インドで犬にかまれて大パニック — 僕にとっての医療通訳の原点

野良犬が好き勝手をやっている国インド

もう、ずいぶんまえのことですけど、インドを3ヵ月ほどバックパックをかかえて旅行をしたことがあります。そのときに漠然とじぶんのなかにかかえていた最悪のシナリオは犬にかまれるということでした。

インドはごぞんじのかたもおおいでしょうけど、野良の動物がやたらめったら街中にいるんですよね。牛や豚が街のあちこちをうろついています。街をあるいていたら、いきなり、牛が足ぶみをはじめて、突進してきたりすることもあります。僕がいってから、ずいぶんたつし、近年の経済発展、IT大国ぶりはすごいけれども、ここらへんのことはかわっていないようですね。

そのなかでも、のら犬の無法ぶりはすごいです。のびのびとしているし、平気でひとをかこんでほえてきます。ぜんぜん、ひとを恐れていない。ほんとうにこわい。

インドは狂犬病大国、そしてついに

そんな、のら犬が好き勝手をやっているインドは狂犬病(rabies)の犠牲者が世界でもっともおおいんです。でもって、狂犬病はいちど発症すると死亡率ほぼ100%。インドで旅行をはじめて、すぐに野良犬の不法ぶりを目のあたりにしておもいました。とにかく、旅行中に犬にはかまれたくないって。

野良犬にかこまれて、かなりこわい思いもしたけど、なんとか2ヵ月ちかくは無事にすごしました。でもね。やっちゃいましたよ。ついに犬にかまれちゃったんですよ、犬に。

太ももに痛みが…涙

インドの西部のプシュカール(プシュカルとも)という小さな町についたときのことです。バス停から宿をさがすために町のなかへあるきだしました。すると、すぐに数匹の野良犬にかこまれたんですよ。おもいっきりこっちにむかってほえてきました。

僕はこころのなかで「僕は君たちになんの関心もありませんよ。ここを静かにとおりすぎるだけです」とつぶやきながら、いつもインドでやっていたように、そーっとやりすごそうとしました。それまでは、そのやりかたでうまくやってましたし。

ところが、右足のふとももにちょっとした痛みが走りました。びっくりして、痛みのあったところをみると、パンツがやぶれていたんですよ。そして、その下には血がにじみでていました。

いま思いだすと、牙がひっかかったくらいで、たいしたキズではなかったとおもいます。しかし、当時はそんなことを冷静にかんがえる余裕はまったくありませんでした。もう、パニックです。

I was bitten by a dog! I was bitten by a dog!

もう叫びましたよ、おもいっきり。” I was bitten by a dog! I was bitten by a dog!”って。

かんがえてみると、これって、とってもJapanglishですよね。たぶん、英語としては、”The dog bit me! The dog bit me!”っていうのがもっと自然だとおもいます。でも、そこはやっぱり日本人。”I was bitten by a dog! I was bitten by a dog!”って泣きさけびました。

そうやって、大さわぎをしていたら、ちいさな男の子がどこからともなくあらわれたんですよ。そして、僕のことを手まねきしたんですよ。実はここらへんの記憶は動転していたせいか、あいまいなんですけど、どうやらその子が僕のことを病院までつれていってくれるつもりだってことが、なぜかわかったんです。そこで、その男の子を先頭に病院へといそぎました。

そのあいだもね、僕はずっと泣きさけんでいたんですよ。”I was bitten by a dog! I was bitten by a dog!”って。僕は、そのことばをくりかえしさけびながら、その男の子のうしろについて、病院へとはしったんですよ。いま想像するとすごいですよね。外国人が大声で泣きさけびながら街中を子どものうしろについてはしっているんですから。

病院についてからもね。ちょっとした一騒動というか、ビックリしたことがありました。それはまた次回に。

ご質問があれば、気軽に問い合わせページからご質問ください。

全米初の男性生殖器移植を実施、性機能の回復も

アメリカ・ボストンで男性生殖器の移植(penis transplant)を実施したとのニュースがはいってきました。Twitterで最初にしったのですが、「ゲー」っと背中がぞくぞくしたというのが正直な最初の感想でした。なんせ、他人についていたイチモツをつまんで、用をたさなければいけないんですから。結婚していたとしたら、妻はその後、技術的には浮気していることにならないか、とか余計なこともかんがえてしまいました。

とはいえ、CNNやBBCでもひろくとりあげていますし、記事をよむとなかなか興味深い話ですので、TwitterでながれてきたさきほどのSTATの記事やNPRの記事BBCでの報道を参考に概要をまとめてみたいとおもいます。

