テキスト『医療通訳』の単語集を自分のものにしよう・第8回 — 内分泌系

テキスト『医療通訳』の『単語集』は、人体器官図に対応して整理されているということは以前おつたえしましたとおりです。「内分泌系」については、『人体器官図』の17ページにでている上側の図が対応しています。そのため、単語集には「内分泌・血管各部位」といった分類でくくられてでています。

血管については、循環器系のところでまとめたいので、ここでは内分泌腺だけを取りみました。ただし、このなかにでている胸腺については内分泌腺とすることに否定的な見方をするむきもあります。視床下部についても、内分泌系の司令塔として、非常に重要な役割をになっていますが、他の内分泌器官とわけてかんがえる見方があります。

※「自分のもの」にするためのすすめ方については第1回を参照。

オリジナルの単語集を確認

日本語 英語
松果体 pineal body
視床下部 hypothalamus
脳下垂体 pituitary gland
甲状腺 thyroid
胸腺 thymus
膵臓 pancreas
副腎 adrenal gland
精巣(睾丸) testis / testicle
卵巣 ovary

日本語・一般むけ・専門用語

日本語 English(lay term) English (medicine)
松果体[しょうかたい] pineal gland, pineal body (epiphysis cerebri)
視床下部[ししょうかぶ] hypothalamus
脳下垂体[のうかすいたい]、下垂体 pituitary gland, pituitary body (hypophysis cerebri)
甲状腺[こうじょうせん] thyroid gland, thyroid
胸腺[きょうせん] thymus
膵臓[すいぞう] pancreas
副腎[ふくじん] adrenal gland
精巣[せいそう]、睾丸[こうがん] testis, testicle
卵巣[らんそう] ovary

例文・語の構成要素・おぼえがき

Example 語の構成要素 Note
The endocrine system includes the pituitary, thyroid, parathyroid, adrenal, and pineal glands. epiphysis cerebriとしての使用例はすくない. endocrine system: 内分泌系. thyroid gland: 甲状腺. parathyroid gland: 副甲状腺. adrenal gland: (suprarenal glandとも) 副腎.
The hypothalamus, thymus, heart, kidneys, stomach, small intestine, liver, skin, female ovaries, and male testes are other organs that contain cells with endocrine function. hyp(o)-: ギ「下に」「以下」. thymus: 胸腺. ovary: 卵巣. testis: (複 testes; testicleとも)精巣.
The pituitary gland secretes growth hormone (GH), which, as its name implies, controls bone growth in several ways. hypophysis cerebriとしての使用例はすくないが、こちらを主要につかっている分類もある. secrete: (動詞)分泌する.
The activity of the thyroid gland is regulated by thyroid-stimulating hormone (TSH), also called thyrotropin. thyr(o)-: ギ「甲状腺」. thyroid-stimulating hormone (TSH): 甲状腺刺激ホルモン (サイロトロピン).
The thymus is an organ of the immune system that is larger and more active during infancy and early childhood, and begins to atrophy as we age. thym(o)-, -thymia: ギ 1. 「胸腺」 2. 「こころ」「精神」「感情」.
The pancreas has both exocrine and endocrine functions. pancreat(o)-: ギ「膵(臓)」. exocrine: (形容詞)外分泌の. endocrine: (形容詞)内分泌の.
The adrenal gland produces epinephrine and norepinephrine to be released into the blood stream as hormones. ad-: ラ「方向」「変化」「付加」「完成」「開始」「近似」「単なる強意」. adren(o)-: ラ「副腎」. ren(i/o)-: ラ「腎(臓)」. epinephrine: エピネフリン(アドレナリンとも); 血糖上昇, 心拍出増加作用がある. norepinephrine: ノルエピネフリン(ノルアドレナリンとも).
The testes (singular = testis) are the male gonads—that is, the male reproductive organs. test(i)-: ラ「睾丸(testicle)」「証人」. gonad: 生殖腺、性腺.
Each of the two uterine tubes (also called fallopian tubes or oviducts) is close to, but not directly connected to, the ovary and divided into sections. ovar-, ovari(o)-: ラ「卵巣」「卵巣と…の」. ov(o/i)-: ラ「卵(eggs, the ovum). uterine tube: 卵管(fallopian tubeまたはFallopian tube ファロピウス管/らっぱ管とも).

