語の構成要素 C-2

Cから始まる構成要素はまだあります。ほとんど何が後にきてもスペルの上で収まりが付くAと違って、Cのすぐ後にきて収まりがいいのは「A」「E」「H」「I」「L」「O」「R」「U」「Y」くらいですが、意外と言えば意外ですね。

構成要素 語源・意味 例語
-cise, -cis ラ「切除」 incision: 切開, 切り傷, 切り口.
-clast ギ「破壊」 osteoclast: 破骨細胞、破骨器
clavi-, clavo, clavicul(o)- ラ「鍵」「鎖骨」 claviculectomy: 鎖骨切除(術).
cleid(o)- ギ「鎖骨」「鍵」 cleidarthritis: 鎖骨関節炎.
-clysis ギ「洗浄」「灌漑」 proctoclysis: 直腸灌注.
co- ラ「共同」「共通」「相互」「同等」 coenzyme: コエンザイム
coagul(o)- ラ「凝固する」 anticoagulant: n. 抗凝血(凝固)剤; adj. 抗凝血性
col(i/o)-, colono- ギ「結腸」「大腸菌」 colonoscopy: 結腸鏡検査(法)、結腸内視鏡術
colp(o)- ギ「膣」 colposcopy: 膣鏡検査、コルポスコピー
com-, col-, cor-, con- ラ「共に」「全くの」
com-は”b”, “p”, “m”の前で、colは”l”の前で.
cor-は”r”の前で, その他の前ではcon-.
combination: 結合, 連結, 化合(物).
coma-, comat(o)- ギ「深い眠り」 comatose: adj. 昏睡性, 昏睡状態の.
conjunctiv(o)- ラ「結膜」 conjunctivitis: 結膜炎.
contra- ラ「逆」「反」「抗」「対」 contraindicate: 「(薬・療法などに)~に禁忌を示す」
cor-, core-, coro- ギ「瞳孔」 corectomy: =iridectomy(虹彩切除)
coron(o)- ラ「王冠」「心臓」 coronary artery: 冠(状)動脈.
corp(o)-, corpor-, corpus- ラ「体」 corpse: 死体.
cortic(o)-, cort-, cortex ラ「皮質」 cortical: adj. 皮質(性)の.
cost(i/o)- ラ「肋骨(costa)」 costochondral: 肋軟骨の.
cox(a/o)- ラ「寛骨(hipbone)」「臀部(hip)」=coxa coxopodite: 底節.
crani(o)- ギ→ラ「頭蓋」 craniology: 頭蓋学.
-crine ギ「分泌する」 endocrine: 内分泌.
crypt(o)- ギ「隠れた」「秘密の」「神秘的な」「暗号の」 crypta: 陰窩.
cry(o)- ギ「寒」「寒冷」「冷凍」 cryoablation: 冷凍(凍結)アブレーション.
cutane(o)- ラ「皮膚」 subcutaneous: 皮下の.
cyan(o)- ギ「藍色」「シアン(化物)」 cyanopsia: 青視症.
cycl(o)- ギ「円」「環」「周期」「回転」「環式」「毛様体」 cycloid: n/adj. 循環病質(の), 循環気質(の).
cyst(i/o)- ギ「胆嚢」「膀胱」「嚢胞、包嚢(cyst)」; 特に膀胱 cystotomy: 膀胱切開(術).
cyt(o)- ギ「細胞」「細胞質」 cytokine: サイトカイン(血球細胞から分泌される生理活性物質)
-cyte ギ「細胞」 leukocyte: 白血球.
-cytosis ギ「細胞の特定の状態」 acanthocytosis: 有棘赤血球増加症.

