医療ドラマの出演者だったら専門用語はバッチリ?

一般の患者にとって、医療専門用語はそれほどなじみがあるものではありません。当ブログでは、ロンドンの病院での患者調査の結果)について取りあげて、ネイティブ、ノンネイティブにかかわらず、英語の医療専門用語を患者はあまり理解していないという現実について紹介しました。

ところで、一般の人にとって、こういった医療専門用語を聞く機会があるのは、病院にいった時のほかに、映画やドラマ、ドキュメンターなどをみるときではないでしょうか。日本では、医療ドラマがすくなからずつくられていますが、英語圏の国でも、数おおくの医療ドラマがつくられています。人気のあるもののなかには、10年以上にわたってつづくドラマもあります。こういったドラマに登場する俳優たちが医師であるということはまずありません。しかし、人気ドラマの登場人物ともなれば、長期間にわたって、医療ドラマにたずさわっているわけですから、きっと、医療専門用語にもなじみがあるにちがいがありません。…本当でしょうか?

アメリカの医療ドラマ「グレイズ・アナトミー」の出演者がでているおもしろい動画をみつけましたので紹介したいとおもいます。米国版TVガイドが公開したこの動画では、「グレイズ・アナトミー」の出演者がドラマ中で実際につかわれたセリフを問題なく読みあげることができるかどうかチャレンジしています。

このチャレンジは、ひとつひとつの単語の知識をこたえるクイズのかたちではありませんが、出演者たちのとまどいや、苦労している様子をみると、長年医療ドラマに出演した俳優たち(5人の出演者の内わけは、アメリカ人2人、イギリス人2人、カナダ人1人)でも、医療専門用語にそれほどなじんではいないことがよくわかるとおもいます。出演者によっては、じぶんのセリフだったにもかかわらず、数年後にあらためてセリフをわたされると、読みあげるのに四苦八苦しています。医療従事者でない一般の方が医療専門用語について、どれくらいなじみがないのか想像できるのではないでしょうか。

なお、チャレンジでつかわれたセリフは次のとおりです。

  • “This guy’s got a blown right pupil, an endo-occipital dislocation, open-book pelvis, a large open abdominal wound, a sucking chest wound, seven broken ribs.”
  • “Enlarge the incision with a dissecting instrument and use a stapler to create the anastomosis.”
  • “I’ve gotta post-op ortho patient on DVT prophylaxis with a subdural hematoma. Derek, she’s got a blown pupil.”
  • “A 15-year-old with GSW to the thigh with comminuted femur fracture. Lacerations with superficial femoral artery.”

隠語や専門用語としても高度なものがふくまれますが、医療通訳の資格試験に既出のものや、今後でてくるであろうと予想される用語もあります。下表で「○」がついているものは要注意です。

テキスト「医療通訳」掲載の有無
blown pupil 吹出瞳孔
open-book pelvis 前後圧迫型骨盤骨折(オープンブック、オープンブック型骨盤骨折とも)
sucking chest wound 胸部吸込創(開放性気胸: open pneumothorax; 疾患名である開放性気胸へと直接訳すことがある)
anastomosis 吻合
post-op 術後
ortho 整形外科(orthopedicsの略)
DVT prophylaxis 深部静脈血栓症予防(DVT/deep venous thrombosis: 深部静脈血栓症)
subdural hematoma 硬膜下血腫
GSW 銃創/射創(GSW: gunshot wound)
comminuted fracture 粉砕骨折
femur 大腿骨
laceration 裂創/裂傷
superficial femoral artery 浅大腿動脈
東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。

【参考資料】
医学大辞典 第2版(医学書院)
外来医マニュアル第3版(医歯薬出版)
ビジュアルノート(メディックメディア)
「まんが 人体の不思議 」(ちくま新書1256)
「これでわかる! 人体解剖パーフェクト事典」(ナツメ社)
「カラー図解 人体解剖英単語辞典」(ナツメ社)
「しくみが見える体の図鑑」(エクスナレッジ)

