繊細な気づかいが性関連の医療現場では求められる

9月の医療通訳トレーニング(一般社団法人日本医療通訳協会主催、講師・押味貴之先生)では、性の問題(Sexual Problems)ということで、性行為感染症や性行為などが取りあげられました。性の問題については、オープンにとりあげることをためらう方もいるでしょう。しかし、実は訪日外国人・外国人居住者で、かかる病院・診療科は産婦人科(つまり女性の患者の方がおおい)が圧倒的におおいという状況があります。医療通訳・医療英語をまなぶうえで、さけてはとおれない道だと理解しましょう。

性ということでいえば、トレーニングでもとりあげらえましたが、東京オリンピックをひかえて、LGBTQについての理解が医療の分野でも課題となるでしょう。リオ・オリンピックには、記録的な数のLGBTQ選手が参加しました。東京オリンピックでは、この数を上まわることは必至でしょう。もちろん、選手だけではなく、訪日外国人の増加とともに、対応施設の提供、サポートなども課題となってきます。性関連の診察でも、配偶者が異性ではないといった状況に直面することがあるでしょう。患者のいきかたを尊重した姿勢がもとめられます。

さて、性関連の診察では、とても繊細な気づかいが必要です。欧米人の質問は、日本的な感覚からすると、ストレートで率直な感じがし、ときとしてぶしつけな感じがすることがすくなくありません。反対に日本的なたずね方が外国人にとって、とてもぶしつけな感じなることもあります。どの文化も、その文化なりのやり方で繊細な話題には気をつかいます。そういった点のちがいについては、理解しておくことや、想像力をはたらかせることが重要です。

ただし、通訳が文化の差異を理解しても、どこまでやれるのかという点で疑問はのこります。正直いって、日本の医師がここらへんの繊細さを身につけないかぎり、通訳として介入するにしても、限界があるのではないかという危惧はあります。とはいえ、通訳としてできることを最大限やるために努力しましょう。

性行為感染症の診察・検査

こちらの動画は、英国の若者支援団体がつくったもので、性病の検査がどのようにすすむかをえがいています。とても、わかりやすいものです。

いろいろと、具体的な質問をしていくためには、前置きをしっかりして、患者に覚悟をする余地をあたえることがたいせつです。

前置きの例

日本語 英語
体のことについて、いくつか個人的な(ことにたちいった)質問をこれからします I will now be asking you some personal questions about your health.
いつも患者さんにたずねている質問です These are some routine questions I ask my patients..
質問をしてもよろしいでしょうか Would that be all right with you if I ask these questions?

つづいて、具体的な質問をしていきます。LGBTQの点でいうと、下にあげた質問のなかには、パートナーが同性であるかをたずねるものがあります。現時点で、日本の医師がこのような質問を投げかけることはかんがえづらいですが、欧州・北米などではこういった質問が一般的になりつつあるようです。

診察室での質問例

日本語 英語
最後に性交をしたのはいつですか When did you last have sex?
相手は女性でしたか、男性でしたか Was it with a man or a woman?
相手は、いつもとおなじでしたか Was it with a regular partner?
どのような種類の性交でしたか What kind of intercourse was it?
膣性交でしたか、肛門性交でしたか、それとも口腔性交でしたか Was it vaginal, anal, or oral?
コンドームをつかいましたか Did you use condom?
相手の方(方たち)には、なにか症状はありますか Do you or your partner/s have any symptoms?
過去12週のうちに、ほかに相手はいませんでしたか Have you had any other partner in the past 12 weeks?
性交中、またはそのあとで、痛みはかんじませんでしたか Do you have pain during or after intercourse?
以前に性感染症にかかったことはありますか Have you ever had a sexually transmitted infection before?
いぜんに、性病検査をうけたことはありますか Have you ever had a sexual health screen before?
肝炎、梅毒、HIVに感染しているか検査をうけたことはありますか Have you ever been screened for hepatitis, syphilis or HIV before?
B型肝炎のワクチンを接種したことはありますか Have you been vaccinated against hepatitis B?
最後の生理はいつでしたか When was your last period?
性交の相手で、海外の方はいましたか Have any of your sexual partners been from abroad?|

