急性・慢性など、「…性」は形容詞としてまずは理解しよう

急性(acute)や慢性(chronic)といった〜性という医療用語を単語帳がひさしぶりにでてきましたので、ご参考までに紹介します。なお、こういった単語帳をつくるときに注意すべき点があります。日本語の場合、どうしても見出し語が名詞の形になってしまうことがすくなくありません。ここでは列挙されている単語のおおくは、基本的には形容詞です。

単語帳をつくったり、単語帳を利用したりする場合、、こういった品詞のちがいに気をつけないと、文法的なあやまりにつながってしまいます。医薬系の翻訳会社などは、こういった単語帳をつくり、翻訳者にしたがうことをもとめています。そういった会社のばあい、品詞のちがいを見おとし、形容詞を名詞として使用するような事態が生じています。こわいのは、まちがえが一度ひとつの案件で最後までとおってしまうと、それが既成事実となり、その誤用にあとで気がついても、つかいつづけなければいけなくなることが医薬業界にはあるということです。

フリーランスの翻訳者になった場合、こういった明らかなあやまりでも、残念ながら翻訳会社などの発注元の意向にしたがい、誤用を受けいれざるをえません。ただし、自分で単語帳を作成・利用するときには、このような点に注意しましょう。とくに医療通訳の場合は、患者さんへのコミュニケーションを明確にするためにも気をつけましょう。

表中には一般に使われている形容詞もおおく、たとえば、acquiredは「獲得された」とかいった意味でもつかわれますし、essentialは「必要不可欠な」とか「とても重要な」といった意味でつかわれます。それが医学の世界では、病名などに「〜性」としてつかわれます。なかには、単一、あるいはごく少数の病名にしか使われないものも結構あります。

英語 日本語
急性 acute
慢性 chronic
悪性 pernicious, malignant
良性 benign
亜急性 subacute
先天性 congenital
後天性 acquired
発作性 paroxysmal
本態性 essential
虚血性 ischemic
細菌性 bacterial
鬱(うっ)血性 congestive
ウィルス性 viral
消化性 peptic
限局性 regional
全身性 systemic, generalized
潰瘍性 ulcerative
アルコール性 alcoholic, alcohol-induced -induced: 〜によって引き起こされた
非アルコール性 non-alcoholic, non-alcohol-induced -induced: 〜によって引き起こされた
原発性 primary
続発性 secondary
化膿性 pyogenic, suppurative pyo-: pus(膿)の. genic: 〜を生む
転移性 metastatic meta-: 変化. stasis: 安定した状態
進行性 progressive
糖尿病性 diabetic
多発性 poly-, multiple
尿細管性 renal tubular renal tubule(尿細管)の. -le: 小さい
異所性 ectopic ec-: 外の(ex-). topic: 場所
無菌性 aseptic a: without. septic: 腐敗性の
筋萎縮性 amyotrophic a: without. myo: 筋の. trophic: 栄養の、発育の(tropicとのちがいに注意)
鉄欠乏性 iron-deficiency
溶血性 hemolytic
巨赤芽球性 megaloblastic megal-: 巨大な. blastic: 芽細胞の
鉄芽球性 sideroblastic sider-: 鉄の. blastic: 芽細胞の
赤血球形成性 erythropoietic erythr-: 赤血球の. -poietic: 生み出す(-poiesis 形成・生成の形容詞形)
自己免疫性 autoimmune auto-: 自身の. immune: 免疫の、免疫性
薬剤起因性、薬物性 drug-induced -induced: 〜によって引き起こされた
再生不良性 aplastic a: without. plastic: 促進する、形成する
遺伝性 hereditary
家族性 familial
播種性 disseminated dis-: 外に. semin: 種
特発性 idiopathic idio-: 特有の、独自の. pathic: 症の
伝染性 infectious, contagious
痛風性 gouty
間欠性 intermittent
非淋菌性 non-gonococci
腎症候性 with renal syndrome 腎症候性出血熱(hemorrhagic fever with renal syndrome, HFRS; 流行性出血熱と呼ばれることも)だけか
解離性 dissecting
閉塞性 occlusive, obstructive
頻脈性 tachycardic, tachycardiac tachy-: 速い. cf. tachyarrhythmia(頻脈性不整脈). -cardiacよりもcardicが使われる頻度が1940年代から増加
除脈性 bradycardic, bradycardiac brady-: 遅い. cf. bradyarrhythmia(除脈性不整脈)-cardiacよりもcardicが使われる頻度が1940年代から増加
前骨髄球性 promyelocytic pro-: 前の. myel-: 骨髄の. cyt-: 球の
血管性 vascular 血管の(relating to vessels)
血小板減少性 thrombocytopenic thrombocyte: 血小板. cytopenia: 細胞減少(症),血球減少(症)
骨髄性 myeloid myel: 骨髄の. -oid: 〜のような、〜状の、〜質の
間質性 interstitial of interstices (隙間)
誤嚥性 aspiration aspiration(吸引)名詞の形容詞的用法
一過性 transient
穿孔性 perforative
逆流性 reflux reflux(逆流)名詞の形容詞的用法
神経性 stress-induced
リウマチ性 rheumatoid
不顕性 occult
若年性 juvenile
アトピー性 atopic a: without. top: place
筋性 myogenic myo-: 筋の. -genic: 〜から生じる. 「筋から生じる」との意味か
鬱(うっ)滞性 congestive
アレルギー性 allergic
壊死性 necrotizing
突発性 subitum exanthem subitum(突発性発疹)だけか
真性 vera polycythemia vera(真性多血症)だけか
変形性 deformans arthritis deformans(変形性関節炎)とosteitis deformans(変形性骨炎、ぺージェット病)だけか

