鑑別診断についての動画をみる(初級編もなくいきなり上級編)

鑑別診断(differential diagnosis)のことをしりたくて、YouTubeをさがしていたら、興味ぶかい動画がみつかりました。紹介する前に、鑑別診断とはなにかということについてちょっとふれます。

鑑別診断とは

鑑別診断とは「医学大辞典 第2版」(医学書院)によると「ある症候(signs and symptoms)の原因となっている疾患を、類似した他の疾患と鑑別すること。具体的には、症状(symptoms)や検査結果(exam and test results)など患者から得られた全ての臨床情報(clinical information)をもとにして、そのような症状を示す可能性のある疾患のなかで、一番よく一致する疾患を鑑別する作業をいう」となっています。

たとえば、腹痛(abdominal pain)を例にかんがえてみましょう。「腹痛について勉強しよう」のところで腹痛の原因となる疾患をあげましたが、腹痛といっても、その原因となる疾患はいろいろなものがありますよね。医師は腹痛患者について痛みの部位や状態、検査結果(これらを臨床情報といいます)などをみながら、「一番よく一致する疾患を鑑別する」のです。

鑑別診断の重要な部分をしめている除外診断(diagnosis of exclusion、Weblio辞書などでは”diagnosis by exclusion”とでてくるが”DOE”と略されるように”of”をつかう)のことをかんがえると、わかりやすいかとおもいます。除外診断の除外とは、いろいろな疾患の可能性をひとつひとつ消去法手的に取り除いていくいくということです。医師は腹痛をうったえる患者がきたら、腹痛の可能性のある疾患のリストを頭のなかで思いえがきます、そして、診察のなかでえた情報(臨床情報)をもとに、そのリストの疾患をひとつひとつ除外していくのです。そうやって、最終的な診断にいたるというわけです。

医療通訳は診察のながれをよむために

そもそも、なんで鑑別診断のことをしらべようかとしたかというと、以前、「会話の流れを予想する 予想にとらわれない」のなかでふれたように、医療通訳は診察のながれを理解することがとても大事です。そのためには、医師がつねにおこなっている鑑別診断について、さらにしることが必要だとかんがえたからです。

さて、ご紹介する動画は鑑別診断のことについて、かなり深く突っ込んでいます。スタンフォード大学のEric Strongという先生が解説をしています。かなり長いですし、簡単ではありません。上級編といっていいでしょう。字幕はついていますが、自動生成されたもののようで、かなり間違いがありますので、頼ることはできません。鑑別診断のことをしらべていた、そもそもの動機からかんがえると、やや上級過ぎる感じもしますが、とても興味ぶかく、くり返しみて、勉強したくなる動画です。

医療通訳も一人称で通訳する

三人称ではなく一人称で通訳する

医療通訳「も」一人称で通訳するとしたのは、一般に通訳というのは発言している人のいったとおり、そのまま訳すので、一人称になります。たとえば、Aさんが「きょうみた映画はおもしろかったです」といえば、そのまま、「きょうみた映画はおもしろかったです」と別の言語に訳します。「Aさんが『きょうみた映画はおもしろかったです』といっています」という風に、通訳者が第三者の立場にたって、「Aさんが」という部分と「といっています」という部分をつけ足して、三人称で訳すことはないということです。

医療通訳も同様に、患者や医師・医療従事者の発言を一人称で訳します。たとえば、John Smithさんという患者のサポートにはいったとします。John Smithさんが “I have a headache” といえば、「(私は)頭がいたいです」と訳します。「ジョン・スミスさんが『頭がいたい』といっています」とはいわないということです。「ジョン・スミスさんが」とか「といっています」ということばを足さないということです。

一人称で通訳をするということは、ある程度、通訳というしごとをしっていたり、なれていたりすると、当然とおもわれることでしょう。しかし、トレーニングをうけたことがないひとが通訳をすると、三人称になってしまうことはよくあることです。実際に僕がおしえていた生徒で「一人称でやるということをしらずに、ずっと三人称でやっていました」という方がいました。この方は、あるクリニックに専属の医療通訳としてつとめていました。英語は優秀だったのですが、医療知識など医療通訳の技能を身につけたくて僕の授業をうけにきました。英語の能力は優秀でも、通訳術ということをみにつけないと、つい三人称でやってしまうということは、よくあることなのです。

簡潔で直接的なコミュニケーションのために

なぜ、一人称にするのかという理由をいうと、第一に、簡潔なコミュニケーションのためです。上の例でみてもわかるように、三人称にするためには、つけ足さなくてはいけない部分がどうしてもでてきます。そのために、どうしても、長くなってしまうのです。一人称にすれば、簡潔に通訳できます。