STI/STDについてまなぼう

性行為感染症(sexually transmitted infections/STI、sexually transmitted diseases/STD、venereal diseases/VD)についての動画を2本紹介します。医学的には、STIが現在はつかわれているようです。ただし、一般には、STDということばがひろくつかわれています。また、STIには医学的に分類されていないものでも、一般には性病と認識されているものもあります。

STIは大別して、寄生虫性と細菌性、ウィルス性の3つになります。感染ルートは、性行為(膣・肛門・口腔)や、キス、性器への接触などがあります。ふだんは、こういった話題をさけている方も、通訳をするうえでは必要なのでなれてください。

寄生虫性 parasitic STI

日本語 英語 Lay Terms
トリコモナス症 trichomoniasis trich
疥癬(かいせん) scabies
ケジラミ public lice (sing. louse) crabs

細菌性 bacterial STI

日本語 英語 Lay Terms
梅毒 syphilis
クラミジア chlamydia the clam
淋病 gonorrhea the clap, the drip
軟性下疳(げかん) chancroid
マイコプラズマ・ゲニタリウム mycoplasma genitalium
ウレアプラズマ・ウレアリチカム ureaplasma urealyticum

ウィルス性 viral STI

日本語 英語 Lay Terms
性器ヘルペス genital herpes cold sore/fever blister (単純疱疹)
B型肝炎 hepatitis B (HBV)
ヒト免疫不全ウイルス human immunodeficiency virus (HIV) High Five, Hi 5, the bug, the virus
ヒトパピローマウィルス human papilloma virus (HPV) genital warts, condyloma (コンジローマ)

STIには分類されない

日本語 英語 Lay Terms
伝染性単核球症 infectious mononucleosis mono, the kissing disease
カンジタ症 candidiasis, yeast infection (正確にはイコールではないが、代表的なものとしてイコールのようにあつかわれることがある) thrush(口の場合), vaginal thrush

症状

日本語 英語 Lay Terms
リンパ節のはれ swollen lymph nodes
極度のつかれ extreme tiredness
体重減少 weight loss
発熱 fever
寝汗 night sweats
黄疸 jaundice
ふだんとちがって、色の薄い便 unusually light-colored stool
理由もなく何週も、または何ヶ月もつづく疲労 unexplained fatigue over weeks or months
消化器系の症状 gastrointestinal symptoms
食欲不振、食欲がなくなること anorexia loss of appetite
吐き気、嘔吐感、嘔気 nausea
嘔吐 vomiting
腹部痛 abdominal pain stomach pain
(においをともなうこともある)膣からの異常な分泌物(おりもの) abnormal vaginal discharge (that may have an odor)
不正出血 metrorrhagia irregular vaginal bleeding, bleeding between periods
性交疼痛症、性交時の痛み dyspareunia pain when having sex, painful sexual intercourse
膣、または膣周辺のかゆみ、またはひりひり感(焼けるような感覚) itching or burning in or around the vagina
排尿痛 dysuria pain when urinating, painful urination
陰茎先端からの透明または濁った少量の分泌物 small amounts of clear or cloudy discharge from the tip of the penis
尿道口周辺のかゆみ itching around the opening of the penis
睾丸周辺のいたみ、またははれ pain and swelling around the testicles
口、下、または、頬内側のクリーム色でやや盛り上がった病変 creamy white, slightly raised lesions in the mouth, tongue, or inner cheeks
嚥下困難 dysphagia difficulty swallowing
いぼ(状のもの) warts
射精時の痛み pain on ejaculation (動詞)pain when coming

その他関連用語

日本語 英語 Lay Terms
性交 sexual intercourse sex
膣性交 vaginal sex
口腔性交 oral sex
肛門性交 anal sex
(注射)針 needle
注射器 syringe
耳にピアスを開けること ear piercing
入れ墨をすること tattooing
(おもに英で、発音はかむgumとおなじ)性関連クリニック GUM clinic, genitourinary clinic

