時間があったらブックオフをのぞいて医療本をさがそう

医療系の本はたかい!

医療英語・医療通訳の勉強つづけていますか。本やウェブをつかって、資料をあつめているでしょうか。医療通訳はつねに勉強ですよね。

あたらしい研究や病気の新定義といった未来へ向けた勉強もありますし、いままで辞書でしらべてつかっていたことばがどうやらちがったものだったとか、べつのいいかたがあって、そちらのほうが適切だった、なんて、ある意味、過去をふり返るような勉強もありますよね。

いずれにせよ、勉強をやめることはできないのが、医療通訳っていうしごとです。でも、勉強するために買わなきゃいけない医療系の本て高いですよね。これほしいとおもっても、価格をみて、腰がひけちゃったことありませんでしょうか。正直いって、僕はあきらめたこと、なんどもあります。

時間があいたらブックオフへ

僕は外をあるいていて、時間に余裕があるときにブックオフをみかけたら、のぞいていることにしています。そして、「医学」とか「健康」とか書かれている棚にいくと、たまにおもわぬ掘り出し物があったりしますし、そうでなくとも、いい本が新刊よりは、やすい値段でかえます。

僕がいままでみつけたなかで、一番の掘りだしものは医学書院の「医学大辞典 第2版」でした。いまから、たしか2年ほど前に買ったのですが、5000円でした。どうやら、著者か出版社からだれかに送られた本のようで「贈呈」の印がおしてありました。もらってはみたものの、たいしてつかわなかったひとが処分した本らしく、ほとんど開いたようすのない状態で、破格の値段でした。

品ぞろえにちがい 医学部ちかくの店舗が狙い目かも

ブックオフは店頭で買い取りをしているので、店舗によって、品ぞろえがちがいます。チェーンですので、この店舗ではこの種類の本がうれる、あの店舗ではああいった本の方がうれるということもあるのでしょう。

よく聞くのは、医学部や看護学校などのちかくのブックオフは、生徒や卒業生がつかわなくなったテキストを売るので医学関連の本が充実しているということです。ただ、僕自身はそのことを確認はまだできていません。

僕が偶然はいって、医療本がわりとそろっていたのは、大阪の江坂店でした。おもわず、さきほどの「医学部・看護学校ちかくのブックオフは医療本が充実している」説を確認しようとして、店員さん何人かにきいたのですが、みなさん「とくにしりませんけど」といってました。なにかわかる方がいたら、ぜひ、問い合わせページから教えてください

医療は日進月歩、つねに進化していることに注意!

こういった古本をつかううえで気をつけなければいけないのは、つねに医学は進化しているということ。だから内容に完全に頼りきらないでください。せいぜい、海の上のヨット程度にかんがえておくことです。ゆらゆらしているでしょう。転覆するかもしれませんよね。でも、海の上をすすむことができる。頼りにはなるけど、頼りきれないんです。

ある勉強会で、著名な講師の方が説明をしたら、この本に書いているいい方とちがうって、食い下がっているひとがいました。その講師の名前にひかれて参加しているっていうのにですよ。本というかたちになるとすごい説得力があるんですね。

たしかに、そういった優秀な講師の方でも、すべてが正しいとはいえないというのは事実です。ですが、本が全部正しいってこともないんですよね。古本をつかっていたらとくにそうですよ。素直にまずはきいておいて、それでも、気になったら、あとで、いろいろな資料にあたってみましょう。

もっとも、新刊を買っても、かの有名な「ステッドマン医学大辞典 改訂第6版」なんて出たの2008年ですからね。妊娠中毒症が妊娠高血圧症候群になったのが2005年、高脂血症が脂質異常症になったのが2007年ですので辞典の出版ペースでみると、そんなに古いはなしじゃなくなっちゃいます。ブックオフをつかうってのは、そんなに危険なはなしじゃなくて、つかい方次第だとおもいます。

ブックオフのまわしものじゃないので、もちろん、町の古本屋でも、東京の神保町でもいいです。ブックオフはいろいろなところにあってみつけやすいのでおすすめしただけです。出版業界のためにも、新刊買うべきなんでしょうけどね。ふところ具合がきびしいです。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