参考資料

語の構成要素 C-1

cから始まる構成要素も意外に多くて驚きました。

構成要素 語源・意味 例語
calc(i/o)- ラ「カルシウム」「石灰」 calcicosis: 石灰症.
calcane(o)- ラ「踵」「踵骨」 calcaneus: 踵骨.
cancer(o)- ラ「癌」「腫瘍」 cancer: 癌.
capillar(o)-, capillario-, capill(i)- ラ「毛髪」「毛細血管」 capillus: かみのけ,頭毛.
capit-, capt-, cap-, cep-, ceps-, chapt-, cip- ラ「頭」「頭部」 capitation: 人頭割払い(制度), 頭割り
carcin(o)- ギ「腫瘍」「がん」「カニ」 carcinoma: 悪性腫瘍(一般にcancer).
carcinogen: 発がん(性)物質
cardi(o)- ギ「心臓」 cardiology: 循環器科、心臓(病)学
carp(o)- ギ→ラ「手根(骨)」 carpopedal: 手根足.
carpus: 手根骨.
cata-, cat-, cath-, kata- ギ「下」「反」「誤」「側」「全」 cataract: 白内障.
caus-, caut- ギ「燃焼」 causalgia: 灼熱痛, カウザルギー.
cauterization: 焼灼.
-cele ギ「腫瘍」「ヘルニア」 hydrocele: 「水瘤」「睾丸瘤」.
varicocele: 「精索静脈瘤」.
-centesis ギ「穿刺」 amniocentesis: 羊水穿刺.
cephal(o)- ギ「頭」「頭部」 cephalalgia: 頭痛.
cerat(o)- ギ「角膜」 ceratoid: 「角質の」「角状の」.
cerebell(i/o)- ラ「小脳(cerebellum)」 cerebellar syndrome: 小脳症候群
cerebr(o)- ラ「脳」「大脳」 cerebrotonia: 頭脳(緊張)型、頭脳型性格[気質]
cervic(i/o)- ラ「首」「頸部」 cervicodorsal: 頸背の.
-chalasis ギ「弛緩」 arthrochalasis: 関節弛緩症.
chem(i/o)- ギ「化学」 chemotherapy: 「化学療法」
chir(o)-, cheir(o)- ギ「手」 chiropractor: カイロプラクター; (脊柱)指圧療法師.
chlor(o)- ギ「緑」「塩素」 chlorophyll: 葉緑素.
chol(e/o)- ギ「胆汁」 cholemia: 胆血(症)、胆汁血(症).
cholecyst(o)- ギ「胆嚢」 cholecystectomy: 胆嚢切除(術).
chondr(i/o)- ギ「軟骨」「粒」 chondrocalcinosis: 軟骨石灰化症(偽痛風)
chrom(o)-, chromat(o)- ギ「色」「色素」「染色質」 hemochromatosis: ヘモクロマトーシス, 血色素症,青銅色糖尿病,ブロンズ糖尿病
chron(o)- ギ「時間」 chronic: adj. 慢性
-cidal, -cide ラ「殺す」 bactericide: 殺菌薬
cili(i/o)- ラ「毛様体」「睫毛(cilia)」「繊毛」 ciliary: 繊毛の、まつげの、毛様体の
circum- ラ「周」「回」「諸方に」「取り巻く」 circumcision: 割礼.
cis- ラ「こちら側の」 cis-trans test: シス=トランス検定.

参考資料

切り分けて・整理して考える 構造・機能

医療英語を学ぶにあたっては、いろいろなものを切り分けて、整理して考える、そして覚えるということが大事だと思います。その切り分ける上で重要な一つの軸が構造(structure)と機能(function)という考え方です。言語学や社会学の分野でよく使われる考え方です。

まず、構造と機能のざっくりとした意味を立命館大学の故児玉徳美名誉教授の言葉でみてみましょう。

構造とは、(機械や組織などの)全体を成り立たせる内部の仕組み、部分部分の組み立て。例: 車の構造、心臓の構造
機能とは、物の働き、活動できる能力。例:心臓の機能、国会の機能

偶然にも、心臓という医学の領域の言葉が例として出ていますね。故児玉教授の言葉を言い換えると、物の実体としての形をみていくときはその構造をみています。その一方で、物がどのような働きをしているのか、どういった役割を果たしているのかといった点をみている場合はその機能をみているのですね。

さて、医療の分野に引きつけて、構造と機能について考えてみましょう。医学では、構造は解剖学(anatomy)が扱います。そして、機能は生理学(physiology)で扱います。もっとも、解剖生理学という言葉があるように、構造と機能、解剖学と生理学を分けて考えることは、なかなかむつかしいですし多くの場合、無理があります。