医療英語はユニバーサル? アメリカ英語とイギリス英語のちがいをみる

英語をまなぶときに、英語が日本語の標準語のようにひとつの標準をもっている言語であるかのようにおもいがちな方はすくなくないでしょう。アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語といったちがいがあることを理解しつつも、ついつい発音やアクセントの差くらいととらえている方は意外とおおいものです。自身の授業でも、(とくに医療用語について)ひとつの日本語の単語について複数の英単語をならべると、英語圏すべてでつうじる単語はどれかという質問をする方はいました。

とくに、海外経験がある方やネイティブは実体験という強力な支えがありますから、じぶんのしっている単語・表現がすべてとおもいこみがちだったりするものです(このことについては、日本国内での英語による医療コミュニケーションについてたいせつな問題として別の機会にとりあげたいとおもいます)。ですが、英語のバラエティはとても豊かです。単語・表現は、地域によっておもわぬかたちであらわれたりします。

医療英語も例外ではありません。地域性があります。もっとも、その地域的なちがいをひとつひとつ取りあげていくのは、とてもむつかしいことです。今回は英国と米国のちがいをとりあげた記事をみつけましたのでご紹介したと思います。BBCアメリカがイギリスの医療ドキュメンタリーを紹介するにあたりまとめた記事です。なかでは、アメリカ人が驚いたり、違和感をかんじたりするであろう英国での医療用語・表現が取りあげられています。

記事では、ひとつひとつの単語について、英国では〇〇という言い方をするけれども、アメリカでは△△といういい方をするといった形で、単語の対立を取りあげているだけではありません。文化的な背景や、表現の由来などにもふれてもいます。長い記事ですが、とても興味ぶかい内容となっています。ぜひ一読することをおすすめします。

surgery doctor’s office 診療所(surgeryには診察「時間」という意味もある
giddy dizzy めまい
knock up wake up (患者を)おこす
A&E ER 救命病棟(英国ではERは救急室・救急外来という限定的なつかいかたをする)
jab shot 注射
surgical spirit rubbing alcohol 消毒用アルコール
chemist’s/chemist’s shop pharmacy/pharmacy store/drugstore 薬局
Elastoplast/plaster Band-Aid/first aid adhesive bandage ばんそうこう
gip ache いたみ(英国でacheをつかわないという意味ではなく、gipをつかうことがあるということ)
sick vomit 嘔吐物(sickと嘔吐物のことを英国でよぶことがあるということ)

国内の医療通訳のスクールではおおくが、アメリカ英語で医療英語をおしえているとかんがえられます。このブログでも、スペルなど表示については基本的にアメリカ英語を採用しています(ただし、アメリカ英語の優位を主張するものではありません)。そういったスクールで医療英語をならった方にとっては、診療所を英国で”surgery”とよぶことはおどろきでしょう。わたくし自身も下の動画(0:20くらい)をはじめてみたときに、そのことを知り、おどろきました。

なお、Collinsの”Australian English Dictionary”をみると、”place where, or time when, a doctor, dentist, MP, etc. can be consulted”とありますので、オーストラリアでも英国とおなじつかいかたをするようです。ただし、Wikipediaによると、オーストラリア英語では”doctor’s room”や”doctor’s practice”というそうです。

医療用語の英米のスペルのちがいは、こちらのサイトが取りあげているものが参考になります。”color”(米)が”colour”(英)と”or”が”our”になったり、”center”(米)が”centre”(英)のように”er”が”re”になったりするのは、おおくの方がしっているとはおもいます。しかし、”e”(米例: apnea、ischemia)が”oe”(英例: apnoea)または”ae”(英例: ischaemia)になるのをしったら、とまどうひともおおいのではないでしょうか。

ここでは、英語のちがいをイギリス英語、アメリカ英語のちがいというわかりやすいものを取りあげてみました。しかし、国内で英語の医療通訳を必要とする外国人患者のバックグラウンドは、米英のちがいにとどまらず、さまざまです。特定の英語にこだわらない、柔軟なかんがえで、医療通訳にのぞむ姿勢がたいせつといえるでしょう。

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医療用語は患者につうじない? — イギリスの調査をみる

医療通訳をまなびだすと、数おおくの専門用語(jargon)をおぼえるだけではなく、専門用語を一般むけ単語または表現(layterm)におきかえる能力をきたえることも、もとめられるようになります。医療通訳のスクールへかよえば、たいていの場合、「患者さんに専門用語をぶつけてもわからないことがおおいから、ちゃんといいかえができるようになりなさい」とおしえられるはずです。

