新型コロナウイルス感染についての英語の質問・問診例をみる — 米国CDCの資料から

前回の投稿でも触れたとおり、新型コロナウイルスの広がりについて、世界的に懸念が高まっています。米国では、アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention / CDC)が新型ウイルスへの感染が疑われる患者について、医療関係者へ報告書の提出を求めています。この報告書の書式が問診表の形をとっています。今後の国内での外国人患者への対応の可能性も考えると、問診についてのよいシュミレーションとなりそうなので、ご紹介したいと思います。

なお、米国CDCでは、2019年2月2日現在、「新型コロナウイルス感染」を”2019-nCoV infection”とよんでいます。世界保健機構(World Health Organization / WHO)でも同様です

この”2019-nCoV infection”という言葉で、”n”は”novel”(新型)を意味し、”CoV”は”coronavirus”(コロナウイルス)を略したものです。この名称がSARSのように定着するかどうかはわかりませんし、別の名称に今後落ち着くこともありえるでしょう。その点は注意すべきでしょう。

CDCの報告書式にある質問について一部調整して下にリストアップしました。注意しなければいけないのは、報告書式は医療機関が患者の病状(状況)についてのレポートをまとめるという形式になっています。そのため、直接患者に質問する場合などは、英文の調整をする必要があります。また、医療従事者が書き込む形になっているので、やや専門用語にかたよっているともいえるでしょう。ですので、患者に直接向ける質問として考えると、言葉遣い(レジストリ)に気をつけた方がいいでしょう。

たとえば、持病などを尋ねる質問で、”comorbid conditions”(共存症)がありますが、これなどは既往歴とは重なる部分もありますが、妊娠なども含まれることから、特に口頭で一つの質問として投げ掛けることはむつかしいと思われます。文例を丸のみせず、状況に合わせて、変更しましょう。

いつ(日付)発症しましたか。
What is the date of the symptom onset?

次のいずれかの症状(症候)がありますか。
Does the patient have any of the following signs and symptoms?

発熱・咳・のどの痛み・息切れ
fever / cough / sore throat / shortness of breath

それ以外に、次のいずれかの症状(症候)がありますか。
Does the patient have any of these additional signs and symptoms?

悪寒・頭痛・筋肉痛・嘔吐・腹痛・下痢
chills / headache / muscle aches / vomiting / abdominal pain / diarrhea

発症前の14日間のあいだに、中国にいたことはありますか。
In the 14 days before the symptom onset, did the patient spend time in China?

中国在住ですか。
Does the patient live in China?

中国へ行った日付をお書きください。
Write down the date traveled to China.

中国から離れた日付をお書きください。
Write down the date the patient traveled from China.

日本に到着した日付をお書きください。
Write down the date arrived in Japan.

発症前の14日間のあいだに、中国の武漢にいたことはありますか。
In the 14 days before the symptom onset, did the patient spend time in Wuhan City, China?

武漢在住ですか。
Does the patient live in Wuhan City?

発症前の14日間のあいだに、(武漢以外)湖北省にいたことはありますか。
In the 14 days before symptom onset, did the patient spend time in Hubei Province (not Wuhan City)?

発症前の14日間のあいだに、(中国以外)海外で過ごしたことはありますか。
In the 14 days before symptom onset, did the patient spend time outside of Japan (not China)?

その国の名前を書いてください。
Write down the name of the country.

この国に居住していますか。
Does the patient live in this country?

(中国以外)海外へ行った日付を書いてください。
Write down the date traveled to the country (not China).

(中国以外)訪問国を出発した日付を書いてください。
Write down the date traveled from the country (not China).

海外から日本に到着した日付を書いてください。
Write down the date arrived in Japan from the country (not China).

発症前の14日間のあいだに、新型コロナウイルスへの感染の疑いで検査を受けている患者と濃厚接触をしていたことがありますか。
In the 14 days before the symptom onset, did the patient have close contact with a person who is under investigation for 2019-nCoV?

