消化器系についての基本の基本 — 医療通訳資格試験にむけて

消化器系(the digestive system)については、おぼえることがたくさんあります。その一方で、問題がつくりやすいので、試験ではしばしばとりあげられます。きちんと、じぶんで消化器系の知識を整理しておぼえておきましょう。

整理をするポイントとしてすすめているのが、たてにおぼえて、よこにひろげていくということです。「たて」とは、当ブログでしばしばとりあげている流れのことです。消化器系の場合、消化管(the gastrointestinal tract/the digestive tract/GI tract/gut/alimentary canal)を消化という機能のひとつの流れとしてとらえ、まずは位置(順番)をおぼえましょう。口からはじまり、食道、胃、小腸、大腸をつうじて、肛門へといたるその流れをおさえるのです。これがたてにおぼえるということです。

つづいて、それぞれの器官でなにがおこるのか、おぼえていきましょう。たとえば、口では、どういった消化活動がおこなわれているのか、どういった消化液(digestive juice)が分泌されるのか、こういった知識を整理していきましょう。消化管をかたちづくるそれぞれの器官についてもこうして、知識を整理してひろげていくのです。これがよこにひろげるということです。

ところで、消化器系は、消化管だけでなりたっているわけではありません。いわゆる肝胆膵といわれる肝臓・胆嚢・膵臓といった付属器官(accessory organs of digestion)も、とてもたいせつです。問題としても、よくとりあげられます。しっかりおさえておきましょう。

消化管 the gastrointestinal tract/the digestive tract/GI tract/gut/alimentary canal
口・口腔 くち・こうくう mouth, oral cavity/buccal cavity
食道 しょくどう esophagus (英oesophagus)/food pipe/gullet
stomach
小腸 しょうちょう small intestine/small bowel
十二指腸 じゅうにしちょう duodenum
空腸 くうちょう jejunum
回腸 かいちょう ileum
大腸 だいちょう large intestine/large bowel/colon
盲腸 もうちょう cecum
上行結腸 じょうこうけっちょう ascending colon
横行結腸 おうこうけっちょう transverse colon
下行結腸 かこうけっちょう descending colon
S状結腸 えすじょうけっちょう sigmoid colon
直腸 ちょくちょう rectum
肛門管 こうもんかん anal canal
肛門 こうもん anus
肝臓 かんぞう liver
膵臓 すいぞう pancreas
胆嚢 たんのう gallbladder/gall bladder/biliary vesicle/cholecyst

【参考資料】

循環器系についての基本の基本 — 医療通訳資格試験にむけて

循環器系は心臓血管系(the cardiovascular system/the vascular system)とリンパ系(the lymphatic system)でなりたっていますが、試験対策としてはまず心臓血管系を優先してまなびましょう。ただし、感染症などの鑑別診断をかんがえると、リンパ系は実践の場でとてもたいせつであることを意識しておく必要があります。医療通訳としての実践と試験対策とは別物であることをおぼえておきましょう。

まずは、とにかく心臓の構造をまなびましょう。専門書でなくてもかまいません。一般向けの書籍や厚労省の資料(心臓各部位)をつかって、心臓の構造を把握しておきましょう。下の単語表にあるような、おもな心臓の部位については、それぞれの名称を日本語と英語でおぼえるとともに、位置をしっかりおぼえておきましょう。

位置をおぼえるときにまちがえてしまいがちなのは右左(みぎひだり)です。解剖図のおおくは、正面からむかってみたかたちでかかれています。医療従事者の方には当然でも、通訳出身の方などは、ついまちがってしまったりしまうので、注意しましょう。

からだの構造をおぼえるときに、ひとつひとつ位置をおぼえるのは効率的ではありません。からだのどの構造についてもいえますが、バラバラにおぼえるのではなく、機能の流れでおぼえるようにしましょう。心臓の各部位をおぼえるには、血液の流れ(血液循環 blood circulation)でおさえるのがいいでしょう。

