第1回医療通訳実践トレーニングに出てきました(1)— 頭痛

一般社団法人日本医療通訳協会主催の「医療通訳実践トレーニング」の第1回に出てきました。いろいろとまなぶべきことはありましたが、まずは今回の課題(headache)で取りあげられた病名・症状を2回にわたってあげておきます。ここでいうLay Termsとは専門用語を一般的なことばでおきかえたものです。layman’s termsとか、Terms in lay languageといわれることもあります。専門家である医師と一般人である患者をつなぐうえでは、こういったことなる言葉づかい(registerといわれます)をこなせることが重要です。

なお、病名をおぼえるうえでは、単に英語と日本語で記憶するだけでなく、それぞれの病気の内容を理解することが重要です。今回の授業では、病気をそれぞれ(1)etiology 病因(2)signs and symptoms 徴候と症状(3)diagnostic procedures 診断手法(4)treatment 治療の各項目で整理しておぼえることの重要性も指摘されました。

まずは、手はじめにざっとふれられたことばだけあげていきます。これが完成形とかいうつもりはまったくなくて、自分のなかでもこれであっているのかな、と疑問におもいながら、今後の課題にしているものもあります。

Primary headache syndrome 原発性頭痛症候群

英語 日本語 Lay Terms
migraine 片頭痛
tension headache 緊張型頭痛
cluster headache 群発頭痛

Secondary causes 続発性病因 – CNS infection 中枢神経系感染(症)

英語 日本語 Lay Terms
meningitis 髄膜炎 infection or irritation around the brain
encephalitis 脳炎
cerebral abscess/tumor 脳膿瘍/脳腫瘍

Secondary causes 続発性病因 – non-CNS infection 非中枢神経系感染(症)

英語 日本語 Lay Terms
sinusitis 副鼻腔炎
fever 発熱
herpes zoster: “Ramsay Hunt syndrome” 帯状疱疹: ラムゼイ・ハント症候群
ear infections 耳感染症
dental infections 歯性感染症

Secondary causes 続発性病因 – Vascular 血管系

英語 日本語 Lay Terms
subarachnoid hemorrhage (SAH) くも膜下出血
subdural hematoma 硬膜下血腫 hematoma: a bruise; bleeding into the body tissue around a blood vessel (if at the skin surface, it looks like a bruise)
epidural hematoma 硬膜外血腫
intracerebral hemorrhage 脳内出血
temporal arteritis (giant cell arteritis) 側頭動脈炎(巨細胞動脈炎)
carotid or vertebral artery dissection 頚動脈解離/椎骨動脈解離

Secondary causes 続発性病因 – Ophthalmologic 眼科系

英語 日本語 Lay Terms
glaucoma 緑内障
iritis 虹彩炎
optic neuritis 視神経炎

Secondary causes 続発性病因 – Miscellaneous その他

英語 日本語 Lay Terms
hypoglycemia 低血糖(症) lower blod sugar
trigeminal neuralgia 三叉神経痛
withdrawal from caffeine and chronic analgesics (rebound headache) カフェイン・鎮痛薬の禁断症状(薬物乱用頭痛)
preeclampsia 子癇前症/妊娠高血圧症候群(妊娠高血圧腎症)
pseudotumor cerebri 偽(性)脳腫瘍
mass lesion 腫瘤性病変
hypertension 高血圧(症) high blood pressure

頭痛の病名・症状は、次回につづきます。

参考資料

JCI認定病院が2015年だけで7施設増えて全部で18施設へ

JCI(Joint Commission International)の認定を受けるためのセミナーがいろいろとひらかれているというので調べてみたところ、なんと2016年3月末現在で国内認定施設の数が18にまで増えていました。このうち、2015年だけで7施設が認定を受けたというのですから、急増しているといえるでしょう。このトレンドがいつまで続くかわかりませんが、東京オリンピックの開催を背景とした最近の外国人受け入れブームや慢性的な病院の経営難などをかんがえると、増加ペースはともかく増加していく方向にまちがいはないでしょうね。

2016年3月末現在の認定施設を表にしました。関東に11施設が集中していますが、北海道から沖縄県まで全国に施設は散らばっています。東北と北陸にはまだ1施設もありませんね。JCIのウェブサイトでは一部にリンク切れがあるのですが、病院名のところにリンクをはっておきました。

