急性・慢性など、「…性」は形容詞としてまずは理解しよう

急性(acute)や慢性(chronic)といった〜性という医療用語を単語帳がひさしぶりにでてきましたので、ご参考までに紹介します。なお、こういった単語帳をつくるときに注意すべき点があります。日本語の場合、どうしても見出し語が名詞の形になってしまうことがすくなくありません。ここでは列挙されている単語のおおくは、基本的には形容詞です。

単語帳をつくったり、単語帳を利用したりする場合、、こういった品詞のちがいに気をつけないと、文法的なあやまりにつながってしまいます。医薬系の翻訳会社などは、こういった単語帳をつくり、翻訳者にしたがうことをもとめています。そういった会社のばあい、品詞のちがいを見おとし、形容詞を名詞として使用するような事態が生じています。こわいのは、まちがえが一度ひとつの案件で最後までとおってしまうと、それが既成事実となり、その誤用にあとで気がついても、つかいつづけなければいけなくなることが医薬業界にはあるということです。

フリーランスの翻訳者になった場合、こういった明らかなあやまりでも、残念ながら翻訳会社などの発注元の意向にしたがい、誤用を受けいれざるをえません。ただし、自分で単語帳を作成・利用するときには、このような点に注意しましょう。とくに医療通訳の場合は、患者さんへのコミュニケーションを明確にするためにも気をつけましょう。

表中には一般に使われている形容詞もおおく、たとえば、acquiredは「獲得された」とかいった意味でもつかわれますし、essentialは「必要不可欠な」とか「とても重要な」といった意味でつかわれます。それが医学の世界では、病名などに「〜性」としてつかわれます。なかには、単一、あるいはごく少数の病名にしか使われないものも結構あります。

英語 日本語
急性 acute
慢性 chronic
悪性 pernicious, malignant
良性 benign
亜急性 subacute
先天性 congenital
後天性 acquired
発作性 paroxysmal
本態性 essential
虚血性 ischemic
細菌性 bacterial
鬱(うっ)血性 congestive
ウィルス性 viral
消化性 peptic
限局性 regional
全身性 systemic, generalized
潰瘍性 ulcerative
アルコール性 alcoholic, alcohol-induced -induced: 〜によって引き起こされた
非アルコール性 non-alcoholic, non-alcohol-induced -induced: 〜によって引き起こされた
原発性 primary
続発性 secondary
化膿性 pyogenic, suppurative pyo-: pus(膿)の. genic: 〜を生む
転移性 metastatic meta-: 変化. stasis: 安定した状態
進行性 progressive
糖尿病性 diabetic
多発性 poly-, multiple
尿細管性 renal tubular renal tubule(尿細管)の. -le: 小さい
異所性 ectopic ec-: 外の(ex-). topic: 場所
無菌性 aseptic a: without. septic: 腐敗性の
筋萎縮性 amyotrophic a: without. myo: 筋の. trophic: 栄養の、発育の(tropicとのちがいに注意)
鉄欠乏性 iron-deficiency
溶血性 hemolytic
巨赤芽球性 megaloblastic megal-: 巨大な. blastic: 芽細胞の
鉄芽球性 sideroblastic sider-: 鉄の. blastic: 芽細胞の
赤血球形成性 erythropoietic erythr-: 赤血球の. -poietic: 生み出す(-poiesis 形成・生成の形容詞形)
自己免疫性 autoimmune auto-: 自身の. immune: 免疫の、免疫性
薬剤起因性、薬物性 drug-induced -induced: 〜によって引き起こされた
再生不良性 aplastic a: without. plastic: 促進する、形成する
遺伝性 hereditary
家族性 familial
播種性 disseminated dis-: 外に. semin: 種
特発性 idiopathic idio-: 特有の、独自の. pathic: 症の
伝染性 infectious, contagious
痛風性 gouty
間欠性 intermittent
非淋菌性 non-gonococci
腎症候性 with renal syndrome 腎症候性出血熱(hemorrhagic fever with renal syndrome, HFRS; 流行性出血熱と呼ばれることも)だけか
解離性 dissecting
閉塞性 occlusive, obstructive
頻脈性 tachycardic, tachycardiac tachy-: 速い. cf. tachyarrhythmia(頻脈性不整脈). -cardiacよりもcardicが使われる頻度が1940年代から増加
除脈性 bradycardic, bradycardiac brady-: 遅い. cf. bradyarrhythmia(除脈性不整脈)-cardiacよりもcardicが使われる頻度が1940年代から増加
前骨髄球性 promyelocytic pro-: 前の. myel-: 骨髄の. cyt-: 球の
血管性 vascular 血管の(relating to vessels)
血小板減少性 thrombocytopenic thrombocyte: 血小板. cytopenia: 細胞減少(症),血球減少(症)
骨髄性 myeloid myel: 骨髄の. -oid: 〜のような、〜状の、〜質の
間質性 interstitial of interstices (隙間)
誤嚥性 aspiration aspiration(吸引)名詞の形容詞的用法
一過性 transient
穿孔性 perforative
逆流性 reflux reflux(逆流)名詞の形容詞的用法
神経性 stress-induced
リウマチ性 rheumatoid
不顕性 occult
若年性 juvenile
アトピー性 atopic a: without. top: place
筋性 myogenic myo-: 筋の. -genic: 〜から生じる. 「筋から生じる」との意味か
鬱(うっ)滞性 congestive
アレルギー性 allergic
壊死性 necrotizing
突発性 subitum exanthem subitum(突発性発疹)だけか
真性 vera polycythemia vera(真性多血症)だけか
変形性 deformans arthritis deformans(変形性関節炎)とosteitis deformans(変形性骨炎、ぺージェット病)だけか

