate ゲート(チャンネルの開門部)
plunging adj. 急落の
undershoot アンダーシュート(膜電位が一過性に静止電位より低下すること; 活動電位終了時に起こる)
directional adj. 方向性を持つ
flick v.はじく
transmit v. 伝える、伝導する
eventually やがて
influx 流入
pre-synaptic presynapticとも書く。adj. シナプス前
match up with… …と結びつく
concentration 濃度、濃縮
flow in v. 流れ込む
flow out v. 流れ出る
tack 鋲(びょう)

※adj. 形容詞; v.動詞; n. 名詞。品詞がわかりにくいものについて表に書きこんであります。

米国でも医療手話通訳の手配は困難とSTAT NEWS

医療の現場では手話通訳も不足

医療通訳というと、どうしても日本語vs外国語という関係で見てしまいがちですが、手話通訳も医療の現場では必要とされています。医療機関での手話通訳は、1986年に札幌病院が配置したことがはじまりだそうです。しかし、聴障・医ネットの手話通訳設置医療機関リストをみると、手話に対応できる医療通訳の数は全国でも限定的なようすです。

日本語vs外国語における医療通訳というと、日本は欧米諸国にくらべておくれがちだといわれています。では、手話通訳の分野ではどうなのでしょうか。残念ながら直接くらべている資料をみつけることはできませんでした。ですが、米国の高等教育機関での手話通訳教育にふれたこの資料をみると、どうやら米国の手話通訳教育にたいして、日本の手話通訳教育はおくれをとっているようすがうかがえます。医療手話通訳の分野でも、ちかい状況にあるのではと推察します。

米国でも医療手話通訳は課題あり

今回ご紹介するSTAT NEWSの記事は、米国でも医療手話通訳の手配については、まだまだ課題があるようだということをつたえたものです。この記事の主人公は、 John Paul Jebianさんといって、マイアミの高校でアメリカ手話(American sign language)の先生をされているとのことです。そして、舞台となった病院はBaptist Hospital of Miamiです。U.S. Newsによるとフロリダ州で7位、マイアミ圏で2位の病院との高い評価をえている病院です。

くわしくは、記事を読んでいただければと思いますが、胸痛で来院したJebianさんは手話通訳を要求したものの、病院側は手話通訳を現場によぶことなく、オンラインによる手話通訳で対応しようとしました。しかし、オンライン手話通訳のためのモニターを設置するのに手間どり、Jebianさんは大変なおもいをしたとのことです。この記事があきらかしているのは、米高評価をえている米国の病院でさえ、聴覚障碍者にたいして手話通訳を用意することができなかったという事実です。

手話についてなじみがない方(私もそのひとりですが)は、手話と対応言語はまったくちがう言語だということをしる必要があるでしょう。英語とアメリカ手話はまったくちがいます。今回の例では、病院側は筆談をこころみようとしたようですが、アメリカ手話の先生をしているほどのJebianさんでさえ、筆談には大変な困難をともなったようです。それは、両手に点滴がさされていたためだけではありませんでした。

With the minutes ticking by and staff still unable to operate the video interpreting service, the hospital turned to another option. For the next six hours or so, while undergoing tests and hooked up to IVs in both arms, Jebian said he wrote notes back and forth to doctors with his limited English — he communicates primarily through ASL. He was lying down on a hospital bed with his arms out, so he couldn’t see what he was scribbling.”