病院名 英名 認定日 都道府県
亀田総合病院 Kameda Medical Center 2009年8月8日 千葉県
NTT東日本関東病院 NTT Medical Center Tokyo 2011年3月12日 東京都
介護老人保健施設老健リハビリよこはま Geriatric Health Services Facilities Yokohama 2012年3月29日 神奈川県
聖路加国際病院 St. Luke’s International Hospital 2012年7月14日 東京都
湘南鎌倉総合病院 Shonan Kamakura General Hospital 2012年10月27日 神奈川県
総合病院聖隷浜松病院 Seirei Hamamatsu General Hospital 2012年11月17日 静岡県
相澤病院 Aizawa Hospital 2013年2月16日 長野県
メディポリス国際陽子線治療センター Medipolis Proton Therapy and Research Center 2013年9月13日 鹿児島県
済生会熊本病院 Saiseikai Kumamoto Hospital 2013年11月23日 熊本県
葉山ハートセンター Hayama Heart Center 2014年3月6日 神奈川県
東京ミッドタウンクリニック Tokyo Midtown Clinic 2015年1月31日 東京都
足利赤十字病院 Japanese Red Cross Ashikaga Hospital 2015年2月7日 栃木県
埼玉医科大学国際医療センター Saitama Medical University International Medical Center 2015年2月7日 埼玉県
順天堂大学医学部附属順天堂医院 Juntendo University Hospital 2015年12月12日 東京都
国際医療福祉大学三田病院 IUHW Mita Hospital 2015年12月19日 東京都
南部徳洲会病院 Nanbu Tokushukai Hospital 2015年12月19日 沖縄県
札幌東徳洲会病院 Sapporo Higashi Tokushukai Hospital 2015年12月19日 北海道
倉敷中央病院 Kurashiki Central Hospital 2016年3月12日 岡山県

※Joint Commission International(略称: JCI)とは、1994年に世界水準の医療施設評価機構をめざし設立された国際非営利団体 。本部はシカゴ。

会話の流れを予想する 予想にとらわれない

おおくの人には当然のことといわれるかもしれませんが、会話というものは予想でなり立っています。友だちと話していて、急に話題を変えられたらどうなるでしょうか。「えっなになに? なんの話?」となるのではないでしょうか。あるいは、道で知らないひとに急に声をかけられて、いきなり話をはじめられたらどうでしょうか。それことだけでもびっくりするでしょうけど、なんの話をしているのか理解するまでに時間がかかるでしょう。

こういった時に感じるとまどいは、無意識のうちに、ひとは会話の先行きを予想していることからおこります。つまり、予想の範囲をはずれたところに会話が急にいってしまうと、ひとはその流れにのれずに、とまどってしまうのです。

このことについてふれたのは、医療通訳をするときも予想をすることが重要なのではないかということをいいたかったからです。もちろん、医者ではないのですから、すべてを予想することはむつかしいでしょうし、すべきではありません。ですから、タイトルにも「予想にとらわれない」とくわえました。ですが、ある程度、どのように診察や検査などがすすんでいくかということをまなんでおくということは医療通訳をするうえで、とても大切だとおもいます。

こういった流れをまなぶということにはついては、なによりも経験をつむということにまさるものはありません。もっとも、おおくのひとにとって、経験をつむということはかんたんなことではありません。そういった機会をもとめることはとてもむつかしいでしょう。

ドラマやドキュメンタリーをみる

ひとつのやり方は、診療の場を舞台にしたドラマやドキュメンタリーなどをみることでしょう。たとえば、NHKで放送している「総合診察医 ドクターG」は医師のかんがえる方とともに診察の流れがわかるよくできた教育バラエティーだとおもいます。再現ドラマの中では、患者が自身の症状を訴え(主訴)、問診・検査をおこないながら診察をすすめていきます。問診・検査の結果をもとに、番組参加者(新米医師と芸能人)が診断にとり組みます。とてもおすすめです。

ドラマですと、米国医療ドラマの「ER」はお世話になった帝京大学医学部元教授の先生が「へたに大学で授業をやるよりも、あのドラマをみせたほうが1年生くらいにはちょうどよい」といったくらい医療現場をまなぶにはよくできているそうです。また、「ロイヤルペインズ」という米国ドラマもバラエティー色はつよいですけれども、診察上の表現をまなぶにはわるくないとおもいます。

