プレセッションとCIFE(1)

プレセッション

医療通訳として、患者さんのサポートに入る場合、どうやって入っていたらいいんでしょうか。たとえば、自己紹介とかするんでしょうか。なんか、段取りの説明とかした方がいいんでしょうか。それとも、看護師さんのように、ただそこにいればいんでしょうか。多くのひとが気にすることだと思います。僕も最初は悩みました。

いろいろ調べてみると、医療通訳が最初に患者さんやお医者さんに対して行う自己紹介と通訳についての説明のことをプレセッション(pre-session)と呼ぶということがわかりました。さらに、日大医学部の押味貴之先生のセミナーに参加したり、アメリカCCCSの医療通訳の教科書を読んだり、YouTubeを検索して動画を見たりしているうちに、患者と医師の間でしっかりとしたコミュニケーションがなり立つためには、プレセッションがとても重要だということもわかってきたのです。

今回は、このプレセッションがどうして重要なのか、実際にどうやればいいのかといったことにについて、できるだけお話したいと思います。

まず、現場に立つのにあたっては、通訳の方それぞれに異なった事情があると思います。病院のスタッフとして働いていて来院した患者をサポートするために英語を使う場合や、フリーランスとして病院から依頼を受けて現場に入る場合などが想定できるでしょう。ここでは、どのような立場だったとしても、初めての患者に対して通訳に入る状況を想定してみましょう。

待合室で

多くの場合、通訳が患者と初めて会う場所は待合室になるでしょう。ここで、通訳は患者に対して自己紹介をし、プレセッションの機会を得ます。プレセッションとは、実際の診察(session)の前に、どのような手順で通訳を介した診察が進んでいくかを説明し、いくつかの注意点について了解してもらうプロセスのことです。患者だけではなく医師にもプレセッションの必要があるのですが、まずは患者に対してプレセッションの機会を持つことが現実的には多いでしょう。

プレセッションの内容については、次回に紹介するCIFEを参考に決めていきましょう。重要なのは、プレセッションを通じて、患者と医師がきちんと意思疎通ができる環境を整えるということです。

プレセッションについてのイメージをつかむには、アメリカの医療通訳サービス会社Language World Servicesが公開してる動画を参考になります。

問診表と同意書

さて、プレセッションを終えると、患者と待合室で待つことになると思います。もしかしたら、その間に問診票を記入する必要があるかもしれません。英語の問診票がなかった場合など、サイト・トランスレーションを求められるかもしれません。その場合、問診票程度でしたら、サイト・トランスレーションに応じるのはいいでしょう。しかし、病院によっては、検査などの同意書をこの段階で求める可能性があります。その場合は、医療従事者にきちんと「自分が同意書をこの場で翻訳して患者に伝えることは職業上できない」と伝えましょう。医療従事者に読み上げてもらい、それを通訳する形を取るようにしましょう。

診察室で

つづいて、患者が診察室に呼ばれると、通訳は患者とともに通訳は診察室に入ります。多くの場合、この時が通訳が医師と初めて顔を合わせる機会になります。そこで、医師に対してもプレセッションを行いましょう。通訳と医師が自分の知らない言葉で話していることについて、患者は不安になる可能性があります。医師に対してもプレセッションを行うということは患者に伝えておいた方がいいでしょう。

通訳が入る診察に慣れている医師の場合、プレセッションは必要ないと言われるかと思います。そういった場合、無理にプレセッションを行う必要はないでしょうが、医師が慣れているつもりだから大丈夫ということはないので、安心はできません。どこか頭の隅にそのことを置いておきましょう。

