狂犬病だけがリスクでないことを思いだす
狂犬病のワクチンをうってもらって、気持ちがすこし落ちつきました。そしたら、頭がまわりだしたのか、思いだしたことがあります。それは、犬にかまれたときには、狂犬病の危険だけでなく、破傷風(tetanus)のリスクもあるということでした。
なんで、そのことをしっていたのかというと、実はインドで犬にかまれたときからさかのぼること3年ほどまえにアメリカでも犬にかまれたことがあったからです。そのときに担ぎこまれた病院のER担当医の説明では、アメリカでは狂犬病のリスクよりも、とにかく破傷風の可能性のほうを考慮するということでした。とにかくまずうつのは破傷風のワクチンだといわれました。
振りかえってみると、アメリカで犬にかまれたときはまだ学生だったので、子どものときにうった破傷風ワクチンの効力はあったのかもしれません。といっても、破傷風が3種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日咳。DPT vaccine: diphtheria/pertussis/tetanus)にはいっているなんて、そのころは、そもそもしらなかったですけどね。
破傷風のリスクを女医はおもいつかず
アメリカで犬にかまれたときの経緯をおもいだし、破傷風の危険性が気になった僕は、女医さんにそのことをたずねました。そのときの、女医さんの顔というか表情はいまでも思いだします。一瞬、なにをいっているのかわからないといった感じのポカンとした顔をし、それからちょっと首をかしげました。つづいて「あーっ、そういえばそうだった」といった顔になったのです。そして、すぐにさらさらと、処方箋を書き出し、また、私にわたしました。
もし、僕が以前に犬にかまれた経験がなかったら、いったいどうなったんでしょうか。まぁ、わざわざ破傷風のワクチンをもう一度うちなおさなくても、アメリカでうってもらったワクチンの効果がその時点ではまだあっただろうと、いまかんがえると思えるんですけど。そういや、その女医さん、そういった過去のワクチン接種歴なんかについて、いっさい問診しませんでしたね。それもかんがえてみると、すごいですよね。
ふたたび薬局へ
さて、破傷風ワクチンの処方箋をもらった僕は、ふたたび薬局へむかいました。処方箋をわたすと、前回とおなじです。冷蔵庫をあけて、ワクチンをもらいました。あのちいさな冷蔵庫に何種類くらいのワクチンがはいっていたんでしょうね。いまかんがえていると、不思議です。なんか、ドラえもんのポケットみたいです。
今回のワクチンはちいさなアンプル(ampoule, ampul, ampule, またはampulla)でした。ということは、注射器(needle and syringe)がべつに必要です。危険、危険。注射器を再利用されたら大変です。さっそく、その薬局でたずねました、新品の注射器はあるのかと。さいわいなことに針付きの注射器があったので、それを購入しました。
新品の注射器をつかいたがらない看護師
破傷風ワクチンと注射器を買った僕は、もう一度、こんどこそが最後だろうというおもいで診療所にもどりました。診療所でデスクのうえに買ってきたワクチンと注射器をおくと、看護師がワクチンのはいったアンプルを取りあげました。すると、なんということか、たくさんの注射器が浮いている水槽から注射器を一本とりだしたのです。
僕は大声でさけびました。ちょっとまってくれ、新品の注射器を買ってきたんだから、それをつかってくれと。すると、看護師はちょっと顔をしかめました。なんで、新品をわざわざつかわなければ、いけないんだとばかりに。それから、ちょっと肩をすくめて、その注射器を水槽に戻し、新品の注射器をつかって、破傷風ワクチンを僕にうってくれました。
僕の注射器も水槽へ
僕の買ってきた注射器ですが、破傷風ワクチンをうっただけで、お役ご免とはなりませんでした。僕に破傷風ワクチンをうってくれた看護師はそのまま、なんのためらいもなく、その注射器も水槽へと投げ入れたのです。正直、背筋がぞっとしました。
そもそも水槽のなかのあの液体はなんだったのでしょう。消毒液だったのか、それともただの水だったのか。とにかく、僕は2度とその診療所にはもどりませんでした。町にはそのあと数日滞在しましたし、狂犬病ワクチンの2回目は、そのあいだにうたなきゃいけなかったんですけど。
医療通訳としてのいまにつながっているのかも
ここでおはなししたやりとりは、すべて英語でやったのですが、どうやってこなしたのか、いまかんがえても、ふしぎでなりません。旅行中は、ちいさなオックスフォードの英英辞典はもっていましたが、和英も英和ももっていませんでしたし。
「僕にとっての医療通訳の原点」とタイトルに書きましたが、ほんとのところ、医療通訳をまなびだしたのは、ずっとあとのことです。医療通訳とはなにかという説明をあるところでしていたら、ひょんなことから、このはなしになりました。そのときに僕のはなしをきいていたひとたちから、とても貴重な経験だからブログに書くようにとすすめられました。あらためて振りかえると、じぶんでも、医療通訳としてのいまとつながっているふしぎな体験だったなと感じて、このタイトルにしました。
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