【参考資料】

  • 研究社「医学英和辞典第2版」iOS版
  • Dictoinary.com
  • Wikipedia.org

繊細な気づかいが性関連の医療現場では求められる

9月の医療通訳トレーニング(一般社団法人日本医療通訳協会主催、講師・押味貴之先生)では、性の問題(Sexual Problems)ということで、性行為感染症や性行為などが取りあげられました。性の問題については、オープンにとりあげることをためらう方もいるでしょう。しかし、実は訪日外国人・外国人居住者で、かかる病院・診療科は産婦人科(つまり女性の患者の方がおおい)が圧倒的におおいという状況があります。医療通訳・医療英語をまなぶうえで、さけてはとおれない道だと理解しましょう。

性ということでいえば、トレーニングでもとりあげらえましたが、東京オリンピックをひかえて、LGBTQについての理解が医療の分野でも課題となるでしょう。リオ・オリンピックには、記録的な数のLGBTQ選手が参加しました。東京オリンピックでは、この数を上まわることは必至でしょう。もちろん、選手だけではなく、訪日外国人の増加とともに、対応施設の提供、サポートなども課題となってきます。性関連の診察でも、配偶者が異性ではないといった状況に直面することがあるでしょう。患者のいきかたを尊重した姿勢がもとめられます。

さて、性関連の診察では、とても繊細な気づかいが必要です。欧米人の質問は、日本的な感覚からすると、ストレートで率直な感じがし、ときとしてぶしつけな感じがすることがすくなくありません。反対に日本的なたずね方が外国人にとって、とてもぶしつけな感じなることもあります。どの文化も、その文化なりのやり方で繊細な話題には気をつかいます。そういった点のちがいについては、理解しておくことや、想像力をはたらかせることが重要です。

ただし、通訳が文化の差異を理解しても、どこまでやれるのかという点で疑問はのこります。正直いって、日本の医師がここらへんの繊細さを身につけないかぎり、通訳として介入するにしても、限界があるのではないかという危惧はあります。とはいえ、通訳としてできることを最大限やるために努力しましょう。