参考資料
国際医療福祉大学大学院・押味貴之先生
ロンドン大学Adult Nursing学部・Mark Jones先生

医療通訳の制度、東京オリンピックまでに時間はあるのか

最近、質問をいただくことが多いのが、どの医療通訳の資格を受けた方がいいのか、ということです。とくに日本医療教育財団が「医療通訳技能認定試験」をスタートすることから、一般社団法人日本医療通訳協会の「医療通訳技能検定試験」とくらべて、どちらを受けた方がいいのかという質問をうけます。

私の答えは「どちらでも受けやすいものを受けた方がいい」ということです。その理由はすでに書いたことなので、こちらをお読みいただければいいとおもいます。ただし、私は一般社団法人日本医療通訳協会とおつきあいがあるので、バイアスがかかっているのではないかと思う方もいるかもしれません。そこで、もうすこし、医療通訳の公的制度整備についての可能性についてふれたいとおもいます。

東京オリンピックは医療通訳の公的制度導入への追い風か

私が医療通訳をとりまく現状とともに注目しているのが、2020年に開催される東京オリンピックです。世界的な一大イベントに国内はいい意味でも、悪い意味でも、おおいにもりあがっています。リオのオリンピックもおわったことから、開催まであと4年をきっています。医療の分野でも、省庁間で訪日外国人むけの医療について、予算のとりあいがはじまったようです。

東京オリンピックまで4年弱という残り時間を、医療通訳制度に公的制度の導入・整備という観点からかんがえてみましょう。現存しない公的制度をあらたにもうけ、それを定着させ、急増する訪日外国人に対応できるまでに整備する、これは現実的に実現可能でしょうか。

訪日外国人はここ5年で3倍以上にふえています。さらにふえていくことが見込まれているのです。語学系の唯一の公的資格である通訳案内士でさえ、業務独占資格でなくなる方向で話がすすんでいて、訪日外国人をむかえいれる環境をととのえています。訪日外国人を迎えいれるためにおおくの人材が必要とされているのです。そのなかで、医療通訳について公的制度をあたらしく導入するということは、むしろハードルをもうけることになりかねない可能性があります。現実的には、とてもかんがえづらいのではないでしょうか。

東京オリンピックはボランティアで乗りきる気マンマン

オリンピックというのは、ものすごいお金がうごいているにもかかわらず、ボランティアによってささえられているイベントです。リオでは、通訳ボランティアとして日本人学生が送りこまれました(送りこまれたといっても旅費は自腹です)。

リオ・オリンピックへの通訳ボランティアの派遣については、ネット上で批判をよびました。とくに通訳を専門職としている方からは、きびしい声があがりました。もちろん、こういった声は、通訳ボランティアとして志高くリオへ向かった学生たちにむけられたものではありません。通訳ボランティアを組織した方たちの通訳というしごとへの認識の甘さについてのものでした。こういった批判をよそに通訳ボランティアが派遣され、リオ・オリンピックで活躍しました。

東京オリンピックも引きつづき、ボランティアによってささえられるイベントとなります。動員されるボランティアの数は、ロンドン、リオを上まわる8万人となるようです。実際に国内をみてみると、2018年には韓国の平昌で冬季オリンピックが、2019年には日本でのラグビーW杯がひらかれることもあり、全国7つの外語大が協同で「通訳ボランティア育成セミナー」をおこなってきています。ことし9月上旬におこなわれた第3回までに約450人が参加しています。

医療の分野では、Team Medicsという医学生有志のボランティア団体が組織されており、その活動のひとつが、「国際イベントで、医療に関する英語ボランティアスタッフとして患者の誘導を行う」こととなっています。Team Medicsのウェブサイトには、東京都医師会会長から応援メッセージがよせられており、訪日外国人への医療サポート分野での彼らの活躍への期待がしめされています。メッセージのなかには、「今後、激増する外国人観光客に対して、医療の専門家以外に多くのボランティアの方の協力が不可欠と考えられる」といったことばもふくまれています。Team Medicsメンバーの「素晴らしい志」に水をさしかねない公的医療通訳制度・資格の導入に、積極的に乗りだす省庁・組織・団体があるでしょうか。

