「国際共通語としての英語」についてRobin Walkerの講演をみる

英語教育というのはいままで、英語を第2言語(English as a Second Language、ESL)の英語)とかんがえて、世界中のノン・ネイティブにおしえられてきました。しかし「医療通訳はどの英語を勉強すべきか — 『国際共通語としての英語』を読んで」でふれたように、英語をESLではなく国際共通語としての英語(English as a Lingua FrancaELF)としてとらえて、ノン・ネイティブへの英語教育をすすめるうごきが英国でうまれつつあります。

ESLとELFのちがいについておおまかに説明すると、まず、ESLは第2言語というくらいですから、第1言語としての英語(English as a First Language)があること、つまりネイティブがいることを前提にしています。ですから、おのずといかにネイティブに近づくのかということが目標となりがちになります。一方、ELFはネイティブの英語を前提としていません。ネイティブであるか、ノン・ネイティブであるかにかかわらず、会話が成立することを目標としているのです。

ELFについての理解をふかめるために、ELFによる英語教育を実践している英語教師のひとり、Robin Walkerが2014年9月にスペインでブリティッシュ・カウンシルの主催でおこなった講演の動画をご紹介します。Robin Walkerは、スペインの大学で何十年とESLをおしえてきましたが、自身の経験にもとづき、いまではELFをおしえるべきであるとかんがえるようになっています。この講演では、EFLにおける発音のとらえかたについて説明しつつ、ELFの重要性を説明しています。

講演を紹介する前に、とくに医療通訳をめざす方にELFを紹介する理由を講演のなかから取りあげたいとおもいます。Robin Walkerは英語をネイティブ中心にかんがえることのあやうさをしめすために以下の事実を指摘しています。

“English today is 80% of time spoken in the absence of native speakers, non-native speaker speaking to non-native speaker.”

つまり80%の英会話は、ネイティブがいないノン・ネイティブの間でおこなわれているというのです。これは、医療通訳の現場においても、似たような状況です。米軍基地と提携しているNTT東日本・関東病院のような医療機関でもなければ、医療通訳が英語でサポートにはいる患者のおおくが英語圏(anglosphere、inner circleなど)以外の国からきているのです。

講演のなかでくりかえし、Robin Walkerはcomfort zoneという言葉をつかっています。居心地のいい場所、居やすいところといった意味です。このELFというかんがえは、いままでの英語教育からのおおきな転換をもとめるもので、ネイティブ中心でおこなわれてきたやり方からの離脱を意味します。いままでとおなじやり方をつづけるcomfort zoneからでていく必要があるのです。ですから、英国でもまだまだこれからのものといったようです。しかし、医療通訳の現場をかんがえると、無視できないうごきだとかんがえます。

ROBIN WALKER: ‘Pronunciation Matters – re-thinking goals, priorities and models’(講演は08:10くらいからはじまります)

なお、ロビン・ウォーカーのプレゼンテーションのPDFがここからダウンドードできます。この講演ではつかわれたものではありませんが、内容がちかいものですので、興味のある方はご参考までに。

vowels 母音
consonants 子音
clusters 子音連結
word stress 語強勢
sentence stress 文強勢
stress-timing 強勢拍
weak forms 弱形
schwa シュワー/あいまい母音
tones 声調
diphthong 二重母音/複母音
fall 上昇(調)
rise 下降(調)
standard native speaker accent 標準的ネイティブ・スピーカー・アクセント
received pronunciation/RP 容認発音
NS accent/native speaker accent ネイティブ・スピーカー・アクセント
comfortable intelligibility 快適音声明瞭度 “Native English speaker-listeners should not have to work too hard to understand them, even though the speaker clearly has non-native speaker accent.”
international intelligibility 国際音声明瞭度 “We can speak our English anywhere with accent that we have and we will be understood by any listener.”

参考資料など

講演のなかで言及された資料・発言の引用元などを紹介します。

Professor David Crystal
As of 2013, less than 3% of the UK population speak RP.

The foundations of accent and intelligibility in pronunciation research
by Dr. Murray J. Munro and Dr. Tracey M. Derwing
One very robust finding in our work is that accent and intelligibility are not the same thing. A speaker can have a very strong accent, yet be perfectly understood.