性行為感染症の診察・検査

こちらの動画は、英国の若者支援団体がつくったもので、性病の検査がどのようにすすむかをえがいています。とても、わかりやすいものです。

いろいろと、具体的な質問をしていくためには、前置きをしっかりして、患者に覚悟をする余地をあたえることがたいせつです。

前置きの例

日本語 英語
体のことについて、いくつか個人的な(ことにたちいった)質問をこれからします I will now be asking you some personal questions about your health.
いつも患者さんにたずねている質問です These are some routine questions I ask my patients..
質問をしてもよろしいでしょうか Would that be all right with you if I ask these questions?

つづいて、具体的な質問をしていきます。LGBTQの点でいうと、下にあげた質問のなかには、パートナーが同性であるかをたずねるものがあります。現時点で、日本の医師がこのような質問を投げかけることはかんがえづらいですが、欧州・北米などではこういった質問が一般的になりつつあるようです。

診察室での質問例

日本語 英語
最後に性交をしたのはいつですか When did you last have sex?
相手は女性でしたか、男性でしたか Was it with a man or a woman?
相手は、いつもとおなじでしたか Was it with a regular partner?
どのような種類の性交でしたか What kind of intercourse was it?
膣性交でしたか、肛門性交でしたか、それとも口腔性交でしたか Was it vaginal, anal, or oral?
コンドームをつかいましたか Did you use condom?
相手の方(方たち)には、なにか症状はありますか Do you or your partner/s have any symptoms?
過去12週のうちに、ほかに相手はいませんでしたか Have you had any other partner in the past 12 weeks?
性交中、またはそのあとで、痛みはかんじませんでしたか Do you have pain during or after intercourse?
以前に性感染症にかかったことはありますか Have you ever had a sexually transmitted infection before?
いぜんに、性病検査をうけたことはありますか Have you ever had a sexual health screen before?
肝炎、梅毒、HIVに感染しているか検査をうけたことはありますか Have you ever been screened for hepatitis, syphilis or HIV before?
B型肝炎のワクチンを接種したことはありますか Have you been vaccinated against hepatitis B?
最後の生理はいつでしたか When was your last period?
性交の相手で、海外の方はいましたか Have any of your sexual partners been from abroad?|

STI/STDについてまなぼう

性行為感染症(sexually transmitted infections/STI、sexually transmitted diseases/STD、venereal diseases/VD)についての動画を2本紹介します。医学的には、STIが現在はつかわれているようです。ただし、一般には、STDということばがひろくつかわれています。また、STIには医学的に分類されていないものでも、一般には性病と認識されているものもあります。

STIは大別して、寄生虫性と細菌性、ウィルス性の3つになります。感染ルートは、性行為(膣・肛門・口腔)や、キス、性器への接触などがあります。ふだんは、こういった話題をさけている方も、通訳をするうえでは必要なのでなれてください。

寄生虫性 parasitic STI

日本語 英語 Lay Terms
トリコモナス症 trichomoniasis trich
疥癬(かいせん) scabies
ケジラミ public lice (sing. louse) crabs

細菌性 bacterial STI

日本語 英語 Lay Terms
梅毒 syphilis
クラミジア chlamydia the clam
淋病 gonorrhea the clap, the drip
軟性下疳(げかん) chancroid
マイコプラズマ・ゲニタリウム mycoplasma genitalium
ウレアプラズマ・ウレアリチカム ureaplasma urealyticum

ウィルス性 viral STI

日本語 英語 Lay Terms
性器ヘルペス genital herpes cold sore/fever blister (単純疱疹)
B型肝炎 hepatitis B (HBV)
ヒト免疫不全ウイルス human immunodeficiency virus (HIV) High Five, Hi 5, the bug, the virus
ヒトパピローマウィルス human papilloma virus (HPV) genital warts, condyloma (コンジローマ)

