テキスト『医療通訳』の単語集を自分のものにしよう・第1回 — 人体各部位(前面)

『医療英語の森へ』では先週おつたえしましたが、テキスト『医療通訳』の新版が今月(2018年6月)に厚生労働省のウェブサイトで公開されました。このテキストには、巻末に単語集がついていますが、その内容はとてもシンプルなものです。日本語とそれに対応する4ヶ国語の単語がならべられているだけで、とくに注釈もありません。

ところで『医療通訳』には、90ページに「情報の収集方法(用語集の作成と情報収集)」というセクションがあります。そこでは、医療通訳をめざす方に用語集の作成をうながしています。

「用語集を単なる単語帳にしないように、実際に使われている文章を丸ごと入れましょう。また、説明書きや言い換え例も入れると、より使いやすくなります」(『医療通訳』90ページ)

単語集用語集、名前はにていますが、『医療通訳』が作成をうながしている用語集とは、巻末についている単語集以上の内容をふくむものだということがわかります。では、具体的にどのように用語集をつくっていけばいいのでしょうか。

用語集は、医療通訳、そして医療通訳をめざす方がそれぞれ自分のやり方で、つくっていけばいいものです。これが正解といったものはありません。といっても、自分のやり方をみつけるためのきっかけがほしいという方もいるでしょう。そこで今回は『医療通訳』の単語集をもとに、自分だったらどのような用語集をつくるか、ということについて、おつたえしたいとおもいます。

まずは、第1回ということで「人体各部位(前面)」について、ひとつひとつステップを説明しながらやっていきます。

オリジナルの単語集をまずはみてみよう

日本語 英語
hair
眉毛 eyebrow
おでこ(額) forehead
こめかみ temple
ear
face
eye
nose
mouth
のどぼとけ laryngeal prominence / Adam’s apple
shoulder
脇(腋窩) armpit / axilla
乳首(乳頭) nipple
胸・乳房(乳房) breast
胸(胸部) chest
臍(臍部) navel / belly button
おなか(腹部) stomach (abdomen)
鼠径部 inguinal region / groin
性器 genitals / sex organ
膝(膝関節) knee (knee joint)
すね shin
足の甲(足背) instep
くるぶし ankle
足の指(足指) toe

とても、シンプルに日本語に対応した英語がのせる形で表はつくられています。

このオリジナルをもとにエクセルをつかって下の用語集をつくってみました。用語集は各単語の説明のために6項目で構成したのですが、横はばの制限もあるので、まずは3項目だけをのせています。

日本語 English(lay term) English (medicine)
hair
眉毛 eyebrow
おでこ、額[ひたい] forehead
こめかみ temple
ear
face
eye
nose
mouth
喉仏[のどぼとけ]、喉頭隆起[こうとうりゅうき] Adam’s apple laryngeal prominence
shoulder
脇、腋窩[えきか] armpit, underarm axilla
乳首、乳頭[にゅうとう] nipple mammary papilla
胸、胸部 chest, breast thorax
乳房[ちぶさ・にゅうぼう] breast mammary gland
臍[へそ]、臍部[さいぶ] navel, belly button, tummy button umbilicus, umbilical region
おなか、腹部 stomach, belly, tummy abdomen
鼠径部[そけいぶ] crotch groin, inguinal region
性器 genitals, sex organ, reproductive organ genitalia
膝[ひざ], 膝関節[ひざかんせつ・しつかんせつ] knee, knee joint
すね shin
足の甲[こう]、足背[そくはい] instep
くるぶし ankle, ankle knuckle malleolus, medial malleolus (internal malleolus), lateral malleolus (external malleolus)
足の指、足指・足趾[そくし] toe digit of the foot

日本語にふりがなをふってみる

医療用語のなかには、読み方ががむつかしいものが少なからずあります。そこで、ふりがながあった方がいいだろうとかんじた単語には[]のなかにふりがなをいれてみました。

読み方がむつかしいだけでなく、医療の世界で独特な読み方をするものもあります。たとえば、ここにはありませんが「口腔」は「こうくう」と医療の世界では読みます。ところが漢字としては「腔」は「こう」と本来は読むものだそうです。こういったこともありますので、ふりがなは必要におうじて、ふったほうがいいでしょう。