血液循環には、酸素をからだのすみずみにおくる体循環(systemic circulation/general circulation、または大循環 greater circulation)と、肺での二酸化炭素と酸素の交換にかかわっている肺循環(pulmonary circulation、または小循環 lesser circulation)があります。各部位の位置・名称とともに、血液の流れもしっかりおさえましょう。

代表的な心臓の部位 Main components of the heart
上大静脈 じょうだいじょうみゃく superior vena cava/SVC
下大静脈 下大静脈 inferior vena cava/IVC
右心房 うしんぼう right atrium
三尖弁 さんせんべん the tricuspid valve/the right atrioventricular valve
右心室 うしんしつ right ventricle
肺動脈弁 はいどうみゃくべん the pulmonary valve/the pulmonic valve
肺動脈 はいどうみゃく the pulmonary artery
左心房 さしんぼう left atrium
僧帽弁 そうぼうべん the mitral valve/the left atrioventricular valve
左心室 さしんしつ left ventricle
大動脈弁 だいどうみゃくべん the aortic valve
大動脈 だいどうみゃく the aorta
大動脈弓 だいどうみゃくきゅう the aortic arc/the arc of the aorta

【参考資料】

内分泌系についての基本の基本 — 医療通訳資格試験にむけて

内分泌系(the endocrine system)は、神経系(the nervous system)とともに、ホメオスタシス(homeostasis)をささえる重要なシステムです。神経系の電気信号によるすばやい作用とちがって、ホルモンによって比較的ながい時間をかけてカラダに影響をもたらします。内分泌系では、腺(gland)という細胞または細胞組織からホルモンが分泌されます。ホルモンについては、まだまだわからないところがすくなくおおいので、試験ではやや取りあつかいづらいトピックです。しかし、代表的な腺(内分泌器官)についての知識を取りあげた問題は医療通訳の試験によくでてきますので、ぜひおぼえておきましょう。

また、内分泌と外分泌のちがいについてはざっくり(学術的にはよりこまかい分類があるけれども)と、内分泌がカラダのなかの血液やリンパ液といったカラダの内側にある体液中に分泌することをさし、外分泌がカラダの外側へと分泌することをあらわすとおぼえておきましょう。ただし、気をつけなければいけないのは、消化管の内側はカラダの外側とかんがえるということです。ここは直感的にはやや混乱してしまうところでしょう。単純化すると、人間のカラダはリング・ドーナツ状になっているのだと理解しましょう。内側の空洞部分が消化管です。そして、カラダとはドーナツの生地の部分のことをいうのだとおぼえておきましょう。そして、カラダの内側とは生地のなかのことをいうのです。注意しましょう。

内分泌腺・内分泌器官 endocrine gland/endocrine organ
松果体 しょうかたい pineal gland/pineal body/conarium/epiphysis cerebri
下垂体 かすいたい pituitary gland/pituitary body/hypophysis
甲状腺 こうじょうせん thyroid gland/thyroid
副甲状腺・上皮小体 ふくこうじょうせん・じょうひしょうたい parathyroid gland/parathyroid
副腎 ふくじん adrenal glands/suprarenal glands
膵臓 すいぞう pancreas
卵巣 らんそう ovary
精巣 せいそう testicle/testis
胸腺 きょうせん thymus
視床下部 ししょうかぶ hypothalamus

※胸腺については不明な点があることから、内分泌器官として分類すべきかかんがえがわかれています。内分泌系において重要な役割をになっている視床下部についても内分泌腺と呼ぶかについてはみかたがわかれています。このほかにも、内分泌機能がある器官はおおいのですが、分類にはばらつきがあります。

【参考資料】

現病歴をたずねる表現をまなぼう — OLD CAARTS

患者に寄りそい、症状についてのなやみをくみ取るためにも、病歴をたずねる表現はとてもたいせつです。日本の医療現場では、問診票がひろく定着しているので、おおくの部分を問診票がひきうけています。外国語の問診票も厚生労働省が提供しているほか、各地のNGOや医療機関が用意しているので、充実してきています。