STIには分類されない

日本語 英語 Lay Terms
伝染性単核球症 infectious mononucleosis mono, the kissing disease
カンジタ症 candidiasis, yeast infection (正確にはイコールではないが、代表的なものとしてイコールのようにあつかわれることがある) thrush(口の場合), vaginal thrush

症状

日本語 英語 Lay Terms
リンパ節のはれ swollen lymph nodes
極度のつかれ extreme tiredness
体重減少 weight loss
発熱 fever
寝汗 night sweats
黄疸 jaundice
ふだんとちがって、色の薄い便 unusually light-colored stool
理由もなく何週も、または何ヶ月もつづく疲労 unexplained fatigue over weeks or months
消化器系の症状 gastrointestinal symptoms
食欲不振、食欲がなくなること anorexia loss of appetite
吐き気、嘔吐感、嘔気 nausea
嘔吐 vomiting
腹部痛 abdominal pain stomach pain
(においをともなうこともある)膣からの異常な分泌物(おりもの) abnormal vaginal discharge (that may have an odor)
不正出血 metrorrhagia irregular vaginal bleeding, bleeding between periods
性交疼痛症、性交時の痛み dyspareunia pain when having sex, painful sexual intercourse
膣、または膣周辺のかゆみ、またはひりひり感(焼けるような感覚) itching or burning in or around the vagina
排尿痛 dysuria pain when urinating, painful urination
陰茎先端からの透明または濁った少量の分泌物 small amounts of clear or cloudy discharge from the tip of the penis
尿道口周辺のかゆみ itching around the opening of the penis
睾丸周辺のいたみ、またははれ pain and swelling around the testicles
口、下、または、頬内側のクリーム色でやや盛り上がった病変 creamy white, slightly raised lesions in the mouth, tongue, or inner cheeks
嚥下困難 dysphagia difficulty swallowing
いぼ(状のもの) warts
射精時の痛み pain on ejaculation (動詞)pain when coming

その他関連用語

日本語 英語 Lay Terms
性交 sexual intercourse sex
膣性交 vaginal sex
口腔性交 oral sex
肛門性交 anal sex
(注射)針 needle
注射器 syringe
耳にピアスを開けること ear piercing
入れ墨をすること tattooing
(おもに英で、発音はかむgumとおなじ)性関連クリニック GUM clinic, genitourinary clinic

参考資料
国際医療福祉大学大学院・押味貴之先生
ロンドン大学Adult Nursing学部・Mark Jones先生

発熱についての問診をかんがえる

発熱については、熱型と随伴症状を患者からききだしながら、鑑別診断を医師は行うという話を「発熱についてのおぼえがき」ではしました。

では、どのような質問を具体的にはするのでしょうか。こういったときは、Googleで検索してみましょう。「発熱」と「問診」をキーワードに検索してみました。問診票や、問診のコツといったなかなか興味深いトピックのウェブページが出てきました。こういったサイトを参考にしながら、医師がどのようなながれで診察をするのかを理解して、通訳の準備に役立てましょう。

海外のサイトで、発熱についての興味深い情報をのせているのが、Mayo Clinicです。世界的クリニックだけあって、このサイトはとても参考になる情報をのせていますが、発熱については、具体的にはどのような質問を医者からきかれるかということまで紹介しています。

問診の具体例

下に、Mayoの想定質問と訳を載せておきました。本文をみると、おもしいことに、すべての質問の主語が子どものケースも想定しています。これは、子どもが発熱によって、病院にかかることがおおいためです。ここでは、すべて“you”だけに主語をまとめています。もとのサイトでは、“or your child”が“you”のあとにつづいています。

もし、“your child”をつかう場合は動詞をすべて三人称に対応させる必要があることに注意しましょう。原文がすべて二人称のかたちになっているのは、“or”でむすばれた複数の主語の動詞の場合、動詞のにちかいほうの主語(名詞)に動詞が一致するからです。この点に注意しましょう。

