英語をまなぶときに、英語が日本語の標準語のようにひとつの標準をもっている言語であるかのようにおもいがちな方はすくなくないでしょう。アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語といったちがいがあることを理解しつつも、ついつい発音やアクセントの差くらいととらえている方は意外とおおいものです。自身の授業でも、(とくに医療用語について)ひとつの日本語の単語について複数の英単語をならべると、英語圏すべてでつうじる単語はどれかという質問をする方はいました。
とくに、海外経験がある方やネイティブは実体験という強力な支えがありますから、じぶんのしっている単語・表現がすべてとおもいこみがちだったりするものです(このことについては、日本国内での英語による医療コミュニケーションについてたいせつな問題として別の機会にとりあげたいとおもいます)。ですが、英語のバラエティはとても豊かです。単語・表現は、地域によっておもわぬかたちであらわれたりします。
医療英語も例外ではありません。地域性があります。もっとも、その地域的なちがいをひとつひとつ取りあげていくのは、とてもむつかしいことです。今回は英国と米国のちがいをとりあげた記事をみつけましたのでご紹介したと思います。BBCアメリカがイギリスの医療ドキュメンタリーを紹介するにあたりまとめた記事です。なかでは、アメリカ人が驚いたり、違和感をかんじたりするであろう英国での医療用語・表現が取りあげられています。
記事では、ひとつひとつの単語について、英国では〇〇という言い方をするけれども、アメリカでは△△といういい方をするといった形で、単語の対立を取りあげているだけではありません。文化的な背景や、表現の由来などにもふれてもいます。長い記事ですが、とても興味ぶかい内容となっています。ぜひ一読することをおすすめします。
英 | 米 | 日 |
---|---|---|
surgery | doctor’s office | 診療所(surgeryには診察「時間」という意味もある |
giddy | dizzy | めまい |
knock up | wake up | (患者を)おこす |
A&E | ER | 救命病棟(英国ではERは救急室・救急外来という限定的なつかいかたをする) |
jab | shot | 注射 |
surgical spirit | rubbing alcohol | 消毒用アルコール |
chemist’s/chemist’s shop | pharmacy/pharmacy store/drugstore | 薬局 |
Elastoplast/plaster | Band-Aid/first aid adhesive bandage | ばんそうこう |
gip | ache | いたみ(英国でacheをつかわないという意味ではなく、gipをつかうことがあるということ) |
sick | vomit | 嘔吐物(sickと嘔吐物のことを英国でよぶことがあるということ) |
国内の医療通訳のスクールではおおくが、アメリカ英語で医療英語をおしえているとかんがえられます。このブログでも、スペルなど表示については基本的にアメリカ英語を採用しています(ただし、アメリカ英語の優位を主張するものではありません)。そういったスクールで医療英語をならった方にとっては、診療所を英国で”surgery”とよぶことはおどろきでしょう。わたくし自身も下の動画(0:20くらい)をはじめてみたときに、そのことを知り、おどろきました。
なお、Collinsの”Australian English Dictionary”をみると、”place where, or time when, a doctor, dentist, MP, etc. can be consulted”とありますので、オーストラリアでも英国とおなじつかいかたをするようです。ただし、Wikipediaによると、オーストラリア英語では”doctor’s room”や”doctor’s practice”というそうです。
医療用語の英米のスペルのちがいは、こちらのサイトが取りあげているものが参考になります。”color”(米)が”colour”(英)と”or”が”our”になったり、”center”(米)が”centre”(英)のように”er”が”re”になったりするのは、おおくの方がしっているとはおもいます。しかし、”e”(米例: apnea、ischemia)が”oe”(英例: apnoea)または”ae”(英例: ischaemia)になるのをしったら、とまどうひともおおいのではないでしょうか。
ここでは、英語のちがいをイギリス英語、アメリカ英語のちがいというわかりやすいものを取りあげてみました。しかし、国内で英語の医療通訳を必要とする外国人患者のバックグラウンドは、米英のちがいにとどまらず、さまざまです。特定の英語にこだわらない、柔軟なかんがえで、医療通訳にのぞむ姿勢がたいせつといえるでしょう。