医療英単語力アップへ — 語の要素のINDEXを活用しよう

当ブログでは、以前「語の構成要素を理解することはやっぱり大事」という記事の中で、どうやって医療英単語をふやしていけばいいのかということについてはなしました。そのなかで、強調したことは、語の構成要素(接頭辞・接尾辞・連結形)を理解することが、医療英単語のボキャブラリーを増やしていくのに、とてもだいじだということです。なぜならば、おおくの医療英単語が語の構成要素をブロックのように組み合わせてつくられているからです。

代表的なことばでいえば、gastritis(胃炎)です。これは「G」の項目の下にあるgastr-という「胃」を意味するギリシャ語由来の要素と、「I」の項目の下にある-itisという「炎症」をあらわすこれもギリシャ語由来の要素がく組み合わされてつくられています。

このような語の要素をおぼえると、医療英単語をのボキャブラリーをふやしていくことがグッと楽になります。ただ、いきなり、語の構成要素を片っ端からおぼえていくのは大変です。まずは、いままでにならったことばを分解することからためしてみましょう。たとえば、胃炎や食道炎(esophagitis)、腸炎(enteritis)、肝炎(hepatitis)などをみると、組みあわせのパターンがみえてくるはずです。そして、分解してみましょう。

ちなみに、語の構成要素について、僕が個人的に大好きなのはdiarrhea(下痢)ということばです。dia-という「を通じて」「を横切って」「通して」といった意味のギリシャ語由来の要素と、-rrheaというこれもギリシャ語由来の「流出」「放出」「排出」という要素でできています。つまり「ながれるようにと横切ってでていく」ってことなんですよ。ものすごくイメージわきませんか。すばらしく良くできたことばだとおもいます。ギリシャ人のイマジネーションに感謝です。もちろん、このことばがおもしろいからすきなのであって、下痢がすきってわけではないですからね。

語の構成要素をしっていくということには、単に単語がおぼえやすくなるだけではなく、このdiarrheaのように、ことばの意味がはっきりとしたイメージにつながるのをたすけるという利点もあるので、おすすめなのです。

当ブログでは、語の構成要素をそれぞれ「Aからはじまる語の構成要素」「Bからはじまる構成要素」とはばひろくまとめ、20回以上にわたって連載してきました。医療英単語についての語の構成要素は、ほぼカバーしています(たりないものについては、問い合わせページからご指摘いただければアップデートします)。

 

それぞれの語の要素へは、語の構成要素 — INDEXからアクセス出来ます。INDEXには、デスクトップでは、サイドバーのメニューから、iPhoneやスマートフォンではドロップダウン・メニューからもアクセスできます。

まずは、自分がしっている医療英単語の構成要素を理解することからはじめましょう。そして、医療通訳をめざすかたや、医療英語を勉強する方は、当ブログの語の構成要素 — INDEXを活用することで、ボキャブラリーを増やしていきましょう。

稼ぎまくりの米国製薬会社経営者!

ちょっと前にSTAT NEWSから「(他人の)稼ぎがうらやましい?」というやや挑発的なタイトルの記事がでて、製薬・健康関連企業の経営者(CEO)の報酬上位20人のランキングが紹介されてました。くわしいランキングはSTAT NEWSでみていただければいいのですが、たしかにすごいですよ。おもわず「うらやましい」っていいたくなるほどのうなるようなお金をみなさん稼いでます。

1位のRegeneron Pharmaceuticals(ニューヨーク州タリータウン)のLeonard S. Schleiferは 4746万2526ドル(約52億円、1ドル110円換算)ももらってます。2位はぐっとおちますが、それでもVertex Pharmaceuticals(マサチューセッツ州ボストン)のJeffrey M. Leidenは、2809万9826ドル(約31億円)も稼いでいます。つづいて、CVS Health(ロードアイランド州ウーンソケット)のLarry J. Merloで2285万5374ドル(約25億円)となっています。

この上位3人にくわえて4人の1年の報酬が20億ドル超えとなっています。すごいですねぇ。ちなみに、CEOの報酬合計には給与、賞与、ストックオプションのほか、いろいろな臨時収入や役員特典などがふくまれているとのことです(Total CEO compensation includes salary, bonus, stock and stock option awards, and other perks.)。

3社ともそうですが、ランキングにはあまりなじみのない製薬・健康関連企業がずらっとならびます。なじみのあるのは、5位のジョンソン・エンド・ジョンソンや、8位のメルク、9位のアボット・ラボラトリーズ、15位のバイオジェン、16位のバクスター、17位のイーライリリーといったところでしょうか。ランキングには、製薬会社だけではく、健康保険会社なども入っているので、日本ではなじみのないのもふしぎではないのでしょう。