English 日本語
When did the symptoms first occur? 症状はいつからですか(症状がはおきましたか)
What method did you use to take your temperature? どうやって熱をはかりましたか
What was the temperature of the environment surrounding you? 周囲の気温はどのくらいでしたか
Have you taken any fever-lowering medication? 解熱剤はのみましたか
What other symptoms are you experiencing? なにかほかに症状はありますか
Do you have any chronic health conditions? 慢性的な疾患はかかえていますか
What medications do you regularly take? 薬はなにかのんでいますか
Have you been around anyone who’s ill? まわりにどなたか病気の方はいませんか
Have you recently had surgery? 最近、なにか手術を受けたことがありますか
Have you recently traveled outside the country? 最近、海外にいったことはありますか
What, if anything, seems to improve the symptoms? なにか、症状が楽になる(かるくなる)ようなものはありませんか(“what”がものだけでなく行為などをさすことから「これをすれば、症状がかるくなるといったはなにかありませんか」ときくことも可)
What, if anything, appears to worsen the symptoms? なにか、症状がひどくなる(重くなる)ようものはありませんか(「これをすれば、症状がひどくなるといったはなにかありませんか」ときくことも可)

不明熱

発熱は軽い疾患(mild self-limiting illness)の場合から、命にかかわる重篤な疾患(severe life-threatening disease)の場合まで、はばひろい原因でおこっている可能性があります。下記に示す不明熱の場合は、ガンから膠原病、感染症と、重篤な疾患である可能性を徹底的に排除する鑑別診断が必要となります。とくに膵臓に問題をかかえている患者の場合(膵臓機能不全の: 形容詞asplenic) には、注意が必要です。

English 日本語
pyrexia of unknown origin (PUO) ※(古典的)不明熱
Nosocomial PUO 院内不明熱(Latin nosocomium 「病院」から)
Neutropenic PUO 好中球減少性不明熱
HIV-associated PUO HIV関連不明熱

※(1)38.8℃以上の熱(2)3週間以上継続(3)1週間の入院による検査でも診断できない


参考資料

Red Flag Symptoms – Differentiate the causes of fever

人工知能が提案した治療法で患者の容体が好転し退院へ

2016年8月4日付のNHKの報道によると、容体が悪化しつづける患者にたいして、人工知能に分析させたところ、医師とはことなる診断をくだし、さらに、その診断にもとづき別の薬をつかいことを提案、結果として、患者は退院できるまでに回復したとのことです。

専門医でも診断がむつかしいと特殊な白血病の判断をわずか10分ほどでおこなったそうで、医療の分野でも、いよいよ人工知能の活躍がはじまったかと感心させられました。

人工知能による特殊な白血病の診断・治療のポイント

(1)東京大学医科学研究所附属病院はIBMなどと協同で、人工知能をそなえたコンピュータシステム「ワトソン」に2000万件にのぼるガン研究論文を学習させて、白血病などガンの診断についての臨床検査をおこなっている。
(2)60代の女性患者は当初、医師から「急性骨髄性白血病」と診断され、この白血病に効果がある2種類の抗がん剤の治療を数か月間、受けていた。
(3)治療の効果はなく、意識障害を起こすなど容体が悪化し、その原因も分からなかった。
(4)患者の1500にのぼる遺伝子の変化のデータを人工知能に入力し分析したところ、人工知能は10分ほどで女性が「二次性白血病」という別のがんにかかっていると診断した。
(5)診断にもとづき、抗がん剤の種類を変えるよう人工知能は提案した。
(6)人工知能がひとの命をすくった国内初のケースと専門家はみている。

