英文のなかの一番の大物は動詞

動詞は時間をコントロール

主語と動詞が重要だといいました。そのなかでも、重要なのは動詞です。動詞のすごさのひとつは、時間をコントロールできるってことなんです。以下の例文をみてみましょう。

A. I have a headache.
B. I had a headache.

どちらが過去形(past tense)、つまりいまよりも前の時点を語っている文ですかときいたら怒るひともいるでしょうね。わかりきっているだろうって。でも、アメリカでは、大学の英語基礎コースの教科書に、こんな問題でてくるんですよ。

さて、答えは、B「頭痛がありました」のほうが過去形です。ここで、みてほしいのは、AとBでなにがちがうのかってことなんです。かわっているのは、Aの”have”とBの”had”、つまり動詞だけなんです。動詞ってのは、それだけで文全体の時間をコントロールできるんです。

命令文をかんがえてみよう

動詞の重要性について、べつの点からみてみましょう。次の文章で主語と動詞をさがしてみましょう。

C. Please roll up your right sleeve.

「右袖をまくり上げてください」という意味の文ですが、”Please”は主語でしょうか。動詞はどれですか。

この文は依頼の命令文です。動詞は”roll”で、主語はありません。主語はなくても、動詞はあるのが命令文です。動詞ってのは、とっても大切なんですね。

“please”のむつかしさ

話はかわりますが、”please”ってのは、つかい方がけっこうむつかしいことばです。アメリカでは、ある大学の調査で「電話で50セントのクッキーを買ってもらう慈善活動」をよそおって”please”への反応をしらべたところ、”please”をつかわない方が成功率がたかかったそうです。イギリスでは、アメリカよりも”please”をつかう頻度がたかいですが、それでも、”please”のつかいかたにはビジネスの場では慎重になるようで、とくに、命令文に”please”を足しただけのかたちでいわないようにといわれています。例文Cについていえば、以下のどちらかでいうのぞましいです。

C-1: Would you roll up the right sleeve?
C-2: Would you roll up the right sleeve, please?

解答欄

英語は主語と動詞にウェートがある 」でだした問題の解答です。

A: The old dog wagged its shaggy tail.
s(主語): dog
v(動詞): wagged
B: Two small boys rang our doorbell.
s: boys
v: rang
C: A handsome blue car stopped in front of our house.
s: car
v: stopped
D: Players from both teams scrambled over the field.
s: players
v: scrambled
E: A huge, spreading maple stands in front of the church.
s: maple
v: stands
F: A large white cat with yellow patches emerged from the bushes.
s: cat
v: emerged
G: An expensive silver pin disappeared from the counter.
s: pin
v: disappeared
H: The pond across the road seldom freezes before December.
s: pond
v: freezes
I: My only key to the house fell through a crack in the steps.
s: key
v: fell

英語は主語と動詞にウェートがある

“The subject and the verb are the most important words in any sentence because they carry most of the meaning.”

From English 2200 with Writing Applications: A Programmed Course in Grammar and Usage

主語と動詞が重要

とてもベーシックなところからいきますね。上にあげた文章はこのようなことをいっています。

「主語と動詞はどのような文章においても最重要なことばである。なぜならば、この2つが(文章の)意味の大部分をつたえる(役割を担っている)からだ」

その理由は次のとおりです。

  • 主語は、その文がつたえようとしている意味の「主人公」がだれ、またはなんなのかをあらわします。
  • 動詞は、その主人公が「なにをしているのか」あるいは「なんなのか」をあらわします。

文章をよむときにこの2種類のことば(主語と動詞)に注意しましょう。

シンプルな地図のように英文のキモを理解する

地図を書かせると、いろいろなものをこまごまと書きこむけれども、できたものはなんだかさっぱり要領をえないというひとがいると思います。わかりやすい地図はシンプルで、いくつめの交差点で、どの方向にまがるかということがはっきりとかかれているだけというものがおおいですよね。

長文をみると、形容詞・形容詞句、副詞・副詞句、接続詞などなど、いろいろなことばで、ごちゃごちゃとこみいってます。こういった長文をよみとくのにたいせつなのは、文章をシンプルでわかりやすい地図に一瞬にして自分で書きかえ、キモ(重要なポイント)をおさえることでしょう。

そういった書きかえ作業をする上で重要なアプローチは、どのことばが主語で、どの言葉が動詞なのかをおさえることです。文章をよむときはこの2つを意識しましょう。ちなみに主語は名詞であるとまずはおぼえましょう(名詞節というのもあるのですが、とりあえずそれはあとにまわしましょう)。

練習問題

次の各文の主語と動詞をえらびましょう。ここでは各文にはそれぞれ1語ずつふくまれています(答えは次回に)。

A: The old dog wagged its shaggy tail.
B: Two small boys rang our doorbell.
C: A handsome blue car stopped in front of our house.
D: Players from both teams scrambled over the field.
E: A huge, spreading maple stands in front of the church.
F: A large white cat with yellow patches emerged from the bushes.
G: An expensive silver pin disappeared from the counter.
H: The pond across the road seldom freezes before December.
I: My only key to the house fell through a crack in the steps.