1位のRegeneron Pharmaceuticalsは、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration、AMD)の薬で注目をされたバイオ企業です。ちょっと前まで赤字を垂れ流してたらしいですね。そういえば、この加齢黄斑変性ってみるとドキッとする方いるんじゃないですか。どこかの試験ででていたような…。

3位のCVS Healthは、しらべてみたら全米に7800店舗をもつ薬局チェーンでした。アメリカのマツキヨみたいなものでしょうかね。CVSとは、もしかしてコンビニエンス・ストアを略したのかとおもったら、「Consumer Value Stores」(顧客価値ストア)だそうです。

2位のVertex Pharmaceuticalsは、フランス・ヨハンソンの「アイデアは交差点から生まれる イノベーションを量産する「メディチ・エフェクト」の起こし方」によると面白いのですが、とにかく、分子の組み合わせをいろいろためしてみたら、どれか成功するだろうというトライ・アンド・エラーを徹底して成功したバイオ企業らしいです。米国の製薬企業は、1990年代に開発費が3倍に増えたにもかかわらず、アメリカ食品医薬品局(FDA、厚労省の食品・薬品部門業務に相当することを担当しているアメリカの政府機関とかんがえればいいです)の認可薬品数は半減したために大きな危機におちいったそうです。Vertex Pharmaceuticalsはその危機を「数打ちゃ当たる」戦略で乗り切り成功をおさめたのですね。

宝くじで3億円あたったら遊んでくらそうなんてバカなことをいっては、家で怒られている私なので、こんな高額報酬もらったら、1年で社長やめちゃうよとかおもっちゃいます。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

注射器を再利用する診療所にドッキリ – 僕にとっての医療通訳の原点

狂犬病だけがリスクでないことを思いだす

狂犬病のワクチンをうってもらって、気持ちがすこし落ちつきました。そしたら、頭がまわりだしたのか、思いだしたことがあります。それは、犬にかまれたときには、狂犬病の危険だけでなく、破傷風(tetanus)のリスクもあるということでした。

なんで、そのことをしっていたのかというと、実はインドで犬にかまれたときからさかのぼること3年ほどまえにアメリカでも犬にかまれたことがあったからです。そのときに担ぎこまれた病院のER担当医の説明では、アメリカでは狂犬病のリスクよりも、とにかく破傷風の可能性のほうを考慮するということでした。とにかくまずうつのは破傷風のワクチンだといわれました。

振りかえってみると、アメリカで犬にかまれたときはまだ学生だったので、子どものときにうった破傷風ワクチンの効力はあったのかもしれません。といっても、破傷風が3種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日咳。DPT vaccine: diphtheria/pertussis/tetanus)にはいっているなんて、そのころは、そもそもしらなかったですけどね。

破傷風のリスクを女医はおもいつかず

アメリカで犬にかまれたときの経緯をおもいだし、破傷風の危険性が気になった僕は、女医さんにそのことをたずねました。そのときの、女医さんの顔というか表情はいまでも思いだします。一瞬、なにをいっているのかわからないといった感じのポカンとした顔をし、それからちょっと首をかしげました。つづいて「あーっ、そういえばそうだった」といった顔になったのです。そして、すぐにさらさらと、処方箋を書き出し、また、私にわたしました。

もし、僕が以前に犬にかまれた経験がなかったら、いったいどうなったんでしょうか。まぁ、わざわざ破傷風のワクチンをもう一度うちなおさなくても、アメリカでうってもらったワクチンの効果がその時点ではまだあっただろうと、いまかんがえると思えるんですけど。そういや、その女医さん、そういった過去のワクチン接種歴なんかについて、いっさい問診しませんでしたね。それもかんがえてみると、すごいですよね。

ふたたび薬局へ

さて、破傷風ワクチンの処方箋をもらった僕は、ふたたび薬局へむかいました。処方箋をわたすと、前回とおなじです。冷蔵庫をあけて、ワクチンをもらいました。あのちいさな冷蔵庫に何種類くらいのワクチンがはいっていたんでしょうね。いまかんがえていると、不思議です。なんか、ドラえもんのポケットみたいです。

今回のワクチンはちいさなアンプル(ampoule, ampul, ampule, またはampulla)でした。ということは、注射器(needle and syringe)がべつに必要です。危険、危険。注射器を再利用されたら大変です。さっそく、その薬局でたずねました、新品の注射器はあるのかと。さいわいなことに針付きの注射器があったので、それを購入しました。