それでも、診察室のなかでは、鑑別診断のために医師から患者へさまざまな質問(問診: history taking)がなげかけられます。どのような点を意識して、医師が患者へ質問しているのかをしることは、診察のながれをつかみ、スムースな通訳をおこなううえで、とても大事なことです。

医学の分野では、おおくの頭字語(acronym)がつかわれますが、ここでは、OLD CAARTSにしたがって、現病歴をたずねる質問をいつかみていきましょう。OLD CAARTSは以下のことばの頭文字をとったものです。ただし、医学部や病院によっては、OLD CARTとしたり、べつのことばをつかったりするところもあります。

  • Onset 発症
  • Location 部位 (放散 radiationの有無)
  • Duration 期間
  • Characteristics 特質、特性
  • Associated factors 随伴因子
  • Aggravating factors/provoking factors 増悪因子
  • Treatments 治療
  • Severity 強度(スケールを使う)

かならずしも、この順番にそって問診がすすむわけではありません。疾患によっては、問診のやりかたもかわります。あくまで目安にしましょう。注意すべきなのは、医師がこういった点に着目して、患者がどのような疾患にくるしんでいるのか、鑑別診断をしていくということです。

発症 onset
頭痛はいつからですか When did the headache start?
痛みは徐々に始まりましたか Did the headache come on gradually?
痛みは突然始まったのですか Did the headache come on suddenly?
部位 location
特にどのあたりが痛みますか Were exactly does it hurt the most?
同じところがずっと痛いですか Does the pain stay in the same place?
期間 duration
ずーっと、痛いのでしょうか Do you feel the pain all the time?
いつが1番痛みますか When does it hurt the most?
どのような時に痛みますか When do you feel the pain?
特質・特性 characteristics
どのような痛みですか Could you describe the pain?
随伴因子 associated factors
ろれつがまわらないなどの症状はありますか Have you been experiencing slurring of speech or anything like that?
手足がしびれますか Do you feel tingling and numbness in any of your hands or legs?
増悪因子 aggravating factors/provoking factors
なにをすると痛みが増しますか What makes the pain worse?
緩解因子 relieving factors/palliating factors
何をすると痛みが軽くなりますか What makes the pain better?
治療 treatments
薬を何か飲みましたか Have you taken any medication?
強度 severity
痛みの幅が0(または1)から10あって、痛みがないのを0(または1)、そして10が最悪の痛みとすると、今の痛みはどのくらいでしょうか On a scale of 0/1 to 10, with 0/1 being no pain and 10 being the worst pain you can imagine, how would you rate your pain?

【参考資料】

「国際共通語としての英語」についてRobin Walkerの講演をみる

英語教育というのはいままで、英語を第2言語(English as a Second Language、ESL)の英語)とかんがえて、世界中のノン・ネイティブにおしえられてきました。しかし「医療通訳はどの英語を勉強すべきか — 『国際共通語としての英語』を読んで」でふれたように、英語をESLではなく国際共通語としての英語(English as a Lingua FrancaELF)としてとらえて、ノン・ネイティブへの英語教育をすすめるうごきが英国でうまれつつあります。

ESLとELFのちがいについておおまかに説明すると、まず、ESLは第2言語というくらいですから、第1言語としての英語(English as a First Language)があること、つまりネイティブがいることを前提にしています。ですから、おのずといかにネイティブに近づくのかということが目標となりがちになります。一方、ELFはネイティブの英語を前提としていません。ネイティブであるか、ノン・ネイティブであるかにかかわらず、会話が成立することを目標としているのです。

ELFについての理解をふかめるために、ELFによる英語教育を実践している英語教師のひとり、Robin Walkerが2014年9月にスペインでブリティッシュ・カウンシルの主催でおこなった講演の動画をご紹介します。Robin Walkerは、スペインの大学で何十年とESLをおしえてきましたが、自身の経験にもとづき、いまではELFをおしえるべきであるとかんがえるようになっています。この講演では、EFLにおける発音のとらえかたについて説明しつつ、ELFの重要性を説明しています。

講演を紹介する前に、とくに医療通訳をめざす方にELFを紹介する理由を講演のなかから取りあげたいとおもいます。Robin Walkerは英語をネイティブ中心にかんがえることのあやうさをしめすために以下の事実を指摘しています。

“English today is 80% of time spoken in the absence of native speakers, non-native speaker speaking to non-native speaker.”

