医療通訳は医療チーム・病院の一員になるべきか

医療通訳がしごととしてみとめられていない、医療通訳はボランティアとしてしかみられていない、という不満の声をよくききます。とくに職業として、通訳をやってきたひとのあいだには、通訳としてきちんと仕事をこなすには、準備などに相当の時間や労力がかかることから、それにみあう賃金は支払うべきだという意見がおおいようです。

僕自身、じぶんの英語という言語能力をもとにこの業界にはいったので、こういった不満は理解できますし、共感もできます。ただ、病院につとめていた経験から、病院側の事情を理解することができるので、不満をうったえても、医療通訳と病院との間の気もちや、かんがえがすれちがうだけではないかと、どうしてもおもってしまうのです。

アメリカでは、医療事故・訴訟対策ということもあり、医療通訳を医療チームのなかに迎えいれたといいます。たとえ、医療通訳が外注だったとして、患者にたいしては、医療チームの一員として位置づけた、そして、そうしたことで、医療通訳の地位が確立されたのだというのです。

では、日本でも、医療通訳は医療チームの一員として、迎えいれられるべきなのでしょうか。

おたがいの環境・事情を理解する

現状では、おたがいの環境や、事情を理解していないことが不満の種になっている側面があるようです。通訳の出身の方のなかには、会議通訳の相場を持ちだし、医療通訳の報酬のすくなさをうったえるかたもいます。おたがいの状況をりかいすることから、はじめましょう。

まずは、病院の経営環境や、医療従事者の労働環境などを知ってみましょう。具体的には、給与水準、年間休日数などをしらべてみましょう。病院は、職能制によるある種の階級社会です。どの会社もその側面はありますが、病院ではとくに顕著です。

もし医療通訳がそのなかの一員になるとしたら、どこに位置づけられるべきかなのでしょうか。これは、医療通訳の同志で積極的に話し合い、かんがえていくべきことでしょう。病院事務と、同等であるべきなのでしょうか。看護師、あるいは検査技師や放射線技師とくらべるとどうでしょうか。

病院側も、通訳というものの社会的地位、とくに経済的な点(賃金)で通訳というものがどういった地位をもっているのとかといった点を理解すべきとかんがえます。

原資はどうするのか

日本の医療制度は微妙なバランスのうえでなりたっています。病院など医療機関は、収益という点でみると、かなり厳しい環境におかれています。そのなかで、医療通訳という新たなポストをもうけるということがどのようなインパクトをあたえるのかといった点はかんがえなければなりません。

医療通訳には相応の報酬が必要だといった場合、その報酬はどこからくるのがいいのでしょうか。いまの病院の経営環境からいって、ほとんどの病院が負担することはむつかしいでしょう。では、国や市町村がその原資負担をになうべきなんでしょうか。あるいは、患者がになうべきなんでしょうか。そして、その原資負担は、どのようなかたちをとればいいのでしゅか。

こういった点もかんがえて、提案していくべき局面に医療通訳はあるとかんがえます。ひとりでかんがえなくていいんです。すぐに答えがでるものでもありません。おりにふれて、医療通訳の横のつながりのなかで、はなしあうべき課題なんだとおもいます。

医療通訳の不安定な地位について不平・不満をいう段階からぬけ、現実的な解決策をもとめる段階にすすむことが、医療通訳をもとめる外国人患者へのサポートを充実することにつながるはずです。医療通訳側・医療機関側のことを中心にかいてきましたが、すべては、外国人患者のサポートのためなんです。

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