※下表は画像データとしてダウンロード可能です。

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参考資料

PamさんとFossさんの関係はとても複雑? — 危険因子をたずねる表現例をまなぼう

当ブログでは今まで、医療従事者の方が患者から現病歴について聞きだすポイントについて、OLD CAARTSや、OPQRSTといった頭字語をつかって紹介してきました。今回は、ちょっとふざけたタイトルをつけています(その理由はあとで説明します)が、現病歴から一歩踏みこんで、危険因子・リスクファクター(risk factor)について聞きだすポイントを紹介し、それぞれの表現例をみていきたいと思います。医療通訳の方は、こうした医療の現場でつかわれる可能性がある表現をまなび、現場にそなえましょう。

まず、危険因子・リスクファクターとはなにかということですが、東京医療福祉大学の押味貴之先生は自著のなかで「主訴にまつわる現病歴以外のものの総称」と説明しています(『Dr.押味の あなたの医学英語 なんとかします! 』)。医学書院の『医学大辞典』では、「個人の生活習慣や行動、遺伝的要因、生化学検査値などの生物学的なマーカー、大気汚染や電磁波などの環境要因のうち、関心のある疾病を引き起こすものをいう」となっています。つまり、現在悩んでいる病気の原因となるような患者の背景に存在するさまざまなものをさしているということです。

危険因子について患者にたずねるポイントについては、現病歴のOLD CAARTSとおなじように頭文字をつかったゴロ合わせ(mnemonic)があります。そのなかでは、PAM HUGS FOSS (PamさんがFossさんをハグする)が広く知られています。そのほか、『Dr.押味の あなたの医学英語 なんとかします! 』 で紹介されている「PAM HITS FOSS(PamさんがFossさんをたたく)」があります。PamさんがFossさんをハグしたり、たたいたりするので、2人の関係は「とても複雑」と言ったのです。

それでは、それぞれの頭文字があらわす意味をみていきましょう。

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PAM HUGS FOSS

  • Previous presence of the symptom: 既往歴
  • Allergies: アレルギー歴
  • Medicines: 薬の服用歴
  • Hospitalization: 入院歴
  • Urinary changes: 泌尿器系の変化
  • Gastrointestinal complaints: 消化器系の症状
  • Sleep pattern: 睡眠パターン
  • Family history: 家族歴
  • OB/GYN history: 産科・婦人科歴(妊娠歴・月経など)
  • Sexual habits: 性習慣(性交歴)
  • Social life: 社会生活(社会歴)

PAM HITS FOSS

こちらは”HUGS”の部分が”HITS”にかわったほかは共通です。

  • Hospitalization: 入院歴
  • Illness: 病歴
  • Trauma: 外傷歴
  • Surgery: 手術歴

既往症状の有無 Previous presence of symptoms

英語 日本語
Have you ever had the same symptoms before? 今までに同じ症状が出たことがありますか?
Was it exactly the same as now? その症状は今の症状と全く同じですか?

アレルギー歴 Allergies

英語 日本語
Are you allergic to any medications? 何か薬のアレルギーがありますか?
Have you ever had an allergy to medication? 薬でアレルギーが出たことがありますか?
Have you ever had any side effects from your medicines? 服用している薬で副作用が出たことがありますか?
Are you allergic to any food? 何か食べ物のアレルギーはありますか?
What happened when you got the allergy? アレルギーが出た時はどのような症状が出ましたか?

薬の服用歴 Medicines

日本の医療機関では、サプリメントについてまでたずねたりしないところがあるとおもいます。海外では、サプリメントをふくめ、頭痛薬・目薬などの市販薬や、ハーブ・漢方薬など幅ひろく薬として患者から使用歴の有無をたずねるよう指導されています。

英語 日本語
Are you currently on any medication 現在何か薬を服用していますか?
Are you currently on any supplements? 現在サプリを常用していますか?
Are you taking any supplements now? 現在サプリを飲んでいますか?
Do you take the medication as prescribed? 指示どおりに薬を飲んでいますか?
What kind of medicine do you usually take to relieve your headache? 頭痛がするときは通常どんな薬を飲んでいますか?

入院歴(既往歴) Hospitalization (Past medical history)

英語 日本語
Have you ever been hospitalized before? 今までに入院されたことはありますか?
Have you ever been admitted to hospital before? 今までに入院されたことはありますか?
For what were you hospitalized? 入院した理由はなんですか。

泌尿器系の変化 Urinary changes

排尿の頻度や、量をたずねます。

英語 日本語
Do you urinate more often than usual? 尿をする回数がいつもより多いなといったことはないですか。
Any pain or burning upon urination? 尿をするときに痛みがあったりとか、ヒリヒリしたりする感じがしたりということはないですか。
Any blood in your urine? 尿に血が混じっていたりしませんか。

消化器系の症状 Gastrointestinal complaints

英語 日本語
Any change in your appetite? 食欲に変化があったりしましたか。
Did you throw up? 戻したりしましたか。
Did you have heartburn when you slept? 寝ているときに胸焼けになったりしましたか。

睡眠パターン Sleep pattern

英語 日本語
Do you have trouble falling asleep? 寝付けないとかはありますか。
Once asleep, do you generally sleep through until the morning? 一回寝てしまったら、だいたい朝までずっと寝ていますか。
How many hours of sleep do you get on average? 平均して何時間くらい眠りますか。
Do you snore? いびきはかきますか?