English Next (2006) by David Graddol
“Global English is often compared to Latin, a rare historical parallel to English in the way that it flourished as an international language after the decline of the empire which introduced it. The use of Latin was helped by the demise of its native speakers when it became a shared international resource. In organisations where English has become the corporate language, meetings sometimes go more smoothly when no native speakers are present. Globally, the same kind of thing may be happening, on a larger scale. This is not just because non-native speakers are intimidated by the presence of a native speaker. Increasingly, the problem may be that few native speakers belong to the community of practice which is developing amongst lingua franca users. Their presence hinders communication. ”

“In the new, rapidly emerging climate, native speakers may increasingly be identified as part of the problem rather than the source of a solution. They may be seen as bringing with them cultural baggage in which learners wanting to use English primarily as an international language are not interested; or as ‘gold plating’ the teaching process, making it more expensive and difficult to train teachers and equip classrooms. Native speaker accents may seem too remote from the people that learners expect to communicate with; and as teachers, native speakers may not possess some the skills required by bilingual speakers, such as those of translation and interpreting. ”

NON-NATIVE PRONUNCIATION MODELS IN THE TEACHING OF ENGLISH?” by GABRIELA MIHĂILĂ-LICĂ

検査の指示表現を小児整形外科でまなぼう

診察のながれをつかむのに、YouTubeの動画はとても有効な手段です。医療系の動画は豊富にそろっていて、とくに英語については、症状や身体器官をキーワードにすると、その症状を説明する動画や、身体器官の動きを説明した動画がおおく検索できます。そのなかで、平易なことばをおぼえるのにおすすめしたいのが、以前にもつたえたとおり小児科関連の動画です。

フィラデルフィア小児病院の動画をみよう

自分でも、いろいろとYouTubeでしらべていて、これはつかえる、とかんじたのは、フィラデルフィア小児病院(the Children’s Hospital of Philadelphia)が提供している動画です。平易でありながらも、幼児ことばでないことばづかいで診察がおこなわれていくようすがうつされていて、とくに検査をするうえで、どのような指示が患者にたいしておこなわれているのかという点でとても勉強になります。

きょうは、このなかで、背中の検査をしている動画を紹介します。

“Good” “Great” ちょっとしたことばにもいみがある

動画をみていると、それぞれの指示にしたがって患者が動作をおこなったあとに、医師は次のような、ことばを患者になげかけていますね。

Great.
Good.
Perfect.
Fantastic

こういったことばを医師が発する背景には、患者との円滑なコミュニケーションを築こうとしている医師の努力があります。ちょっとしたことばなのですが、実はとてもたいせつなのです。日本の医師も、こういった患者とのコミュニケーションを円滑にする努力はしています。日本語であれ、英語であれ、”Great”と”Good”をどう訳しわけるかというよりは、そういった医師の努力をきちんと訳しのがすことなく、つたえることがたいせつだと心得ましょう。

日本語の「ください」はかならずしも”Please”ではない

動画のなかで、つかわれる指示を表にしました。日本語では、どうしても、「〜してください」という形になることがおおいですね。気をつけてほしいのは、基本的に”Please”をつけないということです。ほとんどの場合は”Can you 〜”というかたちになっています。”Can you 〜”を連発したあとは、命令形になったりしています。命令形だけをつかうことはのぞましくありませんが、”Can you〜”を連発したあとであれば、相手の頭のなかにも、”Can you〜”がのこっていますから、指示が命令形になっても、失礼にあたることはありません。

日本語と英語がすっきりかさなることは、なかなかありませんよね。それでも、こういった”Can you〜”と命令文がまじったりする感覚は、日本語においても理解できることなのではないでしょうか。たとえば、日本語の指示表現で「眼を大きくあけてください。次は眼をとじて」とか「合図をだしたら、息をすってくださいね。それでは息をすって〜、はいて〜」とかいったかんじで、日本語でもすべてていねいに「〜ください」といったりしないことがあるからです。

下の表では、紹介した動画のなかでつかわれている指示表現のほとんどをしるしました。いろいろ応用して、ほかの表現もかんがえてみましょう。たとえば、”towards the door”は”towards the wall”としてもいいでしょう。日本語も、表の表現にこだわらずに、いろいろないいかたをかんがえてみましょう。