日本では「筆談でやるから手話通訳はいらないでしょう」という病院もあるそうです。しかし、それが適切な判断でないということがこういった米国の例からもわかるでしょう。

当記事のポイント

かなり長い記事で、Jebianさん以外の例についてもふれています。ここでは、基本的にJebianさんの部分だけに限定してポイントをあげておきます。

  • John Paul Jebianさんは胸痛で来院した。
  • Jebianさんは、アメリカ手話の通訳をもとめた。
  • 病院は、アメリカ手話通訳を現場によぶことなく、テレビモニターによる遠隔手話通訳で対応しようとした。
  • テレビモニターを設置するのにとまどり、時間が過ぎていった。
  • やむをえず、病院は筆談で対応しようとした。
  • Jebianさんは、日常的にアメリカ手話(American Sign Language、ASL)でコミュニケーションしているため、英語での筆談に困難があった。
  • Jebianさんは、両手に点滴を受けていた。
  • STAT NEWSの調査と裁判所の記録によって、全米で聴覚障碍者が適切な通訳サービスをえることができなかったという数おおくのケースがあることがわかった。
  • 病院にとっては、手話や多言語の通訳を現場に用意するのは金銭的にもきびしいし手配するのもむつかしい。
  • 病院は、遠隔通訳などの手段を選択している。
  • おおくの聴覚障碍者がSNSで、ビデオ手話通訳について通信の低クォリティ、画面の小ささ、セットアップできる人間がいないなどの問題点をあげ、不平をのべている。
  • Jebianさんたちが障碍者差別として病院を訴えたところ、一審ではしりぞけられた。
  • 上訴審では、効果的なコミュニケーションを否定されたとみるにたる証拠があると判断された。
  • 処置の結果の良し悪しにかかわらず、コミュケーションの手段を提供しなかった点が差別行為として認定された。
  • Americans with Disabilities Actという法律によって、連邦政府から資金をえているかぎり、聴覚障碍者にたいして効果的なコミュニケーションがとれるための支援をしなければならない。
  • コミュニケーション手段には、オンサイト通訳または遠隔通訳、筆談、字幕付き電話がふくまれる。
  • Affordable Care Actという法律によって、病院は患者の希望する選択肢について優先的に考慮しなければならない。
  • 聴覚障碍者の場合、コミュニケーションの問題で嫌な思いをしたくないために病院にいくことをそもそも避ける傾向がある。

この記事のなかでは指摘されていませんが、Affordable Care Actはオバマ・ケアとよばれる現在の保険制度をきめた法律です。トランプ新政権では、はげしくやり玉にあがってます。それをかんがると、米国ではさらに視覚障碍者にたいするケアが後退する可能性があるといえるでしょう。

20歳米国人のボキャブラリーは平均して4万2千語だそう

サイエンス誌のウェブサイトによると、20歳の米国人は平均して4万2千語をしっているのだそうです。調査研究を行ったのは、ベルギー・ゲント大学の実験心理学のチーム。もともとはオランダ語で調査をしていたが、米国版を開発し調査を実施したところ、平均して4万2千語だというのがわかったと報告しています。

これはあくまでも平均で、上位5%では5万2千語、下位5%では2万7千語だったとのこと。ちなみに単語の単位はwordではなくて、lemma(見出し語)といって、たとえば、run、runs、ran、runningという語形変化によるグループ(lexeme、語彙素という)ではrunがこのlemmaにあたります。

国内では、大学受験にむけて3000〜5000語(これもおおむねlemmaを単位としています)が必要とされています(私大では意地悪く難易度の高い単語を平気でだしたりするらしいですが)。受験英語を目安とすると、下位5%の2万7千語もずいぶんとハードルが高いと感じられるでしょう。

さらに、米国成人は2日に1語のペースでボキャブラリーをやしていくそうです。となると年あたり200語弱、10年で2000語近くを身につけるんですね。ネイティブ並みの英語力をつけるとなると、なかなか気の遠くなる話です。

もっとも、ボキャブラリーといっても能動的なものと受動的なものがあります。能動的なものは、じぶんから表現として発信するときにつかいこなせる単語のことです。受動的なものとは、じぶんの表現としては頭からでてこないけど、会話や本の中にでてきた場合に理解できる単語のことです。この4万2千語という平均値はどうやら受動的なもののようですから、実際にかわされる会話のなかででてくることはすくなそうです。

その一方、これは辞書の見出し語をベースに調査されたものですから、スラング好きのネイティブをかんがえると、この調査にネイティブのボキャブラリーがおさまるようにもおもえないのがなやましいところです。英語圏(Anglosphere)のYouTuberをみていると、スラングの連発ですからね。平均の4万2千語をただ暗記しただけでは理解に苦しみそうです。