検査の指示表現を小児整形外科でまなぼう

診察のながれをつかむのに、YouTubeの動画はとても有効な手段です。医療系の動画は豊富にそろっていて、とくに英語については、症状や身体器官をキーワードにすると、その症状を説明する動画や、身体器官の動きを説明した動画がおおく検索できます。そのなかで、平易なことばをおぼえるのにおすすめしたいのが、以前にもつたえたとおり小児科関連の動画です。

フィラデルフィア小児病院の動画をみよう

自分でも、いろいろとYouTubeでしらべていて、これはつかえる、とかんじたのは、フィラデルフィア小児病院(the Children’s Hospital of Philadelphia)が提供している動画です。平易でありながらも、幼児ことばでないことばづかいで診察がおこなわれていくようすがうつされていて、とくに検査をするうえで、どのような指示が患者にたいしておこなわれているのかという点でとても勉強になります。

きょうは、このなかで、背中の検査をしている動画を紹介します。

“Good” “Great” ちょっとしたことばにもいみがある

動画をみていると、それぞれの指示にしたがって患者が動作をおこなったあとに、医師は次のような、ことばを患者になげかけていますね。

Great.
Good.
Perfect.
Fantastic

こういったことばを医師が発する背景には、患者との円滑なコミュニケーションを築こうとしている医師の努力があります。ちょっとしたことばなのですが、実はとてもたいせつなのです。日本の医師も、こういった患者とのコミュニケーションを円滑にする努力はしています。日本語であれ、英語であれ、”Great”と”Good”をどう訳しわけるかというよりは、そういった医師の努力をきちんと訳しのがすことなく、つたえることがたいせつだと心得ましょう。

日本語の「ください」はかならずしも”Please”ではない

動画のなかで、つかわれる指示を表にしました。日本語では、どうしても、「〜してください」という形になることがおおいですね。気をつけてほしいのは、基本的に”Please”をつけないということです。ほとんどの場合は”Can you 〜”というかたちになっています。”Can you 〜”を連発したあとは、命令形になったりしています。命令形だけをつかうことはのぞましくありませんが、”Can you〜”を連発したあとであれば、相手の頭のなかにも、”Can you〜”がのこっていますから、指示が命令形になっても、失礼にあたることはありません。

日本語と英語がすっきりかさなることは、なかなかありませんよね。それでも、こういった”Can you〜”と命令文がまじったりする感覚は、日本語においても理解できることなのではないでしょうか。たとえば、日本語の指示表現で「眼を大きくあけてください。次は眼をとじて」とか「合図をだしたら、息をすってくださいね。それでは息をすって〜、はいて〜」とかいったかんじで、日本語でもすべてていねいに「〜ください」といったりしないことがあるからです。

下の表では、紹介した動画のなかでつかわれている指示表現のほとんどをしるしました。いろいろ応用して、ほかの表現もかんがえてみましょう。たとえば、”towards the door”は”towards the wall”としてもいいでしょう。日本語も、表の表現にこだわらずに、いろいろないいかたをかんがえてみましょう。

指示  
The first thing I would like you to do is just walk to the door. まずは、ドアに向かってあるいてください。
Can you walk on your tiptoes towards me? つま先だちで、こちらにむかってあるいてください。
Can you walk on your heels towards the door? かかとでドアに向かってあるいてください。
Can you jump up and down on both feet together for me a couple times? 両方の足で上下に何回かはねてください。
Can you hop on one foot a couple of times? 片足でケンケンを何回かしてください。
And then the other foot a couple of times? 別の足でケンケンしてください。
Can you squat down like a catcher in a baseball game and touch the ground? 野球のキャッチャーみたいにしゃがんでから、地面をさわってください。
Come on up. こちらにきてください。
Can you bring your chin down to your chest? あごを胸にくっつけるようにさげてください。
Look straight at me. まっすぐこちらをみてください。
Turn your head to one side. And the other side. 後をみるように頭だけをまわしてください。反対側にもまわしてください。
(Bring) Your ear down to your shoulder. And the other shoulder 頭を片方にかたむけてください。反対側にもかたむけてください。
Can you put your feet together for me? 両足をくっつけてください。
Can you bend forward and try and touch your toes? 前にからだをまげて、つま先をさわってください。
Come on back up. もとにもどってください。
I want you to lean back for me. 後にそってください
We’re going to bend you to one side, and the other side. 横にからだを曲げますね。反対側も。
I want you to twist to one side and twist to the other side. からだを後にむかってひねってください。反対側も。
Can you bring your arms up over your head for me? 両手を頭の上にあげてください。
(Bring) Arms out to the side. 両手を横にあげてください。
Can you touch your shoulders? 自分のかたを(手で)さわってください。
Can you reach up your back? 手を背中にまわしてください。(背中に手がとどきますか。背中に手がまわりますか。)
Can you give me the thumbs-up sign? 親指を挙げてください。
Can you make the OK sign? 親指と人差し指で丸をつくってください。
Can you open and close your fingers? 手をにぎったり、ひらいたりしてください。
Can you hold your arms out real strong? 腕に力をいれてうごかないようにしてください。
Push my hands out. わたしの手を外側におしだそうとしてください。
Push my hand in. わたしの手を内側におそうとしてください。
Push my hands up. わたしの手を上におしあげようとしてください。
Push my hands down. 手を下におしさげようとしてください。
Hold your hands up real high 手を上にあげて、力をいれてうごかないようにしてください。
Spread your fingers wide apart. 手を大きくひらいてください。