第二に、通訳表現が第三者をへた間接的なものにならないことから、実際に発言しているひと同士の直接的なコミュニケーションの成立に役立つからです。医療行為は本来、患者と医師・医療従事者のあいだの直接的コミュニケーションにもとづくものです。言語の壁によって、この直接的コミュニケーションがなり立ちづらい状況で、医療通訳はサポートにはいります。ですので、医療通訳は患者と医師・医療従事者のあいだで直接的なコミュニケーションが成立するようにちからをつくさなくてはなりません。そのためには、一人称の通訳が最良の選択肢なのです。

一人称をつかうことを現場でつたえる

プレセッションのことを紹介したときにもつたえましたが、実際に医療通訳のサポートにはいった場合には、一人称で翻訳をすることを現場できちんとつたえるべきです。通訳をつかうことになれていない人の場合、一人称をつかった場合の”I”がさしているのが発言者(患者または医師・医療従事者)なのか、それとも、通訳自身なのかという点で混乱してしまう可能性があるからです。

実は、ここで疑問がでてきます。通訳が質問をしたい場合には、どうすればいいのかということです。つまり通訳が自分自身のことばで発言をする必要がある場合にどうするのが適切なのかということです。三人称に切りかえるというのがひとつの方法です。”The interpreter wants to ask a question”とか「通訳が質問があります」とか、主語を三人称にするという方法です。この方法をとったとしても、日本語については、一人称と三人称の切りかえが、あまりはっきりしないので、通訳はその場に応じてアレンジする必要があるでしょう。

学習ノート – 消化性潰瘍

学習ノート – 消化性潰瘍

学習ノートは病気・症状についての覚え書き。医療通訳として、病気・症状についてまなぶべきとかんじたものをひとつひとつ個人的にまとめたものです。でも、完成形ではありません。勉強していくなかで、修正する可能性や、追加すべきものがでてくる可能性がある、つねに進行形のノートです。

消化性潰瘍、peptic ulcer, peptic ulcer disease (PUD)

潰瘍とは皮膚や粘膜などの表面がなくなり、その下の層の組織に至った状態。消化性潰瘍とは、胃液によって自分の胃や腸を消化してしまい、その粘膜の一部がなくなってしまう病気。大部分は胃と十二指腸におこるが、胃液の影響がおよぶところでは、どこでもできる可能性がある。胃におきた場合は胃潰瘍、十二指腸におきた場合は十二指腸潰瘍とよばれる。

病因 etiology

胃や十二指腸には、それぞれ防御機構があるために普通であれば潰瘍はおきない。なんらかの原因で、この防御機構がくずれて、胃液によって潰瘍がおきてしまう。防御機構がくずれる原因としては、次のものがあげられる。
(1)ピロリ菌
(2)薬(とくに非ステロイド抗炎症薬や抗凝固薬)
(3)胃酸の過分泌(ゾリンジャー・エリソン症候群など)
(4)クローン病など、その他
このうち、ピロリ菌が原因となることがいちばんおおく、つづいて、非ステロイド抗炎症薬がおおい。(3)、(4)はまれ。また、ストレスが原因となることもある。

徴候と症状 signs and symptoms

上腹部(胃周辺、みぞおち)の痛み。夜の空腹部に痛みがつづく。食後すぐに痛みがでることもある。胃酸の過分泌の場合、胸やけやげっぷ、むかつきなどがある。無症状のばあいもある。潰瘍の範囲がふかく、血管に到達している場合、出血をすることもある。この場合、「江戸むらさき ごはんですよ」のような海苔の佃煮に似たタール便がでる。吐血の可能性もあるが、十二指腸での出血については、大量の出血であっても、消化管の先にながれ、吐血しない場合がある。

診察法 diagnostic procedures

確定診断には、上部消化管内視鏡検査やバリウム検査が必要となる。上部消化管内視鏡検査では、生検を同時におこなうことで、潰瘍が良性か悪性かの診断、ピロリ菌の有無を調べることができる。

治療法 treatment

薬物療法とともに、生活様式の改善をおこなう。薬は粘膜をまもる目的のものと、胃酸の分泌を抑える目的のものにわかれる。重症の場合、外科的手術がおこなわれることもある。なお、ピロリ菌を除去すると、再発率の低下がみられる。

英語 日本語 Lay Terms
潰瘍 ulcer
胃潰瘍 gastric ulcer stomach ulcer
十二指腸潰瘍 duodenal ulcer
粘膜 mucosa, mucous membrane lining
胃液 gastric juice
十二指腸 duodenum
防御機構 defense mechanism
ピロリ菌 Helicobacter pylori, H. pylori
非ステロイド性抗炎症薬 non-steroidal anti-inflammatory drug, NSAID
胃酸 gastric acid
ゾリンジャー・エリソン症候群 Zollinger–Ellison Syndrome (ZES)
クローン病 Crohn’s disease
過分泌 hypersecretion excessive production
胸やけ pyrosis heartburn
げっぷ eructation belch, burp
むかつき nausea
出血 hemorrhage bleeding
タール便 melena tarry stool, tarry feces
上部消化管内視鏡検査 upper (gastrointestinal) endoscopy
バリウム検査 barium test, barium meal
良性 benign
悪性 malignant
薬物療法 pharmacotherapy, pharmaceutical therapy medication
生活様式 lifestyle