東京オリンピックまでは、経験をつむチャンスかも

東京オリンピックを前に、医療通訳についての資格について、決定打となるものがでてくることは、かんがえづらいといわざるをえません。といっても、私が医療通訳の将来について否定的にかんがえているというわけではありません。

東京オリンピックまでの時間帯をいいチャンスだとおもって、とくに、医療従事者の方は、医療分野での経験をバックボーンとして、一歩踏みだされることがいいとおもいます。じぶんにとって受けやすい資格を受けて、それを取得し、じぶんの医療分野でのバックグラウンドとともにアピールすることで、どんどんと経験をつんでいったほうがいいのではないでしょうか。

私が主宰する医薬通訳翻訳ゼミナールでもおはなししているのですが、医療通訳の資格をとることは、医療通訳になることとイコールではありません。その過程でまなんだことをいかせば、キャリアの可能性がひろがっていくのです。 この時間帯を有効につかうことをおすすめします。

東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。

医療通訳の資格試験はじぶんが受けやすいものを受けよう

ちょっと前になりますが、東京大学でひらかれた医療通訳をテーマとした勉強会に参加してきました。厚生労働省の「医療通訳育成カリキュラム」の策定にかかわった日本医療教育財団がことしから、あらたに医療通訳の資格認定試験をはじめることもあって、なにか、おおきな流れの変化をかんじることができるかと、期待していました。結論としては、そういった期待にこたえてくれるような話はでてきませんでした。

おおきな流れの変化と期待したのは、医療通訳の地位を確立するための統一的な制度がつくられていくための、具体的な試みについて、なにかあたらしいはなしをきくことができるのではとかんがえたからです。たしかに、いくつかの具体的な動きを確認することはできましたが、医療通訳の地位が確立されていくものとかんじるようなものは残念ながら、なにもありませんでした。

この勉強会では、具体的な動きとして次の2点について確認・再確認するにとどまっただけでした。

(1)国際臨床医学会がことし発足する。同医学会では、医療通訳の認証制度委員会を設置する予定。
(2)日本医療教育財団が「医療通訳技能認定試験」をこの秋からはじめる。

あらたな動きは、医療通訳にとって、地位の確立につながるか。

医療通訳はいままで、各地域のさまざまNPO、任意団体が、その地域にすむ外国人の方たちをサポートするために、手さぐり状態でおこなってきたのが実態です。地域の医療機関の無理解や抵抗にたいして、丁寧に医療通訳の必要性をうったえ、外国人患者をサポートするためのしくみをそれぞれの団体が独自につくりあげてきました。

どの団体も医療通訳への認知がたかまり、同時に医療通訳の地位が社会的に根づいていくことをのぞんでいるはずです。そのために、じぶんたちがつくってきたしくみにたいして、ある程度の修正をもとめられたとしても、受けいれるだろうとおもいます。しかし、いまの動きは、医療通訳の地位確立のためにプラスになるのかという点からかんがえると、いずれも説得力をやや欠いているとかんじます。どうやら、すくなからぬ団体の関係者がおなじようにかんじていたようにみえます。

まず、(1)についていうと、なぜこの学会が認証制度をになうべきなのかと疑問をかんじざるをえません。医療通訳の世界では、そのことばがしめすとおり、医療のバックグラウンドをもつ方がたと通訳畑の出身者とが、混在しています。そのうえ、地域のニーズにこたえて、医療通訳という分野を草の根で切りひらいてきた各団体の実績をかんがえると、医療側を代表する大学中心の医学会に、医療通訳を認定することにしましたといまさらながらいわれると、唐突な感じがしてなりません(勉強会で行われたプレゼンでは、「国際臨床医学会」について、通訳の方も参加して欲しいとはいいつつも「北海道大学・東京大学・大阪大学・九州大学・国立国際医療研究センター等が集まり」設立するとありました)。「現場のことがわかるのだろうか」という不満をいだくひとたちがいても当然でしょう。この勉強会でも、そのようなひとがすくなからずいる印象をうけました。