基礎的な英語の見直しもやっていきます

医療英語・医療通訳を勉強している方をみていると、英語を一度見なおしたら、もっとのびるのに、と残念に思うことがすくなくありません。とくに医療通訳をまなんでいる方のあいだには、文法や熟語など、英語の基礎的な部分について不安をもったまま医療通訳の学習に取りくんでいるので、いくらまなんでも、じぶんの英語力についての自信につながらず、あいまいないい方をしたり、不安げなようすをみせてしまう方がいます。

医療英語の森へでは、医療通訳のネットワークをひろげていくために、これまで医療英語・医療通訳の知識・学習法などにフォーカスしてきました。しかし、医療英語・医療通訳をまなんでいる方の現状をみると、ややスコープをひろげていくことが、医療通訳のネットワークの底上げにつながるとかんがえました。

そこで、医療英語の森へでは、基礎的な英語についても、ふれていこうとおもいます。学習方法については、僕の個人的な体験をいかしていきます。英語の基礎的な部分についてEnglish 2200 with Writing Applications: A Programmed Course in Grammar and Usageという本に、僕自身は大学時代とてもお世話になりました。この本は、文型のとらえ方など、日本の文法書とはかなりアプローチがちがいます。その分、ネイティブの思考法など、とても参考になるところがあります。この本を参考にしつつ、これからは基礎英語についてもおりにふれて話題にしていきます。

医療通訳としてregisterについてまなぶ

当ブログでは、医療通訳にとってregister variationを身につけるのがたいせつだといいました。でも、専門的なことばは辞書などででていますが、一般人むけのregisterを身につけるのは、なかなかむつかしいですよね。ふれる機会もなかなかありません。今回はどうやって一般向けのregisterにふれればいいのか、かんがえていきましょう。

ネットでlay termのグロッサリーをさがす

「一般のひと」「ふつうのひと」をあらわすことばは、laypersonとか、layman、laywomenとかいいます。このlayは形容詞で、「聖職者でない人たち」という意味の集合名詞laityからきています。この意味からひろがって、クロウトにたいするシロウトもlaypersonといいます。

医師や医療従事者がつかう専門用語でなく、一般の人がつかうことばは、形容詞のlayをつかって、lay languageとか、lay termとかいわれたりします。Googleをつかって検索すると、大学や医療機関などが医学用語のlay languageを紹介しています。代表的なものを紹介します。

以上はほぼ用語集でしたが、日大医学部助教の押味貴之先生監修で、実際のつかい方などにまで踏み込んだlay termの紹介もあります。短いですし、とても興味深いので、おすすめします。

ドラマをみてlay languageのつかい方を疑似体験する

国内にすんでいる方だと、なかなかlay languageを実際に経験することはできないと思いますので、ドラマをみて、疑似体験するというのもいいでしょう。

医学ドラマでないのですが、僕が勉強になったのは、「BONES — 骨は語る」というアメリカの推理ドラマです。ドラマのなかでは、法人類学者とFBI捜査官がペアを組んで事件を解決していくのですが、法人類学者は徹底的に専門用語をつかいます。一方、FBI捜査官はまったく専門用語を受けつけようとせず、くりかえし「ふつうのことばでしゃべってくれ」と注文をつけるのです。みていると、専門用語と一般用語の対比ができるんですね。ただし「BONES」の場合、ほとんどのやりとりが解剖学の範囲におさまっているので、なかなか病気などについてのlay termがでてこないのが残念なところです。

「BONES」だけでなくてもいいんです。アメリカやイギリスのドラマや映画をみていると、lay termについてのやりとりなど、なかなか面白いシーンがあります。ぜひ気をつけてみるようにしましょう。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

「大草原の大きな家」で犬にかまれてERへ

以前、当ブログで僕がインドで犬にかまれたはなしをしました。そのなかで、最初に犬にかまれたのは、アメリカでだったとかきました。その経験があったので、狂犬病だけが危険なのではなく、破傷風のほうがむしろこわいんだということを、インドで犬にかまれたときは知っていたんですよね。診断のながれをしっていたことが強みとなりました。医療通訳にとってたいせつな、診断のながれを理解するということが、この2つの「痛い」体験を振りかえることであらためて、確認できました。