主語と動詞から見方をすこしひろげていく

英文をみるときに、主語と動詞とくに動詞がどれか、そしてどういう意味か、ということを理解することが大事だという話をしました。きょうは、そこからすこし見方をひろげていこうというはなしをします。

主部について

まず「主語」についての確認です。

主語は「その文がつたえようとしている意味の『主人公』がだれ、または、なんなのかをあらわします」

次の例文をみてみましょう。

“The small dog wagged its short tail.”

この文の主語は”dog”ですね。そして、動詞はwaggedです。この文では、dogという主語となっている名詞が”The”という定冠詞と”small”という形容詞とで説明されていて、「(その)ちいさい犬」となっています。

このように、「主語」は、直接(動詞をへないで)に主語を説明することばやフレーズ(句)といっしょになってひとつのことばのグループをつくります。これを「主部」といいます。うえの例文だと、「主部」は”The small dog”です。

注意してほしいのは、この主部のなかでも、一番重要なのは主語となっている名詞だということです。文章が複雑になってわかりづらくなったときには、かならず主語を探すようにしましょう。

述部について

復習すると、動詞は「文の主人公(主語)が「なにをしているのか」あるいは「なんなのか」をあらわします」

そして、動詞は、主部の行動やあり方を説明するために、他のことばやフレーズとともに述部をつくります。先ほどの例文をもう一度みてみましょう。

“The small dog wagged its short tail.”

まずは、動詞をみましょう。”wagged”が動詞ですね。「振った」という意味ですね。なにを「振った」のかというと、”tail”つまり「尾」(名詞)を振りました。その「尾」を説明する”its”と”short”をあわせて、”wagged its short tail”、「(自分の)短い尾を振った」となります。

さて、主部と述部について説明しましたが、主部と述部を1つずつもった文を単文といいます。これが一番基本の文の形です。複雑で、よみとくのがむつかしい文にであったときは、接続詞とかをとりはらって、文をバラバラにして、いくつかの単文にわけたりすると、わかりやすくなります。なれるために、下に例文をいくつかあげておきます。

例文
Two small boys rang our doorbell.
S (主部): Two small boys
P (述部): rang our doorbell

A handsome blue car stopped in front of our house.
S: A handsome blue car
P: stopped in front of our house

Players from both teams scrambled over the field.
S: Players from both teams
P: scrambled over the field

A huge, spreading maple stands in front of the church.
S: A huge, spreading maple
P: stands in front of the church

A large white cat with yellow patches emerged from the bushes.
S: A large white cat with yellow patches
P: emerged from the bushes

An expensive silver pin disappeared from the counter.
S: An expensive silver pin
P: disappeared from the counter

The pond across the road seldom freezes before December.
S: The pond across the road
P: seldom freezes before December

My only key to the house fell through a crack in the steps.
S: My only key to the house
P: fell through a crack in the steps

英語と日本語の小児科のことばづかいのちがい

医療英語をまなんでいれば、診察室のなかで、実際にどのようなことばをつかって質問や指示をしているか気になりますよね。できれば、現場をみてみたいでしょう。とはいえ、患者のこともありますから、現場を実際にみるということはむつかしいですよね。そこで、おすすめしたいのは、英語の小児科関連の公開動画鑑賞です。

小児科だと、こどもむけのことばではなしているんじゃないか、とおもうひともいるとおもいます。そこで、動画を紹介する前に、日本語と英語の小児科でのことばのちがいをみてみましょう。

