感覚器系についての基本の基本(耳) — 医療通訳資格試験にむけて

耳については、音をつたえる媒体が気体、固体、液体とかわっていくことをおぼえておくことが理解につながるでしょう。このうち、固体での伝音については「鼓膜とツキアう」という語呂合わせで鼓膜から内耳へとつづく耳小骨のつながりをおぼえてもいいでしょう。

中耳のしくみなど、こんなこまかい問題はさすがに医療通訳の資格試験にでることはないだろうとおもっていましたが、昨年の医療通訳技能検定では図の問題としてでましたので、おぼえておくといいでしょう。

医療通訳技能検定は、おどろくほどこまかい図を問題としてだす傾向にここ数年あります。適正かどうか、非常に疑問ですが、受験生としては準備をしなければなりません。厚生省の提供する解剖図でも、むしろこまかい図に目をむけて勉強をすることが対策として必要かともかんがえます。

耳管の「eustachian」は、「Eustachian」ともかかれます。もともとは人名からきているので大文字でしたが、ながくつかわれているうちに一般化して、いまでは小文字でつかわることがおおいようです。医学事典でも小文字で表示しています。

耳管のように、医療系の英単語をおぼえていると、ながくつかわれることで、かっては大文字であらわされていたものが小文字になったり、2つの単語でなりたっていた単語が合成されて1単語になったりすることに、気がつくことがあります。Google Ngram Viewerをつかうと、こういった比較が時系列でみえるので利用してみましょう。

聴覚 ちょうかく hearing, auditory perception
耳介 じかい auricle、pinna
外耳 がいじ outer ear, external ear
中耳 ちゅうじ middle ear
内耳 ないじ inner ear, internal ear
外耳道 がいじどう external auditory canal, ear canal, external auditory meatus, external acoustic meatus
鼓膜 こまく eardrum, tympanic membrane, myringa
耳小骨 じしょうこつ ossicle, auditory ossicle, ear ossicle, middle ear ossicle, ear bone (ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨を集合的にあらわすために複数形でつかわれることがおおい)
ツチ骨 つちこつ malleus, hammer
キヌタ骨 きぬたこつ incus, anvil
アブミ骨 あぶみこつ stapes, stirrup
耳管 じかん eustachian tube, Eustachian tube, auditory tube, pharyngotympanic tube
半規管 はんきかん semicircular canal, semicircular duct (三半規管とよくきくが、これは半規管が3本あるからで、英語では three semicircular canals となる)
蝸牛 かぎゅう cochlea

【参考資料】

感覚器系についての基本の基本(眼) — 医療通訳資格試験にむけて

感覚器系のうち視覚をになう眼については、まずは光のながれでしくみ(構造)をおぼえましょう。角膜からとおった光は、虹彩にかこまれた瞳孔から水晶体にはいり、硝子体をへて、網膜にとどく。このながれにそって、眼のしくみをおおまかにとらえます。

眼のしくみとはたらきは、カメラにたとえて説明されることがすくなくありません。角膜がフィルター、瞳孔・虹彩がしぼり(正確には虹彩がしぼりで瞳孔が開口部)、水晶体がレンズ、網膜がフィルムまたはイメージセンサーといったぐあいです。医療通訳技能検定では、このたとえが問題ででたことがありますので、おぼえておきましょう。

眼球のほとんどの部分は3層の膜でかたちづくられています。この膜は、内側から網膜、脈略膜、強膜でなりたっています。これも網膜→脈略膜→強膜と順序だてておぼえましょう。

視覚 しかく vision, eyesight, visual perception(参考: 意味のちがいについて
角膜 かくまく cornea
瞳孔 どうこう pupil
虹彩 こうさい iris
水晶体 すいしょうたい lens
硝子体 しょうしたい vitreous body, vitreous(vitreous humor は硝子体内の体液・硝子体液だが、硝子体と訳すことが適切な形でつかわれることがある
網膜 もうまく retina
脈略膜 みゃくりゃくまく choroid, choroid coat
強膜 きょうまく sclera, white of the eye, sclerotic coat
眼瞼 がんけん eyelid
結膜 けつまく conjunctiva
涙腺 るいせん lacrimal gland, tear gland

【参考資料】

グレイズ・アナトミーで医療英語を勉強? ちょっと気をつけよう

英語圏、とくにアメリカの医療ドラマをみて、医療英語を勉強している方はすくなくないでしょう。私も「ER緊急救命室」などは熱心にみました。私が医療通訳をおしえた生徒のなかには「グレイズ・アナトミー」をみている方もいました。

医療ドラマは、ストーリーがあるので、楽しんで医療英語に接することができますよね。基本的には医療従事者のチェックがはいっているので、つかわれていることばにまちがいはまずないだろうという安心感もあります。わたくしがお世話になった元医学部教授が「ヘタな授業をうけるよりも『ER緊急救命室』をみたほうがよっぽど医学生にとっては勉強になる」といってましたから、ドラマによっては専門家からみても質がとても高いようです。

ただ、ちょっと気をつけなければいけない点があります。医療ドラマのなかでは、隠語(専門家同士の口語表現)がつかわれているということです。

日本の医療従事者の間でつかわれている隠語については、先日紹介しましたが、英語圏の医療ドラマでは、現場のリアルな感じをだすために、隠語がすくなからずつかわれています。しかも、隠語は隠語らしく医療従事者同士のシーンでだけつかってくれるのならばまだいいのですが、時として患者にむかって、隠語をつかうシーンがでることがあるのでこまります。