病歴 Illness (Past medical history)

米国などでは、婉曲表現としてillnessではなくhealth problemが患者への質問として使われることがあるとの指摘もあります。

英語 日本語
Haye you ever had any serious health problems before? 今までに重病を患ったことがありますか?
Have you had tuberculosis? 結核にかかったことがありますか?
Have you ever had any serious infectious diseases? 今までに重い感染症にかかったことがありますか

外傷歴 Trauma

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)が定着しているため、患者が混同することを避けるため、第1英語圏ではmajor injuryをつかった方がいいとの指摘があります。日本で医療通訳をする場合、第1英語圏の以外の方が多数派であることもかんがえて通訳しましょう。

英語 日本語
Have you ever had any major injuries before? 今までに大怪我をしたことがありますか?
Have you ever had bone fracture? 骨を折ったことはありますか。

手術歴

英語 日本語
Have you ever had any surgery before? 今までに手術をしたことがありますか?
Have you ever had any operations before? 今までに手術をしたことがありますか?
Have you ever had an operation for a lung problem? 肺の病気で手術をしたことはありますか?
Have you ever had an operation for your heart? 心臓の手術をしたことはありますか。

家族歴 Family history

基本的には、近親者についての健康歴をたずねます。3世代に渡って集めるのがのぞましいとの指摘もあります。養子であるかどうかもたずねたりします。

英語 日本語
Do you have any health problems in your family? ご家族で病気にかかっている方はいらっしゃいますか?
Does anyone in your family have similar symptoms? ご家族の中で同じような症状がある方はいらっしゃいますか?
Does anyone in your family have high blood pressure? ご家族の中で高血圧の方はいらっしゃいますか?
Is there anyone in your family who has a cold now? ご家族の中で今風邪を引いているかたはいらっしゃいますか?
Have any of your family members suffered from diabetes? ご家族の方で糖尿病になった方はいらっしゃいますか?

産科・婦人科歴(妊娠歴・月経など) OB/GYN history

英語 日本語
When was your last menstrual period? 一番最近の生理はいつでしたか?
When was the first day of your last menstrual period? 一番最近の生理ですが、始まった日はいつでしたか。
Is there any possibility that you might be pregnant? 妊娠している可能性はありますか?
Haye you ever been pregnant? 妊娠したことはありますか?
Have you ever had an abortion or miscarriage? 中絶や流産をしたことがありますか?

性習慣(性交歴) Sexual habits

日本では、つっこんだ質問はあまりしないかもしれません。しかし、欧米ではかなり率直に質問することがあります。ただし、こういったプライベートな質問については、礼を失しないよう前置きを第1英語圏では慎重にします。率直な質問と失礼な質問にはちがいがあることをおぼえておきましょう。LGBTQなど、性的オリエンテーションについての理解ももとめられます。

英語 日本語
Are you currently sexually active? 現在セックスをしていますか?
How many sexual partners have you have had in the past 12 months? この一年でセックスした相手は何人いますか?
Do you have sexual intercourse with men, women, or both? セックスする相手は男性と女性のどちらでしょうか、もしくは両方でしょうか?

社会生活(社会歴) Social life

社会歴についての質問ては、SODAというゴロ合わせであらわされる4つの質問群に細分化されます。

  • Smoking: 喫煙歴
  • Occupation: 職業歴
  • Drugs: (違法)ドラッグ(薬物使用歴)
  • Alcohol: 飲酒歴

喫煙歴 Smoking

英語 日本語
Do you smoke? 喫煙されますか?
How many cigarettes do you smoke a day? 一日に何本タバコを吸いますか?
How long have you been smoking? 喫煙歴はどれくらいですか?
When did you quit smoking? タバコをやめたのはいつですか?

職業歴 Occupation

英語 日本語
What do you do for living? ご職業は何ですか?
What is your occupation? ご職業は何ですか?
Tell me about your work. Has it gotten busier lately? お仕事について教えて下さい。最近は忙しくなりましたか?
How’s your work going? Are you busier than before? お仕事はいかがですか?前よりも忙しいですか?

(違法)ドラッグ/薬物(薬物使用歴) Drugs

英語では、recreational drugsという表現がありますが、なかなか日本語に訳すのがむつかしいことばです。というのは、マリファナが最初は薬用として、そして今では嗜好品として欧米諸国では受け入れられるようになっているからです。そのため、drugsをillegalとかillicitという「違法」という形でくくることが困難になりました。ここでは、合法化されたマリファナと、依然として非合法の各種薬物を含んで、その使用経験の有無をきいています。recreational drugsについては「嗜好品としてドラッグ(薬物)を服用したことがありますか」というくらいが一番おさまりとおもわれます。といっても、アメリカなどに医療通訳としての活動の場をもとめる方の場合です。日本では「違法ドラッグ」となります。こういったことばは、社会の変化と文化のちがいがはっきりとでてくるところです。

英語 日本語
Haye you ever used any recreational drugs before? 嗜好品としてドラッグ(薬物)を使ったことがありますか?
Which drugs do you use? どんなドラッグ(薬物)を使っていますか?
Which drugs did you use? どんなドラッグ(薬物)を使っていましたか?