英語は一般向けと専門用語を分ける

英単語については1項目にまとめるのではなく、lay term(一般向け)と医療用語に分けてみました。言いかえが必要なときにそなえるためです。とくに専門用語がないものや、あっても、あまりにも専門用語すぎて、論文のなかでもないかぎり、つかわないものもあるでしょう。そういったものはいれていません。

ただ、そういった専門性の高い用語が必要な通訳もいるでしょう。そういった方は必要に応じてくわえていけばいいとおもいます。また、英語だけでなく、日本語も分けたい方がいいとおもう方もいるとおもいます。そういった方は、ぜひそうした方がいいとおもいます。

一般向けのことばと、専門用語について気をつけなければいけないのは、必ずしもイコールなものがそれぞれみつかるものではないということです。一般的には、専門用語の方が、こまかく部位を特定する傾向にあり、その反対に一般向けのことばはざっくりとおおまかに部位をさしたりしがちです。

たとえば、「腹」と「腹部」はおなじものをあらわしているとかんがえて問題ないとおもいますが、「臍(へそ」と「臍部(さいぶ)」は「臍部」が「臍」をふくむ周辺部をさしていますので、おなじものをあらわしているのではありません。「腹」に部をたして「腹部」なだけなんだから、「臍」に部をたした「臍部」もにたようなことなんだろうと考えたら、まちがえてしまいます。なお、この例では、一般用語でもある「臍」よりも「臍部」の方が大きい範囲をさします。

こういった単語の対応のずれは、ただ単語だけをならべてもわからないですので、あとでも書きますが、Note(注釈)をつけるようにした方がいいでしょう。

品詞も必要におうじて書いておこう

名詞ばかりだといいのですが、形容詞などには名詞なのかわかりにくいものもあったりします。とくに仕事などで用語集をシェアしたりする必要がある方は、「形容詞」「動詞」など品詞をきちんとしるしておくと、誤解がうまれたりしないでしょう。

英語にまだ自信がない方は、品詞を見分けることがにがてだったりします。用語集に「形容詞」なのか、その単語が「名詞」なのか、「動詞」なのかとしっかり書いておいて、例文を活用すると、英語力の向上に役立ちます。ぜひ、ためしてみましょう。