ところで、病気や健康をテーマにしたバラエティ番組のおおくは、わかりやすく説明するために、うそとまではいいませんけれども、かなり脚色がはいっているので、おすすめしません。

医師用のマニュアルを読む

もうひとつのアプローチとしておすすめするのは、医師用のマニュアルを読むことです。「外来医マニュアル」(医歯薬出版)などはとてもいい教材だとおもいます。それぞれの症状(患者の主訴)によって、外来医がどのような点に注意して診察をすすめていくかが書かれています。

ところで、「外来医」って英語でなんていうんでしょうね。weblioでみると、なにもでてきませんですね。outpatient physician、outpatient care physicianとかambulatory care physicianなんていう言葉があるようですね。

脇役として予想にはとらわれない

さて、予想については、積極的に予想をたてるということよりも、ふつうの会話とおなじように無意識のうちに予想をたてられるくらい、診察のすすめ方(流れ)を身につけ、自然と流れにのれることが大切でしょう。あらためますが、自分の予想にとらわれてはいけないでしょう。あくまで通訳は脇役なのですから。

プレセッションとCIFE(2)

CIFE

プレセッションを行う上で重要なポイントはCIFEと言った形でまとめられています。「シフ」と読みます。さて「シフ」は 、confidentiality(守秘義務)のC、一人称のI、flow(流れ)のF、Everything(すべて)のEで作られた造語(coinage)です。通訳はこの4つのポイントを使って患者(そして医師)に診察がどのように進んでいくか説明します。

守秘義務のC

まず、Cですが、患者に対し、守秘義務を守ることを約束します。患者が安心して症状など治療のための情報を診察の中で話せるようになってもらいことが重要だからです。本来であれば、患者と医師の一対一の関係であるはずの診察に、言葉の壁があるために参加せざるを得ないのが医療通訳です。医師に対してだけだったら話せたはずなのに、第三者である医療通訳がいたから口にできずにきちんとした診断を得られずに治療に影響が出たなどということがあっては絶対にいけません。診察室の中で話された内容は絶対外に漏れることはないということを伝えるのです。

一人称のI

通訳は一人称で行うと伝えます。患者に対しては、医師が”What can I do for you today?”と言えば、通訳はそのまま”What can I do for you?”と言った一人称の形で通訳することを伝えます。実は、医療機関で働く外国語能力がある方が医療通訳としてのトレーニングを受けないまま実践の場に立つと、三人称で通訳をするケースがあります。例えば、患者さんが”I have a headache.”というと「患者さんが頭が痛いと言っています」と通訳してしまうのです。研究によると、いくつかのメリットがあるため、一般的には一人称を使うことが多くなっています。ただし、国内ではかなり大きな病院でも三人称の使用を求める機関があるようです。その場合は、その機関の方針に従いましょう。

流れのF

流れ(flow)とは、診察の中で患者と医師の間で交わされる会話の流れのことです。会話がきちんと流れていくために、いくつかの注文を通訳はあらかじめプレセッションの中で出しておきます。具体的には「話すときは通訳ではなく、医師(あるいは患者)をみて話してください」とか「話すときはゆっくり話してください」「はっきりと話してください」「あまり長く話し続けたりしないでください」といったことを伝えます。その際に「正確な診断のためには、正確に通訳をする必要がありますので」などと言って、こういった注文は患者のためなんだということを伝えれば、患者も医師も納得しやすいでしょう。海外などでは、ストップサインについてプレセッションで合意しておき、話が長くなったときにそのサインを出して話を止めてもらうということをしています。しかし、日本ではむつかしいかもしれません。ストップサインを使うかは、それぞれの通訳の判断によるでしょう。使う場合は、必ずプレセッションの中で使用について合意を求めておきます。

全部のE

診察室の中で口にされた内容は全部訳しますよとあらかじめ伝えておきます。当然ですよね。患者と医師が同国人でしたら、そこで口にした内容はすべてお互いに伝わるのですから。しかし、医師などは外国人だと安心して余計なことを言ってしまうこともあります。通訳は発言が余計なことなのか、そうでないのか判断することができませんし、判断してはいけません。ですから、あらかじめすべて伝えますよと釘を刺すのです。患者についても同様です。医師は患者の何気ない一言なども含めあらゆる情報を基にして診断を下します。患者がたいしたことはないと思っている愚痴のようなものの中に、診断に至るキーが隠されている可能性があるのです。ですから、すべて訳すことについて伝えておくのです。個人的には、通訳が勝手につまらないことと決めつけ訳さないと言う判断をしないようにするための自戒を促すポイントだとも考えています。

