からだの機能を流れでみる

からだの中の臓器・器官(organ)は機能(function)によってグループわけをされています。そして、それぞれのグループを器官系(organ system)と呼びます。このうち、からだを維持するのに必要な酸素をとり入れ、必要なくなった二酸化酸素をからだの外に出す器官系を呼吸系the respiratory systemといいます。
 
医学の世界では、こういった器官系の機能を一つの流れでとらえる言葉や概念がしばしばつかわれます。呼吸器系については気道(the airways and the lungs)、消化器系(the digestive system)については消化管(the gastrointestinal [GI] tract/the alimentary canal)、そして、泌尿器系(the urinary system/the renal system)については尿路(urinary tract)がそうです。

こういった流れで機能をとらえる考え方は日本人の考え方にはあうようで、本を読むとよくでていいます。ただ、英語では、それほどでもないのか、消化管をのぞくと、それほどみることはありません。特に”airway”については、呼吸困難時に「気道を確保する」という意味でつかわれることはあっても、日本語のように空気の流れをとらえる形ではつかわれていないようです。

また、こういった流れで機能をとらえるときに、気をつけなければいけないのは、かならずしも器官系とイコールではないという点です。たとえば、消化管をみてみましょう。口(the mouth)から食道(the gullet/esophagus)をとおって胃(the stomach)へ、そして小腸(the small intestine)、大腸(the large intestine)を通過し肛門(the anus)へとつながる一つの管(流れ)として消化という機能をとらえています。しかしながら、消化という機能にとって重要な役割をはたし、消化器系に含まれる肝臓(the liver)や胆嚢(the gallbladder)といった器官は消化管に含まれていません。

尿路についてもみてみましょう。尿を作るといわれる腎臓という器官そのものから尿道がスタートするというよりも、腎臓の一部で実際に尿がでてくる腎杯(the renal calyx/the renal calyces、複数形でつかわれることがおおいです)からはじめるとかんがえられるため(腎臓そのものをふくめるとする考えもあります)、これも泌尿器系そのものとイコールとは言えません。

気道は呼吸器系とイコールです。もっとも、実際に呼吸という機能で使われる口(口腔)は、気道にも呼吸器系にもふくまれず、消化器系にふくんで説明されることがおおいようです(口を両方に含める考えもある)。この点は「鼻からすって、口からはいて」という呼吸法をかんがえると、ある程度は納得がいきます。そうかんがると、気道というのは空気を取りいれる方向でみているということなのでしょうか。

また、こういった流れをとらえた言葉は、しばしば上部(upper)と下部(lower)にわけて理解されます。つまり、上部気道・下部気道、上部消化管・下部消化管、上部尿路・下部尿路といったかたちで分類されることがよくあります。上部消化管内視鏡(upper GI tract endoscopy)などはみなさんもよく聞くことでしょう。

語の構成要素 L

Lからはじまる構成要素は「脂肪」を意味するlip(o)-や「白」を意味して白血球 (leukocyte)につかわれるleuc(o)-/leuk(o)-などがなじみがありますね。そのほか、いかにもギリシャ的な-lexiaやlog(o)-もあります。