たとえば、「グレイズ・アナトミー」のあるエピソードでは、病院にかつぎこまれて、がんと診断されたばかりの患者にいきなり「mets」(転移)ということばをつかって説明するシーンがありました。患者役は質問もせずに、その説明をうけいれていましたが、実際のところ、どれだけ一般のアメリカ人が「mets」といきなりいわれて、ニューヨーク・メッツ以外のことをおもいつくのか、とても疑問です。

医療ドラマを真にうけて、医療通訳が隠語をつかってはいけません。当ブログでは、なんどもくりかえしてつたえていることですが、医療通訳は患者と医療従事者とのコミュニケーションの橋わたし役です(もちろん、医療通訳のなかには医療従事者同士の会議通訳にすすむ方もいるでしょうけれども、それは別の仕事です)。患者につたわることばを意識すべきです。専門用語ですらない隠語をぶつけても、患者にはまずはつうじないとかんがえるべきです。

そもそも、日本国内で医療通訳にたずさわると、患者の過半数はノン・ネイティブです。過剰にアメリカ的だったり、イギリス的だったりする口語表現はつうじないと心得るべきです。アメリカの医師がつかう隠語などをつかうのは、患者がアメリカ医療ドラマのファンであると期待するようなものでしょう。

とはいえ、医療ドラマをみるのは楽しいことです。参考までに「グレイズ・アナトミー」でつかわれている隠語をいくつかあつめてみました。

東京オリンピックが近づくなか、医療通訳による訪日外国人サポートへの関心が高まっています。ブログ『医療英語の森へ』を発信する医薬通訳翻訳ゼミナールは、独学では物足りない、不安だといった方のために、医療通訳・医療英語のオンライン講座もおこなっています。ご希望の方は当ゼミナール・ウェブサイトのお問い合わせページから、またはメールでご連絡ください。
隠語 専門用語・一般用語
mets metastasis/metastases
peds pediatrics
derm dermatology
OR operating room
wet lab skills lab
piggybag heart transplant heterotopic heart transplant. cf. orthotopic
vitals vital signs
appie, appy appendix, appendectomy (US)/appendicectomy
OB obstetrics
pit emergency room/ER
tox screen toxicology screen

脳神経系についての基本の基本(末梢神経) — 医療通訳資格試験にむけて

末梢神経系については、試験対策という点からみると、おぼえるべき単語はそれほどおおくありません。「医療通訳」(2014年版)の末尾にある用語集にも、取りあげられている単語はほとんどありません。それでも、はたらきの面から、末梢神経系が自律神経系と体性神経系でわけられることは、おぼえておきましょう。

末梢神経系に自律神経系は交感神経系と副交感神経系に、体性神経系は感覚神経と運動神経におおきくわかれます。それぞれ「神経系」(nervous system)と、ここではかいたものでも、単に「神経」とあらわされることもあります。

気をつけなくてはいけないのは、脳神経系のなかで、脳そのものと脊髄をのぞく神経は、末梢神経系にはいるということです。脳から直接のびている左右12対の脳神経は、中枢神経系にはいるものとおもいがちですが、脊髄からのびる脊髄神経とともに末梢神経系にはいります。

下に単語表はつけましたが、試験で英単語がでてくることはすくないでしょう。むしろ、おおまかにはたらきをおぼえておくことが大切でしょう。

末梢神経系 まっしょうしんけい peripheral nervous system/PNS
自律神経系 じりつしんけいけい autonomic nervous system/ANS
体性神経系 たいせいしんけいけい somatic nervous system/SoNS
交感神経系 こうかんしんけいけい sympathetic nervous system/SNS
副交感神経系 ふくこうかんしんけいけい parasympathetic nervous system/PSNS
感覚神経 かんかくしんけいけい sensory nerve
運動神経 うんどうしんけいけい motor nerve
脳神経 のうしんけい cranial nerve
脊髄神経 せきずいしんけい spinal nerve

【参考資料】

脳神経系についての基本の基本(中枢神経) — 医療通訳資格試験にむけて

ホメオスタシスについては、なんども当ブログではふれていますが、脳神経系(the nervous system)は内分泌系とともに、ホメオスタシスをつかさどる司令塔の役割をになっています。

脳神経系は、中枢神経系と末梢神経系におおきくわけられます。そのうち、中枢神経系は、脳と脊髄でなりたっていますが、Bozeman Scienceの動画がとてもわかりやすいので、ご紹介します。

「医療英語の森へ」では、体内のしくみやはたらきをまなぶにあたって、「流れ」を意識することをすすめています。ただ、脳はとても複雑なはたらきをしています。流れを意識する前に、まずは「大脳」「間脳」「脳幹」「小脳」におおきくわけて、位置(構造・仕組み)とはたらきを理解することからはじめてみましょう。

中枢神経系 ちゅうすうしんけいけい central nervous system/CNS
のう brain
大脳 だいのう cerebrum
脳梁 のうりょう corpus callosum
大脳皮質 だいのうひしつ cerebral cortex
前頭葉 ぜんとうよう frontal lobe
頭頂葉 とうちょうよう parietal lobe
後頭葉 こうとうよう occipital lobe
側頭葉 そくとうよう temporal lobe
間脳 かんのう diencephalon
視床 ししょう thalamus
視床下部 ししょうかぶ hypothalamus
下垂体 かすいたい pituitary gland/hypophysis
小脳 しょうのう cerebellum
脳幹 のうかん brainstem/brain stem
中脳 ちゅうのう midbrain
きょう pons
延髄 えんずい medulla oblongata
脊髄 せきずい spinal cord

【参考資料】