からだのしくみを理解するキーワード: ホメオスタシス(1)

ホメオスタシス(homeostasis)は、恒常性とか、恒常性維持、均衡維持などと日本語に訳されます。和英辞典で恒常性とひくとconstancyといった言葉とともにhomeostasisが出てきます。フランスの生理学者クロード・ベナール(1813-1878)という人が19世紀にとなえた考え方です。結構古いですね。

では、このホメオスタシスとはなんだというと「多細胞生物(multicellular organism)が体内外の変化にもかかわらず、体内の環境(内部環境 milieu intérieurまたはinterior milieu)を一定に維持すること」となります。多細胞生物とは目が回りそうな話ですが、人間も多細胞生物なので、ここでは多細胞生物を人間と置き換えて、かんがえていきましょう。

人間って、赤ん坊としてうまれ、成長して大人になり、年をとって老人となり、死んでいきますよね。人生のながれの中で人間の体は常に変化していきます。でも、人生という時間軸の中である一部、たとえばいまのこの瞬間をきりとってみると、人間の体内ではその環境を一定に維持しようと働いているということなのです。体外環境は、温度が変わったり、天気が変わったり、場所が変わったり、常に変化しています。それに対して、人間の体はなんとかバランスをとって、体内環境を一定に維持しようとするのです。

一定というと静的(static)な状態のように聞こえるでしょうけど、体外環境の変化をかんがえれば、そんなに静的な状態であるわけはありません。実際には体内のすべての機能がおたがいにはたらきあって実現することができるとても動的(dynamic)な状態なんです。たとえば、からだから水分は常に蒸発(evaporate)していますよね。人はからだの中の水分が足りなくなると、のどのかわきをかんじて、水をのみ、のどのかわきをいやして、体内に水分を補給する。これって、ホメオスタシスにもとづく、からだのはたらきなんですよね。パッとかんがえただけでも、のどのかわきをかんじる神経系(the nervous system)とからだを動かして水をのむ筋系(the muscular system)と水分を吸収する消化器系(the digestive system)がこの行為のなかではたらいていることがわかるでしょう。

次回は、ホメオスタシスがどのように維持されているかなどにふれていきましょう。

参考資料

  • 「トートラ人体の構造と機能」(丸善)
  • 「しくみが見える体の図鑑」(エクスナレッジ)

切り分けて・整理して考える 主観と客観

さて、いきなり主観と客観なんて小難しいタイトルではじめてしまいましたね。まずは、主観(subjectivity)についてかんがえてみましょう。iOS版大辞林3.0には、主観の意味がふたつでています。とても哲学的な意味も書かれているのですが、ここでは 大辞林に書かれている「自分ひとりだけの考え」という意味にそって主観をみていきましょう。

では、診察の現場で「自分」とは誰のことでしょうか。もちろん、医師(physician)も医師自身にとっては「自分」ですし、看護師(nurse)だってそうです。受付(reception/receptionist)もそうでしょう。しかし、あえてここでは「自分」とは患者(patient)のことだとかんがえてみましょう。

なぜ、患者を「自分」とするのかということを診察のながれをみながらかんがえてみましょう。診察(medical examinationあるいは単にsession)というのは、一般に患者が症状(symptom)をかかえて病院(hospital/medical institution)に来院することからスタートするします。そして、その患者を担当した医師が症状についての患者の訴え(complaint)をもとに問診や検査をすすめるのが診察です。そもそも、この症状というのがなにかというと「患者により苦痛として経験されたり、心配や危険として解釈されたりする痛みあるいは不快の感覚。通常、自覚症状の意味で使う」(医学大辞典 第2版・医学書院刊)なのです。患者による主観的な経験(subjective experience)が症状なのです。

さて、症状に対する言葉は、徴候(sign、他覚的所見 objective finding)です。「第三者が客観的に観察できる所見」(同医学大辞典)のことをいいます。ここで、「客観」という「主観」と対になる言葉が出てきましたね。つまり、症状(主観)と徴候(客観)が対になっているのです。別の見方をすると、主観の主である「自分」は患者で、客観的に観察している「第三者」は医師(他の医療従事者 medical practitionerも含まれます)になります。

診察というは一般的に、患者が訴えている症状に、医師が耳をかたむけ、そして検査などをおこなって、所見をまとめ診断にいたるという流れ(プロセス)のことをいいます。すべてが主観と客観のわく組みにきれいにおさまるとはいえないものの、おおむね主観→客観にいたる流れだといえるでしょう。ですので、「主観」「客観」という考え方・見方がわかると、医療の現場でおこなわれていることの意味がみえてきます。