発症前の14日間のあいだに、新型コロナウイルスへの感染が確認された患者と濃厚接触をしていたことがありますか。
In the 14 days before the symptom onset, did the patient have close contact with a laboratory-confirmed 2019-nCoV case?

その患者(症例: 上記の新型コロナウイルスへの感染が確認された患者)は症状を表していましたか。
Was the case ill at the time of contact?

その患者との接触は日本でのことですか。
Is the case a case in Japan?

その患者との接触は海外でのことですか。
Is the case an international case?

その患者が新型コロナウイルス感染と診断されたのは、どこの国でですか。
In which country was the case diagnosed with 2019 n-CoV?

医療従事者ですか。
Is the patient a health care worker?

中国の医療施設(患者として、職員として、または訪問者として)に行った経験がありますか。
Does the patient have history of being in a healthcare facility (as a patient, worker, or visitor) in China?

患者は、新型コロナウイルスへの感染の可能性も調査されている病因不明の重度な急性呼吸器疾患の患者群の一員ですか。
Is the patient a member of a cluster of patients with severe acute respiratory illness of unknown etiology in which nCoV is being evaluated?

(今の病気について)受けた診断についてすべて挙げてください。
List all the diagnoses the patient received:

肺炎(臨床・放射線)・急性呼吸窮迫症候群
pneumonia (clinical or radiologic) / acute respiratory distress syndrome

持病など患者の状態についてすべて挙げてください。
List all the patient’s comorbid conditions:

該当なし・不明・妊娠・糖尿病・心疾患・高血圧・慢性肺疾患・慢性腎疾患・慢性肝疾患・免疫不全・その他
none / unknown / pregnancy / diabetes / cardiac disease / hypertension / chronic pulmonary disease / chronic kidney disease / chronic liver diseasee / immunocompromised / others

無症状患者って英語でなんていう — コロナウィルス肺炎の報道からまなぶ

ひさしぶりのブログ更新です。みなさん、お元気ですか。

さて、連日、コロナウィルス(coronavirus)による肺炎の報道が行われています。もともとのコロナウィルスについては、動物を媒介した人への感染だったはずが、どうやらウィルスの変異によって人から人への感染となったことで、騒ぎが拡大しました。

さらには、無症状の患者(この段階で、患者と呼ぶのが適切かはともかくそのように報道されています)から感染されたようだとの報告が上がってきたことから、さらにこの新しい疾患への恐怖が高まり、全国でマスクが品薄・品切れになるまでの状態となっています。

今年は、オリンピックがあることから、いつこの状況が沈静化するのか、多くのひとが気が気でないと思います。同じくコロナウィルスが原因で大騒ぎとなったSARS(重症急性呼吸器症候群、severe acute respiratory syndrome)が沈静化までに8ヶ月〜9ヶ月(報道によってはほぼ1年)かかったことを考えると、いったいどうなるのだろうとかんがえてしまいます。

こういった報道を聞いていると、ふだんは耳慣れない医療関係の言葉がでてきます。医療通訳の方の中には、「無症状患者ってなんていうんだろう」とか「コロナウィルスってなんて訳せばいいんだ」とかおもって、辞書を調べた方もきっといることでしょう。

出てくる単語で、興味深い単語は「無症状」の”asymptomatic”(形容詞)かもしれません。symptomatic(形容詞: 症状のある、症候性)に”a-“という”without”を意味するとても短い接頭辞をつけたことで、意味が180度かわってしまった単語です。”atypical”(形容詞: 非定型性)や”atopic”(形容詞: アトピー性、アトピーの)などでもこの”a-“は使われています。

また、「感染」という言葉ですが、”contagion”と”infection”があります。contagionとinfectionのちがいは、contagionが人から人への感染を指すのに対して、infectionは人から人だけでなく、動物など人以外を媒介した感染も含むということです。集合でいえば、「contagion ⊂ infection」ということです。つまり、変異によって、infectious(形容詞: 感染の)からcontagious(形容詞: (人間感染の)にこのコロナウィルスは変わったということです。