つぎに(2)についていうと、そもそも厚生労働省が「医療通訳育成カリキュラム」というものを外部に委託しまとめたところが元となっています。同カリキュラムは、あるNPO団体が作成した医療通訳のトレーニング・テキストが発展的に整理されたもの、といっても過言ではないとおもいます。ですので、医療通訳をになってきた各地の団体の総意としてつくられたものではありません。また、厚生労働省が後ろ盾(ほんとうに後ろ盾になるつもりかは疑問ですが)になっているとはいえ、公的な縛りがあるという性格のものでもありません。

「医療通訳技能認定試験」はこのカリキュラムの延長線上にあるため、同カリキュラムにもとづくトレーニングをうけていることが受験資格のひとつとなっています(ほかの諸条件をクリアすれば、カリキュラムを経ずに受験をすることは可能)。なお、このカリキュラムのにもとづくトレーニングを実施している団体・機関は全国で4つとなって、医療通訳を各地でになっている団体の広がりからかんがえると、とても限定的なものとなっています。

医療通訳の資格制度・統一基準への道のりは遠そう

結論としてかんじたのは、医療通訳の資格にしろなんにしろ、ある程度の統一的な基準がうまれるのは、まだまだ先のことといえそうです。(1)にしても、(2)にしても、ひろい支持をえているとは、とてもいえない状態でしょう。むしろ、この勉強会では関係者間の溝が確認されてしまったようなかんじすらしました。

もちろん、「雨降って地固まる」ということばもあるように、東京オリンピックをひかえ、急速に事態が発展する可能性があることは否定できません。しかし、医療通訳が確実に収益性のある職種になるといった見通しでもつけないかぎり、いまの法的枠組みのなかでは、状況がかわる糸口をみつけることはむつかしいのではないでしょうか。

医療通訳の民間資格はとりやすいものをとればいい

統一的な基準がうまれるのが当分先ならば、受けやすいものを受けた方がいいではないでしょうか。日本医療教育財団が「医療通訳技能認定試験」以外にも、一般社団法人日本医療通訳協会が「医療通訳技能検定」という民間資格試験を実施しています。僕自身がこちらの試験委員をしていたこともあるので、ポジショントークとのそしりをまぬがれないでしょうが、こちらは一発受験も可能ですので、独学でまなびうけることも可能です。もちろん、厚生労働省の事業受託もしている日本医療教育財団のほうが見た目がいいだろうという判断をするのであれば、それもいいでしょう。じぶんにとって納得がいくほうを受験すればいいだろうとおもいます。

最後に、医薬通訳翻訳ゼミナールという学校を主宰する立場からいうと、医療通訳については、もっと包括的な視点でかたるべきだとかんがえています。医療通訳という勉強の先にどういった可能性があるのか、医療という現場はどうなっているのか、海外における医療通訳という職業の受けとめられ方など、掘りさげてみるべきでしょう。手前味噌になりますが、こういった話を医薬通訳翻訳ゼミナールの説明会ではしています。説明会に参加したら、かならず入学しなくてはならないというわけではありません。ですので、医療通訳をとりまく環境などに興味のある方はご連絡いただければとおもいます。

fMRIによるとイヌはひとのことばを理解しているらしい、猫はどうだろう

fMRIってしっていますか。functional magnetic resonance imagingといって、磁気共鳴機能画像法とか訳されている検査です。機能をきちんと説明しようとすると、たいへんなので、ここらへんWikipediaあたりをよむといいでしょう。ざっくりというと、脳における血流量と酸素の代謝量をMRIで観測して、脳のどの部分がある動作や思考をしているときにつかわれているかということを観測する技術のことです。脳のある部分がつかわれると、その部分の神経細胞が活動し、酸素をたくさん必要になるためにこういったことがわかるんですね。