「大草原の大きな家」から同級生たちは大学へきていた

僕は大学時代をアメリカの中西部の片田舎で過ごしました。クラスメートのおおくは、大学生としてはファースト・ジェネレーションでした。つまり、彼らの親は高卒がせいぜい、大学にいくことになんの意味もかんじていない農家の経営者たちがほとんどでした。僕のクラスメートたちは、そういった親たちの無理解による反対を押し切って、将来へのおもいを胸にじぶんたちの力(ローンとか奨学金とかをえることで)で、大学に来ていたのです。

彼らの実家にたまにつれていってもらうと、まわりになにもない、どこまでもひろがるトウモロコシ畑のまんなかにポツンとたっている農家であることがおおかったです。彼らの両親は、僕が外国人であることについて正面きっていやな顔をすることもありませんでしたが、こどもの友人として歓迎している雰囲気もありませんでしたね。きもちのうえで、とても距離が遠いかんじでした。僕の友人が女の子であった場合、兄弟は顔をしかめることがすくなくなかったですね。

そういや「大草原の小さな家」っていうアメリカの人気ドラマがむかしやってました。あのドラマって、僕がいた地方が舞台だったんですよね。さすがに僕の友人たちの実家は、それほどちいさくはなかったですけどね。むしろ「大草原の大きな家」ですかね。

友人のガールフレンドの実家へあそびにいく

僕のルームメイトにバングラディッシュ出身のナセルがいました。ある週末、ナセルがガールフレンドのリンダといっしょに彼女の実家にあそびにいくというので、それにつきあうことにしました。リンダの実家も、ご多分にもれず、州道からはずれた砂利道(gravel road)をずっといった先にある、となりの家をたずねるのにあるいていったら、いつたどりつけるのかというような、野なかの一軒家でした。

リンダの家が、他のクラスメートたちの家とちょっとちがっていたのは、お父さんが早くになくなっていて、しかも、こどもは女の子が4人だけと、女性オンリーの家だったということです。そして、野なかの一軒家に住んではいても、お父さんがなくなったことで、農業をもう営んではいませんでした。

外国の犬には、やっぱり日本語はダメ?

リンダの家では、中型犬を一匹かっていました。とても、性格のいい、かわいい犬でしたね。記憶では、どちらかというと和犬にちかいような外見だったとおもいます。

そのころはまだかまれたことがなかったので、犬に対していっさい恐怖心はありませんでした。それに、リンダの家の犬はとてもおとなしくてかわいいかったので、わんちゃんの顔に自分の顔を押しつけ、かまっていたんです(2度も犬にかまれたあとは、そんな気にはなれません)。

自分でもなんでそんなことをおもいついたのか、いまでもふしぎなんですが、いつのまにか日本語でそのわんちゃんにむかってはなしかけたんですよ。なにをいったかは、もうずいぶんむかしなんで、おぼえていないんですが、たぶん「おまえ元気か。かわいいな」とかそんなことを日本語でいったんだとおもいます。

はじめてきいた日本語で混乱してしまったのかな。おとなしかったわんちゃんが、急にほえだして、僕にとびかかってきました。僕はびっくりして飛びのきました。そしたら運悪くちょうど、僕の股間にわんちゃんの口がきちゃったんですね。

うまくよけられたとおもったんですけどねぇ。ダメでした。ジーパンの股間の部分に5㎝くらいの裂け目ができていました。血がにじみでてきました。あわてて、部屋のなかにはいって、パンツをおろすと、大事なものをいれる袋の部分に牙のあとでぽっかり穴があいちゃってるような状態でした。

ビックリしましたね。といっても、そのときはインドで犬にかまれたときほど、大騒ぎはしませんでしたけど。とはいえ、相当動転したのは事実です。見た目、袋に穴があいちゃった感じなんですからね。

バレット(Barret)というリンダの家の近くになる町は人口が500人にもみたないちいさなところでしたらから、そのあたりでもいちばんおおきい町にいそぎました。とおおおきいとはいってもバレットにくらべてということで、そのエルボー・レイク(Elbow Lake)でさえ、人口がせいぜい1000人にいくか、いかないか程度のちいさな町だったんですけど。

医師は冷静に犬の経過観測について説明

駆けこんだERで消毒をしてもらい、よくみてみると、さいわいなことに穴があいたようにみえたキズもたいしたことのないひっかき傷(scratch)でした。ホッとしていると、ナセルと、もうひとりいっしょだったスリランカ人のシャミータが、狂犬病(rabies)の可能性について医者に質問をはじめました。あとからかんがえてみると、ふたりとも南インド出身だから、狂犬病についてリアリティがあったんでしょうね。