飲酒歴 Alcohol

英語 日本語
Do you drink alcohol? 飲酒はされますか?
What about drinking? 飲酒についてはいかがですか?
What type of alcohol do you drink? どのようなアルコール飲料を飲まれますか?
How many drinks do you have in a week? 一週間にどれくらい飲酒されますか?

参考資料

テキスト『医療通訳』の単語集を自分のものにしよう・第7回 — 脳神経系

テキスト『医療通訳』の『単語集』は、人体器官図に対応して整理されています。そのため、「脳(中枢神経)」については、『人体器官図』の15ページに対応し、「脳(中枢神経)・皮膚各部位」といったことなる器官系がひとつになったグループになってしまっています。

医療知識を整理し、医療現場にそなえるという用語集の用途からかんがえると、このグループ分けをそのまま「自分のもの」に引きつぐというのは適切とはかんがえられません。そこで、『人体器官図』14ページとあわせて、「脳神経系」という分け方で、「自分のもの」(用語集)用の表をつくってみました。

※「自分のもの」にするためのすすめ方については第1回を参照。

オリジナルの単語集を確認

オリジナルの単語集の311ページにある「自律神経」に、「脳(中枢神経)・皮膚各部位」の「脳(中枢神経)にあたる部分(オリジナルの単語集にある番号でいうと、1〜20)を抜きだしてくわえたものです。

日本語 英語
自律神経 autonomic nerve
交感神経 sympathetic nerve
副交感神経 parasympathetic nerve
中枢神経 central nerve
末梢神経 peripheral nerve
頭蓋骨 skull / cranium
脳弓 fornix
大脳 cerebrum
脳梁 corpus callosum
間脳 diencephalon / interbrain
視床 thalamus
松果体 pineal body
視床下部 hypothalamus
中脳 mesencephalon / midbrain
小脳 cerebellum
pons
延髄 medulla oblongata
脊髄 spinal cord
脳幹 brainstem
硬膜 dura mater
くも膜 arachnoid mater
軟膜 pia mater
視交叉 optic chiasm
髄膜 meninges
脳下垂体 pituitary gland

日本語・一般むけ・専門用語

日本語 English(lay term) English (medicine)
自律神経[じりつしんけい]、自律神経系[じりつしんけいけい] autonomic nerve, autonomic nervous system/ANS
交感神経[こうかんしんけい]、交感神経系[こうかんしんけいけい] sympathetic nerve. sympathetic nervous system/SNS
副交感神経[ふくこうかんしんけい]、副交感神経系[ふくこうかんしんけいけい] parasympathetic nerve, parasympathetic nervous system/PSNS
中枢神経[ちゅうすうしんけい]、中枢神経系[ちゅうすうしんけいけい] central nerve, central nervous system/CNS
末梢神経[まっしょうしんけい]、末梢神経系[まっしょうしんけいけい] peripheral nerve, peripheral nervous system/PNS
頭蓋骨[とうがいこつ(ずがいこつ)] skull skull, cranium
脳弓[のうきゅう] fornix
大脳[だいのう] cerebrum
脳梁[のうりょう] corpus callosum
間脳[かんのう] diencephalon (interbrain)
視床[ししょう] thalamus
松果体[しょうかたい] pineal gland, pineal body (epiphysis cerebri)
視床下部[ししょうかぶ] hypothalamus
中脳[ちゅうのう] midbrain (mesencephalon)
小脳[しょうのう] cerebellum
橋[きょう] pons
延髄[えんずい] medulla oblongata, medulla
脊髄[せきずい] spinal cord
脳幹[のうかん] brainstem
硬膜[こうまく] dura mater, dura
くも膜[くもまく] arachnoid mater, arachnoid
軟膜[なんまく] pia mater, pia
視交叉[しこうさ] optic chiasm, optic chiasma
髄膜[ずいまく] meninges (単数形: meninx)
脳下垂体[のうかすいたい]、下垂体 pituitary gland, pituitary body (hypophysis cerebri)

