医療通訳は、逐次通訳で

数日前に通訳についてお話ししたなかで、通訳のすすめ方には大別すると同時通訳と逐次通訳があるとお話ししました。そして、医療通訳の場合、基本的に逐次通訳ですすめるのですよといいました。今回は、なぜ逐次通訳ですすめるのがいいのかをおはなしします。

そのまえに、注意したいのは、これからおはなしする理由から、逐次通訳を使うことが医療通訳にとってのぞましいとはいえ、医療通訳はその場の状況におうじて、臨機応変にやり方をかえるちからが求められています。ですので、逐次通訳よりも同時通訳の方がいいと判断された場合、同時通訳で通訳をすすめるべきです。

では、その判断基準はなにかというと、私は「患者にとってなにがベストなのか」をかんがえるようにしています。たとえば、目の動きをしらべるときの「指の動きを目だけで追ってください」という医師の指示は、ほぼ同時に通訳された方が正確な判断にむすびつきます。結果として、患者のかかえている症状についての適切な診断へとつながるのです。「ベスト」というのは「都合がいい」という意味ではありません。検査の結果が患者にとって「都合のわるい」きびしい診断になる可能性もあります。患者の健康、そして、そのための治療という面からみて、ベストなものになるやり方は、なんなのだろうかということをつねにかんがえるべきだとおもいます。

通訳の質があがる

同時通訳の場合、一語一語を置きかえることに集中しているので、はなしているひとが、なにをいおうとしているかについての理解はおろそかになります。逐次通訳の場合、はなされた内容についての理解をする余裕があるので、その内容をつたえるのに適した質の高い通訳をすることができるようになります。

患者と医師・医療従事者との関係の向上に役立つ

通訳の質があがるということは、患者と医師・医療従事者との関係の向上につながります。治療の成果は治療方法そのものよりも、患者と医師・医療従事者との関係によって左右されるといいます。逐次通訳によって通訳の質があがることが、患者と医師・医療従事者の信頼関係につながり、結果として患者の治療にとってプラスになるのです。

同時に2人はなすと患者は苦痛

ちょっと、かんがえてみてください。同時に2人の人間がはなしているのをきくのは苦痛ではないですか。テレビの2言語放送で両方のことばがながれるように設定してためしてみてください。そのうちの日本語だけをきくようにしていても苦痛だとおもいますよ。

病院やクリニックにくる方は、じぶんの症状にとてもなやんでくる方がおおいです。精神的にとても追いつめられている方もすくなくありません。外国人患者だったらなおさらではないでしょうか。じぶん自身の症状にくわえ、きちんとそのことを医師につたえることができるだろうか、ちゃんとした治療をうけることはできるだろうか、といった不安な気持ちでいることがおおいでしょう。同時通訳をつかうということは、そんな外国人患者の方に医師・医療従事者と通訳の2人が同時にはなしかけ、よけいなストレスをあたえることになります。とても、外国人患者と医師・医療従事者とのあいだに信頼関係をきづくことなど期待できなくなります。この点から、同時通訳は患者さんにとって、ベストなものとはかんがえられないのです。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。