指示  
The first thing I would like you to do is just walk to the door. まずは、ドアに向かってあるいてください。
Can you walk on your tiptoes towards me? つま先だちで、こちらにむかってあるいてください。
Can you walk on your heels towards the door? かかとでドアに向かってあるいてください。
Can you jump up and down on both feet together for me a couple times? 両方の足で上下に何回かはねてください。
Can you hop on one foot a couple of times? 片足でケンケンを何回かしてください。
And then the other foot a couple of times? 別の足でケンケンしてください。
Can you squat down like a catcher in a baseball game and touch the ground? 野球のキャッチャーみたいにしゃがんでから、地面をさわってください。
Come on up. こちらにきてください。
Can you bring your chin down to your chest? あごを胸にくっつけるようにさげてください。
Look straight at me. まっすぐこちらをみてください。
Turn your head to one side. And the other side. 後をみるように頭だけをまわしてください。反対側にもまわしてください。
(Bring) Your ear down to your shoulder. And the other shoulder 頭を片方にかたむけてください。反対側にもかたむけてください。
Can you put your feet together for me? 両足をくっつけてください。
Can you bend forward and try and touch your toes? 前にからだをまげて、つま先をさわってください。
Come on back up. もとにもどってください。
I want you to lean back for me. 後にそってください
We’re going to bend you to one side, and the other side. 横にからだを曲げますね。反対側も。
I want you to twist to one side and twist to the other side. からだを後にむかってひねってください。反対側も。
Can you bring your arms up over your head for me? 両手を頭の上にあげてください。
(Bring) Arms out to the side. 両手を横にあげてください。
Can you touch your shoulders? 自分のかたを(手で)さわってください。
Can you reach up your back? 手を背中にまわしてください。(背中に手がとどきますか。背中に手がまわりますか。)
Can you give me the thumbs-up sign? 親指を挙げてください。
Can you make the OK sign? 親指と人差し指で丸をつくってください。
Can you open and close your fingers? 手をにぎったり、ひらいたりしてください。
Can you hold your arms out real strong? 腕に力をいれてうごかないようにしてください。
Push my hands out. わたしの手を外側におしだそうとしてください。
Push my hand in. わたしの手を内側におそうとしてください。
Push my hands up. わたしの手を上におしあげようとしてください。
Push my hands down. 手を下におしさげようとしてください。
Hold your hands up real high 手を上にあげて、力をいれてうごかないようにしてください。
Spread your fingers wide apart. 手を大きくひらいてください。

医療英語の学習に – Khan Academy, Bozeman Scienceほか

医療英語・医療通訳の勉強に役立ちそうな、YouTubeのリストや、動画サイトをいくつかご紹介します。映像というのはとてもパワフルですね。私もこういった動画をみることで、とても勉強になりました。とくに勉強をはじめたばかりのときは、動画にずいぶん助けられました。

それから、これは、どの動画ということではないのですが、新しく学んだ単語で、発音記号をみても発音がどうしてもわからない単語の場合、その単語をYouTubeで検索してみればいいですよ。ほとんどの場合、その単語がつかわれている動画がでてきますので、実際の発音をきくことができます。

Khan Academy – Healthcare and Medicine
つい先日、ひとから教えてもらいました。このKhan Academyというのは、すべてのひとに平等に教育を受ける機会をあたえるという高い志のもと動画をつうじて、さまざまな講義をながしています。カバーしているのは、あらゆるジャンルといってもいいでしょう。ここにあげたHealthcare and Medicine(健康管理と医療)というリストには29の動画が今日現在(2016年5月28日現在)公開されています。医療従事者むけというよりは、この分野にすすみたいという関心をもっているひとむけといった印象です。その分、いわゆるlay termをまなぶにはよさそうです。英語の字幕はきちんとつくられているようで、自動生成ではなさそうです。とても、便利ですね。

Bozeman Science – Anatomy and Physiology
アメリカはモンタナ州のボーズマン(Bozeman, Montana)というとっても田舎の高校の科学の先生がYouTubeで公開している動画集です。科学のいろいろな分野の動画をあげていますが、このAnatomy and Physiology(解剖学と生理学)には今日現在(2016年5月28日現在)、16本の動画が公開されています。高校生向けの解説なので平易なことばで解説されています。わたしもよく利用しています。以前は自動生成の英語字幕がついていたとおもうのですが、どうやらきちんとした字幕になっているものもあるようです。全部かどうかは確認していません。

Medical Edge by Mayo Clinic
前のふたつとはちがい、とても専門的な動画が公開されています。なにせかのメイヨー・クリニックが公開していますので、Medical Edgeということばが暗示するように、かなり先端的な内容の動画がおおいです。字幕はありますが、自動生成のものなので、まちがいがおおいので、注意した方がいいですね。

ER – Season 2 and Season 3
かの有名な医療ドラマ「ER」です。医学部の先生ふたりほどから聞きましたが、内容も正確な優秀なドラマだそうです。医学部によっては授業でつかわれたりしています。残念ながら、ビデオショップで借りるか、購入するかありません。とくに第2シーズンと第3シーズンがよいとききました。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

Wikipediaは便利だけど気をつけよう

「情報ソースはなるべく共有したい」シリーズでなくても、エントリーには、必要におうじて「参考資料」といった形で情報ソースをのせています。そちらをみていただければ、どのような情報ソースをつかって、「資料」をあつめているのかおわかりいただけるとおもいます。それでも、ここではあえて、いくつかふれておきたいとおもいます。ちょっと、注意したいこともありますので。