例えば、イスについて考えた場合、構造としては座面があり、脚があります。ですが、イスを考える時に「座るもの」という働きを抜きにして考えることはできません。良いイスを作ろうとすれば、座るという機能を徹底的に考えたところから、どのような構造がいいのかというところへと考えが進むでしょう。このように、構造と機能は考え方として地続きです。

地続きとは言っても、構造・解剖学と機能・生理学を意識しておくことは、とても効果的です。心臓という器官について理解するにしても、心房・心室・三尖弁・僧帽弁といった構造を覚えるととも、循環器系のパイプ役として、肺に血液を送りガス交換を促し、さらに肺から還流してきた血液を全身に送り出すという役割を覚えることが必要です。そして、構造・機能に沿って整理して覚えることで理解を深めることができるのです。

単に器官についての理解を深めるだけでなく、病気を理解をする際にも構造・機能の切り分けは役に立ちます。病気は多くの場合、機能障害(dysfunction/functional disorder)として立ち現れます。例えば、息切れがする(shortness of breath/SOB)とか、目が見えづらい(trouble seeing clearly)といった機能上の問題、つまり症状として現れるのです。基本的には、こういった機能障害が構造障害という病因(cause/etiology)から生じているものとして診察は進められます。患者の訴えを基に問診や検査を通じて構造障害を探っていくのです。

言い換えると、機能障害→構造障害という方向で病気の原因を探る診察は進められます。反対に構造障害→機能障害といった方向で治療は基本的に進められます。この流れをみると、機能性疾患(functional disease)という病気の意味が分かると思います。つまり、機能障害としての症状はあるのにもかかわらず、調べても病因となる構造障害がない、あるいは見つからない疾患のことを機能性疾患と呼ぶのです。一方で、構造障害がある病気を器質性疾患(organic disease)といいます。

より正確にいうと、器質性疾患は癌が細胞の増殖という機能の異常によって引き起こされるように機能障害を病因として捉えることも少なくありません。ただし、機能障害だけが起こるのではなく、構造の変化を伴うと言う点が重要です。一方、機能性疾患は機能性難聴における聴力のように構造的な変化が何ら発見できないのに機能に障害が現れます。もちろん、定期健診で発見される疾患もありますので、すべてが機能障害つまり症状によって病気の診断がなされるというわけではありません。無症状(asymptomatic)のままに診断される疾患は器質性疾患です。

構造 機能
解剖学 生理学
器質性疾患 機能性疾患

語の構成要素 B

Bから始まる構成要素はそれほど多くはないですね。接頭辞や接尾辞が少ないからでしょうか。

構成要素 語源・意味 例語
bacteri(o)- ギ「細菌」「バクテリア」 bactericide: 殺菌剤.
bacteremia: 菌血(症)
balan(o)- ギ「陰茎亀頭」「どんぐり」「陰核」 balanitis: 亀頭炎.
bi- ラ「二」「双」「両」「複」「重」 binary: 二の、二成分の、二元の、二進の、二元体
bi(o)- ラ「生」「生命」「生物」 biology: 生物学
bili- ラ→古仏「胆汁」「胆汁から誘導された」 biliary abscess: 胆道膿瘍.
blast(o)- ギ「胚」「芽」 blastomere: 卵割球; 分割細胞; 分割球; 割球.
blephar(o)- ギ「まぶた」「まつげ」「鞭毛」 blepharoplast: 生毛体; 毛基体.
brachi(o)- ギ→ラ「腕」 brachium: 上腕.
brachium of the inferior colliculus: 下丘腕
brachy- ギ「短い」 brachycephalic: 短頭の, 短頭の人.
brady- ギ「遅い」「鈍い」「短い」 bradycardia: 徐脈
bronch(o)-, bronchi(o)- ギ「気管支」 bronchiolitis obliterans: 閉塞性細気管支炎.
bucc(o)- ラ「頬」 buccolabial: 頬唇
burs(a/o)- ラ「包・嚢(bursa)」 bursitis: 滑液包(嚢)炎.