当ブログでも、ことばのおきかえについては「医療通訳はregisterのバリエーションを身につけよう」で、そのたいせつさについてふれたことがあります。とはいえ、実際のところ、患者はどのくらい専門用語をしらないのでしょうか。この点についてロイター通信が興味ぶかい記事を配信していたのでご紹介したいとおもいます。

「医療用語が医師と患者のコミュニケーションをむつかしいものに」というこの記事は、”British Dental Journal”というイギリスの歯科学会誌で発表された”Patient understanding of commonly used oral medicine terminology“という論文がきっかけになってかかれてもので、具体的な数字をあげ、患者が専門用語をどの程度しっているかについてかかれています。もともとの論文は、日本での調査ではなく、イギリスで実施された調査をまとめたものですので、そこは注意してください。

外来患者の医療知識を調査

調査はロンドンの大学病院で123人の顎顔面外科への外来患者を対象におこなわれたものです。医療用語をのせた質問状をくばり、それぞれの用語をしっているかをたずね、その回答を論文にまとめています。質問状にふくまれている単語は、以下の表にあげてあります。

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JARGON 日本語
malignant 悪性
benign 良性
lesion 病変
metastasis 転移
lymph node リンパ節
blister 水疱
ulcer 潰瘍
biopsy 生検
tumor 腫瘍
premalignant 前がん(precancerousとも)

質問状では、言語についてのバックグラウンドもたずねていますが、回答患者の27%が英語は第一言語でないと回答しています。ロンドン在住者の22%が英語を第一言語としていない、いわゆるノンネイティブだそうですから、回答患者のノンネイティブ率は、それよりもやや高いといえるでしょう。

もっとも、この調査をもとに日本の状況を類推するとなると、この数字はひくすぎるといわざるをえません。国内ではたらく英語の医療通訳にとっては、対象患者の50〜70%ほどが、ノンネイティブだからです(英語圏外における英語コミュニケーションにおいて、ネイティブ/ノンネイティブの話題はたいせつですが、べつの機会にゆずりたいとおもいます)。

英語が第一言語だとこたえた患者の正答率は、そうでないとこたえた患者よりも高かったとのことですが、個人的におもしろいとおもったのは、英語が第一言語の患者だけでみると、教育レベルで正答率がかわることはなかったとのことです。一般的にボキャブラリが教育水準に比例して高まっていくことをかんがえると、医療用語というのは一般のひとにとって、単なるボキャブラリとはまったく別ものである可能性がかんがえられます。

blisterはバッチリ、benighはほとんどしらない

ロイターの記事で紹介された調査結果をみていきましょう。まずはもっともおおくの患者たちがしっていた用語ですが、blisterでした。約90%の患者が正確に定義をしるすことができたそうです。2番目のulcerとなると、ぐっとすくなく、70%にとどまったそうです。

 

 

benignmetastasisがもっとも不正解がおおかったとのことで、33%がbenignについて「しらない」とこたえ、metastasisについてはわずか6%しか正解することができませんでした。興味ぶかいことにmetastasismetatarsalとかmastitisと勘ちがいしていた患者もいたようで、日本で医療通訳をおしえるものとしては、むしろこちらの方がむつかしいのではないかとおもいました。

lesionも30%以上が「しらない」とこたえ、lymph nodeも半数以上が不正解になったと調査は報告しています。biopsyについては、40%が正解となる一方、30%が「がんのための検査」とまちがっていました。もっとも、「がんのための検査」という回答がけっこうな数あったのは、調査対象が顎顔面外科の外来患者だったために、ややバイアスがかかっていたのかもしれません。

医療用語のつかい方には要注意

ロンドンの調査結果をみてみると、患者に専門用語をぶつけてもまずはわかってもらえないというのは、医療通訳のたんなる実感ではなく、証明された事実といってよさそうです。医療通訳をまなぶにあたっては、専門用語と一般向け単語とをあわせてまなんでいくことは必要不可欠といえるでしょう。