【参考資料】

  • 研究社「医学英和辞典第2版」iOS版
  • Dictoinary.com
  • Wikipedia.org

JCI認定病院、2016年は3機関の増加にとどまる(4機関に1月31日修正)

Japan Medical Tourismの方のご指摘で、マックシール巽病院が2016年12月にJCI認証を取得していたことがわかりました。このため、認証取得機関は同年中に4機関増えたことになります。タイトルと表は修正しましたが、本文はそのままといたします。

医療界のISOともいわれるJCI(Joint Commission International)による国内認定機関についてはいままで、「JCI認定病院が2015年だけで7施設ふえて全部で18施設へ」(2016年3月現在)と、「国内のJCI認定病院の増加が減速か」(2016年11月現在)で、それぞれご紹介しました。

JCIのウェブサイトをきょう(2016年1月19日)あらためて確認したところ、2016年末現在、国内でさらに1機関ふえて計20機関となったことがわかりました。JCIウェブサイトによると、三井記念病院が2016年11月20日に認証されています。『医療英語の森へ』が11月26日に確認した時点ではJCIウェブサイトには表示されていませんでしたので、ウェブサイトに反映されるのにやや時間差があったようです。

三井記念病院をあわせると、2016年中にあらたに認定されたのは3機関となります。2015年だけで7施設ふえたことをかんがえると、やや増加の勢いがおちています。もっとも、医療ツーリズムを手がけているJapan Medical Tourismの方によると、JCI認証の取得をすすめている医療機関はまだまだあるとのことです。こんごも、外国人患者の受けいれ体制を整える医療機関はふえそうです。