振りかえると、日本人とバングラデッシュ人にスリランカ人という3人組が、ど田舎の病院のERにかけこんできて、しかも股間を犬にかまれたなんてうったえるなんてのは、B級コメディー映画になりそうな感じですよね。しかも、週末ですよ。でも、医師は冷静でしたね。たんたんと、しかも快活に説明してくれました。

「発症していないようにみえても、犬がかみついた原因は狂犬病である可能性がある」
「狂犬病のワクチンは、からだへの負担がおおきいからなるべくうちたくない」
「かんだ犬は特定できているから隔離する」
「犬の経過を観察し、狂犬病の症状がでてくるか確認する」
「患者への狂犬病のワクチン投与は、犬の発症を確認してからでも間にあう」
「狂犬病よりも、感染の可能性が高いのが破傷風(tetanus)なので、破傷風のワクチンはすぐにこの場でうったほうがいい」

医師の「たんたんと、しかも快活に」という姿勢は、すごい説得力があったなとおぼえています。異文化・異言語の環境(アメリカのそんな田舎で救急病棟にかけこむなんて僕でもはじめてでした)のなかで、冷静でありながら、おもくない姿勢を医者がしめしたってのは患者である僕を安心させました。もちろん、はじめてあった医師でしたけど(そして2度とあうことはありませんでしたけど)信頼して判断に耳をかたむけることができました。医療通訳をやるうえで、おもいだすと参考になります。

たんたんと処置してくれたので、こちらは気もちが落ちつきました。医療通訳となったいま、冷静な姿勢というのは医療の現場で大切だということが振りかえるとあらためてわかります。

あのとき、どうして狂犬病や破傷風って病名がわかったのか、いまからかんがえるとふしぎです。大学に戻ってから辞典で確認したことはまちがいないとおもいます。たぶん治療室のなかでは「rabies→狂犬病」「tetanus→破傷風」とか2言語でかんがえたのではなく、rabiesはrabies、tetanusはtetanusとして受けとめ、医師がいいたいことを理解していたんだとおもいます。

そうできた僕はラッキーだったんだと思います。医療通訳を必要とする外国人患者さんはそうはいきませんよね。「狂犬病→rabies」「破傷風→tetanus」という置きかえが必要になります。それに医師がどういったながれで、どう説明するかといったこともしっていなければなりません。しっかりとした準備が必要です。

犬の処分についての希望をきかれる

ビックリしたことは、医師から犬の処分について希望をきかれたことです。ひとをかむような危険な犬だから、殺処分を希望するかと、質問してきました。もし希望したら、犬は殺処分されるといわれました。

僕はなんの処分も求めないとつたえました。女ばっかりのリンダの家において、家の番犬、そして一家の一員として、そのわんちゃんはある意味おとうさん代わりをしていました。リンダの家に滞在して、そのことが僕にはよくわかりました。そんなわんちゃんを殺せとは、とてもいえませんでした。リンダとはクラスメートでしたし、人間関係をわるくもしたくありませんでした。そもそも、ひとをかんだ犬は殺処分なんて発想もありませんでした。

感心したのは、大学にもどった僕に、事故のはなしをきいたパキスタン留学生たちが口々に「なんで殺さなかったんだ」といってきたことです。「犬の分際でひとにかみつくなんて、もってのほかだ」といっていました。こんなところにも、文化の差がでるんだなとかんじました。こういった文化の差を自分の痛い体験とともに体感したことは、医療通訳をやるうえで大きなプラスだったとかんじます。

すべては遠いむかし

ところで、アメリカで病院にかかったはなしをきくと、よく高額な治療費が話題になります。その点、どのくらい僕の治療にお金がかかったのか気になるところです。しかし、お金については、残念ながら記憶がはっきりしません。ぼんやりと、おぼえているのは、ちいさな町をいくつかカバーしている病院だったので、医師とリンダの家がしりあいで、融通をきかせてくれたということです。あのころは、そんなところも、アメリカの田舎にはありました。いまはわかりませんが。

このはなしをかくうえで、ちょっと確認したいことがあったので、ナセルにフェイスブック・メッセンジャーで連絡をとりました。彼もそのできごとはおぼえていましたけど、すべては「long long time ago」ということでディテールについてはなにもおぼえていませんでした。

あのときは、犬にかまれたことに動転するばかりで、狂犬病も、破傷風のこともよくわからなかった僕がいまでは医療通訳をやっているんだと、フェイスブックでつながってはいても、直接連絡をとりあうのは久しぶりだったので報告しました。

あのころは、ほんとうに楽しかったよな、「Good old days」といいあうばかりで、すべては、とおい昔のはなしになってしまいました。