では、どのように「いいかえ」を現場で実践してけばいいでしょうか。それは、異化(foreignization)と同化(domestication)という通訳の根幹にかかわるとても重要な課題です。それについては、また別の機会でふれたいとおもいます。

maxillofacial surgery 顎顔面外科
erosion びらん
fissure 亀裂
metatarsal 中足骨
mastitis 乳腺炎
anesthetic n. 麻酔(薬)、adj. 麻酔の

参考資料

グレイズ・アナトミーで医療英語を勉強? ちょっと気をつけよう

英語圏、とくにアメリカの医療ドラマをみて、医療英語を勉強している方はすくなくないでしょう。私も「ER緊急救命室」などは熱心にみました。私が医療通訳をおしえた生徒のなかには「グレイズ・アナトミー」をみている方もいました。

医療ドラマは、ストーリーがあるので、楽しんで医療英語に接することができますよね。基本的には医療従事者のチェックがはいっているので、つかわれていることばにまちがいはまずないだろうという安心感もあります。わたくしがお世話になった元医学部教授が「ヘタな授業をうけるよりも『ER緊急救命室』をみたほうがよっぽど医学生にとっては勉強になる」といってましたから、ドラマによっては専門家からみても質がとても高いようです。

ただ、ちょっと気をつけなければいけない点があります。医療ドラマのなかでは、隠語(専門家同士の口語表現)がつかわれているということです。

日本の医療従事者の間でつかわれている隠語については、先日紹介しましたが、英語圏の医療ドラマでは、現場のリアルな感じをだすために、隠語がすくなからずつかわれています。しかも、隠語は隠語らしく医療従事者同士のシーンでだけつかってくれるのならばまだいいのですが、時として患者にむかって、隠語をつかうシーンがでることがあるのでこまります。

たとえば、「グレイズ・アナトミー」のあるエピソードでは、病院にかつぎこまれて、がんと診断されたばかりの患者にいきなり「mets」(転移)ということばをつかって説明するシーンがありました。患者役は質問もせずに、その説明をうけいれていましたが、実際のところ、どれだけ一般のアメリカ人が「mets」といきなりいわれて、ニューヨーク・メッツ以外のことをおもいつくのか、とても疑問です。

医療ドラマを真にうけて、医療通訳が隠語をつかってはいけません。当ブログでは、なんどもくりかえしてつたえていることですが、医療通訳は患者と医療従事者とのコミュニケーションの橋わたし役です(もちろん、医療通訳のなかには医療従事者同士の会議通訳にすすむ方もいるでしょうけれども、それは別の仕事です)。患者につたわることばを意識すべきです。専門用語ですらない隠語をぶつけても、患者にはまずはつうじないとかんがえるべきです。

そもそも、日本国内で医療通訳にたずさわると、患者の過半数はノン・ネイティブです。過剰にアメリカ的だったり、イギリス的だったりする口語表現はつうじないと心得るべきです。アメリカの医師がつかう隠語などをつかうのは、患者がアメリカ医療ドラマのファンであると期待するようなものでしょう。

とはいえ、医療ドラマをみるのは楽しいことです。参考までに「グレイズ・アナトミー」でつかわれている隠語をいくつかあつめてみました。

東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。
隠語 専門用語・一般用語
mets metastasis/metastases
peds pediatrics
derm dermatology
OR operating room
wet lab skills lab
piggybag heart transplant heterotopic heart transplant. cf. orthotopic
vitals vital signs
appie, appy appendix, appendectomy (US)/appendicectomy
OB obstetrics
pit emergency room/ER
tox screen toxicology screen

語の要素をつかった医療英単語へのアプローチ

まずは、医療英語とは関係ないところから話をはじめます。8月1日に米俳優のサム・シェパードという方がなくなったとのニュースがながれました。日本では、工藤夕貴のハリウッド進出作として宣伝された『ヒマラヤ杉に降る雪』という映画で、主人公の父親役として出演したことが一番しられているかもしれません。もちろん、映画ファンであれば、俳優だけでなく、脚本家としてもひろく活躍していたことをしっているでしょう。

