取りあつかい注意! 医療業界の隠語

いわゆる業界用語(jargon)というのがあります。おなじ仕事やサービス、商売などについている職業人たちでなりたっている社会のことを業界とよび、その業界のなかだけで基本的にはつかわれていて、その業界のそとのひとには通じないことばを業界用語といいます。業界用語のおおくは、その仕事にあわせた専門用語(technical terminology)です。しかし、業界用語のなかには、業界のそとのひとにはわからないためにつかう、口語表現・単語(colloquial terminology)、いわゆる隠語があります。

たとえば、単語を反対によむテレビ業界の隠語などは、バラエティ番組などで、取りあげられることがおおいので、きいたことがあるひともおおいでしょう。飲食業界で「お会計」の意味でつかわれる「お愛想」という隠語は、いまでは業界だけにとどまらず、おおくのひとがつかうようになっています。

医療の世界にも、業界特有の隠語はあります。おおくは、英語やドイツ語の単語からうまれた口語表現です。ここでは、おもなものを紹介したいとおもいます。ただし、取りあつかいについては、要注意です。医療通訳として、医療の現場にはいっていくうえで、こういった隠語をしることは、現場の状況を理解するうえでたいせつだとおもいます。しかし、隠語はあくまで業界のなかだけでつかわれるべきことばです。「手術」をあらわす「オペ」などは、すでに一般の方もよくしっています。しかし、おおくの隠語を一般の方はしりません。

医療通訳は、医療従事者と患者のコミュニケーションをサポートします。患者につたわることばをつたえることがたいせつなのです。そして、患者は業界のひとではないのです。業界特有の隠語をしりはじめると、ついついつかいたくなってしまいます。しかし、その誘惑には勝たなくてはいけません。医療通訳にとっては、業界用語はつかうべきことばではなく、あくまで理解できることばでとどまるべきです。通訳の際に患者や医師にむかってつかったりしないよう、くれぐれも注意しましょう。

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医療業界隠語 専門用語・一般用語
アウス 人工妊娠中絶 透明なゆりかご」で取りあげられる
アッペ 虫垂炎(appendicitis)
アナムネ 既往歴 「アナムネをとる」「アナムネーゼ聴取」
アポ 脳卒中(apoplexy) 「アポる」
アレスト 心停止(arrest)
アンビ 救急車(ambulance)
エッセン 食事
エンゼルケア 死後処置
エンゼルセット 死後処置セット
エント ENT、退院
カットダウン 経皮的穿刺(percutaneous puncture/percutaneous venous catheterization)が困難な場合、切開して血管を露出させ、カテーテルを挿入すること
コアグラ 凝血 凝固: coagulation
コードブルー 患者の容態急変などの緊急事態が発生した場合に使用される救急コール
サマリ 病歴等の要約(summary)を記した診療記録の1つ. 「退院サマリ」「週間サマリ」「月間サマリ」などがある. 記載内容は診断名・転帰、入院時の症状・所見や治療内容、入院後の経過などの要約
ステる 死亡すること
ズポ 座薬(suppository)
ゼク 解剖、剖検、病理解剖
ゼグレート
ゼプ 敗血症(sepsis) 「ゼプる」: 敗血症でショック状態におちいる
ゾロ ジェネリック医薬品
タキ 頻呼吸: tachypnea. 頻脈: tachycardia 呼吸や脈が早くなること. 「タキる」
デクビ 褥瘡、床ずれ
デコる 心不全. 「デコる」
トンボ 点滴用の針
ナート 縫合
ネク 壊死(necrosis)
ネッパツ 発熱
ハイポ 循環血液量減少(hypovolemia) 出血などでおちいる状態
パンペリ 汎発性腹膜炎(panperitonitis) 汎発性腹膜炎とは、いわゆる腹膜炎のこと
ブラディ 徐脈(bradycardia)
ベジる 植物状態になる
ヘモ 痔(hemorrhoids)
ヘルツ 心臓、心臓病
マンマ 乳房(mamma) 乳がんを指すこともある
ムンテラ 病状説明
メタ 転移(metastasis)
ラウンド 病棟や病室内の見回り
ラパコレ 腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecystectomy)
ラプ 血管が裂けて(rupture)出血すること. 「ラプる」「ラプった」
ワゴる 迷走神経反射 痛みや緊張のために副交換神経である迷走神経反射が起こり、顔面蒼白、気分不良、嘔吐、失神などが引き起こされる状態

上にあげたほかにも、医療業界の隠語はいろいろとあります。幅広く取りあげたり、解説をしているサイトがいくつかありますので、紹介します。

脳神経系についての基本の基本(末梢神経) — 医療通訳資格試験にむけて

末梢神経系については、試験対策という点からみると、おぼえるべき単語はそれほどおおくありません。「医療通訳」(2014年版)の末尾にある用語集にも、取りあげられている単語はほとんどありません。それでも、はたらきの面から、末梢神経系が自律神経系と体性神経系でわけられることは、おぼえておきましょう。

末梢神経系に自律神経系は交感神経系と副交感神経系に、体性神経系は感覚神経と運動神経におおきくわかれます。それぞれ「神経系」(nervous system)と、ここではかいたものでも、単に「神経」とあらわされることもあります。

気をつけなくてはいけないのは、脳神経系のなかで、脳そのものと脊髄をのぞく神経は、末梢神経系にはいるということです。脳から直接のびている左右12対の脳神経は、中枢神経系にはいるものとおもいがちですが、脊髄からのびる脊髄神経とともに末梢神経系にはいります。