参考資料

プレセッションとCIFE(2)

CIFE

プレセッションを行う上で重要なポイントはCIFEと言った形でまとめられています。「シフ」と読みます。さて「シフ」は 、confidentiality(守秘義務)のC、一人称のI、flow(流れ)のF、Everything(すべて)のEで作られた造語(coinage)です。通訳はこの4つのポイントを使って患者(そして医師)に診察がどのように進んでいくか説明します。

守秘義務のC

まず、Cですが、患者に対し、守秘義務を守ることを約束します。患者が安心して症状など治療のための情報を診察の中で話せるようになってもらいことが重要だからです。本来であれば、患者と医師の一対一の関係であるはずの診察に、言葉の壁があるために参加せざるを得ないのが医療通訳です。医師に対してだけだったら話せたはずなのに、第三者である医療通訳がいたから口にできずにきちんとした診断を得られずに治療に影響が出たなどということがあっては絶対にいけません。診察室の中で話された内容は絶対外に漏れることはないということを伝えるのです。

一人称のI

通訳は一人称で行うと伝えます。患者に対しては、医師が”What can I do for you today?”と言えば、通訳はそのまま”What can I do for you?”と言った一人称の形で通訳することを伝えます。実は、医療機関で働く外国語能力がある方が医療通訳としてのトレーニングを受けないまま実践の場に立つと、三人称で通訳をするケースがあります。例えば、患者さんが”I have a headache.”というと「患者さんが頭が痛いと言っています」と通訳してしまうのです。研究によると、いくつかのメリットがあるため、一般的には一人称を使うことが多くなっています。ただし、国内ではかなり大きな病院でも三人称の使用を求める機関があるようです。その場合は、その機関の方針に従いましょう。

流れのF

流れ(flow)とは、診察の中で患者と医師の間で交わされる会話の流れのことです。会話がきちんと流れていくために、いくつかの注文を通訳はあらかじめプレセッションの中で出しておきます。具体的には「話すときは通訳ではなく、医師(あるいは患者)をみて話してください」とか「話すときはゆっくり話してください」「はっきりと話してください」「あまり長く話し続けたりしないでください」といったことを伝えます。その際に「正確な診断のためには、正確に通訳をする必要がありますので」などと言って、こういった注文は患者のためなんだということを伝えれば、患者も医師も納得しやすいでしょう。海外などでは、ストップサインについてプレセッションで合意しておき、話が長くなったときにそのサインを出して話を止めてもらうということをしています。しかし、日本ではむつかしいかもしれません。ストップサインを使うかは、それぞれの通訳の判断によるでしょう。使う場合は、必ずプレセッションの中で使用について合意を求めておきます。

全部のE

診察室の中で口にされた内容は全部訳しますよとあらかじめ伝えておきます。当然ですよね。患者と医師が同国人でしたら、そこで口にした内容はすべてお互いに伝わるのですから。しかし、医師などは外国人だと安心して余計なことを言ってしまうこともあります。通訳は発言が余計なことなのか、そうでないのか判断することができませんし、判断してはいけません。ですから、あらかじめすべて伝えますよと釘を刺すのです。患者についても同様です。医師は患者の何気ない一言なども含めあらゆる情報を基にして診断を下します。患者がたいしたことはないと思っている愚痴のようなものの中に、診断に至るキーが隠されている可能性があるのです。ですから、すべて訳すことについて伝えておくのです。個人的には、通訳が勝手につまらないことと決めつけ訳さないと言う判断をしないようにするための自戒を促すポイントだとも考えています。

CIFEを全部盛り込むとプレセッションは結構長くなります。通訳はあくまでサポートのために入っているのですから、ダラダラと言葉を続けるようなことは避けましょう。あらかじめどういったことをいうのがいいか決めておくといいかもしれません。医師は守秘義務は当然だと考えているでしょうから、医師へのプレセッションについてはCを盛り込まないといった工夫も必要でしょう。

参考資料
* 日本大学・押味貴之助教講演@日本医療通訳協会2016年9月セミナー
* The Art of Medical Interpretation by CCCS