つまり80%の英会話は、ネイティブがいないノン・ネイティブの間でおこなわれているというのです。これは、医療通訳の現場においても、似たような状況です。米軍基地と提携しているNTT東日本・関東病院のような医療機関でもなければ、医療通訳が英語でサポートにはいる患者のおおくが英語圏(anglosphere、inner circleなど)以外の国からきているのです。

講演のなかでくりかえし、Robin Walkerはcomfort zoneという言葉をつかっています。居心地のいい場所、居やすいところといった意味です。このELFというかんがえは、いままでの英語教育からのおおきな転換をもとめるもので、ネイティブ中心でおこなわれてきたやり方からの離脱を意味します。いままでとおなじやり方をつづけるcomfort zoneからでていく必要があるのです。ですから、英国でもまだまだこれからのものといったようです。しかし、医療通訳の現場をかんがえると、無視できないうごきだとかんがえます。

ROBIN WALKER: ‘Pronunciation Matters – re-thinking goals, priorities and models’(講演は08:10くらいからはじまります)

なお、ロビン・ウォーカーのプレゼンテーションのPDFがここからダウンドードできます。この講演ではつかわれたものではありませんが、内容がちかいものですので、興味のある方はご参考までに。

vowels 母音
consonants 子音
clusters 子音連結
word stress 語強勢
sentence stress 文強勢
stress-timing 強勢拍
weak forms 弱形
schwa シュワー/あいまい母音
tones 声調
diphthong 二重母音/複母音
fall 上昇(調)
rise 下降(調)
standard native speaker accent 標準的ネイティブ・スピーカー・アクセント
received pronunciation/RP 容認発音
NS accent/native speaker accent ネイティブ・スピーカー・アクセント
comfortable intelligibility 快適音声明瞭度 “Native English speaker-listeners should not have to work too hard to understand them, even though the speaker clearly has non-native speaker accent.”
international intelligibility 国際音声明瞭度 “We can speak our English anywhere with accent that we have and we will be understood by any listener.”

参考資料など

講演のなかで言及された資料・発言の引用元などを紹介します。

Professor David Crystal
As of 2013, less than 3% of the UK population speak RP.

The foundations of accent and intelligibility in pronunciation research
by Dr. Murray J. Munro and Dr. Tracey M. Derwing
One very robust finding in our work is that accent and intelligibility are not the same thing. A speaker can have a very strong accent, yet be perfectly understood.

English Next (2006) by David Graddol
“Global English is often compared to Latin, a rare historical parallel to English in the way that it flourished as an international language after the decline of the empire which introduced it. The use of Latin was helped by the demise of its native speakers when it became a shared international resource. In organisations where English has become the corporate language, meetings sometimes go more smoothly when no native speakers are present. Globally, the same kind of thing may be happening, on a larger scale. This is not just because non-native speakers are intimidated by the presence of a native speaker. Increasingly, the problem may be that few native speakers belong to the community of practice which is developing amongst lingua franca users. Their presence hinders communication. ”

“In the new, rapidly emerging climate, native speakers may increasingly be identified as part of the problem rather than the source of a solution. They may be seen as bringing with them cultural baggage in which learners wanting to use English primarily as an international language are not interested; or as ‘gold plating’ the teaching process, making it more expensive and difficult to train teachers and equip classrooms. Native speaker accents may seem too remote from the people that learners expect to communicate with; and as teachers, native speakers may not possess some the skills required by bilingual speakers, such as those of translation and interpreting. ”

NON-NATIVE PRONUNCIATION MODELS IN THE TEACHING OF ENGLISH?” by GABRIELA MIHĂILĂ-LICĂ