英語でかんがえてみよう

それぞれのポイントについて、英単語・表現についてかんがえてみましょう。みなさんも、ご自分でいろいろと表現をかんがえたり、単語をしらべてみましょう。

ポイント(1)

a.「東京大学医科学研究所附属病院」とかいった固有名詞は最近はGoogleですぐにしらべられるので、とても楽になりましたね。IMSUT Hospital, the Institute Of Medical Science, the University Of Tokyoというのだそうです。ただ公式名称のようにつなげてもいいですが、IMSUT Hospital, which is run by the Institute Of Medical Science, The University Of Tokyoなんてしてもいいのではないでしょうか。
b. 「IBMなどと協同で」といっていますが、「など」に含まれているパートナーはどのくらいいるんでしょうかね。あと一社なのでしょうか。とてもわかりづらいですよね。日本語はこういった表現がおおいので、数についての表現がきびしい英語に置きかえるときに困ります。”in cooperation with partners such as IBM”なんてしてみましょう。
c. 「2000万件にものぼるガン研究論文」というのは、きっかり2000万件というわけではないでしょうから、”some 20 million cancer-research papers”としてもいいでしょうし、”over 20 million cancer-research papers”としてもいいのではないでしょうか。
d. 「人工知能をそなえたコンピュータシステム『ワトソン』に〜を学習させて」というのは使役動詞をつかって、”by having the computer system Watson with artificial intelligence learn 〜”とするのも、ひとつのやりかたでしょう。

ポイント(2)

a.The patinet was a female in her 60s.
これは、”woman”でもいいでしょう。femaleは形容詞にもなりますので、”the female patient in her 60s”なんていい方にもつかえます。
b.「急性骨髄性白血病」は”acute myelogenous leukemia“とか、”acute myeloid leukemia”、”acute myeloblastic leukemia”、”acute granulocytic leukemia”、”acute nonlymphocytic leukemia”とか英語ではいいます。AMLという略称もおぼえておきましょう。”acute myelogenous leukemia”と”acute myeloid leukemia”がひろくつかわれているようです。語の要素を勉強している方でしたら、”myel-“と”genous”、”oid”なんて連結形をみておきましょう。
c. 「当初、医師から『急性骨髄性白血病』と診断され」については、”The physicians initially diagnosed the patient with acute myeloid leukemia”と医師を主語にしてみましょう。「diagnose 患者 with 病名」、「diagnose 患者 as 動詞ing」の形はおぼえておきましょう。
d. 抗がん剤は”anti-cancer drugs”とか”anti-cancer agents”とかいいます。
e. 治療をうけるという表現には、”The patient received the treatment of”があります。

ポイント(3)

a. 症状があらわれたりおきたりするという動詞には”develop”をつかいます。もっとも、やや堅い表現ですので、”started to suffer”などとしてもいいでしょう。
b. 「意識障害」というのは、とてもひろい範囲のことばです。”disturbance of consciousness”や”consciousness disorders”などが辞書でひくとでてくるでしょう。disordersと複数形になっていることからもわかるように、意識障害の形態はひとつだけではありません。”disturbance of consciousness”とするのが無難かなとかんがえます。本当はもっと具体的にしるした方がいいのでしょうが。

ポイント(4)

a. 「患者の1500にのぼる遺伝子の変化のデータを人工知能に入力し分析した」は”With over 1500 entries of the changes in the patient’s genetic data into the computer system processed”と付帯状況をあらわす独立構文をつかうこともできます。
b. 「二次性白血病」は”secondary leukemia”

ポイント(5)

別の薬が何種類の抗がん剤をつかうかは明示されていません。こういった場合に単数なのか、複数なのかはなやむところです。二次性白血病では複数の抗がん剤をつかうことはなさそうですが、”different anti-cancer medication for the treatment”と不可算でもつかわる”medication”をつかってみました。

ポイント(6)

a. 「専門家はみている」は”according to an expert”としてみましょう。”Experts see this case as”などとしてもいいでしょう。
b. 「人工知能がひとの命をすくった最初の例」は、”This is the first case that artificial intelligence has saved a human life in Japan.”