CIFEを全部盛り込むとプレセッションは結構長くなります。通訳はあくまでサポートのために入っているのですから、ダラダラと言葉を続けるようなことは避けましょう。あらかじめどういったことをいうのがいいか決めておくといいかもしれません。医師は守秘義務は当然だと考えているでしょうから、医師へのプレセッションについてはCを盛り込まないといった工夫も必要でしょう。

参考資料
* 日本大学・押味貴之助教講演@日本医療通訳協会2016年9月セミナー
* The Art of Medical Interpretation by CCCS

プレセッションとCIFE(1)

プレセッション

医療通訳として、患者さんのサポートに入る場合、どうやって入っていたらいいんでしょうか。たとえば、自己紹介とかするんでしょうか。なんか、段取りの説明とかした方がいいんでしょうか。それとも、看護師さんのように、ただそこにいればいんでしょうか。多くのひとが気にすることだと思います。僕も最初は悩みました。

いろいろ調べてみると、医療通訳が最初に患者さんやお医者さんに対して行う自己紹介と通訳についての説明のことをプレセッション(pre-session)と呼ぶということがわかりました。さらに、日大医学部の押味貴之先生のセミナーに参加したり、アメリカCCCSの医療通訳の教科書を読んだり、YouTubeを検索して動画を見たりしているうちに、患者と医師の間でしっかりとしたコミュニケーションがなり立つためには、プレセッションがとても重要だということもわかってきたのです。

今回は、このプレセッションがどうして重要なのか、実際にどうやればいいのかといったことにについて、できるだけお話したいと思います。

まず、現場に立つのにあたっては、通訳の方それぞれに異なった事情があると思います。病院のスタッフとして働いていて来院した患者をサポートするために英語を使う場合や、フリーランスとして病院から依頼を受けて現場に入る場合などが想定できるでしょう。ここでは、どのような立場だったとしても、初めての患者に対して通訳に入る状況を想定してみましょう。

待合室で

多くの場合、通訳が患者と初めて会う場所は待合室になるでしょう。ここで、通訳は患者に対して自己紹介をし、プレセッションの機会を得ます。プレセッションとは、実際の診察(session)の前に、どのような手順で通訳を介した診察が進んでいくかを説明し、いくつかの注意点について了解してもらうプロセスのことです。患者だけではなく医師にもプレセッションの必要があるのですが、まずは患者に対してプレセッションの機会を持つことが現実的には多いでしょう。

プレセッションの内容については、次回に紹介するCIFEを参考に決めていきましょう。重要なのは、プレセッションを通じて、患者と医師がきちんと意思疎通ができる環境を整えるということです。

プレセッションについてのイメージをつかむには、アメリカの医療通訳サービス会社Language World Servicesが公開してる動画を参考になります。

問診表と同意書

さて、プレセッションを終えると、患者と待合室で待つことになると思います。もしかしたら、その間に問診票を記入する必要があるかもしれません。英語の問診票がなかった場合など、サイト・トランスレーションを求められるかもしれません。その場合、問診票程度でしたら、サイト・トランスレーションに応じるのはいいでしょう。しかし、病院によっては、検査などの同意書をこの段階で求める可能性があります。その場合は、医療従事者にきちんと「自分が同意書をこの場で翻訳して患者に伝えることは職業上できない」と伝えましょう。医療従事者に読み上げてもらい、それを通訳する形を取るようにしましょう。

診察室で

つづいて、患者が診察室に呼ばれると、通訳は患者とともに通訳は診察室に入ります。多くの場合、この時が通訳が医師と初めて顔を合わせる機会になります。そこで、医師に対してもプレセッションを行いましょう。通訳と医師が自分の知らない言葉で話していることについて、患者は不安になる可能性があります。医師に対してもプレセッションを行うということは患者に伝えておいた方がいいでしょう。

通訳が入る診察に慣れている医師の場合、プレセッションは必要ないと言われるかと思います。そういった場合、無理にプレセッションを行う必要はないでしょうが、医師が慣れているつもりだから大丈夫ということはないので、安心はできません。どこか頭の隅にそのことを置いておきましょう。