語の構成要素 A-2

aから始まる構成要素は多いですね。

構成要素 語源・意味 例語
ap(o)-, aph- ギ「~離れて」「分離した」「~生成した」 apoptosis: アポトーシス(細胞死の一種)
arch(i/e/o) ギ→ラ→古仏/古英「第一の」 archinephron: 原腎, first formed kidney
arsen(o)- ギ「ヒ素」 arsenic: ヒ素.
arteri(o)- ギ「動脈」 arteriole: 細動脈.
artery: 動脈.
arthr(o)- ギ「関節」 arthritis: 関節炎.
articul(o)- ラ「関節」「接合」 articulation: 関節, 咬交.
-ary ラ「~の」「~に関する」「~に属する人[もの]」
「~に関連のある[もの]」
bilary tract: 胆道.
-ase ギ「酵素」 lactase: ラクターゼ.
-asthen(o)- ギ「弱い」「無力(の)」「衰弱(の)」 myasthenia gravis: 重症筋無力症.
atel(o)- ギ「完璧でない、不完全な発達」
a+tel「末端」「目的」「完全な」
atelocardia: 心臓発育不全,
imperfect development of the heart
ather(o)- ギ「脂肪の沈着物」「じゅく(粥)状〔のり状〕物質の沈着物」 atherosclerosis: アテローム性動脈硬化症.
-ation ラ「動作」「状態」「結果」 habitation: 居住,住まい.
lubrication: 潤滑.
atri(o)- ラ「房」「鼓室」「心房」 atrioventricular: 房室の.
aur(i)- ラ「耳」 aural: 耳性, 耳の, 聴力の.
aut(o)- ギ「自身の」「独自の」「自動の」 autoimmune: 自己免疫の.
aux(o)- ギ「生長」「増大」 auxocardia :心拡大, 心臓拡張期.
enlargement of the heart, either by hypertrophy or dilation
axill- ラ「わきの下」 axilla: 腋窩、わき(腋)の下.
az(o)-, azot(o)- 仏「窒素化合物」; 特に2価の基としての窒素化合物 azothermia : 窒素血性高体温; 窒素血性高体温症 ,
raised temperature due to nitrogenous substances in blood