病院名 英名 認定日 都道府県
亀田総合病院 Kameda Medical Center 2009年8月8日 千葉県
NTT東日本関東病院 NTT Medical Center Tokyo 2011年3月12日 東京都
介護老人保健施設老健リハビリよこはま Geriatric Health Services Facilities Yokohama 2012年3月29日 神奈川県
聖路加国際病院 St. Luke’s International Hospital 2012年7月14日 東京都
湘南鎌倉総合病院 Shonan Kamakura General Hospital 2012年10月27日 神奈川県
総合病院聖隷浜松病院 Seirei Hamamatsu General Hospital 2012年11月17日 静岡県
相澤病院 Aizawa Hospital 2013年2月16日 長野県
メディポリス国際陽子線治療センター Medipolis Proton Therapy and Research Center 2013年9月13日 鹿児島県
済生会熊本病院 Saiseikai Kumamoto Hospital 2013年11月23日 熊本県
葉山ハートセンター Hayama Heart Center 2014年3月6日 神奈川県
東京ミッドタウンクリニック Tokyo Midtown Clinic 2015年1月31日 東京都
足利赤十字病院 Japanese Red Cross Ashikaga Hospital 2015年2月7日 栃木県
埼玉医科大学国際医療センター Saitama Medical University International Medical Center 2015年2月7日 埼玉県
順天堂大学医学部附属順天堂医院 Juntendo University Hospital 2015年12月12日 東京都
国際医療福祉大学三田病院 IUHW Mita Hospital 2015年12月19日 東京都
南部徳洲会病院 Nanbu Tokushukai Hospital 2015年12月19日 沖縄県
札幌東徳洲会病院 Sapporo Higashi Tokushukai Hospital 2015年12月19日 北海道
倉敷中央病院 Kurashiki Central Hospital 2016年3月12日 岡山県
湘南藤沢徳洲会病院 Shonan Fujisawa Tokushukai Hospital 2016年8月27日 神奈川県
三井記念病院 Mitsui Memorial Hospital 2016年11月20日 東京都
マックシール巽病院 McSYL Tatsumi Clinic & Hospital 2016年12月16日 大阪府

※なお、執筆時点でJCIウェブサイト上の三井記念病院へのリンクにあやまりがありましたので、JCI側に報告しました(2017年1月31日修正を確認)。

厚労省研究班が医療通訳認証制度の意見交換会を東京と大阪で開催

厚生労働省の「医療通訳の認証のあり方に関する研究」をすすめている研究班が今月(2017年1月)中旬に東京と大阪で意見交換会をひらきます。東京と大阪の会場をテレビ電話でつなぎ、意見の交換をおこなうそうです。

昨年12月に開催された第一回国際臨床医学会学術集会でおこなわれた市民公開パネルディスカッション「医療通訳の認証にむけて」をうけておこなわれるもので、開催者側の主要なメンバーは、数名の方をのぞき、同パネルディスカッションのパネラーとほぼおなじ方となるようです。

「医療通訳従事者、および、関係者の皆さまへ」との招待メールには、「関係者の方々の多数のご参加と活発な意見交換をお待ちしておりますので、ご参加いただきますようご案内申し上げます」とありますので、ひろく参加をよびかけているようです。ただし、各会場とも参加人数は50名との制限がもうけられています。

開催日時・場所は以下のとおりです。

参加ご希望の方は、厚生労働省研究班「医療通訳の認証のあり方に関する研究」事務局まで以下の必要事項(年齢・性別まで必要なのだろうかと個人的におもいますが)をしるしたメールをおくることで、先着順でもうしこめます(参加費無料)。

  • 参加希望日時、場所
  • 名前(漢字・フルネーム)
  • フリガナ
  • 年齢
  • 性別
  • 都道府県
  • 参加受付完了通知返信用メールアドレス

なお、参加申し込みメールアドレスでの質問をうけつけていますが、個別にこたえるためではなく、意見交換会での議論に反映させるためのものだとのことです。

国内の医療通訳資格についての比較・2016年12月版

医療通訳の民間資格試験(医療通訳技能検定・医療通訳技能認定)についての問い合わせが最近つづいていますので、現状でわかる範囲内でまとめてみました。なお、資格試験については「医療通訳の資格試験はじぶんが受けやすいものを受けよう」という記事を以前かきました。そのときから、見方はかわっていません。公的資格の導入というのはむつかしいだろうとかんがえています。