さて、サム・シェパード氏がなくなったことをなぜ取りあげるのかというと、彼の死因が訃報のなかで、こうかかれていたからです。

“Sam Shepard has died from complications related to amyotrophic lateral sclerosis (ALS), known as Lou Gehrig’s disease”

サム・シェパード氏は、筋萎縮性側索硬化症、いわゆるALSに関連した合併症でなくなったということなんです。このALSは日本国内では指定難病になっています。有病率(prevalence)が10万人あたり2〜7人という、まれな疾患なのですが、2014年にアイス・バケット・チャレンジがはやったことで、しっている方もふえたとおもいます。

このALSの「筋萎縮性」を意味する「A」は、記事にもあるとおり、amyotrophicの頭文字です。医療分野では、こういった頭文字を組みあわせた頭字語(acronym)を多用します。さて、この「amyotrophic」ですが、語の要素に頭をなれさせるためにはとてもいい単語だとおもいます。では、実際に「amyotrophic」をつかって、語の要素にアプローチしましょう。

まずは「amyotrophic」を語の要素に分解してみましょう。はじめてだと、どこでわければいいかむつかしいかもしれませんが、「amyotrophic」は「a」と「myo」、「troph」「ic」の4つの語の要素でできています。それでは、当ブログの『接頭辞・接尾辞・連結形』を参考にしながら、それぞれをみていきましょう。

a」はギリシャ語由来の語の要素で、「非・無」を意味します。うしろにくるものが「ない」ことを意味するんですね。たとえば、「症状の」という意味のsymptomaticという形容詞につけて、asymptomaticとすると「無症候性」「症状がでていない」(形容詞)となります(症状と徴候はちがうので、正確には無症状性と訳すべきだったのでしょうけど、「無症候性」と訳されている単語がほとんどとみられます)。「無症候性血尿」(asymptomatic hematuria)などがあります。

my」はギリシャ語由来の連結形で、「筋肉」をあらわす語の要素です。心筋梗塞 myocardial infarctionの「心筋」にあたるmyocardial(形容詞)でみたことがある方もおおいとおもいます。「髄・脊髄・骨髄」を意味する「myel」など、似たような語の要素がおおいので注意しましょう。

troph」は「栄養・発育」を意味する語の要素です。筋ジストロフィーのジストロフィーはdystrophyで、やはりこの「troph」がつかわれていて、「不全」などをあらわす「dys」とあわさり、単語をつくっています。「変化」とか「(ホルモンなどが)影響をあたえる」をあらわす「trop」と混同しないように気をつけましょう。

ic」についてはこまかい説明は不要でしょう。「…のような」「…の性質をもつ」といった形容詞をつくる語の要素(接尾辞)です。医療以外の一般英語のなかで、なんどもみたことがあるとおもいます。

このように、英単語は語の要素に分解することができます。とくに医療英語の分野では、合理的に語の要素が組みあわされて単語がつくられているものがすくなくありません。語の要素を意識的につかうと、ボキャブラリーを効果的にふやすことができるでしょう。ただし、以前にもかきましたが語の要素をかたっぱしからおぼえようとすると、とてもたいへんです。まずは、自分のまなんだ医療英単語をならべてみて、共通項となる語の要素があるかみてみましょう。そして、その語の要素をしらべてみるのです。そうすることで、語の要素がだんだんと身についていくでしょう。

最後に、サム・シェパード氏と共演した俳優のマシュー・マコノヒーが訃報をきいたときのインタビューを紹介します。このインタビューは、とても短いですが、おもしろい表現がいくつかでてきます。なお、マシュー・マコノヒー氏はとてもクセのあるはなし方をするので、聞きとるのはむつかしいという方もいるでしょう。

英語 日本語
the passing of… …の死去、逝去 死ぬを婉曲にあらわすpass awayとともに婉曲表現としておぼえましょう
from what? なんでだ 日本語で「なぜ」「なんで」という表現は「why」であらわしたくなりますがおおくの場合、「how」の方が適切です。ここでは「die from」から「from what」ときいています
move on 死ぬ、なくなる 「死後の世界へいく」という意味でこういう表現がさらっとでてきています。ある意味とても宗教的な表現です
see you in the next one あの世であおう 日本人にとっても理解できる表現ではありますが、宗教観がにじみでた表現です

【参考資料】