胸痛そのものがレッドフラッグ

頭痛(headache)のレッドフラッグについて先日ふれましたが、胸痛はそれ自体がそもそも心血管疾患をうたがわせるレッドフラッグです。ですので、胸痛(chest pain)で患者が来た場合、医師はそれが命の危険がある・命をおびやかす(life threatening)心血管疾患によるものとどうか、徹底的にしらべます。

胸痛の原因となる疾患とは」であげたとおり、胸痛の原因となるのは、心血管疾患(cardiovascular diseases)だけではありません。呼吸系疾患(respiratory diseases)や、消化器系疾患(gastrointestinal diseases)、筋骨格系疾患(musculoskeletal disorders)、精神疾患(mental disorders)といった可能性があります。問診・診察・検査を通じて鑑別していくのです。

ここで、紹介されているOLD CARTはOLD CARTSともいい、以下のものから構成されています。資料によって、Aがちがっていたり、Rがちがっていたり、また2つあげているものもあります。こういったポイントについて問診をして、鑑別をすすめるのです。ちなみに、英語はこういった頭文字をつかった記憶法(mnemonic)がとても好きですが、医療の世界にもとてもおおいですので、これから徐々に紹介していきたいとおもいます。

問診 OLD CARTS/OLD CART

英語 日本語
O onset 発症
L location 部位
D duration 時間・ながさ
C characteristics 性状
A aggravating factors 増悪因子
A associated symptoms 随伴症状
R relieving factors 緩和因子
R radiation 放散
T treatment 治療(歴)
S severity 重度・激しさ

想定質問

英語 日本語
When did the pain first start? いつ痛みだしましたか
Where is the pain? 痛いのはどこですか
How long does it last? 痛みはどのくらいつづきますか
Would you describe the pain? どのようないたみですか
Do you have any other symptoms? ほかになにか症状はありますか
Does the pain travel anywhere else? 痛いか所がほかにうつったりしませんか
Are you currenly on any medication? いま、なにか薬はつかっていますか

これ以外にも、問診で聞きだすポイントとしては以下のものがあるでしょう。

問診2

英語 日本語
age 年齢
smoking 喫煙(歴)
diabetes 糖尿病(既往歴)
cholesterol コレステロール
hypertension 高血圧
obesity 肥満
metabolic syndrome メタボリックシンドローム
inactivity 活動的でないこと
unhealthy diet 不健康な食事
family history 家族歴

想定質問

英語 日本語
Do you smoke? タバコは吸いますか
Are you diabetic? 糖尿病ですか
Have you ever been told that your blood pressure was high? いままでに血圧が高いといわれたことはありますか
Are you physically active? からだをよくうごかしたりしますか
How’s your diet? どのような食事をしていますか
Does anyone else in your family have this condition? 家族でおなじ症状のひとはいますか

身体検査 physical examination

問診につづいて、まずは非侵襲的なテクニックをつかい、からだをしらべていきます。動画であげられているおもなポイントです。医師はこういったポイントに注目しながら診察をすすめていきます。

英語 日本語
inspection 視診
sweating profusely 汗をたくさんかいている
breathing rapidly 息があらい
looking anxious 不安そうにみえる
using accessory muscles to breathe 補助筋をつかって呼吸している
chest retractions 陥没呼吸
auscultation 聴診
an abnormal heart sounds 異常な心音
心雑音 heart murmur
any abnormal breath sounds 異常な呼吸音
palpitation 触診
pulses 脈拍
calf tenderness ふくらはぎの圧痛
edema むくみ、浮腫

検査 Tests

検査は心電図と血液検査、そして胸部X線がおもなものです。動画では、心電図がもっとも重要なものと説明されています。必要に応じて、心エコーechocardiographyをおこなったりします。

英語 日本語
ECG/EKG, electrocardiogram 心電図
cardiac marker 心疾患マーカー
CK-MB1 (心疾患マーカー)クレアチンキナーゼ心筋型・組織
CK-MB2 (心疾患マーカー)クレアチンキナーゼ心筋型・血しょう
troponin T (心疾患マーカー)トロポニンT
troponin I (心疾患マーカー)トロポニンI
chest X-ray 胸部X線

急患への取り組み、男女差など

胸痛の急患については、すばやい対応が必要ということで、病院がどのように努力をしているのかというレポートがあります。2年半ほど前のものなので、いまとなっては最新とはいえないまでも、興味深いものです。

残念ながら字幕は自動生成なので正確ではありません。ただ、YouTubeのページには、トランスクリプトがあります。トランスクリプトがみたければ、動画の下の「もっとみる」をクリックします。