参考資料

語の構成要素 A-1

aで始まる語の要素から初めて見ましょう。

構成要素 語源・意味 例語
a-, an- ギ「非」「無」; a-はhを除く子音の前 analgesic: 鎮痛剤.
apathy: アパシー、無関心、感情鈍麻、無感情.
analgesia: 無痛.
ab- ラ「離脱」 abduction: 外転.
abdomin(o)- ラ「腹」「腹部」 abdomen: 腹、腹部.
-ac, -acal ギ「〜のような」「〜に関する」「〜に取りつく」「〜病(症)患者」;
-acalは-acの名詞用法と区別するためにしばしば使われる.
cardiac: 心臓(病)の.
hydrophobiac: 狂犬病患者.
pharmacomaniacal: 薬物マニア(?).
acanth(o)- ギ「棘状突起」「とげ(のような)」 acanthion: 前鼻棘(anterior nasal spine)の尖端.
acanthocyte: 有棘赤血球.
acanthoma: 棘細胞腫.
acous(io)- ギ「聴覚の」「聴覚に関する」 acoumeter: 聴力計.
acoustician: 音響学者.
acr(o)- (akr(o)-) ギ「始め」「尖端」「肢」「頭」「頂」「(最)高所」「尖鋭」 acrocrany: 長頭(high skull) vs metriocrany, tapeinocrany.
acromegaly: 先端巨大症.
acroosteolysis: 先端骨溶解症.
acroposthia(包皮尖端).
-acusis ギ「聴覚」 paracusis: 聴覚性錯覚.
-ad ラ「〜の方向に」「〜に向かって」 dorsad: 背部に[へ].
ad- ラ「方向」「変化」「付加」「完成」「開始」「近似」「単なる強意」 adduction: 内転.
aden(o)-, aden(i)- ギ「腺」 adenocarcinoma: 腺がん.
adenology: 腺学.
adenotomeアデノトーム(アデノイド用切除刀)
adip(o)- ラ「脂肪」「脂肪組織」「アジピン酸」 adipocyte: 脂肪細胞
adren(o)- ラ「副腎」 adrenal artery: 副腎動脈
-aemia, -haemia ギ「血液(の状態)」; イギリス英語 anaemia: 貧血
aer(o)- ギ「空気」「気体」 aerosinusitis: 航空性副鼻腔炎
aesth-, aesthe-, aesthesio- ギ「知覚」「感覚」「触覚」; イギリス英語 anesthesia: 麻酔
-al, -ial, -eal ラ(名詞につけて)「~の(性質の)」「~に関連した」;
(動詞につけて)「~すること」; 薬剤名を作る
abdominal: 腹部の.
alb(o)- ラ「白い」 albino: 白子
alge(si)- ギ「痛み」 analgesic: 鎮痛剤
-algia ギ「痛み」 myalgia: 筋肉痛.
alg(i/o)- ギ「痛み」 myalgia: 筋肉痛.
all(o)- ギ「他、他者」「異」 alloantigen: アロ抗原.
allopathy: 逆症療法(アロパシー)⇔ホメオパシー
ambi- ラ「両側」「周」 ambidextrous: 両手利きの.
amnio- ギ「羊膜」 amniocentesis: 羊膜穿刺
amph-, amphi- ギ「両」「両様に」「周囲に」 amphicrania: 両側性頭痛.
amphismela: 解剖用両刃ナイフ.
amphomycin: アンホマイシン(ペプチド系抗生物質)
ana- ギ「上へ」「さかのぼって」「再び」 anaplasia: 退形成.
an(o) ラ「肛門」 anus: 肛門.
andr(o)- ギ「人間」「男性」 android: アンドロイド.
andrology: 男性(病)学.
angi(o)- ギ「血管」「リンパ管」「血管腫」 angiogram: 血管造影図.
anis(o)- ギ「不等」「不同」 anisocytosis: 赤血球大小不同.
anisotropic: 異方性
ankyl(o)-, anchyl(o)-, ancyl(o)- ギ「かぎ状に曲がった」「膠着した(ような)」 ankylosis: 強直(症).
ante- ラ(時間・空間・順序)「~の前」; ⇔post- antepartum: 分娩前.
ante cibum: a.c. 食前に.
anti- ギ「反~」「排~」「抗~」「対~」⇔pro- antibody: 抗体.
antipsychotic: 抗精神病薬

参考資料
研究社「リーダーズ英和辞典
Wikipedia
Dictionary of Word Roots & Combining Forms by Donald Borror

vapeって何?

今月の頭、ニュースのヘッドラインをvapeと言う言葉が踊りました(例えば、こちら)。そんな言葉知らなかったので、英和辞典を何冊か見てみました。…載っていない。英英辞典もみてみました。…やっぱり出ていない。実はヘッドラインだけを見て知らない単語を調べただけだったので、改めて記事を探して読んでみました。機内使用を禁じる記事でした。文脈を読むと、電子たばこ(e-cigarette)を吸うという動詞としてvapeを使うということが分かりました。

こんな時は、Urban Dictionaryの出番です。確認すると、なるほど出ています。成分を気化させて(vaporize)して、その気化物vaporを吸うところから、vapeという言葉がでてきたようです。Urban Dictionaryにvapeが登録されたのは2009年1月。もう結構経ってるんですね。電子たばこをvaporizerともいうそうです。なかなか面白いですね。

こんな話を、twitterでつぶやいたら、「じゃフマキラーのベープももしかしてVapeなのか」という質問が入りました。調べたところ、残念ながらフマキラーのウェブサイトでは見つけることが出来なかったのですが、「にほんごひろば」というウェブサイトに、フマキラーから送られてきたという回答がでていました。こちらもvaporizeから取っているんですね。企業人ってのはいろいろ考えるものです。

好奇心旺盛なフォロワーはそれにとどまらず、「ヴィックス ヴェポラッブも同じ様な言葉なのか」と畳みかけるように訊いてきました。改めて調べると、命名についての直接的な説明は見つからなかったのですが、ヴィックスの社史にそのことを伺わせることが書かれていました。

“The salve’s ingredients include menthol and a little-known Japanese ingredient. When the ointment is rubbed onto a person’s chest, body heat vaporizes the menthol, releasing soothing, medicated vapors for hours.”