医療通訳技能検定 医療通訳技能認定
実施団体 一般社団法人日本医療通訳協会 一般財団法人日本医療教育財団
試験タイミング 年2回開催 年1回開催
試験会場 東京、大阪、福岡、札幌 東京、大阪
受験するためのハードル 受験資格をとくにもうけてはいない 試験だけを単独でうけることはむつかしい(受験資格として、通訳の実務経験または指定の教育コース履修をもとめている)
認定の種類 同一試験を受験(1次筆記、2次実技)し点数で1級と2級を認定 専門と基礎を別試験でそれぞれ認定
難易度 やや高い
(難易度がたかまる傾向にある
難易度についてはまだ確定していないが、第1回の1次試験は比較的容易であったとの情報あり
試験開始年 2014年4月
(2009年より旧東京通訳アカデミーで開催されていた同名の試験のながれをうけている。日本医療通訳協会ウェブサイトより)
2016年12月
資格者の地位向上へのこころみなど 国際臨床医学会の認証制度への協力を表明している
(ことし12月に発足した国際臨床医学会は医療通訳の資格試験の認証制度を整備していく方向)
厚生省が発表した「医療通訳カリキュラム」を策定したのが日本医療教育財団財団だったことから、公的資格になるのではないかと期待されている
(厚労省にとくにその意向があるとは確認されていない)

重要
– 一般社団法人日本医療通訳協会の医療通訳技能検定については、筆者自身が試験委員・運営委員をつとめたことがあるという事実があります。
– 一般財団法人日本医療教育財団の医療通訳技能認定については、同財団の公開情報および受験生からの伝聞情報をもとづいています。直接取材してはいません。また、現時点では、第1回の1次試験をおえたところであり、2次試験については1月にはじめておこなわれるます。
– この記事をかいた時点で入手可能な情報をもとにかいていますので、こんご情報は変化する可能性があります。
– 訂正などありましたら、お問い合わせページからご連絡ください。

医療通訳の職能団体・全国医療通訳者協会が発足しました

医療通訳が、医療の現場で患者に寄りそい、通訳をつづけていくこと、患者を支援していくということは精神的にたいへんなことです。おおくの場合、医療通訳はひとりで派遣され、現場にはいります。そして、その場その場で、患者と医療従事者の間のコミュニケーションにとって、最良の選択はなにかということをじぶんで判断していかなくてはいけません。ひとりで活動するわけですからその場で相談する相手もいません。現場の状況はそのとき、そのときでまったくちがいますし、さらに変化していきます。

ひとりの患者の通訳をおえたあとも、その場でくだしたひとつひとつの判断はただしかったのだろうかと自問自答する日々をおくることになるでしょう。医療通訳として活動をつづける重圧というのはちいさいものではないのです。そういったときに支えになってくれるのは、やはり、おなじように現場にたつ、医療通訳のなかまでしょう。当ブログでも、医療通訳のネットワーク・横のつながりがたいせつであることはつたえてきました。

一般社団法人全国医療通訳者協会(National Association for Medical Interpreters、NAMI)が各地で活躍する医療通訳者が「ゆるやかに、団体や地域を超えてつながって」いくために今月(2016年12月)発足したそうです。団体の趣旨をみると、「医療通訳の普及と発展を通して、医療保健場面で通訳を必要とする人々の健康と福利に貢献していくことを目的としています」と会の目的をあげています。ウェブサイトのトップページでは、「悩みや問題を共有して解決策をみつけていきましょう」とよびかけています。

私は現時点でNAMIのメンバーではありませんし、発起人でもありません。しかし、医療通訳にたずさわるものとして、医療通訳の職能団体がたちあがったことをよろこばしくおもいます。こんごとも、期待しながら、注目していきたいとおもいます。