例文・語の構成要素・おぼえがき

Example 語の構成要素 Note
The autonomic nervous system is responsible for involuntary control of the body, usually for the sake of homeostasis (regulation of the internal environment). aut(o)-: ギ「自身の」「独自の」「自動の」. nerv(i/o)-: ラ「神経(系)」(まれ、ほぼ neur(i/o)-が使われる).
Thee sympathetic nervous system is responsible for dilating the pupil when light levels are low. sy, syl-, sym-, syn-, sys-: ギ「共に」「同時に」「類似」.
Regulation of pancreatic secretion is the job of hormones and the parasympathetic nervous system. par(a)-, hの前ではpar-: ギ「副次的」「異常」「疑似」.
The central nervous system (CNS) is the brain and spinal cord, and the peripheral nervous system (PNS) is everything else.
The peripheral nervous system is so named because it is on the periphery—meaning beyond the brain and spinal cord. peri-: ギ「近い」「まわり[周囲]の」.
The brain is contained within the cranial cavity of the skull. crani(o)-: ギ→ラ「頭蓋」 一般的には「ずがいこつ」と読むが、医学的には「とうがいこつ」. craniumといった場合、下顎骨(mandible)をふくまない分類もある.
One of the primal pathways of the outputs from the hippocampus is the fornix.
The adult brain is separated into four major regions: the cerebrum, the diencephalon, the brain stem, and the cerebellum. cerebr(o)-: ラ「脳」「大脳」. 終脳(telencephalon)として分類されることもある.
For a verbal command to initiate movement of the right arm and hand, the left side of the brain needs to be connected by the corpus callosum. corp(o)-, corpor-, corpus-: ラ「体」.
The diencephalon continues to be referred to by this Greek name, because there is no better term for it (dia- = “through”). dia-: ギ「を通じて」「を横切って」「通して」. cephal(o)-: ギ「頭」「頭部」. interbrainとしての使用例はすくない.
The two major regions of the diencephalon are the thalamus itself and the hypothalamus.
The endocrine system includes the pituitary, thyroid, parathyroid, adrenal, and pineal glands. epiphysis cerebriとしての使用例はすくない. endocrine system: 内分泌系. thyroid gland: 甲状腺. parathyroid gland: 副甲状腺. adrenal gland: (suprarenal glandとも) 副腎.
The hypothalamus, thymus, heart, kidneys, stomach, small intestine, liver, skin, female ovaries, and male testes are other organs that contain cells with endocrine function. hyp(o)-: ギ「下に」「以下」. thymus: 胸腺. ovary: 卵巣. testis: (複 testes; testicleとも)精巣.
The brain stem includes the midbrain, pons, and medulla. mesencephalonとしての使用例はすくない.
In the adult brain, the cerebellum seems close to the cerebrum, but there is no direct connection between them. cerebell(i/o)-: ラ「小脳(cerebellum)」.
The pons and the medulla regulate several crucial functions, including the cardiovascular and respiratory systems and rates.
Nervous control over heart rate is centralized within the two paired cardiovascular centers of the medulla oblongata. medull(i/o)-: ラ「髄」「髄質」.
The vertebral column also protects the spinal cord, which passes down the back through openings in the vertebrae. spin(i/o)-: ラ→古仏『脊柱」「脊髄」. vertebral column: 脊柱. vertebra: 椎骨; 複数形 vertebraeで集合的に脊椎とも.
The motor neurons that tell the skeletal muscle fibers to contract originate in the spinal cord, with a smaller number located in the brainstem for activation of skeletal muscles of the face, head, and neck. motor neuron: 運動ニューロン. skeletal muscle fiber: 骨格筋線維.
The dura mater is a thick fibrous layer and a strong protective sheath over the entire brain and spinal cord. fibrous: adj. 線維(質)の. sheath: 鞘[しょう].
The arachnoid mater is a membrane of thin fibrous tissue that forms a loose sac around the central nervous system. -oid: ギ「~のような(もの)」「~状の(もの)」「~質の(もの)」. membrane: 膜. fibrous tissue: 線維組織.
The outer surface of the central nervous system is covered in the thin fibrous membrane of the pia mater.
The axons from the medial retina of the left eye cross over to the right side of the brain at the optic chiasm. op-, opia, -opic, ops(i/o)-, —opsia, -opsis, opt-, -optic, optico-, -opy: ギ「視力」「視覚障害」. axon: (神経細胞の)軸索. medial: (形容詞)内側の、正中線側の、中心線側. retina: 網膜.
The suffix “-itis” denotes inflammation of a specific organ or type, for example, meningitis refers to the inflammation of the meninges, the tough membranes that surround the central nervous system.
The pituitary gland secretes growth hormone (GH), which, as its name implies, controls bone growth in several ways. hypophysis cerebriとしての使用例はすくないが、こちらを主要につかっている分類もある. secrete: (動詞)分泌する.

※下表は画像データとしてダウンロード可能です。

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参考資料

現病歴をたずねる表現をまなび、医療現場にそなえよう — OPQRST

患者が体調不良になやみ、病院・クリニックをおとずれると、病院側は頭痛や腹痛、発熱など、抱えている体調不良について、さまざまなことをたずねてきます。その質問は問診票というかたちをとることもありますし、実際に診察室にはいってから医師に直接たずねられることもあるでしょう。

こういった現病歴をたずねる(history taking/HX)ということは、診断にたどりつくために、とても重要なプロセスです。医療通訳は、どのようなコミュニケーションが診察室のなかでかわされるのかということを知り、現場対応への準備を整えていくことがかかせません。現病歴について質問する表現についても、まなんでおくことが大事でしょう。

当ブログでは以前に現病歴をたずねる表現をまなぼう — OLD CAARTSで、OLD CAARTSという造語(頭字語)であらわされる現病歴をたずねるために必要な重要項目を取りあげました。今回は、OPQRSTを取りあげて、さまざまな質問例を紹介したいと思います。