ヴィックス ヴェポラッブってVapoRubのカタカナ表記なので、最後は「ブ」なんですね。調べるまで「プ」だと思ってました。そう思っていた人は多いのではないでしょうか。フォロワーの方もそうでした。なかなか、面白いですね。

電子たばこを吸うvapeからVapoRubまで話が広がってしまいました。商品やブランドの名前を調べていくと、企業人のいろいろな考えが反映されて面白いですね。マツダの英語名Mazdaとか日産のダットサンDatsunとか、スジャータとか英語の話題からはずれますが調べると実に興味深いですよ。

語の構成要素を理解することはやっぱり大事

医療英単語を学び、ボキャブラリを増やしていくのには、接頭辞(prefix)や語根(root)、連結形(combining form)、接頭辞(suffix)といった語の構成要素を抑えていくとが重要です。医療英単語については、ギリシャ語とラテン語由来の語の構成要素の素直な組み合わせである場合が少なくないからです。例えば、hepatitis(肝炎)という単語を取り上げてみましょう。hepatitisは、hepat-と-itisという2つの構成要素に分解できます。hapatは、ギリシャ語由来の「肝臓」を意味する連結形です。itisは「炎症」を意味するギリシャ語由来の接尾辞です。itisはこのほか「…による病気」や「…狂」「…中毒」といった意味があります。

このように、医療英単語は語の構成要素の素直な組み合わせであることが多いので、語の構成要素を覚えることは単語力を鍛える近道になります。もう一つ、例をみてみましょう。otorhinolaryngology(耳鼻咽喉科または耳鼻咽喉科)です。この単語は、oto-、rhino-、laryngo-、-logyに分解できます。oto-は「耳」を表すギリシャ語由来の連結形、rhino-は「鼻」「鼻腔」を意味し、laryngo-は「咽頭(larynx)」の意味します。どちらもギリシャ語由来の連結形です。そして-logyは「学問」を意味するほか、「言葉」「語」「論」を意味を持つギリシャ語由来の接尾辞です。ちなみに、この-logyは病院の各診療科の「科」にあたる部分に使われます。こう分解してみると、otorhinolaryngologyという長ったらしい言葉も頭にすっと入ってくるのではないでしょうか。

ギリシャ語由来、ラテン語由来とわざわざ言っているのは、同じ意味を持つ構成要素でギリシャ語由来のものとラテン語由来のものがあるからです。代表的なものが数字を表す接頭辞です。最高までに数字の1〜10を表す接頭辞の代表的なものを下に記します(正確には用法によって同じ数字にラテン語由来のものの中にも、ギリシャ語由来のものの中にも複数の形があります)。

ラテン語由来
uni-、bi-、tri-、quadr-、quint-、sex-、sep-、oct-、nov、den-
ギリシャ語由来
mono-、di-、tri-、tetra-、penta-、hexa-、hepta-、octa-、ennea-、deca-

ギリシャ語由来の構成要素はギリシャ語由来のものだけで、ラテン語由来についてもラテン語由来の構成要素だけで、言葉を作る傾向があるようです。とはいっても、人間が作る単語ですから、そこら辺は例外もありますし、片方になければ、もう一方から取ってきたりします。ですので、必ずしも一つの単語がすべてギリシャ語由来の語要素だけから作られているとか、ラテン語由来の語要素だけから作られているとは決まってはいません。

次回からは、医療英単語を覚えるのに便利な構成要素を毎日少しずつa〜zまで順番に紹介しようと思います。ご自分構成要素を調べるには、研究社の「リーダーズ英和辞典」が便利です。ここでも、リーダーズ英和辞典は大いに参考にしています。また、Wikipediaにもとても参考になるページがあります。