潜伏期間という言葉にも、主に2つの表現があって、”incubation period”と”latent period”(latentではなく、latencyともいいます)といいます。同じ意味で使われることも少なくないようですが、区別すると、incubationが感染から発症までという意味での潜伏期間を指すのに対して、latent periodは感染から感染性・感染力の獲得までを指すということだといいます。

連日の報道をみると、この先どうなることか気が安まることもありませんが、医療通訳としては、こんな時にこそ、単語力を磨き、患者のため、そして、東京オリンピックに備えたいものです。

日本語 英語  
潜伏期間  incubation period   
潜伏期間  latent period, latency period   
潜伏期保菌者(キャリア)  incubatory carrier   
発症  incubation period   
潜伏期間  onset   
感染性・感染力  infectiousness   
無症状患者  asymptomatic patient   
感染  contagion   人から人
感染  infection   
媒介物・媒介体  vector   動物など
コロナウィルス  coronavirus   
新型コロナウィルス  novel coronavirus  
変異 mutation  
肺炎  pneumonia  

医療通訳技能検定一次試験の問題構成に大きな変化、検定ウェブサイトをチェックしよう

一般社団法人日本医療通訳協会は、10月20日に2019年秋期医療通訳技能検定試験を実施します。今回は、導入が目前にせまっているという認定医療通訳士制度にむけて、第3者認定機関である国際臨床医学会が求める形に試験の内容が大きく変わっているようなので、受検予定の方は気をつけた方がよさそうです。

試験の内容は、同協会のウェブサイトで公開されています。受検予定の方はかならずチェックすべきでしょう。認定医療通訳士制度に向けて、変わった点についてはサンプル問題も掲載していますので目をとおしておきましょう。

大きく変わった点については、「『通訳理論と技術』『倫理とコミュニケーション』『職業倫理、行動規範』の出題増」と明記されています。ここに「通訳理論と技術」がふくまれているので、言語能力を問う形の問題が増えたのかとかんがえるかたがいるかもしれませんが、残念ながらそうではないようです。あくまで、「通訳」の「理論」と「技術」にかかわる知識や通訳一般ついての知識をたずねる問題が増えているようです。

むしろ、言語能力(たとえば、英語や、中国語への翻訳力)といったものを問う問題は減ってしまうことになるようです。医療通訳技能検定では、和文ターゲット言語訳・ターゲット言語和訳の2本立てで言語能力を長年試験してきた伝統がありました。しかし「前回と異なり、英文和訳および和文中訳問題は出題されません」とはっきりと同協会のウェブページには書かれています。「英語問題は「急性気管支炎」に関する和文英訳、中国語問題は時事的な話題に関する中文和訳問題が出題されます」と1つだけになるそうで、言語能力についての点数配分もこの変更にともない、半減することになるようです。

「医療知識」と「言語能力」の2分野にウェートをおいておこなわれてきた医療通訳技能検定試験でしたが、こういった変更によって「日本の医療制度」「通訳理論と技術」「倫理とコミュニケーション」「職業倫理、行動規範」といった質問が大きなウェートを占めることになるようです。「日本の医療制度」「通訳理論と技術」「倫理とコミュニケーション」「職業倫理、行動規範」を合わせると、「医療知識」と「言語能力」の合わせたものとほぼ同じ程度のウェートに点数配分・問題数ともになるのではないかという予想もあります。

点数配分・問題数についてのこの予想があたっているかはわかりませんが、認定医療通訳士制度にむけて、医療通訳技能検定試験は今までとは大きく異なるものに変わろうとしていることは確かなようです。

5月30日、東京・飯田橋で医療通訳ワークショップで話します

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このブログも最近は更新をすることができないでいます。そのため、直前になってしまいましたが、今月30日、東京・飯田橋の東京ボランティア・市民活動センターで、医療通訳についてお話する機会を得ることになりましたので、お知らせいたします。

お話をするのは、Our Foreign Neighbors We Careという市民団体の方たちが開いている医療通訳のワークショップとなっています。「職業としての医療通訳に求められること」というやや私にしては仰々しいお題になります。