まず、今回の移植手術は全米初、世界では3番目の男性生殖器移植だということです。最初の2例は中国(2006年)と南アフリカ(2015年)だったそうです。中国での手術は失敗したものの、南アフリカでの手術では、患者はその後、生殖機能を回復し、子どもをもうけたと報告されています。

患者はトーマス・マニング(Thomas Manning)という64歳の男性です。2012年に鼠径部(the groin area)のけがで病院にいったところ、陰茎がん(penile cancer)が発見され、生存率をたかめるために陰茎を切断する(to amputate)手術を受けていました。残ったのは、「a little more than a stump」と記事にはあります。「stump」とは「切り株」とかいう意味ですから、根っこの部分がやや多めにのこった程度だったのでしょうか。マニングさんは手術後、今回手術をおこなったボストンにあるマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)の医師に移植についてくり返したのんでいたそうです。

マサチューセッツ総合病院での手術は、ディキン・コー(Dr. Dicken Ko)という泌尿器専門医(urologist)がリードしました。韓国系米国人のようですね。最近は中国系、韓国系の存在感が全米で増していますが、今回の歴史的な手術の報道をみていて、あらためてそのことをかんじました。

笑い話のようですが、移植用の男性生殖器が届いたタイミングはどうやら最悪だったようです。というのは、全米の泌尿器専門医が北米大陸の反対側、西海岸のサンディエゴで開催中の会議に参加していたからです。担当医のコー医師ももちろんこの会議に参加していました。コー医師はすぐになるべくはやい便で真夜中のボストンに戻り、空港から病院に直行したそうです。

コー医師によると、今回の手術の目的は3つあったそうです。まずは、「自然な見た目の外性器を再建すること(to reconstruct a natural-appearing external genitalia)」。次に「泌尿器機能と尿路の連続性を確立すること(to establish urinary function and continuity of the urinary tract)」。そして、最後に「できれば、性機能を得ること(potentially achieving sexual function)」。

手術は、尿路(the urethra)をつなげることからはじめ、つづいて血管(the blood vessels)と神経(the nerves)を縫いあわせたそうです。ちなみにSTATの記事では、「縫いあわせる」という動詞として「to suture」「to wire up」がつかわれています。血管の縫合の段階で問題が生じたそうです。手術前スキャン(pre-op scans)では、動脈(arteries)の血流に問題がなかったようにみえたのですが、実際には1本の動脈(artery)が細すぎたのです(the diameter was too small「(動脈の)直径が小さすぎて」)。そこで、マニングさんの脚の付け根(the top of Manning’s leg)から血管をとってきて、つぎ足しました(to splice)。こうして過程をへた手術は15時間におよんだそうです。

マニングさんのかかった陰茎がんはまれだそうです。それでも、ケガで男性生殖器をうしなう人はいるでしょうし、米国の場合、従軍で負傷した方で生殖器をうしなった方がそれなりにいるようですしね。今回の手術は、そういった方々の希望のよりどころとなるのでしょうか。どうやら、手術は成功におわり、今週中には退院できるようです。経過が気になるところです

Wikipediaは便利だけど気をつけよう

「情報ソースはなるべく共有したい」シリーズでなくても、エントリーには、必要におうじて「参考資料」といった形で情報ソースをのせています。そちらをみていただければ、どのような情報ソースをつかって、「資料」をあつめているのかおわかりいただけるとおもいます。それでも、ここではあえて、いくつかふれておきたいとおもいます。ちょっと、注意したいこともありますので。

やっぱり便利、Wikipedia

ウェブの百科事典、Wikipediaはやっぱり便利です。しらべたいことばをGoogleで検索すると、かなりの確率で上位でひっかかってきますしね。医療用語をふくむ専門用語を網羅しているので、とてもたすかります。他言語対応というのもうれしいです。といっても、英語と日本語くらいしかつかいこなせませんが。

他言語対応で便利なのは、日本語版でしらべたことばは対応するエントリが英語版にもあれば、みているウェブページの左側のコラムにある「他言語版」のなかの「English」をクリックするすれば、英語版にうつることができます。反対に、英語版でみていることばに対応するエントリが日本語版にあれば、みているウェブページの左側のコラムにある「Language」の「日本語」をクリックすれば、日本語版にうつることができます。ですので、英語と日本語のそれぞれの説明をいろいろと比較できます。

ためしに「腹」を日本語版でみてみましょう。そして、「腹」のページの左コラムにある「他言語版」の「English」をクリックすると、英語版の「Abdomen」に移動します

でもWikipediaのつかいかたには注意が必要

ここで気をつけなくてはいけないのは、日本語版は英語版の翻訳ではないということです。日本語版も、英語版もそれぞれ別の筆者がいて、それぞれの説明をかいています。ですので、内容はまったく別物です。それぞれの筆者が自分の考え方にもとづいてかいているので、説明のしかたもまったくちがいます。

