切り分けて・整理して考える 構造・機能

医療英語を学ぶにあたっては、いろいろなものを切り分けて、整理して考える、そして覚えるということが大事だと思います。その切り分ける上で重要な一つの軸が構造(structure)と機能(function)という考え方です。言語学や社会学の分野でよく使われる考え方です。

まず、構造と機能のざっくりとした意味を立命館大学の故児玉徳美名誉教授の言葉でみてみましょう。

構造とは、(機械や組織などの)全体を成り立たせる内部の仕組み、部分部分の組み立て。例: 車の構造、心臓の構造
機能とは、物の働き、活動できる能力。例:心臓の機能、国会の機能

偶然にも、心臓という医学の領域の言葉が例として出ていますね。故児玉教授の言葉を言い換えると、物の実体としての形をみていくときはその構造をみています。その一方で、物がどのような働きをしているのか、どういった役割を果たしているのかといった点をみている場合はその機能をみているのですね。

さて、医療の分野に引きつけて、構造と機能について考えてみましょう。医学では、構造は解剖学(anatomy)が扱います。そして、機能は生理学(physiology)で扱います。もっとも、解剖生理学という言葉があるように、構造と機能、解剖学と生理学を分けて考えることは、なかなかむつかしいですし多くの場合、無理があります。

例えば、イスについて考えた場合、構造としては座面があり、脚があります。ですが、イスを考える時に「座るもの」という働きを抜きにして考えることはできません。良いイスを作ろうとすれば、座るという機能を徹底的に考えたところから、どのような構造がいいのかというところへと考えが進むでしょう。このように、構造と機能は考え方として地続きです。

地続きとは言っても、構造・解剖学と機能・生理学を意識しておくことは、とても効果的です。心臓という器官について理解するにしても、心房・心室・三尖弁・僧帽弁といった構造を覚えるととも、循環器系のパイプ役として、肺に血液を送りガス交換を促し、さらに肺から還流してきた血液を全身に送り出すという役割を覚えることが必要です。そして、構造・機能に沿って整理して覚えることで理解を深めることができるのです。

単に器官についての理解を深めるだけでなく、病気を理解をする際にも構造・機能の切り分けは役に立ちます。病気は多くの場合、機能障害(dysfunction/functional disorder)として立ち現れます。例えば、息切れがする(shortness of breath/SOB)とか、目が見えづらい(trouble seeing clearly)といった機能上の問題、つまり症状として現れるのです。基本的には、こういった機能障害が構造障害という病因(cause/etiology)から生じているものとして診察は進められます。患者の訴えを基に問診や検査を通じて構造障害を探っていくのです。

言い換えると、機能障害→構造障害という方向で病気の原因を探る診察は進められます。反対に構造障害→機能障害といった方向で治療は基本的に進められます。この流れをみると、機能性疾患(functional disease)という病気の意味が分かると思います。つまり、機能障害としての症状はあるのにもかかわらず、調べても病因となる構造障害がない、あるいは見つからない疾患のことを機能性疾患と呼ぶのです。一方で、構造障害がある病気を器質性疾患(organic disease)といいます。

より正確にいうと、器質性疾患は癌が細胞の増殖という機能の異常によって引き起こされるように機能障害を病因として捉えることも少なくありません。ただし、機能障害だけが起こるのではなく、構造の変化を伴うと言う点が重要です。一方、機能性疾患は機能性難聴における聴力のように構造的な変化が何ら発見できないのに機能に障害が現れます。もちろん、定期健診で発見される疾患もありますので、すべてが機能障害つまり症状によって病気の診断がなされるというわけではありません。無症状(asymptomatic)のままに診断される疾患は器質性疾患です。

構造 機能
解剖学 生理学
器質性疾患 機能性疾患