胸痛の原因となる疾患とは

5月の医療通訳実践トレーニングのテーマが「胸痛」ですので、ちょっと予習をしてみたいとおもいます。胸痛の原因となる疾患・症状はなんでしょうか。こういったときには医歯薬出版の「外来医マニュアル」をつかってしらべてみましょう。

「外来医マニュアル」は、現場の医師のためにつくられた実践むけの本です。症状によってうたがうべき病気や、診断にむけてふむべき手順などがかかれています。診断のながれを理解するうえで役立つ本だとおもいます。私がつかっているのは第2版ですが、第3版もでていますし、出版間隔をかんがえると、そろそろ第4版がでてもよさそうです。

それでは、今回は「外来医マニュアル」をもとに、原因としてうたがうべき疾患・症状を下にあげておきます。

心血管疾患 cardiovascular diseases

英語 日本語 Lay Terms
狭心症 angina pectoris, angina, AP
心筋梗塞 myocardial infarction, MI heart attack
心膜炎 pericarditis
不整脈 arrhythmia irregular pulse, irregular heartbeat
大動脈解離 aortic dissection
大動脈弁膜症 aortic valve disease
大動脈弁狭窄症 aortic valve stenosis, AS
大動脈弁逆流症 aortic valve regurgitation, AR
肥大型心筋症 hypertrophic cardiomyopathy, HCM
僧帽弁逸脱症 mitral valve prolapse
シンドロームX syndrome X
肺血栓塞栓症 pulmonary thromboembolism, PTE

肺・胸膜、縦隔疾患 diseases of lung/pleura, mediastinum

英語 日本語 Lay Terms
自然気胸 spontaneous pneumothorax
胸膜炎 pleurisy
縦隔炎 mediastinitis
縦隔気腫 pneumomediastinum, mediastinal emphysema

消化器疾患 gastrointestinal diseases

英語 日本語 Lay Terms
食道裂孔ヘルニア (esophageal) hiatal hernia
逆流性食道炎 reflux esophagitis
食道スパスム esophageal spasm
胃・十二指腸潰瘍 stomach ulcer, duodenal ulcer
胆道感染症 biliary tract infection
胆石発作 biliary colic
膵炎 pancreatitis

精神疾患 mental disorders

英語 日本語 Lay Terms
心臓神経症 cardiac neurosis, Da Costa’s syndrome
過換気症候群 hyperventilation syndrome

神経・筋・骨格疾患 neurological, muscular, skeletal disorders

英語 日本語 Lay Terms
肋間神経痛 intercostal neuralgia
帯状疱疹 herpes zoster, shingles
肋軟骨炎 costochondritis
頸椎症 cervical spondylosis, CS

※参考資料にもとづいて医療英語・医療通訳の勉強のためにつくられた資料です。実際の治療や、検査のために、つくられた資料ではありません。病気・疾患になやまれた場合、きちんと病院で治療をうけましょう。

第1回医療通訳実践トレーニングに出てきました(5)— Lay Terms

一般用語 lay termsをおぼえよう

トレーニングでは、ミニ・ロールプレイも行いました。そのなかで、一般の方がつかっていることば、いわゆるlay termがいくつか紹介されました。医療英語をまなぶと、どうしても専門用語からはいっていきがちですが、患者さんは一般の方がほとんどですので、専門用語をつかっても通じないことがおおいですからね。言いかえ paraphraseができるということは通訳をやるうえでとても重要です。

英語独特の表現に注意

英語独特の表現も紹介されました。擬音や比喩表現などは、英語と日本語ではちがいます。そういった点に注意し、英語独特の表現に日ごろから意識して耳を傾けるようにと指導されました。

下に、トレーニングで紹介されたlay termと英語独特の表現を、おぼえている限りあげておきます。

英語 日本語 Lay Termsまたは説明
membrane lining
thunderclap 頭を打たれたような 形容詞。直訳は雷鳴のような。痛みを表現するときにつかわれる
sinusitis 副鼻腔炎 sinus cold
the pill 経口避妊薬、ピル theと定冠詞をつけるとピルになる。丸薬としてのpillはa pillとかpillsで表現
gastroenteritis 胃腸炎 stomach flu
a hissing sound シューとした音 耳鳴りなどの音の近似表現例として
a screeching sound キーンとした音 耳鳴りなどの音の近似表現例として
a growling sound ゴーとして音 耳鳴りなどの音の近似表現例として
a cramp 差し込む痛み, けいれん、こむら返り 生理痛としてcrampsがつかわれる
a bout 発作 bouts of searing pain 焼けるような痛みの発作