OPQRSTは医学部の授業や、病院の研修でも取りあげられていますので、国内ではOLD CAARTS以上に幅ひろくつかわれているようです。国際医療福祉大学医学部の押味貴之先生の「Dr.押味の あなたの医学英語 なんとかします!」でくわしく取りあげられています。こちらは、医療従事者の方には、オススメの本です。

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Onset 発症様式

患者が病院にきた理由となっている症状(主訴 chief complaint)について、いつ・どのようにおこったのか(発症したしたのか)質問します。

English 日本語
When did the symptom start? いつから症状がありますか。
When did you first feel the pain? 痛みはいつからですか 。
When did you first notice the symptom? その症状に初めて気づいたのはいつですか 。
How did it happen? どのようにしてなりましたか 。
Did it start suddenly or gradually? 急になりましたか、それともだんだんとですか 。
Did the pain come on all of a sudden at one point in time? ある瞬間から突然痛みが起こりましたか 。
Did the pain become intense a few minutes after you first felt it? 痛いと感じて数分間で強い痛みになりましたか 。
Did the pain become gradually strong? 徐々に強い痛みになりましたか 。
Did the chest pain come on at rest or while working? 胸の痛みは休んでいるときにおこりましたか、それとも何かしているときですか 。

Provoking & Palliating factors 増悪・緩解因子

症状を悪化させたり、あるいはやわらげる効果がある動作についてたずねます。

English 日本語
What makes the pain worse? なにをすると痛みはひどくなりますか 。
What makes the pain better? なにをすると痛みは楽になりますか 。
Does the pain get worse when you move or cough? 体を動かしたり咳をすると痛みは増強しますか 。| 
Does vomiting or having a bowel movement ease the pain? 嘔吐や排便によって痛みは軽減しますか 。
Any movement making it worse? なにか、こういった動きをするとひどくなるといったことはありますか 。

Quality 症状の性質

症状がどのようなものかを質問します。痛みであれば、鋭い痛みか、鈍い痛みかといった特徴をききだします。OPQRSTのSは、一般的にはseverityをあらわし、痛みの強度をたずねますが、痛みの強度は症状の性質の一部として、ここにいれ、Sをsymptoms(関連症状 associated symptoms)と解釈する方もいます。

English 日本語
Could you describe the symptom? 症状をくわしく教えてください 。
Tell me what it feels like. どのような感じか話してください.
What type of pain is it? 痛みのタイプを教えてください 。
Is the pain sharp or dull? 鋭い痛みですか、鈍い痛みですか 。
Is there a pattern to it? For example, it comes on when you are sleeping or it comes on every three hours, or anything. 何かパターンはありますか 。たとえば、寝てるときにおこるとか、3時間ごとに症状がでるとか、なにかありますか 。

Region & Radiation 場所、放散の有無

症状の出ている場所をたずねます。症状が一箇所にとどまっているか、それともひろがっているかなども、質問します。

English 日本語
Could you show me where it hurts? 痛い場所を教えてください 。
Does the pain move anywhere else? 他の場所に痛い場所が動いたりしませんか 。
Does the pain move around? 痛い場所が動いたりしませんか 。
Does the pain stay at just one specific area or does it spread? 痛みは一箇所だけですか、それとも広がっていますか 。

Severity (& Symptoms) 症状の強さ (+関連症状)

スケールなどをつかって、症状の強さを質問します(主観的な「痛み」を数値化して、可視化することは診察の重要な一面を象徴しています)。もともとのOPQRSTの考え方では、症状の強さだけをSではあらわしているようですが、関連症状をここにふくんだり、Qを強度として、Sでは関連症状だけとするなど、いまでは、解釈が別れています。

English 日本語
How severe was it when it started? 初めはどの程度の痛みでしたか。
On a scale of 0/1 to 10, with 0/1 being no pain and 10 being the worst pain you can imagine, how would you rate your pain? 0から10で痛みを表すとして、0が痛みがなく、10が想像できる最悪の痛みだとしたら、痛みはどのくらいですか。
Anything else you’ve noticed? ほかに何か気づいたことはありますか?
Have you lost weight lately? 最近、体重がへったりしていますか?
Have you gained weight lately? 最近、体重が増えたりしていますか?
How about your appetite? Any change there? 食欲はどうですか。 何か変化はありますか。
Are you experiencing any other symptoms? 何かほかに症状はありますか。

Time (history) 時間経過(歴史)

「いつ」とたずねる点で、Oの発症と質問がにている部分もあります。Oが発症時に焦点をあてているのに、発症から今までの時間経過や、その中での変化なども質問していきます。

English 日本語
How long have you had these symptoms? どのくらい症状は続いているのですか。
Does the headache come and go? Or do you have it all the time? 痛みはでたり、でなかったりするんですか。 |それともいつも痛いんでしょうか。
How long since the pain was at its worst point? 痛みが一番ひどかったときからどのくらいたっていますか。
How long since it seemed to improve? よくなったように感じてからどのくらいたちましたか。
How long since it stopped hurting? 痛まなくなってからどのくらいたっていますか。