医療通訳の育成に取り組んできた私が、医療通訳ってなんだろうと考えつづけてきて、今の時点でたどり着いた考えを共有したいと考えています。ですので、「職業としての医療通訳に求められること」といいつつも、その活動の場である医療機関が「求めていること」をお話するわけではありません。また、私の専門である英語での話となるので、医療通訳全般がテーマになるというのともややちがいます。

最近は、医療通訳としての活動の場を海外に求められる方も増えています。医療通訳の資格試験を海外から受験するという動きも広がりつつあるようにみえます。

このことは、英語で医療通訳をするという観点からみると、とても大切なことです。単に、アメリカ英語、イギリス英語のちがいといった枠を超えて、今の英語は国際共通語としての役割を担いつつあるがゆえにかかえている今日的なテーマがあります。そういった英語がかかえる今日的なテーマは、日本国内で医療通訳をするとなれば、看過することはできないとかんがえています。

今回のワークショップは、「国内」で「英語」で「医療通訳」をするということを中心に据えて、進めていく予定です。直前ではありますが、お時間がありましたら、是非ご参加ください。

参加のお申込み:
Our Foreign Neighbors We Care
contact@wecare-ofn.org

医療通訳認証制度がいよいよスタート!? 2月1日MIAJセミナーが熱い

読んでいただいている方たちに新年のあいさつもせぬまま、もう1月が終わろうとしています。少しずつではありますが、このブログは継続していこうとは思っていますので、よろしくお願いします。

さて今回は、今週金曜日(2月1日)に開催される一般社団法人日本医療通訳協会の第14回セミナーについて紹介したいと思います。私自身が当日のオペレーションについて手伝いを頼まれたので、手前みそ、告知の形になってしまいますが、これからの医療通訳のあり方に興味をもっている方には必見のものとなりそうです(ちなみに発案・企画など、全体の運営については関与していません)。

今回のセミナーのタイトルは「新しい医療通訳認証制度の概要」だと、同協会のウェブサイトで告知されています。そして、2部構成の同セミナ―の第2部では、国際臨床医学会で認証委員会委員長を務める中田研大阪大学医学部教授が「医療通訳者新認証制度」という演題で講演をします。

ご存知の方もおおいとはおもいますが、国際臨床医学会は医療通訳の民間試験に対してお墨付きをあたえる第三者機関認証制度の導入を進めている団体です。計画では、同学会は2019年度(つまり今年の4月以降)に認証制度を導入することになっています。

平成が終わる上半期に新制度を導入することは考えづらいので、あるとしたら、下半期ではあると思いますが、まだ導入時期を含め、詳細については公式に発表されていません。中田教授は、同団体で認証委員会委員長と、まさに認証制度導入の中心人物です。今回の講演では、新制度について、導入時期を含めてかなり具体的な詳細が聞けそうです。また、講演後の質疑応答で、さらに踏みこんだくわしい内容を聞き出すこともできそうです。

中田教授の講演後には、全国医療通訳者協会(NAMI)の森田直美代表理事・岩本弥生理事も加わり、パネル・ディスカッションが行われる予定です。学会側でなく、医療通訳側からの話も聞けるなど、こちらも興味深い内容となりそうです。

つい先日(今月下旬)には、日本医師会が主催した医療通訳関連団体との会合があったそうです。今まで、医療通訳の導入には及び腰だった日本医師会が医療通訳側と会ったというのは、注目すべきことです。パネル・ディスカッションのパネラーには、同会合に参加した方もあったとの話です(伝聞情報なので確実ではありません)。パネラー側からこの話が出るかどうかはわかりませんが、質疑応答で日本医師会側の意図やパネラーの感触を聞き出すこともできそうです。

医療通訳を含む外国人患者対応関連の厚生労働省の2019年度予算は、前年比で10倍近くに跳ね上がっています。その中で、医療通訳の活動の場がどのように確保されていていくのでしょうか。今回のセミナーは、医療通訳の資格制度だけでなく、医療通訳という仕事の先行きも含めて、興味深い内容のものとなりそうです。