こちらの動画は、胸痛(狭心症)における男女のちがいについてふれて参考になります。残念ながら、トランスクリプトはありません。

参考資料

American Heart Association
Chest pain – Red flag symptoms on GPonline

倒置文で動詞への意識をたかめる

一般に英語の文は、主語そして動詞という順番でつくられています。ところがときどき動詞が主語のまえに出てくることがあります。強調のために、こういったことがおこります。詩などによくでてきますが、文語といいますか、ちょっと堅い印象をあたえる文になります。

例文

Down came the rain.
動詞: came
主語: rain

こういった文に出会うととまどうものです。いくつか問題文をあげますので、ためしにいくつか解いて、なれておきましょう。こういった文を理解するコツは、まず文中の動詞をさがすことです。動詞をみつけたら、つぎに、その動詞について「誰あるいは何が」主語になっているのかをさがしましょう。

問題文

a. Up jumped the rabbit.
b. To this old inn came a visitor.
c. Away sped the blue car.
d. Here stands the monument to Frederick Douglass.
e. Beside the bed stood a lamp.
f. Down the stairs came the dog.
g. In the corner lay a lamp.

解答

動詞 主語
a jumped rabbit
b came visitor
c sped car
d stands monument
e stood lamp
f came dog
g lay lamp

余裕のある方へ

ところで、倒置によって、なにが強調されているのかは、気になるところです。おおくのひとは、動詞がまえにでてくるから、動詞が強調されるのだろうとかんがえるでしょう。僕自身、長い間そうかんがえていました。英語一般の主語・動詞という順番は「だれが」という主語が重要な英語の特徴だとおしえられてきたために、英語で重要なものはまえにくるとおもいこんでいたからです。

ところが、英語の文法・スタイルのバイブルともいうべき、The Elements of Styleによると、英語で文の一部を強調したいときに、どこにそのことばをおくのかというと文尾だそうです。

もちろん、動詞が定位置からはずれて、まえに来るわけですから、倒置文ではある程度、動詞が強調されるということはあるでしょう。The Elements of Styleにも、文尾の次にことばが強調されるのは、文頭だとしめされています。

上にあげた8つの倒置文では、主語に代名詞をあてることは適切ではありません。「代名詞では強調するに値しない」ためだとされています。こういった点をみても、動詞が主語のまえにでる倒置文でもっとも強調されているのは、主語であるといえそうです。

頭痛についての危険信号・レッドフラッグ

頭痛や胸痛、腹痛といったよくある症状で患者が来院すると、医師はその症状が危険信号(red flag/warning sigh)をともなうものであるかどうかを確認します。問診や身体検査は、こういった危険信号があるのかどうかを確認するためにすすめられます。

動画をみながら、どのようなred flagが頭痛の場合はあるのか確認しましょう。

いくつかのレッドフラッグについて整理しました。それぞれ、問診の想定質問をあげてみました。想定質問を自分でもつくってみましょう。

感染症をうたがう

発熱や、首のコリ、からだ・関節のいたみをともなう頭痛については、髄膜炎などの感染症をうたがいます。
想定質問:
      Do you have any other symptoms?
      (ほかになにか症状はありますか)
      Do you have a fever?
      (熱はありますか)

英語 日本語
headache with fever 発熱をともなう頭痛
stiffness of the neck 首のコリ、首の緊張
nuchal rigidity 項部硬直(こうぶこうちょく)
joint ache 関節痛
infection such as meningitis 髄膜炎などの感染症

脳神経系の疾患をかんがえる

片側だけに麻痺や運動障害がみられる場合や、言語障害や視覚障害については脳神経系の疾患の可能性をかんがえます。
想定質問:
      Do you have numbness or tingling in any parts of your body?
      (からだのどこかがしびれたりとか、麻痺しているとかいったことはないですか)

英語 日本語
numbness on one side of the body 片半身麻痺
weakness on one side of the body 片側に力がはいらない
difficulty with speech はなしづらい
difficulty understanding what is being said to the patient 何をいわれているのかよくわからない
difficulty in vision/diffculty in eyesight みえづらい、視覚障害
neurological complication 脳神経系合併症
stroke 脳卒中
brain tumor 脳腫瘍

発症時の行動から脳血管障害の可能性をさぐる

発症時に運動など血圧が上昇するような行為をしていると、脳内出血をおこしている可能性をかんがえます。
想定質問:
      What were you doing when the headache came on?
      (頭痛がしはじめたときには、なにをしていましたか)