「治る」「回復する」「命をすくう」

医療の世界で「治る」「回復する」「治す」ということばは軽々しくつかえるものではありません。そもそも、厳密に「治る」とか「回復する」とかは何を意味するのでしょうか。記事のなかの患者は「治った」のでしょうか。1ヵ月後にぶり返して、再入院するようなことになったりしないのでしょうか。

今日を生きているニュースの世界では、「命がすくわれた」といった表現をつかうことは自然なことでしょう。明日の患者の命をかんがえることはないでしょうから。しかし、患者に寄りそう、医療の世界では、慎重になったほうがいいでしょう。

とくに、医学論文を書くばあいは気をつけたほうがいいですよ。”cure”とか”recovery”などといったことばをつかったりすると、どういう意味でつかっているんだと査読者からツッコミがはいる可能性大です。それよりは、具体的な表現がもとめられます。

発熱についてのおぼえがき

発熱は、「家庭の医学」(保健同人社)などによると、一般外来でもっともよくみられる訴えとなっています。とはいえ、熱をうったえる患者のなかには、実際に体温があがっているわけではなく、ただ熱っぽい(feeling feverish without a fever)という場合がすくなくないそうです。体温の高さによって、37℃から38℃未満を微熱(low-grade fever)とし、39℃以上を高熱(high-grade fever)といいます。なお、feverには通常、不定冠詞の”a”がつきますが、疾患名である”hay fever”にはつきません。

摂氏と華氏のちがいを理解する

アメリカ人など患者によっては、摂氏(Centigrade、℃)ではなく、華氏(Fahrenheit、°F)でしか、体温を理解していない患者もいます。とっさに計算を求められる可能性もありますので、気をつけましょう。

X°FからY℃への変換
(X-32)÷1.8=Y

Y℃からX°Fへの変換
Y×1.8+32=X

こちらに早見表がありますので、ざっとしたちがいをあらかじめ理解しておくといいでしょう。

はかる部位で体温に差がある

体温ははかる部位によって、温度がことなることに注意しましょう。一般には、わきの下ではかることがおおいとおもいます。そのほか、舌の下や肛門、耳の穴のなかなどで、体温をはかります。

部位 日本語 英語 lay terms 腋窩温基準
わきの下 腋窩温(えきかおん) armpit temperature axillary temperature
口のなか(舌の下) 舌下温・口腔温 mouth temperature oral temperature +0.3-0.5℃
直腸内(肛門) 直腸温 anus temperature rectal temperature +0.8-0.9℃
耳の穴 鼓膜温 ear temperature tympanic temperature +0.2℃

熱型をみる

よくある症状であることから、発熱の原因としてかんがえられる疾患は幅広くあります。炎症がからだのどこかでおこっていて、その反応として、熱がでることがおおいので、まずは炎症をうたがいます。ウイルスや細菌による感染症の場合がすくなくありません。鑑別診断では、熱のタイプ(熱型)や随伴症状を患者に問診しながら、診察をすすめます。

日本語 英語 特徴 原因疾患例
稽留熱(けいりゅうねつ) continuous fever 高熱がつづき、日中変動が1度以内と幅がちいさい 急性肺炎、化膿性髄膜炎、腸チフス
弛張熱(しちょうねつ) remittent fever 日中変動が1度以上と激しいが、平熱まではさがらない) 敗血症、腎盂腎炎、膀胱炎などの化膿性疾患、悪性腫瘍、インフルエンザなどのウィルス感染症
間欠熱(かんけつねつ) intermittent fever 日中変動の幅が大きく、高熱となることもあるが、平熱までも下がる。 マラリア、敗血症、腎盂腎炎
毎日熱 quotidian fever 間欠熱のうち、毎日一度熱のピークがくるもの マラリア
三日熱 tertian fever 一日置きにピークがくるもの マラリア、敗血症、腎盂腎炎
四日熱 quartan fever 間欠熱のうち、72時間に一度ピークがくるもの マラリア