参考資料

東京医大の入試結果操作でかんがえる — ジェンダー、教育、グローバル・トレンド

東京医大の入試について不正行為があったことにつづいて、採点結果を操作し女子合格者の数を抑制したことが問題視されています。フランス大使館がツイッターでこの問題を取り上げ、やや皮肉をこめてフランス医学部への進学を誘うなど、海外からも注目をあつめていて、報道機関にも幅ひろく取りあげられています(英FT独DW米Scienceなど)。

東京医大がなぜこういういことをしたのかという理由については、大学の元幹部がTBSのインタビューの中で「体力的にきつく、女性は外科医にならないし、へき地医療に行きたがらない。入試を普通にやると女性がおおくなってしまう」とこたえて、性差別の問題ではなく「日本の医学の将来に関わる問題だ」との危機感があったとはなしています。

注目したのは、女性の優秀さへの認識と、女性医師が増えることが日本の医療の負担につながるという意識です。この2点を中心に、海外との比較もふくめて、いろいろとしらべてみました。しらべればしらべるほど、スッキリした答えがみつかるような話ではないということがわかりました。と同時にとても興味ぶかい発見がいくつもありました。

女子が優秀との認識

TBSの元幹部のインタービューでは「入試を普通にやると女性がおおくなってしまう」といっていますが、女子合格者の数が男子合格者を上まわってしまうだろうという意味なのか、単に現状よりも女子合格者がふえてしまい「日本の医学の将来」にとってのぞましい水準を超えてしまうという意味なのかは、よくわかりません。すくなくとも、試験の点数操作をせずにはいられないほどには優秀だと試験をおこなう側はみているということはわかります。

ある医師は、医学部と理学部をのぞく全学部の入学試験で女子の合格率が男子を上まわり、理学部ですら同水準であるという今の大学入試の状況をしめし、医学部だけ女子の合格率が低いのは不自然と書いています。医学部の試験にバイアスがかかり、女子学生へのガラスの天井となっている可能性を東京医大の事件が発覚する前から指摘しているのです。この医師は、男子に対する女子の優位性をかならずしも主張しているわけではないですが、今の医学部合格率が女子の能力を反映しているとはみていません。

もっと踏みこんでいるのは、ある著名な医師タレントで、出演中のテレビ番組で今回の事件が取りあげられると「試験の点数だけで上から入学させたら女性だけになってしまう」」と発言しています。入学試験における女子の優位性について、あたかも医学界の常識かのように話しているのです。

個人的な肌感覚としては、企業で採用を担当した複数の方と話した経験から、女子の方が優秀なのだという見方に納得しそうになります。大手電機メーカーの人事担当だった方や、中小企業で採用を行った方などは、いずれも採用プロセスで優秀な方から採っていったら女性ばかりになってしまうだろうと話していました。ある外資系企業で採用にかかわった方は、Diversityを確保するために、男性の応募者に「ゲタをはかせなければいけない」のだと、人材採用のむつかしさを説明してくれました。

しかし、実際のところ、男女の学習能力というのはどうなっているのでしょうか。

男女別の成績をみてみると

大学受験レベルの男女別の成績をデータとしてさがしてみたのですが、残念ながらみつけることはできませんでした。センター試験が男女別のデータを公開してくれていればいいのですが、残念ながらそのようなデータは発表されていません。男女共同参画社会を本気でめざすのであれば、課題を洗いだすべきでしょうから、こういったデータを公開した方がいいとおもいますので残念です。

高校受験レベルの成績であれば、男女別の学習能力を示すデータをみつけることはできます。まずは、OECDが各国と協力しておこなっているPISA(Programme for International Student Assessment、生徒の学習到達度調査)があります。

OECDのPISAは、各国の15歳児を対象に「科学的リテラシー」「読解力」「数学的リテラシー」の3分野についてしらべています。2015年におこなわれた調査には、72か国・地域(OECD加盟35か国、非加盟37か国・地域)約54万人の生徒が参加し、日本からは,全国198校(学科)・約6千600人の生徒が参加しています。

PISA 2015の調査結果「科学的リタラシー」の分野で、日本は男子545点に対して女子が532点との結果がでました。「数学的リテラシー」では、日本は男子539点に対し女子が525点となっています。その一方「読解力」の分野は、すべての国で女子が男子よりも得点が高く、日本では女子の523点に対し、男子が509点でした。3分野を総合してみると、残念ながら、女子の男子に対する優位性を証明する結果になっていません。

高校受験についてみると、東京都立の進学校・西高校が過去の受験結果を男女別で報告しているものがあり、PISAと似たような傾向となっています。過去12年間で、男子は常に数学でアドバンテージを得ています。国語と英語については明確な男女別傾向はないようです。数学でのアドバンテージに助けられ、男子はほとんどの年で全体の平均点での優位も確保しています。「市進 受験情報ナビ」による都立日比谷高校の受験情報は、2014年度のものだけですが、こちらでも男子は数学のアドバンテージによって3科目平均で女子の平均点を上まわっています。こういったデータは「迷信」と批判されている「女性は数学が苦手」と見方を裏書きしています。