例文をのせよう

用語集ののこりの3項目を下にのせました。それぞれの行がどの単語のものかわかりづらいので、単語を強調表示してあります。

Example 語の構成要素 Note
People typically lose about 100 hairs a day. 髪として集合的に不可算でとなることがおおいが、一本一本の髪の毛を意味して加算となることも.
A brow lift can soften facial lines, raise the eyebrows and restore a softer, more pleasing appearance.
You may feel pressure around your eyes, cheeks and forehead.
Your doctor will make short incisions in your hairline starting at your temples.
Airplane ear can occur in one or both ears.
Usually 50 minutes out of every hour need to be spent face down.
Itchy eyes are rarely a symptom of a serious condition.
From chicken soup to neti pots to over-the-counter (OTC) medications, there are all sorts of ways to help clear a stuffy nose.
Dry mouth, or xerostomia, refers to a condition in which the salivary glands in your mouth don’t make enough saliva to keep your mouth wet.
Your thyroid gland is located at the base of your neck, just below the Adam’s apple. laryng(o)-: ギ「喉頭(larynx=voice box)」
Frozen shoulder, also known as adhesive capsulitis, is a condition characterized by stiffness and pain in your shoulder joint.
Common areas where you might notice swollen lymph nodes include your neck, under your chin, in your armpits and in your groin. axill-: ラ「わきの下」
Nipple discharge is a common symptom in women who are not pregnant or breastfeeding. mamm(o)-: ラ「胸」「乳房」. papill(-): ラ「乳頭(状突起)」「乳頭(状)の」「乳頭腫(性)の」
Patients with pectus excavatum have a distinctly sunken chest. ◎ざっくりと「胸」にあたるのはchest、breastだが、breastは乳房をさす. ◎thoraxは「胸郭」と訳されることもあるがchestと同義
I felt a lump in my right breast. mamm(o)-: ラ「胸」「乳房」.
People with indigestion may feel a mild to severe pain in the area between the bottom of your breastbone and your navel. umbil(i)-: ラ「へそ(the navel, the umbilicus)」 臍部とは臍をふくむ周辺部をさし、腹を9分割すると真ん中にあたる. 腹と腹部、胸と胸部がほぼ同義であるのに対して、臍と臍部にはちがいがある.
Viral gastroenteritis — often called stomach flu — is an intestinal infection characterized by watery diarrhea, abdominal cramps, nausea or vomiting, and sometimes fever. abdomin(o)-: ラ「腹」「腹部」 tummyは幼児語だが、おとながつかうこともある.
The groin is the area between the abdomen and the thighs on either side of the pubic bone. groinは時として、性器を意味する婉曲語としてつかわれる. crotchは「また」と訳されるが、鼠径部の方がちかいとみられる.
“You just kicked my genitals, and now they really hurt!” -gen(e)-: ギ(1)「生じるもの」「生じたもの」(2) 「種類」 性器には数おおくの俗語がある. genitalsとgenitaliaは外性器のことをさすと解釈するものもいる.
The collateral ligaments of the knee are located on the outside of your knee joint.
Many athletes get painful shin splints at one time or another.
The most important kicking skill in football is the instep drive. 狭義では、instepは足背のアーチ部.
A sprained ankle is an injury that occurs when you roll, twist or turn your ankle in an awkward way. ankleは足首のこと
Toes can break when people drop a heavy object on them or when people stub their toe. digitとは人間において手または足の指を指す.

単語を単語だけでおぼえるのはむつかしく、また使い方がわかりにくいということもあります。例文の項目をつくっておくと、他の単語とのつながりによって、おぼえることが容易になります。また、実際の使われ方をおぼえることで、自分自身の表現に活かすことができます。

この用語集では、参考までに英文についてだけ、例文を1つつけました。自分が実際につかったり、聞いたり、読んだりした表現を記入して、例文を増やしていってもいいでしょう。それぞれの英文の日本語訳を別に項目をたててのせてもいいでしょう。

語の要素をのせることでおぼえやすくしよう

接頭辞や、接尾辞など語の構成要素を意識すると、医療英単語をおぼえることがグッと楽になります。実際に語の構成要素をどのように使えばいいのかについては「語の要素をつかった医療英単語へのアプローチ」で書きましたので、参考にしていただければとおもいます。

医療英単語に関連した語の構成要素についてはインデックス化して「接頭辞・接尾辞・連結形 — INDEX」にまとめてありますので、どんどん利用してください。

Noteには、覚えておきたいことを

最後に、Note、覚え書き、備考、どんな名称でもいいのですが、気がついたことを書きこんでおく項目をたてましょう。この項目に書きこむこととしてかんがえられるのは、単語の意味とか、文法的なことなどがあります。また、医学的な解説もかんがえられるでしょう。

用語集をしばらくつかってみて、このNoteのなかで共通にみられるようなものがみつかったら、あらためて別に項目をたてて、Noteから取りだしてもいいでしょう。たとえば、医学的な定義をいろいろな単語のNoteに書きこんでいることに気がついたら、「医学的定義」(ちょっとかたい言い方ですが)という名前の項目をべつに立ててとそこに医学的な定義を書き込んでいくといいでしょう。

決まった形はない、自分にとってベストなやり方を見つけよう

いろいろと書いてきましたが、ここに書かれたやり方にしたがう必要なありません。それぞれの方が、自分にとって、最適なやり方で用語集をつくればいいとおもいます。ただ、どうやってはじめたらいいかわからないというのであれば、まずはここに書いたやり方で、やってみたらいかがでしょうか。そして、だんだんと自分のやり方をみつければいいんだとおもいます。

表をここにまとめてのせることができなかったので、画像にして下に貼りつけました。ご参考までにどうぞ。

※表は画像データとしてダウンロード可能です(6月22日追記)

東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。

参考資料