日本の小児科

診察室でのやりとりなどをかんがえて、医療通訳の勉強をしていてむつかしいとかんじるのは、小児科です。日本語はこどもにはなしかけることばが、おとなにはなしかけることはと明瞭にちがうからです。下の動画は、こどもからの採血についての説明ビデオです。看護師がこどもに向かって話すことばを聞くと、とてもそのままおとなにおなじことばがつかえるとはおもえないですよね。

ここらへんは、文化的なちがいで、日本語の場合、いくら小児科のことばをまなんでも、小児科のなかではつかえても、とてもおとな向けの診察にはおなじことばをつかうことはできません。ところが、英語の場合はそうでも、ないんです。たしかに、こどもがつかういわゆる幼児ことばというものはあるんですけど、日本語とはちがって、ことばの組みたて方そのものがまったくかわってしまうということがないんです。

ERにみる、英語での子どもとの会話

先日、ERをみていたら(ファイナルシーズン第9話)、おねえさんが交通事故で死んでしまう男の子(小学校低学年くらい?)のシーンがでてきました。男の子が幼すぎておねえさんの死を理解できないでいるので、医師がおねえさんが死んでしまったことを説明するのです。小児科のはなしではないのですが、こどもと医師とのあいだの会話という点では参考になるので、すこしながいですが、その会話を書き出してみました。医師は2人、こどもがひとりの会話です。

Dr. A: This is Dr Brenner.
Dr. B: Nice to meet you, Tyler.
Tyler: Is Ashley awake yet?
B: Tyler Your sister was in a car crash.
T: She flew out the window.
B: Right.
B: And she hit the ground very hard.
B: And it made her stop breathing, and, and then, her heart stopped beating.
B: We did everything we could for her, and we we gave her medicine and oxygen and blood.
B: But sometimes, sometimes people are injured so bad that we can’t save them.
B: And that’s what happened to your sister.
B: We did everything we could for her, but we couldn’t help her. And she died.
T: Maybe you can try some more. Maybe she needs another operation.
B: That wouldn’t work.
T: Are you sure?
B: I’m sorry.
A: Your mom and dad are going to come back to town tomorrow.
A: In the meantime, we’re gonna keep an eye on you.
T: Can you stay with me now?
A: I’m not going anywhere.

すぐに気づくとおもいますが、このことばをみるかぎりは、おとなだろうと、こどもだろうと、つかわれていることばに、ほぼちがいがないということです。

小児科の公開動画をみることをおすすめしたのは、英語のこの特徴を利用するためです。もちろん、こどもに話しかけることばは、むつかしいことばはありません。そして、これはむしろ医療英語を勉強しているものからすれば、とても歓迎すべきことです。

先ほどもいいましたとおり、英語で幼児ことばというものがないわけではありません。参考として、体の部位を指す名詞などをいくつかあげておきます。便・尿などは、名詞と同型で動詞としてつかわれるものもあります。

こどもことば 英語 日本語
bum buttlocks 尻、臀部
doo-doo, number two, poo, poop, wee, wee-wee fetus, stool 便
boobs breasts 胸(chest 胸という全体をさすことばとはことなり、胸のふくらみの部分をさす)
number one, tinkle urine 尿
tootsies toes, feet つま先、足
tummy, tum stomach, abdomen
wiener (AmE), winkle (BrE), dick penis 陰茎
balls testicles 睾丸

参考資料
Words used by or to young children

受動態で動詞のパワーを再確認

受動態の動詞の主語をかんがえてみよう

英文のなかで一番重要なのは動詞だという話をしました。その点について、受動態をみることで、もうすこし、かんがえてみましょう。

It has been found that these cells consistently bind more malaria-immune globulin than normal red cells.

「これらの細胞は一貫して赤血球よりもマラリア免疫グロブリンを結びつけることがわかった」

From Disorders of Hemoglobin: Genetics, Pathophysiology, and Clinical Management by Martin H. Steinberg、Bernard G. Forget、Douglas R. Higgs

文法上の主語は”it”なんですが、これは”found”「わかった/みつけた」という動詞の「主人」ではないんですよね。よく、これはthat節をうけた仮の主語とかいったりしますけど、仮にthat節が主語だとしても、それは”found”という行為の主人ではないんです。だからこそ、受動態という、受身形なんですけどね。

動詞である”found”を中心にかんがえると、そのご主人さまが不在というのが受動態なんです。じゃ、主語を中心にかんがえてみようとすると、すると、これも変な話で、この主語はなにをしているのかっていうと、なにも「して」なくて、「されて」いるんですよ。ご主人としては、ちょっとなさけない状態なんです。