新品の注射器をつかいたがらない看護師

破傷風ワクチンと注射器を買った僕は、もう一度、こんどこそが最後だろうというおもいで診療所にもどりました。診療所でデスクのうえに買ってきたワクチンと注射器をおくと、看護師がワクチンのはいったアンプルを取りあげました。すると、なんということか、たくさんの注射器が浮いている水槽から注射器を一本とりだしたのです。

僕は大声でさけびました。ちょっとまってくれ、新品の注射器を買ってきたんだから、それをつかってくれと。すると、看護師はちょっと顔をしかめました。なんで、新品をわざわざつかわなければ、いけないんだとばかりに。それから、ちょっと肩をすくめて、その注射器を水槽に戻し、新品の注射器をつかって、破傷風ワクチンを僕にうってくれました。

僕の注射器も水槽へ

僕の買ってきた注射器ですが、破傷風ワクチンをうっただけで、お役ご免とはなりませんでした。僕に破傷風ワクチンをうってくれた看護師はそのまま、なんのためらいもなく、その注射器も水槽へと投げ入れたのです。正直、背筋がぞっとしました。

そもそも水槽のなかのあの液体はなんだったのでしょう。消毒液だったのか、それともただの水だったのか。とにかく、僕は2度とその診療所にはもどりませんでした。町にはそのあと数日滞在しましたし、狂犬病ワクチンの2回目は、そのあいだにうたなきゃいけなかったんですけど。

医療通訳としてのいまにつながっているのかも

ここでおはなししたやりとりは、すべて英語でやったのですが、どうやってこなしたのか、いまかんがえても、ふしぎでなりません。旅行中は、ちいさなオックスフォードの英英辞典はもっていましたが、和英も英和ももっていませんでしたし。

「僕にとっての医療通訳の原点」とタイトルに書きましたが、ほんとのところ、医療通訳をまなびだしたのは、ずっとあとのことです。医療通訳とはなにかという説明をあるところでしていたら、ひょんなことから、このはなしになりました。そのときに僕のはなしをきいていたひとたちから、とても貴重な経験だからブログに書くようにとすすめられました。あらためて振りかえると、じぶんでも、医療通訳としてのいまとつながっているふしぎな体験だったなと感じて、このタイトルにしました。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

狂犬病ワクチンはちいさな冷蔵庫からでてきた – 僕にとっての医療通訳の原点

インドでは注射がくせもの

前回おはなししたように、犬にかまれてしまうという、一番おそれていた事態におちいってしまった僕は泣きさけびながら、砂漠の端にあるプシュカールという小さな町の唯一の診察所にたどりつきました。汚くてちいさい、たぶんみなさんのご想像どおりの診療所です。

ところで、診察所でのはなしをするまえに、なんで、犬にかまれることをおそれていたのかという理由について、もうすこしふれたいとおもいます。

すでにおはなししたとおり、狂犬病は発症したら致死率がほぼ100%のとっても危険な感染症です。ただし、ワクチンはあります。ですので、野良犬にかまれたら、とにかくワクチンをうたなければなりません。ワクチンをうつには注射をつかいますよね。この注射をつかうというのがインドではくせものなんです。

注射器をもって旅行していたイギリス人

インドをまわりだしてすぐにイギリス人と道中をいっしょにすごす機会があり、もう1人電車でいっしょになった韓国人もくわえて、僕ら3人で1週間ほどバンガローをかりてとまっていたことがあります。そのイギリス人の彼の荷物のなかに注射器があるので、なにか、ドラッグでもやっているのかときいたところ、インドでサソリに刺されてしまった幼なじみの話をしてくれました。

その幼なじみはサソリに刺されて病院にいったところ、新品の注射器がなかったそうです。病院でいわれたのが、血清をうつには注射器を再利用するしかないといわれたそうです。そして、血清をうたなくとも大丈夫な確率は50%だといわれたそうです(この50%の確率がほんとうかどうかはわかりませんが、サソリに刺されてかなりのひとがインドではなくなっているようですね)。

その幼なじみは血清をうたない方を選択したんだとききました。再利用の注射器をつかって、エイズなどのわけのわからない感染症にかかるよりは、50%のリスクをとったほうがいいと判断したそうです。結果として、幼なじみは死ななかったそうですが、なぜかそのできごと以降、人格がかわってしまったそうです。サソリ毒の影響かどうかはわかりませんけどね。僕といっしょだったイギリス人(ウィルって名前だったかな? むかしなんでおぼえてないですね)は、それがこわくて、インドを旅行するにあたって、注射器を用意したとのことでした。

