病的近視による失明の論文をななめよみ — 論文での受動態の使用について

話題になっていたので論文を探してみました

「近視」「失明」「疾患」といった検索語の人気でしらべてみたら、どうやらこの「病的近視で失明した成人患者は、小児期から視神経の周囲に病変」という記事がネタ元らしいということがわかりました。

東京医科歯科大学眼科の大野京子教授や、横井多恵助教といった方たちの研究グループが米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology)の学術誌「Ophthalmology」に発表した論文についてまとめた記事でした。

話題となっていることもあり、さがしてみたところ、この論文がどうやら発表されたものだということがわかりました。”Peripapillary Diffuse Chorioretinal Atrophy in Children as a Sign of Eventual Pathologic Myopia in Adults”というタイトルで、「小児期における乳頭周囲び漫性網脈絡膜萎縮は成人期において病的近視を発症する兆候」であるといいたいのだろうけど、おさまりのいい訳がおもいつかません。

病的近眼の病的にはpathologicalではなくpathlogicをつかっています。あまりききなれないなとおもったのですが、pathological myopiaよりは、pathologic myopiaの方がつかわれる頻度はおおいらしいですね。Google Ngram Viewerでみると、pathologicは19世紀の後半から徐々に使用頻度があがっています。それ以前の使用度は微々たるもののようです。「誰かがまちがってつかいだしたのが定着したのかな」とよこしまな想像をしてしまいました。

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門外漢は論文のすばらしさよりも受動態の多さに感心

門外漢が論文をざっとななめよみしてかんじたのは「受動態がおおいな」ということでした。たとえば、”Fundus photographs obtained at baseline and at the last visit were assessed independently by 2 retina specialists (T.Y. and K.O.-M.)”や、”Patients with optic media opacities such as dense cataract preventing an ophthalmoscopic examination also were excluded”のようにです。

米国医師会(American Medical Association、AMA)のスタイルブックをみてもわかりますが、医学用の論文には能動態をつかいことが推奨されています。受動態の使用はなるべくひかえるようにとされています。

この能動態の使用についてはいまでも賛否両論がありますが、歴史的にみても、いまでは多くの論文誌が能動態で書くことを求める状況になっています。

実際、この論文が発表された「Ophthalmology」誌はインパクト・ファクターが6をこえる、とても影響力のある学術誌です。その学術誌でも、応募要項のなかでは、”Use the active voice when writing the manuscript”と能動態で論文をかくことをはっきりと求めています。この論文は指示されてる応募要項にそわなくても採用されるだけの重要な内容をもっているのだろうなと、論文の内容の素晴らしさよりも、妙なところに門外漢は感心してしまいました。

能動態で書くことで審査のハードルをさげられる

日本人のおおくの方には、いまでも論文やレポートを受動態で書くほうが好まれるようです。能動態の翻訳を提出したら、返されてきたなんて話もききます。受動態のほうが客観的なかんじがするようですね。たしかに、英語圏でも受動態がそのように受け止められていた時期があります。

ただ今は、論文やレポートは能動態で書くことが求められているのです。わざわざ応募要項に明記されていることに逆らう意味はないのです。大野教授・横井助教のように圧倒的に内容がすばらしい論文でもないかぎり、そこは、素直に能動態で書いた方が、査読者の受けもよく、論文が審査に通過する可能性があがるのです。

論文はななめよみしただけじゃさすがに歯が立たないのでこんごの宿題にして、気になった論文のスタイルについてはなしました。

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