英語 日本語
onset with coughing 咳をしていて発症
onset with straining いきんでいて発症
onset with exercise 運動をしていて発症
onset with sexual activity 性行為中に発症
sudden onset of headache 突然の頭の痛み(の発症)
bleed into the brain 脳内出血
hemorrhagic stroke 出血性脳卒中
ruptured aneurysm 動脈瘤破裂
brain tumor in the back of the head that interferes with the pathways of the cerebrospinal fluid 脳脊髄液の通路に干渉する後頭部の脳腫瘍
thunderclap headache 頭をぶん殴られたような頭痛
subarachnoid hemorrhage くも膜下出血

患者が50歳を超えている

患者が50歳を超えている場合は、からだにさまざまな問題がおきている可能性があるので、気をつけます。

英語 日本語
headache after age 50 50歳以降の頭痛
brain tumor 脳腫瘍
inflammations of the arteries 動脈の炎症
giant cell arteritis, GCA 巨細胞性動脈炎
temporal arteritis, TA 側頭動脈炎
jaw pain あごの痛み
tenderness of the scalp 過敏な頭皮
vision problems 視覚障害
brain tumor as metastasis from other tumors 他の腫瘍が転移した脳腫瘍

頭痛のパターンがかわった場合

慢性的に頭痛をかかえている患者の場合、いままでと頭痛の痛み方がかわったりしたばあいは気をつけます。
想定質問:
      Is this headache any different from before?
      (今回の頭痛はいままでのと、なにかちがいますか)

英語 日本語
change in the pattern of headaches 頭痛のパターンの変化
a longstanding history of headaches 長期にわたる頭痛の既往歴
a different quality to the pain 痛みの質(種類、あり方)がちがう
a different location (痛む)場所がちがう

参考資料

※参考資料にもとづいて医療英語・医療通訳の勉強のためにつくられた資料です。実際の治療や、検査のために、つくられた資料ではありません。病気・疾患になやまれたばあい、きちんと病院で治療をうけてください。

腰痛について関連用語をおぼえよう

7月の医療通訳実践トレーニングは「腰痛」がテーマでした。腰痛は、おおくの場合が、筋肉の障害が原因となっているそうです。もっとも、重篤な疾患が原因となっている可能性もありますので、診察では、発症したタイミングや、急性か慢性かという点などをしらべて、鑑別診断をおこないます。非特異的腰痛か特異的腰痛かの判断が重要になります。非特異的腰痛の説明については、東大病院の説明がわかりやすいです。理学的所見も大事になります。理学的診察の流れについては「検査の指示表現を小児整形外科でまなぼう」を参考にしましょう。

ひとつ、英語と日本語の感覚のちがいをあらわす好例がありますので、ここでふれておきます。間欠性跛行ということばが下の単語集にでていますが、これは英語でintermittent claudicationといいいます。間欠性跛行とは「一定の距離を歩くと両足全体にしびれや脱力、感覚の低下がみられ、すこし休むことでまた歩ける」(保健同人社「家庭の医学」)ようになる症状です。この症状について、「跛行」ということばをつかっているように、日本語では歩行の状態に着目しています。一方、英語のclaudicationということばをしらべると、痛みに着目したことばだということがわかります。このように、おなじ病状について、ちがうところに着目していくということが英語と日本語の病名や症状名については、しばしばありますので注意しましょう。

なお、腰痛については、Spine-healthというすぐれた米系ウェブサイトがありますのでぜひ参考にしましょう。

外傷性 traumatic

日本語 英語 Lay Terms
横突起骨折 transverse process fracture
椎体破裂骨折 burst fracture
椎体圧迫骨折 compression fracture
腰部打撲 lumbar contusion bruise on the lower back
腰部ねんざ lumbar strain pulled back muscle

非外傷性 non-traumatic 下肢症状なし no lower-limb symptom 非特異的 non-specific

日本語 英語 Lay Terms
筋筋膜性腰痛 myofascial lumbago
急性腰痛症 acute lower back pain

非外傷性 non-traumatic 下肢症状なし no lower-limb symptom 特異的 specific

日本語 英語 Lay Terms
変形性脊椎症 spondylosis deformans
分離症 spondylolysis
骨粗鬆症 osteoporosis
脊椎腫瘍 spinal tumor
脊髄腫瘍 spinal cord tumor
脊椎カリエス spinal caries
脊柱靭帯骨化 spinal ligament ossification
強直性脊椎炎 ankylosing spondylitis, AS
心因性腰痛 psychogenic lower back pain