構成要素 語源・意味 例語
labi(o)- ラ「唇」 labiodental: 唇歯音(の).
lacrim(o)- ラ「涙」 lacrimal canaliculi: pl. 涙小管.
lact(i/o)- ラ「乳」「乳酸」「乳糖」 lactation: 乳汁分泌、授乳(期間)、哺乳(期).
-lagnia ギ「色欲(lust)」 kleptolagnia: 窃盗淫欲(症), 窃盗性愛.
lapar(o)- ギ「腹壁」 laparotomy: 腹壁切開、開腹(術).
laryng(o)- ギ「喉頭(larynx=voice box)」 laryngeal: 喉頭(部)の.
later(i/o)- ラ「外側」「横側」「側方へ(の)」「横方向へ(の)」「外側と…の」 lateral pectoral nerve: 外側胸筋神経;外側前胸神経.
lei(o)-, li(o)- ギ「なめらかな」「平滑な」 leiomyoma: 平滑筋腫.
-lepsis, -lepsy, -lepsia, -leptic ギ「発作」 epilepsy: てんかん(癲癇). narcolepsy: ナルコレプシー、睡眠発作.
lept(o)- ギ「小さい」「細かい」「薄い」 leptomeningeal: 軟髄膜の,軟膜の.
leuc(o)-, leuk(o)- ギ「白い」「白血球」 leukocyte: 白血球.
lexico-, lexi-, lex-, -lexia, -lexias, -lexic, -lectic, -lexis ギ「…な読み方」「…な欠陥のある読み方」 dyslexia: 失読症, 読書障害; (広義で)言語障害.
lingu(i/o)- ラ「言語」「舌」 linguistics: 言語学.
lip(o)- ギ「脂肪」 liposuction: 脂肪吸引(法).
lith(o)- ギ「石」「結石」「リチウム」 lithotripsy: 砕石術.
lithotomy ギ+ギ「切石術」「結石摘出(術)」; litho-+tomy cholelithotomy: 胆石摘除(術).
lob(o)- ギ→ラ→仏「葉」; 「”lobe”」 lobectomy: 肺葉切除(術), 肺切, 葉切.
log(o)- ギ「言葉」「話」「思考」 logopathy: 言語障害(speech disorder).
-logist ギ「…学者」「…研究者」「…医」(特定の分野の) oncologist: 腫瘍医, pathologist: 病理学者,病理医.
-logy ギ「言葉」「話」「論」「学問」 hematology: 血液学, 血液内科. urology泌尿器学,泌尿器科.
lumb(o)- ラ「腰椎」 lumbago: 腰痛(症).
lymph(o)- ギ「リンパ」 lymphedema: リンパ水(浮)腫.
lys(o/i)-, -lytic, -lysis ギ「溶解」「分解」「破壊」 lysosome: リソソーム、水解小体. paralysis: 麻痺.

参考資料

からだのしくみを理解するキーワード: ホメオスタシス(2)

前回は、ホメオスタシスについてわかりやすくとらえるために水分補給を例にあげてお話ししました。例として水分補給をあげたのは、ホメオスタシスの重要な作用のひとつが、からだのなかの体液(body fluid)の量(volume)と組成(composition)を一定に保つことだからです。体液は、細胞内液(intracellular fluid)と、細胞外液(extracellular fluid)または間質液(interstitial fluid)にわかれます。前者はICF、後者はECFと略されて使われますので、おぼえておきましょう。ICFとECFには、酸素や栄養素、たんぱく質や電解質(イオン)などがとけていて、体内で重要な役割をはたしており、バランスをくずすと命が危険にさらされます。血管内をながれるECFが血漿(blood plasma)なのですから、ECFの組成バランスがくずれると、重篤な血管疾患を招くということがわかるでしょう。

ところで、ホメオスタシスが維持されるときには、ネガティブ・フィードバック(negative feedback)というシステムがつかわれます。なぜ、ネガティブといわれるのかというと、血圧(blood pressure)でみてみましょう。なんらかの原因・刺激によって血圧があがってしまった(elevated)状況をかんがえてみてください。ホメオスタシスからみると、これは一定の状態から血圧が上の方向へくずれてしまったということです。ホメオスタシスのためには、上にいってしまった血圧を下にむかわせるという「逆」の方向でくずれた状態をもとの一定の状態にもどさなくてはいけないのです。

このように、からだは常に一定の状態をくずそうという刺激にさらされています。ホメオスタシスを維持するためには、ネガティブ・フィードバックによってくずされた状態を検知する受容器(receptor)から、それを調節するための調節中枢(control center)へと情報がとどき、その状態を逆転させるようという指令が効果器(effector)へとどけられ、逆の方向の調節がおこなわれるのです。

さて、ネガティブ・フィードバックのところで出てきた「指令」ですが、神経(神経系)とホルモン(内分泌系 the endocrine system)によってとどけられます。このため、神経系と内分泌系は、ホメオスタシスの観点からはとてもたいせつな器官系(the organ system)となっています。このため、器官系ごとにまとめられた解剖学(anatomy)や生理学(physiology)の教科書は骨格系(the skeletal system)や筋系(the muscular system)をのぞけば、まず最初に神経系と内分泌系をとりあげるものがおおいようです。