参考動画

PUD (Peptic Ulcer Disease) Nursing NCLEX® Review | NRSNGacademy.com
NRSNG – NCLEX® Review (NRSNG.com)

参考資料

※参考資料にもとづいて医療英語・医療通訳の勉強のためにつくられた資料です。実際の治療や、検査のために、つくられた資料ではありません。病気・疾患になやまれた場合、きちんと病院で治療をうけましょう。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

学習ノート – ウイルス性胃腸炎

学習ノートは病気・症状についての覚え書き。医療通訳として、病気・症状についてまなぶべきとかんじたものをひとつひとつ個人的にまとめたものです。でも、完成形ではありません。勉強していくなかで、修正する可能性や、追加すべきものがでてくる可能性がある、つねに進行形のノートです。

ウイルス性胃腸炎、viral gastroenteritis、stomach flu、stomach bug、stomach virus

感染性の急性胃腸炎は細菌によるもの(細菌性)と、ウイルス(ウイルス性)によるものがあるが、このうちウイルスによるもので、冬に流行することがおおい。このことから、冬期下痢症とよばれることもある。乳幼児の場合、大部分がウイルス性。ウイルスによって、症状、流行る時期などにちがいがでる。

病因 etiology

冬はロタウイルスがおおく、秋には、アデノウイルス、ノロウイルスもみられる。主な感染経路は、ひとからひとへの経口感染となっている。ウイルスが蓄積した二枚貝から感染することや、井戸水を介して感染することもある。吐いたもののなかにもウイルスがいるため、吐いたものをかたづけるときに感染してしまうこともある。

徴候と症状 signs and symptoms

軽いせき、鼻水、のどが赤くなる(咽頭発赤)などの上気道症状につづいて、嘔吐や下痢がおこる。下痢は水のようないわゆる水溶性下痢。熱はウイルスの種類によってでやすいものと、でにくいものがある。ロタウイルス胃腸炎では熱のでないけいれんをおこすこともある。下痢がつづくことで、脱水症状をおこす可能性があるので注意する。ロタウイルス胃腸炎では、下痢の色が白っぽくなることがある。

診察法 diagnostic procedures

臨床診断、検便、大腸内視鏡

治療法 treatment

ウイルスに直接きく薬はないため、対症療法が中心となる。脱水症状に注意するが、最初は水をあたえても、吐いてしまうことがあるので、無理には水分をとらせない。ロタウイルスについては予防のためのワクチンがある。

英語 日本語 Lay Terms
感染性 adj. infectious, contagious(ひとからひとの場合)
細菌性 adj. bacterial
ウイルス性 adj. viral
冬期下痢症 winter vomiting bug, winter vomiting disease
乳幼児 infants and toddlers
ロタウイルス rotavirus
アデノウイルス adenovirus
ノロウイルス norovirus
感染経路 route of transmission
経口感染 oral transmission
吐いたもの、吐瀉物 vomit
せき cough
鼻水 nasal mucus runny nose, snot
咽頭発赤、のどが赤くなる pharyngeal erythema red throat
上気道症状 upper respiratory symptom
検便 stool test
大腸内視鏡検査 colonoscopy

参考動画

What is the Norovirus? | Sci Guide with Lucy Thorne | Head Squeeze

参考資料

※参考資料にもとづいて医療英語・医療通訳の勉強のためにつくられた資料です。実際の治療や、検査のために、つくられた資料ではありません。病気・疾患になやまれた場合、きちんと病院で治療をうけましょう。

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医療通訳の学校をつくります

医療通訳の学校をことし秋に開校します。ロケーションは、都内のターミナル駅周辺をかんがえていて、東京駅周辺または新宿近辺が候補です。授業時間は、平日夜の18:00〜21:00の間で2時間程度となります。対象言語はまずは英語だけです。くわしいことはおって、当ブログでお知らせします。

民間資格の取得をめざす

医療通訳の資格については、複数の団体が独自に民間資格を認定しているのが現状です。その現状に対して、厚生労働省は複数の民間資格に一定の基準でお墨付きをあたえようとしているようです。くわしいスキームは策定中で、はやければ、来年度にも民間資格にそれが反映される可能性があります。ただし、公的な免許制度にはならないといわれています。

新学校では、民間資格のうち、このお墨付きをえる可能性がたかいものに合格することを目標に、授業・カリキュラムを組みます。

ネットワークの礎に

医療通訳としての勉強とともに、ネットワークをつくっていくことを目的にしたいとかんがえています。地位向上や、卒業後もつづくリサーチ・学習のためには、医療通訳の横のつながりがたいせつです。そのような、ネットワークの礎になればとかんがえています。

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