PISAはともかく、こういったデータはまだまだ限定的なものなので、男女の学習能力の優劣に明確な結論をだすことはできないでしょう。センター試験の結果の研究をすすめるなど、幅ひろい取りくみが求められるところだとおもいます。今の段階では、入学試験での女子受験生の優位性を数理系学部についてはみとめることがむつかしいということがいえるでしょう(小論文・面接を採用した医学部の入学試験については優位性が逆転する可能性もあります)。

世界的には女子優位がすすんでいるようす

学習成果という点で世界をみると、グローバルなトレンドとして、女子が男子に対して優位に立ちつつあるようすがわかります。PISAの数学や科学の分野でも70%の国や地域で女子が男子を上まわっているとのことです。

米国でも、長期的な取り組みが功を奏し、女子は高校のクラスルーム・レベルのSTEM(Science, Technology, Engineering, and Math)でも男子と肩をならべるまでに成績が向上しているとの報告があります。とはいえ、それも高校のクラスでの話で、大学入学のための試験であるSATでは50年以上つづく傾向が今もつづき、依然として数学のスコアで男子が女子をおおきく上まわっているとのことです

医学部についてみると、アメリカでは2017年に史上はじめて医学部への女子新入生の数が男子新入生の数を上まわりました。なかなか興味深いのは、入学のためのMCATという試験結果をみると男子の平均は女子を上まわっています。学士での卒業成績(GPA)は、全体では女子が男子をわずかに上まわっていますが、数科学分野だけにかぎると、男子の方が優位だったという結果がでています。

他の先進国をみますと、イギリスの医学部では女子の割合が55%フランスでは60%を超えているというのが現状となっています。カナダは56%オーストラリア・ニュージーランドは52%となっています。

女医がふえると病院が維持できなくなるという主張

TBSのインタビューや、読売新聞への関係者の「女子は結婚や出産を機に離職することが多い。男性医師が大学病院を支えるという意識が学内に強い」という発言などをもとに、病院を維持するための男性医師確保が今回の問題の背景にあったといわれています。

その一方で、東京医大には大学病院の維持が目的などという消極的な姿勢ではなく、病院の利益確保のための安くて使いやすい人材確保という積極的な思惑が背景にはあったというきびしい見方もあります。

いずれの見方をとるにしても、勤務医の過酷な労働環境をなんとかしようという視点はなかったということになります。このままの医療制度で社会がささえられつづけることがあるのかと不安になります。

ところで、女性医師がふえると病院、ひいては医療制度そのものが維持できなくなるという見方がでているのは日本だけではありません。イギリスでは、著名な外科医が「女医がおおいことがどうしてNHS(国民健康サービス)にとって問題なのか」との投稿を有力紙に寄せ、女性医師はパートタイムではたらき、早期引退する傾向にあることを指摘し、医療制度にとって負担になるとしました。1人の医師をそだてるのにかかるコストがおなじなのに、おなじ仕事量に2倍の人をあてなければいけなく、医学教育(税金)に負担をかけているというのです。女性医師が要求度が高い専門分野を避ける傾向にあることも問題視しています。

この外科医の寄稿記事は、イングランド王立外科医師会(Royal College of Surgeons of England)からきびしく批判されています。パートタイム医師のおおくが女性医師であるのは事実だが、ほとんどの女性医師が1日30時間以上はたらいていると医師会は反論しました。女性医師の比率は社会の構成比を反映したものであるべきで、そのためにはNHSが変わる必要があるとのかんがえをしめしました。

医学教育は社会と直結している

今回の記事のためにいろいろとしらべていると、いろいろと幅ひろい分野に入りこんでいってしまい、なかなかまとめるのが大変でした。この記事には書きませんでしたが、医学部受験の年齢制限といった人権にかかわる問題とそれに関連する海外での事例、女性の学力更新とそれにともなう米国社会の変化など、とても興味ぶかい話がつぎつぎにでてきて、どんどんと時間が過ぎて行きました。

ひとつわかったことは、医学部という医学教育の場は、社会インフラの重要な部分をしめる医療の現場へとつながり、そのことで社会と直結しているということです。ひとりひとりの医学生に社会(国)が投資をし、その医学生がそだって、医師となり医療の実践をとおして、社会を支えていくものだということです。そこには社会のありようが反映されていくのだということです。

フランス大使館は、そろそろ実現されそうな医師のパリティ(男女同数)をツイッターでほこりました。社会が男女1:1で構成されている以上、医師の数もそうあるべきだという意識がその背景にはあるのでしょう。イングランド王立外科医師会が”It is also crucial that the composition of the medical profession mirrors the demographics of the society it serves including gender and ethnicity. “とし、医師の構成が社会の構成と対応していることが重要であると明言しているのも、そういった社会であるべきだという意思があるのでしょう。日本は、どうかんがえていくのでしょうか。

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