たとえば、なぜ病院にいくと、熱(body temperature)や血圧(blood pressure)などをはかったりするのかということがわかってくるでしょう。熱や血圧といった数値で表せるものは客観的なデータだからなんです。患者が「熱っぽいんです」と症状を訴えてきたときに熱をはかって「38.0度ですね」となれば、症状が徴候として客観化されるのです。こういった数字・数値であらわすことを「定量化する(quantify)」といいますが、患者の「主観」を「客観」化するのに大切なやり方なんですね。

なお、熱・血圧は、心拍数(heart rateまたはpulse)と呼吸数(respiratory rate)とあわせてバイタルサイン(vital signs)と呼ばれます。ここでサイン(徴候)という言葉が客観的な意味でつかわれていることが確認できます。徴候という言葉は、予兆(きざし)という意味でもつかわれたりするので、やや混乱しないように気をつけましょう。専門的には、こういった予兆は前駆症状(prodrome)といわれます。

つねに、主観か、客観かなんてことはかんがえていなくとも、考え方の整理をするときにとても役立つと思いますよ。

主観 客観
患者 医療従事者(医師)
症状 徴候・所見
定性化 定量化

JCI認定病院が2015年だけで7施設増えて全部で18施設へ

JCI(Joint Commission International)の認定を受けるためのセミナーがいろいろとひらかれているというので調べてみたところ、なんと2016年3月末現在で国内認定施設の数が18にまで増えていました。このうち、2015年だけで7施設が認定を受けたというのですから、急増しているといえるでしょう。このトレンドがいつまで続くかわかりませんが、東京オリンピックの開催を背景とした最近の外国人受け入れブームや慢性的な病院の経営難などをかんがえると、増加ペースはともかく増加していく方向にまちがいはないでしょうね。

2016年3月末現在の認定施設を表にしました。関東に11施設が集中していますが、北海道から沖縄県まで全国に施設は散らばっています。東北と北陸にはまだ1施設もありませんね。JCIのウェブサイトでは一部にリンク切れがあるのですが、病院名のところにリンクをはっておきました。

病院名 英名 認定日 都道府県
亀田総合病院 Kameda Medical Center 2009年8月8日 千葉県
NTT東日本関東病院 NTT Medical Center Tokyo 2011年3月12日 東京都
介護老人保健施設老健リハビリよこはま Geriatric Health Services Facilities Yokohama 2012年3月29日 神奈川県
聖路加国際病院 St. Luke’s International Hospital 2012年7月14日 東京都
湘南鎌倉総合病院 Shonan Kamakura General Hospital 2012年10月27日 神奈川県
総合病院聖隷浜松病院 Seirei Hamamatsu General Hospital 2012年11月17日 静岡県
相澤病院 Aizawa Hospital 2013年2月16日 長野県
メディポリス国際陽子線治療センター Medipolis Proton Therapy and Research Center 2013年9月13日 鹿児島県
済生会熊本病院 Saiseikai Kumamoto Hospital 2013年11月23日 熊本県
葉山ハートセンター Hayama Heart Center 2014年3月6日 神奈川県
東京ミッドタウンクリニック Tokyo Midtown Clinic 2015年1月31日 東京都
足利赤十字病院 Japanese Red Cross Ashikaga Hospital 2015年2月7日 栃木県
埼玉医科大学国際医療センター Saitama Medical University International Medical Center 2015年2月7日 埼玉県
順天堂大学医学部附属順天堂医院 Juntendo University Hospital 2015年12月12日 東京都
国際医療福祉大学三田病院 IUHW Mita Hospital 2015年12月19日 東京都
南部徳洲会病院 Nanbu Tokushukai Hospital 2015年12月19日 沖縄県
札幌東徳洲会病院 Sapporo Higashi Tokushukai Hospital 2015年12月19日 北海道
倉敷中央病院 Kurashiki Central Hospital 2016年3月12日 岡山県

※Joint Commission International(略称: JCI)とは、1994年に世界水準の医療施設評価機構をめざし設立された国際非営利団体 。本部はシカゴ。

漢字がおおいのはダメ

近しいひとにブログを見せたところ、漢字がおおいとダメだしをされた。読むのにつかれるとのことだった。

そのひとがいうには、最近読んだあるベストセラーが漢字がまったくないのにおどろいたのだという。ここまで漢字がなくていいのかとあきれたそうだが、読んでみると、すらすら読めてしまったのだという。いまどきは、あのくらい漢字がすくないほうがいいのだいうことがわかったのだという。