そんなイギリス人の彼のことばもあって、インドで注射器を必要とする立場にはなりたくない、すなわち、ぜったいに犬にはかまれたくない、とかんがえていたのです。

診察室の水槽には注射器がぷかぷか浮いていた

さて、はなしを犬にかまれてプシュカールの診療所に泣きながら駆けこんだ僕の話にもどします。もしかしたら、診療所じたいはもうすこしおおきかったのかもしれませんが、僕の記憶にのこっているのは、ちゃんと掃除しているのかたずねたくなるような、きったないトイレと廊下、そして、10畳か12畳くらいの診察室(インドなのに畳でおおきさを表現するのもおかしなはなしですね)だけです。診察室の真ん中よりやや窓よりにはおおきなデスクがありました。

そのデスクの向こうには、ほんとうに資格をもっているのかうたがわしくなる、まったくお医者さんらしくない女医さんがすわっていました。そして、からだのおおきな看護婦さんが入り口のちかくにたっていました。

そして、これはわすれちゃいけないんですけど、入り口からみて、左側の壁際に水槽があって、そのなかの透明な液体の上には、たくさんの水槽が浮いていたってことです。「もしかして」と一瞬いやな感じが頭をよぎりましたが、こちらはなんせ犬にかまれて、気が動転していますから、とにかく、”I was bitten by a dog! I was bitten by a dog”って診察室のなかで叫んでいたとおもいます。といっても、じぶんがなにをはなしたのかなんてのは、動転していたせいか、あまり記憶に残っていないんですけどね。この水槽が意味をもってくるのは、先の話です。

はなさない女医

あいまいな記憶なんですが、その女医さんはろくろく診察をしなかったんじゃないでしょうかね。僕はキズをみせたけど、その女医さんが積極的にキズを診察した記憶はありません。たしか、すべて実務は看護師さんがやっていたとおもいます。その女医さんが声を発した記憶がないんですね。とにかく、さらさらと、処方箋をかいて、僕に渡しました。

処方箋をもらったところで、僕を連れてきてくれた男の子がまだ診察室の入り口あたりにのこっていたことに気がつきました。男の子はすぐに僕を診察所の前にある掘っ立て小屋のようなところにつれていってくれました。そこには、ひとり暮らしの学生がつかうようなちいさな冷蔵庫とちょっとした棚があるくらいで、20代前半くらいのわかいお兄さんが冷蔵庫の横のイスにボーッとすわっていました。そこが薬局だったんですね。処方箋をわたすと、飲み物でもだすかのようなうごきで冷蔵庫をガチャッとあけて、狂犬病のワクチンをだしてくれました。たいした値段ではなかったと思います。

そのワクチンをもって、さっそく診療所にもどりました。狂犬病ワクチンは針とアンプル剤が一体型となっているタイプで、看護師の方にすぐにうってもらいました。ちなみに待ち時間とかはたしかなかったですね。すぐに診察、すぐに注射という感じでした。

狂犬病ワクチンは1回うつだけじゃない

ところで、狂犬病ワクチンって一回うつだけではすまないんですよね。いろいろなタイプがあるらしいのですが、僕のは全部でたしか5回うたなければいけないタイプでした。タイプによっては、10本以上うつタイプもあるようですけど。僕のは注射する間隔をほぼ倍々であけていくというかんじでした。たとえば、初日、3日目、1週間後、2週間後、4週間後といったところです。そういや、この注射のやりかたについてははいくらなんでも、あの女医さんがしたんだよな。あまり記憶にないけど。

ずーと、プシュカールにいるわけには、いかないですからね。しょうがないので、パッケージをとっておいて、訪れたところで薬局と病院をさがしてうってもらうというかんじでした。いちどなんか、宿でいっしょになったイスラエルの女の子に軍隊仕込みの特殊なやりかたで注射をうってもらったこともあります。どうやら、傷病兵があばれたりするので、抑えこみながら、注射をうつという方法らしく、僕のからだのうえにまたがって、腕をねじりあげてから、注射をうってくれました。

ところで、プシュカールの診療所のはなしはまだおわっていません。いちばん、びっくりしたのは、このあとのことです。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。