下に単語表はつけましたが、試験で英単語がでてくることはすくないでしょう。むしろ、おおまかにはたらきをおぼえておくことが大切でしょう。

末梢神経系 まっしょうしんけい peripheral nervous system/PNS
自律神経系 じりつしんけいけい autonomic nervous system/ANS
体性神経系 たいせいしんけいけい somatic nervous system/SoNS
交感神経系 こうかんしんけいけい sympathetic nervous system/SNS
副交感神経系 ふくこうかんしんけいけい parasympathetic nervous system/PSNS
感覚神経 かんかくしんけいけい sensory nerve
運動神経 うんどうしんけいけい motor nerve
脳神経 のうしんけい cranial nerve
脊髄神経 せきずいしんけい spinal nerve

【参考資料】

脳神経系についての基本の基本(中枢神経) — 医療通訳資格試験にむけて

ホメオスタシスについては、なんども当ブログではふれていますが、脳神経系(the nervous system)は内分泌系とともに、ホメオスタシスをつかさどる司令塔の役割をになっています。

脳神経系は、中枢神経系と末梢神経系におおきくわけられます。そのうち、中枢神経系は、脳と脊髄でなりたっていますが、Bozeman Scienceの動画がとてもわかりやすいので、ご紹介します。

「医療英語の森へ」では、体内のしくみやはたらきをまなぶにあたって、「流れ」を意識することをすすめています。ただ、脳はとても複雑なはたらきをしています。流れを意識する前に、まずは「大脳」「間脳」「脳幹」「小脳」におおきくわけて、位置(構造・仕組み)とはたらきを理解することからはじめてみましょう。

中枢神経系 ちゅうすうしんけいけい central nervous system/CNS
のう brain
大脳 だいのう cerebrum
脳梁 のうりょう corpus callosum
大脳皮質 だいのうひしつ cerebral cortex
前頭葉 ぜんとうよう frontal lobe
頭頂葉 とうちょうよう parietal lobe
後頭葉 こうとうよう occipital lobe
側頭葉 そくとうよう temporal lobe
間脳 かんのう diencephalon
視床 ししょう thalamus
視床下部 ししょうかぶ hypothalamus
下垂体 かすいたい pituitary gland/hypophysis
小脳 しょうのう cerebellum
脳幹 のうかん brainstem/brain stem
中脳 ちゅうのう midbrain
きょう pons
延髄 えんずい medulla oblongata
脊髄 せきずい spinal cord

【参考資料】

泌尿器系についての基本の基本 — 医療通訳資格試験にむけて

人間という生き物が生きていくうえで、からだのなかでおきている、とても大切なことにホメオスタシスがあります。泌尿器系(the urinary system/the renal system)は、尿を生成することで、体液のバランスを調整し、ホメオスタシスに貢献しています。ホメオスタシスを理解するとともに、泌尿器系をまなびましょう。

尿は、腎臓でつくられ、尿路をとおって、からだの外にだされます。この流れをきちんとおさえましょう。腎臓は、とても重要な器官ですので、そのしくみやはたらきについては、しっかりとまなびましょう。

尿路 にょうろ urinary tract
腎臓 じんぞう kidney
腎動脈 じんどうみゃく renal artery
腎静脈 じんじょうみゃく renal vein
腎皮質 じんひしつ renal cortex
腎髄質 じんずいしつ renal medulla
ネフロン ねふろん nephron
糸球体 しきゅうたい glomerulus/(複)glomeruli
近位尿細管 きんいにょうさいかん proximal renal tubule
遠位尿細管 えんいにょうさいかん distal renal tubule
集合管 しゅうごうかん collecting tubule/collecting duct
腎盂 じんう renal pelvis
尿 にょう urine (おおくの俗語が存在する)
尿管 にょうかん ureter
膀胱 ぼうこう urinary bladder/bladder
尿道 にょうどう urethra

【参考資料】

呼吸器系についての基本の基本 — 医療通訳資格試験にむけて

呼吸器系(the respiratory system)をまなぶにあたっては、消化管をまなぶときとおなじように流れを意識しましょう。鼻からはじまり、咽喉、気管を経過し、肺へといたる流れをしっかりとおさえるようにします。

呼吸器系は、おおきくわけて、空気の通り道である気道と、ガス交換(gas exchange)の場である肺でなりたっています。気道は上気道と下気道にわかれます。鼻の穴からはいった空気は、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)から下気道(気管、気管支)をとおり、その先の肺へとむかいます。この流れをしっかりおぼえましょう。

気道は、消化器のように、常に外部環境にさらされています。そのために、外部からの侵入物にたいする防御手段がそなわっています。気道の流れをおさえながら、防御手段についてもまなびましょう。

気道 きどう airway/respiratory tract
鼻孔 びこう nostril/naris/nosehole
鼻腔 びくう nasal cavity
咽頭 いんとう pharynx
喉頭蓋 こうとうがい epiglottis
喉頭 こうとう larynx/voice box
喉仏・喉頭隆起 のどぼとけ・こうとうりゅうき Adam’s apple/laryngeal prominence
声帯 せいたい vocal cord/vocal fold/vocal reed
気管 きかん trachea/windpipe
気管支 きかんし bronchus/(複)bronchi
細気管支 さいきかんし bronchiole
はい lung(lungsとおおくの場合、複数形であらわす)
肺胞 はいほう alveolus/(複)alveoli
よう lobe

【参考資料】