第1回医療通訳実践トレーニングに出てきました(4)— 単語帳など

さて、前回はリサーチ力の重要性についてふれましたが、そのリサーチ力を発揮して調査し、疾患や症状などの定義を日本語でしっかりおさえることが大切だということも強調されました。日本語でおさえると説明されたのは、受講生がすべて日本人だったらだとおもいます。

定義をおぼえる

病気をしらべると、病因 etiology、症状/徴候 signs and symtoms、診断方法 diagnostic procedures、治療 treatmentの順番で定義づけられていると説明がありました。そして、これにそって、しっかりとしらべ、おぼえる必要があるとのことでした。そのしらべるというプロセスで、リサーチ力を発揮する必要があるということでした。

単語帳はつくっておしまいではない

単語帳 glossaryについては、つくって満足してしまうひとがおおいが、つくった単語帳は何度もつかっておぼえなくてはいけないと注意されました。人間は忘れる動物であって、忘れるのは当然なので、何度も繰り返し、おぼえる必要があるとの話でした。

単語帳をくり返し活用するために講師の方がおすすめしていたのが、Quizletというサービスです。ウェブでもありますし、スマートフォン向けのアプリもでています。エクセルでつくった単語帳は簡単に取り込むことができますし、アプリをつかうと、クイズ形式で単語帳内の単語をクイズとして出題してくれるそうです。私もさわったことくらいはあるのですが、本格的につかったことはありません。これからはつかっていこうとおもいます。

オープンクエスションとクローズドクエスションを取り違えない

医師が患者を問診するうえで、オープンクエスションとクローズドクエスションを通訳しまちがえてはいけないと強調されました。念のため、先にすすむ前に、オープンクエスションとクローズドクエスションについて説明しておきますね。

オープンクエスションは答えが限定されていない質問です。例えば、「今日はどうして病院に来たのですか」と質問すれば、それは、頭痛かもしれないですし、胃痛かもしれません。または、吐き気がひどくてきたのかもしれません。つまり答えがいろいろでてくる可能性がある質問です。一方、クローズドクエスションとは、「その痛みは激しいですか」といった形の質問で、基本的には、はい/いいえ Yes/Noのように選択肢があらかじめ決められていて、そのどちらかなのか、といった質問です。もちろん選択肢は2つだけではなく、複数ある場合もあります。ペイン・スケールなどがそうです。

医師は、いろいろな情報を患者から引き出そうとしますので、初期の段階ではしばしばオープンクエスションで患者を問診します。そこをクローズドクエスションに訳してしまうと、医師の意図する方向とちがいものに診察がなってしまうので、気をつけなくてはならないとのことでした。

通訳上の注意点としては、患者が症状を訴えたときに医師が「それは大変ですね」といったら、これもしっかりと訳さなければいけないと話していました。医師が患者との信頼関係を築くために言っていることなので、きちんと訳す必要があるとのことでした。

第1回医療通訳実践トレーニングに出てきました(3)— メルクマニュアル、YouTube

取りあげられた単語をほぼカバーしましたので、トレーニングでどのようなことを教えられたかということにすこしふれてみましょう。

リサーチ力の重要性

医療通訳は、リサーチ力がいけないと指摘されていました。これは私自身が常々かんじていることで、その思いから「情報ソースはなるべく共有したい」を書いています。今回のトレーニングでも、どういったところから情報をあつめているのか、その情報ソースを共有することをうながしていました。

トレーニングのなかでは、有用な情報ソースのひとつとして、メルクマニュアルが取りあげられました。メルクマニュアルは、英語版日本語版があることから、2つの言語を比較するうえで便利だということも話していました。ちなみに、メルクマニュアルには家庭版もあり、こちらもそれぞれ英語版日本語版があります。