今月のあたまに、日経新聞系のナショナル・グラフィック日本語版が「イヌは飼い主の言葉を理解している、脳研究で判明」との記事を出しました。fMRIをつかって、イヌの脳をしらべたところ、はなしかけると、イヌの脳(”the canine brain”)もにんげんとほぼおんじうごきをしめす(情報処理をする)ということがわかったとのことです(”scientists found the canine brain also processes the information in a similar way as humans.”)。つまり、ひとの会話において重要な2つの要素、ことばのそのもの(”the word”)と抑揚(”the intonation”)の両方を、イヌもきちんととらえているということがわかったというのです。イヌ好きとしては、うれしいニュースではないでしょうか(記事のオリジナル版はこちら

イヌをMRI装置のなかで、おとなしくさせるというのは、そうとうな苦労があったとおもいます。記事によると、調教師は数ヶ月をこの「離れわざ」のためにハンガリーの13匹のペットイヌにかけたそうです(”It took several months for dog trainers to work their magic on 13 pet dogs that live in Hungary”)。

ところで、気になったのは、イヌとならぶ、ペットの代表格、ネコをしらべたら、どうなるのかということです。自分勝手で気ままといわれるネコをしらべたら、もしかしたら、ひとはひとでも、KYなひととおなじ反応を脳がするのではと勝手な想像をしてしまいました。といっても、自分勝手なネコのことですから、MRI装置のなかで、おとなしく実験につきあってくれるとはおもえませんけどね。

fMRIについては、つい先日ソフトウェアの欠陥(”software flaws”)から何千という研究データが無駄になるのではないかという報道がありました。よくつかわれているSPM、FSL、AFNIというデータ解析パッケージにソフトウェアの欠陥があり、この手法をつかうと、偽陽性を常に出力してしまい、5割以上の結果でエラーがでてしまうというのです(”some software flaws in the popular fMRI data analysis packages SPM, FSL and AFNI meant this technique routinely produced false positives, resulting in errors 50 per cent of the time or more.”)。

今回のイヌの実験結果がこの問題の影響をうけているとはみえませんが、どれだけの研究がこの欠陥の被害をこうむったのでしょうか。

FDAがトリクロサンとトリクロカルバン配合の殺菌石鹸の販売を禁止

ニューヨーク・タイムスの報道によると、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)がトリクロサン(triclosan)とトリクロカルバン(triclocarban)配合の殺菌石鹸の販売を禁止したそうです。そもそも、2013年に販売禁止を提案したそうですが(”The agency first proposed the rule in 2013″)、いままで各メーカーに有効性について証明する時間をあたえていたとしています。しかしながら、これらの化学成分を配合した石鹸の長期使用での安全性についてあきらかにすることができず、通常の石鹸と水をつかった場合との比較による優位性についても証明することができなかったので(”industry had failed to prove they were safe to use over the long term or more effective than using ordinary soap and water.”)、販売禁止を決定したとなっています。

動物実験では、トリクロサンとトリクロカルバンが生殖器系と代謝の正常な発達を阻害することがわかったそうで(”triclosan and triclocarban can disrupt the normal development of the reproductive system and metabolism”)、人間においても同様の結果をもたらすと、専門家はみているとのことです。

驚くことに、石鹸やマウスウォッシュを介して、体内にかなり吸収されているらしく、アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)によると、米国人の4分の3分の尿でこれらの化学成分は検出されているそうです(”The Centers for Disease Control and Prevention found the chemicals in the urine of three-quarters of Americans.”)。

ところで、日本ではどうなのかとみていると、結構いろいろな製品につかわれているんですね。トリクロサンはこういったおおくの製品につかわれていますし、トリクロカルバンがつかわれている製品もすくなくありません。健康コンシャス、環境コンシャスなひとたちの間では、以前から「買ってはいけない」といわれていたようですが、こんごはどうなるのでしょうか。