随伴症状をしらべる

問診で随伴症状(associated symptoms)を問診や身体検査をすることでしらべていきます。

日本語 英語 原因疾患例
悪寒戦慄(おかんせんりつ) rigors, chills with shivering インフルエンザ、急性扁桃炎、肺炎、腎盂腎炎、産褥熱、敗血症、結核、髄膜炎
ひきつけ、痙攣発作(けいれんほっさ) fit, seizure, convulsions 疫痢、肺炎、日本脳炎、髄膜炎、インフルエンザ、猩紅熱、はしか、ジフテリア、食中毒
頭痛 headache 日本脳炎、髄膜炎、脳膜炎
耳の痛み ear pain 急性中耳炎、おたふくかぜ
のどの痛み sore throat 急性扁桃炎、ジフテリア、急性咽喉頭炎、インフルエンザ
胸痛 chest pain 肋膜炎、心膜炎、肺炎、肺膿瘍
せき cough 肋膜炎、心膜炎、肺炎、肺膿瘍
腹痛 stomachache, abdominal pain 急性虫垂炎、急性胆のう炎、急性腎盂炎、膀胱炎
関節痛 joint pain リウマチ熱、関節炎、インフルエンザ
発疹(ほっしん) rash はしか、風疹、猩紅熱、水疱瘡、突発性発疹、薬物中毒、薬物アレルギー
嘔気 nausea, sickness 感染性食中毒、日本脳炎、髄膜炎、流行性肝炎
嘔吐 vomiting, emesis 感染性食中毒、日本脳炎、髄膜炎、流行性肝炎
下痢 diarrhea 赤痢、疫痢、感染性食中毒、過敏性腸症候群
痰がからむ咳、湿性咳嗽(しっせいがいそう) productive cough 肺炎、風邪、肺結核、百日咳、はしか
sputum 肺炎、風邪、肺結核、百日咳、はしか
黄疸 jaundice, icterus, yellowing of the skin 急性肝炎、胆のう炎、胆管炎
眼球黄染 jaundice, yellowing of the whites of the eyes 急性肝炎、胆のう炎、胆管炎

原因疾患例

日本語 英語 Lay Terms
インフルエンザ influenza the flu
急性扁桃炎 acute tonsillitis
肺炎 pneumonia
腎盂腎炎 pyelonephritis
産褥熱 puerperal infection, postpartum infection, puerperal sepsis, puerperal endometritis childbed fever
敗血症 sepsis
結核 tuberculosis
髄膜炎 meningitis
疫痢 severe case of dysentery
日本脳炎 Japanese encephalitis
猩紅熱 scarlet fever, scarlatina
はしか measles, rubeola
ジフテリア diphtheria
食中毒 foodborne illness, food poisoning
脳膜炎 cerebral meningitis
急性中耳炎 acute otitis media, AOM middle ear infection
おたふくかぜ、流行性耳下腺炎 mumps, epidemic parotitis
急性咽喉頭炎 acute pharyngolaryngitis
肋膜炎 pleurisy, pleuritis
心膜炎 pericarditis
肺膿瘍 lung abscess
急性虫垂炎 acute appendicitis
急性胆のう炎 acute cholecystitis
膀胱炎 cystitis bladder infection
リウマチ熱 rheumatic fever
関節炎 arthritis
風疹 rubella German measles, three-day measles
水ぼうそう chickenpox, varicella
突発性発疹 roseola, exanthema subitum
薬物中毒 chemical poisoning
薬物アレルギー drug allergy
感染性食中毒 infectious food poisoning
流行性肝炎 epidemic hepatitis
赤痢 dysentery
過敏性腸症候群 irritable bowel syndrome, IBS
風邪 the common cold cold
肺結核 pulmonary tuberculosis
百日咳 pertussis whooping cough
急性肝炎 acute hepatitis
胆のう炎 cholecystitis
胆管炎 cholangitis

参考資料