非外傷性 non-traumatic 下肢症状なし no lower-limb symptom 非腰椎 non-spine-related

日本語 英語 Lay Terms
子宮内膜症 endometriosis
下部消化管癌 lower digestive tract cancer
股関節疾患 hip joint disorders
仙腸関節疾患 SI (sacroiliac) joint dysfunction

非外傷性 non-traumatic 下肢症状あり lower-limb symptom

日本語 英語 Lay Terms
椎間板ヘルニア spinal disc herniation slipped disc
脊柱管狭窄症 spinal stenosis an abnormal narrowing of the spinal canal
分離すべり症 spondylolisthesis
変性すべり症 degenerative spondylolisthesis
脊椎腫瘍 spinal tumor
脊髄腫瘍 spinal cord tumor

非外傷性 non-traumatic 安静時激痛あり severe pain at rest 特異的 specific

日本語 英語 Lay Terms
化膿性脊椎炎 pyogenic spondylitis
転移性脊椎腫瘍 metastatic spinal tumor

非外傷性 non-traumatic 安静時激痛あり severe pain at rest 非腰椎 non-spine-related

日本語 英語 Lay Terms
腹部大動脈瘤解離 abdominal aortic dissection
尿路結石 urolith, urinary calculus
急性腎盂腎炎 acute pyelonephritis
急性膵炎 acute pancreatitis

腰痛関連用語(問診確認項目など)

日本語 英語 Lay Terms
誘因 trigger
安静時痛 pain at rest
下肢の痛み pain in the lower limbs
しびれ numbness
間欠性跛行 intermittent claudication
排尿障害 difficulty urinating
排便障害 trouble with bowel movements
月経 menstruation
ステロイドの使用歴 history of steroid use
理学的所見 physical finding
殿筋 gluteus
下肢筋 lower-limb muscles
叩打痛(こうだつう) pain to percussion, tenderness to percussion
圧痛 tenderness

参考資料

※参考資料にもとづいて医療英語・医療通訳の勉強のためにつくられた資料です。実際の治療や、検査のために、つくられた資料ではありません。病気・疾患になやまれたばあい、きちんと病院で治療をうけてください。

主部と述部をみつけてみよう

主部と述部の説明をおぼえていますか。主部は、主語とその主語を説明していることばのグループ、述部は動詞とその動詞を説明している(動詞がなにをしているかをくわしくあらわしている)ことばのグループでしたよね。復習のために、問題をつくっていました。問題が主部だけの場合はSとしています。述部の場合はPです。主語と述部がそろっているものはSPとしています。

コツは、まず動詞をさがすということです。動詞がない場合は、主部です。引っ掛け問題はありません。動詞があった場合、その主語になる名詞があるかをさがしましょう。もし、その名詞がみつからなければ、主部がないということになります。ここに出した問題ではどれも、S、P、SPのいずれかになります。

問題

(例文): most large European cities(例)→ S

A: complained about the very slow service
B: the music stopped
C: supplies electric power to several states
D: my dad has a good sense of humor
E: a bottle of red ink
F: the linoleum on our kitchen floor
G: some parts of the world get mail only once or twice a year
H: moves through the water by a kind of jet propulsion
I: the kindly old doctor in this small Iowa town
J: a giant explosion with the force of a billion atom bombs sometimes occurs on the sun
K: several families in our neighborhood

解答

問題 説明 解答
A: complained about the very slow service complainedは動詞ですが、この動詞の主語となる言葉が言葉がありません。 P
B: the music stopped stoppedが動詞で、musicが主語です。とても短いですが、主部と述部の両方が備わっています。 SP
C: supplies electric power to several states suppliesは動詞です。主語となる言葉を探してもelectric powerもseveral statesもsupplies「供給する」の主語ではありません。 P
D: my dad has a good sense of humor hasが動詞ですね。誰が持っているのでしょう? dadです。 SP
E: a bottle of red ink 動詞がありません。 S
F: the linoleum on our kitchen floor これも動詞がありません。 S
G: some parts of the world get mail only once or twice a year getが動詞です。では、主語はどれでしょうか。主語はpartsです。some parts of the worldが主部です。 SP
H: moves through the water by a kind of jet propulsion movesが動詞です。でも、何が動いているか? 主語がありません。 P
I: the kindly old doctor in this small Iowa town いろいろ言葉は並べてあっても動詞がありません。 S
J: a giant explosion with the force of a billion atom bombs sometimes occurs on the sun 長いですが、後の方にあるoccursが動詞です。では、主語はずっと前の方にあるexplosionなんですね。 SP
K: several families in our neighborhood 動詞がありません。 S