あのくらいといわれても、その本を読んだわけではないので、どのくらいなんだかはなんともいえない。個人的には、漢字がおおい文章のほうがはすきだ。そのことは、自分の劣等感からだとおもっている。とはいえ、漢字というものはこまかいし、PCのスクリーンやスマホでみると、よけいにこまかいところが気になる。たしかに、漢字を書きつらねるのはブロガーとしてはかしこくないのかもしれない。

ちなみにその近しいひとは、かなり年配で、本をよく読む。たぶん、1年でその日数分、つまり365冊くらいは読んでいるのではないか。だから、本をよく読まないひとがそういっているわけではないということだ。

すなおにそのアドバイスにはしたがおうとおもう。ただでさえ、医療用語には漢字が多いのだから。もちろん、漢字というのはとても便利で、字面をみただけで意味がつたわることがある。それに、ひらがなで書いてしまうとつたわりづらくなるものもある。ですので、漢字を使いませんというわけではない。ただ、気がつく範囲で、漢字をつかいことをひかえていこうということだ。

切り分けて・整理して考える 構造・機能

医療英語を学ぶにあたっては、いろいろなものを切り分けて、整理して考える、そして覚えるということが大事だと思います。その切り分ける上で重要な一つの軸が構造(structure)と機能(function)という考え方です。言語学や社会学の分野でよく使われる考え方です。

まず、構造と機能のざっくりとした意味を立命館大学の故児玉徳美名誉教授の言葉でみてみましょう。

構造とは、(機械や組織などの)全体を成り立たせる内部の仕組み、部分部分の組み立て。例: 車の構造、心臓の構造
機能とは、物の働き、活動できる能力。例:心臓の機能、国会の機能

偶然にも、心臓という医学の領域の言葉が例として出ていますね。故児玉教授の言葉を言い換えると、物の実体としての形をみていくときはその構造をみています。その一方で、物がどのような働きをしているのか、どういった役割を果たしているのかといった点をみている場合はその機能をみているのですね。

さて、医療の分野に引きつけて、構造と機能について考えてみましょう。医学では、構造は解剖学(anatomy)が扱います。そして、機能は生理学(physiology)で扱います。もっとも、解剖生理学という言葉があるように、構造と機能、解剖学と生理学を分けて考えることは、なかなかむつかしいですし多くの場合、無理があります。

例えば、イスについて考えた場合、構造としては座面があり、脚があります。ですが、イスを考える時に「座るもの」という働きを抜きにして考えることはできません。良いイスを作ろうとすれば、座るという機能を徹底的に考えたところから、どのような構造がいいのかというところへと考えが進むでしょう。このように、構造と機能は考え方として地続きです。

地続きとは言っても、構造・解剖学と機能・生理学を意識しておくことは、とても効果的です。心臓という器官について理解するにしても、心房・心室・三尖弁・僧帽弁といった構造を覚えるととも、循環器系のパイプ役として、肺に血液を送りガス交換を促し、さらに肺から還流してきた血液を全身に送り出すという役割を覚えることが必要です。そして、構造・機能に沿って整理して覚えることで理解を深めることができるのです。

単に器官についての理解を深めるだけでなく、病気を理解をする際にも構造・機能の切り分けは役に立ちます。病気は多くの場合、機能障害(dysfunction/functional disorder)として立ち現れます。例えば、息切れがする(shortness of breath/SOB)とか、目が見えづらい(trouble seeing clearly)といった機能上の問題、つまり症状として現れるのです。基本的には、こういった機能障害が構造障害という病因(cause/etiology)から生じているものとして診察は進められます。患者の訴えを基に問診や検査を通じて構造障害を探っていくのです。

言い換えると、機能障害→構造障害という方向で病気の原因を探る診察は進められます。反対に構造障害→機能障害といった方向で治療は基本的に進められます。この流れをみると、機能性疾患(functional disease)という病気の意味が分かると思います。つまり、機能障害としての症状はあるのにもかかわらず、調べても病因となる構造障害がない、あるいは見つからない疾患のことを機能性疾患と呼ぶのです。一方で、構造障害がある病気を器質性疾患(organic disease)といいます。

より正確にいうと、器質性疾患は癌が細胞の増殖という機能の異常によって引き起こされるように機能障害を病因として捉えることも少なくありません。ただし、機能障害だけが起こるのではなく、構造の変化を伴うと言う点が重要です。一方、機能性疾患は機能性難聴における聴力のように構造的な変化が何ら発見できないのに機能に障害が現れます。もちろん、定期健診で発見される疾患もありますので、すべてが機能障害つまり症状によって病気の診断がなされるというわけではありません。無症状(asymptomatic)のままに診断される疾患は器質性疾患です。

構造 機能
解剖学 生理学
器質性疾患 機能性疾患