さらにYouTubeが情報ソースとしてあげられました。YouTubeについては、検索のやり方のコツについて説明していただきました。まずは、英語でしらべる場合、「病名 symptoms」を検索用語して入力すると一般むけにつくられている動画が多く引っかかってくるとのことでした。これは私も実際によくつかっています。Youtubeは本当にありがたいです。発音記号だけだとピンとこない単語の発音とかわかりますしね。もう一つ、これは私も知らなかったのですが「病名 usmle」といれると、専門的な講義の動画が出てくるとのことでした。ちなみに、USMLEはアメリカの医師国家試験です。いわゆる試験対策の動画がありがたいことに出まわっていて、医療通訳にとってはとても便利につかえるということでした。

ためしに、今回のトレーニングのテーマであったheadacheでしらべてみましょう。「headache symptoms」で検索したものがこれです。いろいろな頭痛の症状についての動画がでてきますね。「headache usmle」はこちらです。いかにも試験対策といったかんじの動画がたくさんでてきましたね。ちなみに知らない方のために伝えておくと、usmleと小文字で検索していますが、検索のときには大文字・小文字は基本的に無視されますからです。大文字でいれたとしても結果はかわりません。

第1回医療通訳実践トレーニングに出てきました(2)— 続・頭痛

前回はすべて単語をあげられませんでしたので追加します。前回は頭痛の原因となる疾患をまとめましたが、今回は頭痛に関連してあらわれる症状をまとめたものです。先日もいいましたとおり、これはスタート地点ですので、実際にはここから各症状を理解していく必要があります。英語をベースにまなびましたので、日本語やlay termについてはここにのせていても、今後の課題としてさらにしらべていく必要があるものもあります。

Headache associated symptoms 頭痛関連症状 – Constitutional symptoms 全身症状

英語 日本語 Lay Terms
emesis 嘔吐(症) vomiting
pyrexia 発熱 fever
lethargy 嗜眠、無気力 sleepiness
anorexia 食欲不振, 無食欲(症) loss of appetite
somnolence 傾眠 sleepiness

Headache associated symptoms 頭痛関連症状 – Sensory symptoms 感覚症状

英語 日本語 Lay Terms
dysesthesia 異常感覚, 錯感覚(刺激なし)
anesthesia/hypoesthesia 知覚麻痺・知覚脱失/感(知)覚鈍麻・感(知)覚減退 a reduced sense of touch or sensation, or a partial loss of sensitivity to sensory stimuli; numbness
paresthesia 感覚異常(症)(刺激あり) tingling in the BODY PART; a distorted sensation; a pricking, burning, tingling or numbing sensation; pins and needles

Headache associated symptoms 頭痛関連症状 – Visual symptoms 視覚症状

英語 日本語 Lay Terms
diplopia 複視 double vision
scotoma (視野)暗点 a blind spot
phosphene 閃光感覚 the experience of seeing light without light actually entering the eye.
ocular pain 目の痛み
epiphora 流涙症 an overflow of tears onto the face

Headache associated symptoms 頭痛関連症状 – Motor symptoms 運動症状

英語 日本語 Lay Terms
paralysis 麻痺
tremor 振戦, ふるえ shakiness
ataxia 運動失調 unsteady movement
nuchal rigidity 項(部)硬直 neck stiffness, stiff neck
dysarthria 構音障害 slurred speech; difficulty speaking caused by problems controlling the muscles used in speech

Headache associated symptoms 頭痛関連症状 – Migraine aura related symptoms 片頭痛前兆関連症状

英語 日本語 Lay Terms
photophobia 羞(しゅう)明, まぶしがり(症) hypersensitivity to light
phonophobia/sonophobia 音声恐怖(症) hypersensitivity to sounds
osmophobia 臭気恐怖(症) a fear of, aversion to, or psychological hypersensitivity to odors

Headache associated symptoms 頭痛関連症状 – Miscellaneous その他

英語 日本語 Lay Terms
tinnitus 耳鳴り(みみなり) ringing in the ears; ringing/buzzing/roaring/clicking/hissing
vertigo 回転性めまい dizziness with a sensation of spinning
vesicular lesion 小水疱性病変 blisters
ptosis (眼瞼)下垂症 a drooping of the upper eyelid
miosis 縮瞳, 瞳孔縮小 excessive contraction of the pupil of the eye
rhinorrhea 鼻漏, 鼻汁 a runny nose
lacrimation 流涙 excessive tearing

参考資料