やっぱり便利、Wikipedia

ウェブの百科事典、Wikipediaはやっぱり便利です。しらべたいことばをGoogleで検索すると、かなりの確率で上位でひっかかってきますしね。医療用語をふくむ専門用語を網羅しているので、とてもたすかります。他言語対応というのもうれしいです。といっても、英語と日本語くらいしかつかいこなせませんが。

他言語対応で便利なのは、日本語版でしらべたことばは対応するエントリが英語版にもあれば、みているウェブページの左側のコラムにある「他言語版」のなかの「English」をクリックするすれば、英語版にうつることができます。反対に、英語版でみていることばに対応するエントリが日本語版にあれば、みているウェブページの左側のコラムにある「Language」の「日本語」をクリックすれば、日本語版にうつることができます。ですので、英語と日本語のそれぞれの説明をいろいろと比較できます。

ためしに「腹」を日本語版でみてみましょう。そして、「腹」のページの左コラムにある「他言語版」の「English」をクリックすると、英語版の「Abdomen」に移動します

でもWikipediaのつかいかたには注意が必要

ここで気をつけなくてはいけないのは、日本語版は英語版の翻訳ではないということです。日本語版も、英語版もそれぞれ別の筆者がいて、それぞれの説明をかいています。ですので、内容はまったく別物です。それぞれの筆者が自分の考え方にもとづいてかいているので、説明のしかたもまったくちがいます。

もう一点、注意したいのは、Wikipediaはボランティアがかいているので、かかれている内容は正確とはかぎらないということです。とくに日本語版の正確性はかなりあやしいものです。英語版の方が質はたかいとおもいますが、それでも、100%の自信をもって、信頼できるかというとむつかしいです。ですから、大枠をとらえるための、あたりをつけるためにつかう程度にしたほうがいいとおもいます。

ありがとうMayo Clinic

Mayo Clinicという医療機関をごぞんじですか。アメリカ・ミネソタ州に本拠地をおく一大医療グループです。ミネソタ州だけにかぎらず、全米各地に医療施設をもっています。世界の富裕層が病気になったときにたよるのが、このメイヨ・クリニックだといわれています。ありがたいことに、このメイヨ・クリニックですが、患者むけに病気や検査関係のいろいろな情報をPatient Care and Health Informationというサービスで提供しています。患者むけだけあって、とても平易なことばでかかれています。患者にたいして、専門用語をぶつけるのでなく、どのようなことばをつかえばいいのかという参考になりますので、勉強になります。

第1回医療通訳実践トレーニングに出てきました(3)— メルクマニュアル、YouTube

取りあげられた単語をほぼカバーしましたので、トレーニングでどのようなことを教えられたかということにすこしふれてみましょう。

リサーチ力の重要性

医療通訳は、リサーチ力がいけないと指摘されていました。これは私自身が常々かんじていることで、その思いから「情報ソースはなるべく共有したい」を書いています。今回のトレーニングでも、どういったところから情報をあつめているのか、その情報ソースを共有することをうながしていました。

トレーニングのなかでは、有用な情報ソースのひとつとして、メルクマニュアルが取りあげられました。メルクマニュアルは、英語版日本語版があることから、2つの言語を比較するうえで便利だということも話していました。ちなみに、メルクマニュアルには家庭版もあり、こちらもそれぞれ英語版日本語版があります。

さらにYouTubeが情報ソースとしてあげられました。YouTubeについては、検索のやり方のコツについて説明していただきました。まずは、英語でしらべる場合、「病名 symptoms」を検索用語して入力すると一般むけにつくられている動画が多く引っかかってくるとのことでした。これは私も実際によくつかっています。Youtubeは本当にありがたいです。発音記号だけだとピンとこない単語の発音とかわかりますしね。もう一つ、これは私も知らなかったのですが「病名 usmle」といれると、専門的な講義の動画が出てくるとのことでした。ちなみに、USMLEはアメリカの医師国家試験です。いわゆる試験対策の動画がありがたいことに出まわっていて、医療通訳にとってはとても便利につかえるということでした。

ためしに、今回のトレーニングのテーマであったheadacheでしらべてみましょう。「headache symptoms」で検索したものがこれです。いろいろな頭痛の症状についての動画がでてきますね。「headache usmle」はこちらです。いかにも試験対策といったかんじの動画がたくさんでてきましたね。ちなみに知らない方のために伝えておくと、usmleと小文字で検索していますが、検索のときには大文字・小文字は基本的に無視されますからです。大文字でいれたとしても結果はかわりません。