ですから、動詞を中心にかんがえて、その動詞の主人である「主語」がかくされている状態だとかんがえる方が、ほかの文のかたち(ふつうの文や命令文とか)をかんがえても、自然なんですよ。やっぱり、動詞が一番パワーがあるってはなしなんです。

受動態はあいまいな表現

ちょっと、ここから受動態のはなしにひろげていきます。受動態というのは、主人である主語をかくすので、ちょっとキレがわるくなるんです。「だれが」「なにをしている」ってところの「だれが」がきえちゃうわけですから。やや直接性ってのがなくなっちゃうんです。

でも、これって便利なはなしで、「だれが」って部分をかくしたいときにつかわれたりするんですよ。発言にたいして、責任をとりたくないときとか。”by 〜”とつけて、〜の部分が主人だっていってもダメなんです。主語の部分にいない主語ってのは力がないんですよ。だから、よく英語圏では責任を明確にひきうけないまま謝罪めいたことをするときに受動態をつかうんです。

それと、これはじぶんの勝手なみかたなんですけど、受動態ってのは、読者に無意識のうちに「行為をしている」という意味での主語をさがすことを要求しちゃっているんじゃないでしょうか。なんといっても、主語と動詞が英語の文では重要なんですから。つまり、受動態の文をよむというのは、読者に負担がかかるんじゃないでしょうか。

はっきりしてるのは、受動態ってのは、かならず、be動詞をつけるわけですから、ながくなるんです。これも、印象がわるいんですね。直接性がうしなわれるわりに、ながいってのは二重苦なんです。興味があったら、passive voiceってgoogleで検索してみるといいでしょう。受動態の文を批判している文章がネット上にはあふれていますよ。

ちなみに、僕は大学時代に「ぜったいに受動態をつかうことはみとめません」っていう強硬な教授からFreshman Compositionという必修科目をとる羽目になって、ひどいいじめられ方をしました。トラウマです。

英文のなかの一番の大物は動詞

動詞は時間をコントロール

主語と動詞が重要だといいました。そのなかでも、重要なのは動詞です。動詞のすごさのひとつは、時間をコントロールできるってことなんです。以下の例文をみてみましょう。

A. I have a headache.
B. I had a headache.

どちらが過去形(past tense)、つまりいまよりも前の時点を語っている文ですかときいたら怒るひともいるでしょうね。わかりきっているだろうって。でも、アメリカでは、大学の英語基礎コースの教科書に、こんな問題でてくるんですよ。

さて、答えは、B「頭痛がありました」のほうが過去形です。ここで、みてほしいのは、AとBでなにがちがうのかってことなんです。かわっているのは、Aの”have”とBの”had”、つまり動詞だけなんです。動詞ってのは、それだけで文全体の時間をコントロールできるんです。

命令文をかんがえてみよう

動詞の重要性について、べつの点からみてみましょう。次の文章で主語と動詞をさがしてみましょう。

C. Please roll up your right sleeve.

「右袖をまくり上げてください」という意味の文ですが、”Please”は主語でしょうか。動詞はどれですか。

この文は依頼の命令文です。動詞は”roll”で、主語はありません。主語はなくても、動詞はあるのが命令文です。動詞ってのは、とっても大切なんですね。

“please”のむつかしさ

話はかわりますが、”please”ってのは、つかい方がけっこうむつかしいことばです。アメリカでは、ある大学の調査で「電話で50セントのクッキーを買ってもらう慈善活動」をよそおって”please”への反応をしらべたところ、”please”をつかわない方が成功率がたかかったそうです。イギリスでは、アメリカよりも”please”をつかう頻度がたかいですが、それでも、”please”のつかいかたにはビジネスの場では慎重になるようで、とくに、命令文に”please”を足しただけのかたちでいわないようにといわれています。例文Cについていえば、以下のどちらかでいうのぞましいです。

C-1: Would you roll up the right sleeve?
C-2: Would you roll up the right sleeve, please?

解答欄

英語は主語と動詞にウェートがある 」でだした問題の解答です。

A: The old dog wagged its shaggy tail.
s(主語): dog
v(動詞): wagged
B: Two small boys rang our doorbell.
s: boys
v: rang
C: A handsome blue car stopped in front of our house.
s: car
v: stopped
D: Players from both teams scrambled over the field.
s: players
v: scrambled
E: A huge, spreading maple stands in front of the church.
s: maple
v: stands
F: A large white cat with yellow patches emerged from the bushes.
s: cat
v: emerged
G: An expensive silver pin disappeared from the counter.
s: pin
v: disappeared
H: The pond across the road seldom freezes before December.
s: pond
v: freezes
I: My only key to the house fell through a crack in the steps.
s: key
v: fell