Bozeman ScienceのPaul Andersen先生が神経系内分泌系についてYouTubeにわかりやすい動画をのせているのでおすすめします。

参考資料

  • 「トートラ人体の構造と機能」(丸善)
  • 「しくみが見える体の図鑑」(エクスナレッジ)
  • Bozeman Science

からだのしくみを理解するキーワード: ホメオスタシス(1)

ホメオスタシス(homeostasis)は、恒常性とか、恒常性維持、均衡維持などと日本語に訳されます。和英辞典で恒常性とひくとconstancyといった言葉とともにhomeostasisが出てきます。フランスの生理学者クロード・ベナール(1813-1878)という人が19世紀にとなえた考え方です。結構古いですね。

では、このホメオスタシスとはなんだというと「多細胞生物(multicellular organism)が体内外の変化にもかかわらず、体内の環境(内部環境 milieu intérieurまたはinterior milieu)を一定に維持すること」となります。多細胞生物とは目が回りそうな話ですが、人間も多細胞生物なので、ここでは多細胞生物を人間と置き換えて、かんがえていきましょう。

人間って、赤ん坊としてうまれ、成長して大人になり、年をとって老人となり、死んでいきますよね。人生のながれの中で人間の体は常に変化していきます。でも、人生という時間軸の中である一部、たとえばいまのこの瞬間をきりとってみると、人間の体内ではその環境を一定に維持しようと働いているということなのです。体外環境は、温度が変わったり、天気が変わったり、場所が変わったり、常に変化しています。それに対して、人間の体はなんとかバランスをとって、体内環境を一定に維持しようとするのです。

一定というと静的(static)な状態のように聞こえるでしょうけど、体外環境の変化をかんがえれば、そんなに静的な状態であるわけはありません。実際には体内のすべての機能がおたがいにはたらきあって実現することができるとても動的(dynamic)な状態なんです。たとえば、からだから水分は常に蒸発(evaporate)していますよね。人はからだの中の水分が足りなくなると、のどのかわきをかんじて、水をのみ、のどのかわきをいやして、体内に水分を補給する。これって、ホメオスタシスにもとづく、からだのはたらきなんですよね。パッとかんがえただけでも、のどのかわきをかんじる神経系(the nervous system)とからだを動かして水をのむ筋系(the muscular system)と水分を吸収する消化器系(the digestive system)がこの行為のなかではたらいていることがわかるでしょう。

次回は、ホメオスタシスがどのように維持されているかなどにふれていきましょう。

参考資料

  • 「トートラ人体の構造と機能」(丸善)
  • 「しくみが見える体の図鑑」(エクスナレッジ)

語の構成要素 K

Kからはじまる構成要素はとてもすくないです。かんがえてみれば、Kからはじまる単語もそれほどおおくないですよね。「動き」「運動」といった意味の接尾辞-kinesisが商品名などで聞くのでなじみがあるくらいですね。これだけすくないと、今日はちょっと一休みといったところですね。

構成要素 語源・意味 例語
kal(i)- ラ「カリウム(potassium)」 kalemia: カリウム血(症).
kary(o)-, cary(o)- ギ「核」「仁」 eukaryote: 真核、真核細胞、真核生物
ket(o)- ギ「ケトン(ketone)」「ケトン基」 ketoacidosis: ケトアシドーシス
kerat(o)- ギ「角膜」 keratoscope: ケラトスコープ、角膜鏡
kin(e/o)-, kinesi(o)-, -kinesis ギ「動き」「運動」「動作」 kinesthesia: 運動感覚
koil(o)- ギ「空」「くぼみ」 koilocyte: 空胞細胞
klept(o)- ギ「盗み」 kleptolagnia: 窃盗淫欲(症), 窃盗性愛.
kyph(o)- ギ「こぶのある」 kyphoscoliosis: 脊柱後側弯症.

参考資料