もう一点、注意したいのは、Wikipediaはボランティアがかいているので、かかれている内容は正確とはかぎらないということです。とくに日本語版の正確性はかなりあやしいものです。英語版の方が質はたかいとおもいますが、それでも、100%の自信をもって、信頼できるかというとむつかしいです。ですから、大枠をとらえるための、あたりをつけるためにつかう程度にしたほうがいいとおもいます。

ありがとうMayo Clinic

Mayo Clinicという医療機関をごぞんじですか。アメリカ・ミネソタ州に本拠地をおく一大医療グループです。ミネソタ州だけにかぎらず、全米各地に医療施設をもっています。世界の富裕層が病気になったときにたよるのが、このメイヨ・クリニックだといわれています。ありがたいことに、このメイヨ・クリニックですが、患者むけに病気や検査関係のいろいろな情報をPatient Care and Health Informationというサービスで提供しています。患者むけだけあって、とても平易なことばでかかれています。患者にたいして、専門用語をぶつけるのでなく、どのようなことばをつかえばいいのかという参考になりますので、勉強になります。

Ngram Viewerでくらべよう

さて、医療英語についていろいろしらべるうえでの情報ソースでどうしても紹介したものがあります。それは、Google Books Ngram Viewerです。これは、とても便利で、知っている人は知っているのですが、日本語版がまだないので、なかなか浸透していないようですね。

Googleは世界中のあらゆるものをデータ化(デジタル化)するというミッションにもとづいて事業をおこなっています。書籍も同様で、出版された書籍すべてのデジタル化をすすめています。そして、デジタル化された書籍は、出版年代ごとに整理されています。Ngram Viewerをつかうと、どのようなことばがどの年代にどの程度つかわれていたのかということが明らかになります。

こう説明しても、ピンとこないでしょう。それでは、cancer(がん)とtuberculosis(結核)ということばをつかって、Ngram Viewerで検索してみましょう。結果、このようなグラフをえることができました。1800年代の半ばから、1950年代の後半まで、tuberculosisということばが、cancerを上まわって、書籍にでてきたことがわかります。その後、登場頻度が逆転すると、1960年代以降は、その差が急速にひろがっていたことがわかります。あくまで、英語の書籍をもとにしたものでありますが、がんのほうが肺炎よりも今では登場頻度がはるかに高いということは実感覚としても「やっぱり」とおもうのではないでしょう。

Ngram Viewerは、単語だけでなく、単語列についても書籍への登場頻度をしらべ、比較することができます。一例をあげましょう。医療英語をまなぶ人からよく出る質問に、分泌腺の「松果体」はpineal glandなのか、pineal bodyなのか、どちらなのか、というものがあります。どちらも正解なのですが(松果体をあらわすことばには、ほかにもconariumとepiphysis cerebriがあります)、pineal glandとpineal bodyはどちらも人体図鑑とかによくでてきますし、pinealということばの後に「体」をあらわすbodyと「分泌腺」をあらわすglandがつづく2つのことばをみて、ことばと意味の食いちがいに頭をひねってしまうひとがおおいようです。ちなみにWikipediaの日本語版に載っている松果体の項目には、英語でpineal bodyというとでています。

さて、Ngram Viewerで松果体をあらわすことばをしらべてみましょう。結果はこちらです。いまでは、pineal glandが圧倒的におおくつかわれていることがわかります。ところが、1940~1960年くらいはpineal bodyの登場頻度もおおく、pineal glandとほぼおなじくらいだったことも結果はしめしています。これは、勝手な予想ですが、pineal bodyが比較的ひろくつかわれた時期に松果体ということばができたんじゃないでしょうか。

もう一つ、例をあげてみましょう。hay fever(花粉症)です。feverとなっているので、不定冠詞の「a」をつけるべきか、どうか、気になる人もいるでしょう。Googleで不定冠詞をつけて検索すると、日本語のウェブサイトがぞろぞろとでてきて、「花粉症です」は”I have a hay fever”っていうんだよと説明しています。

これをNgram Viewerで、不定冠詞をつけた表現とつけなかった表現で検索してみます。なんと、つけた表現はまったくでてきません。以前、「病名とか症状って可算名詞、それとも不可算名詞?」でもふれたとおり、病名であるhay feverは、単なるfeverとはあつかいがちがうんだということです。

こんな日本人が不得意な冠詞のあつかいなどもNgram Viewerをつかうとみえてきます。とても、便利ですので、つかってみてください。

九州・熊本地震被災者への医療支援をデジタルで

九州・熊本地震の被災者を支援する目的で、デジタルの分野でもいろいろな動きがあります。その中には、医療関連アプリで無償提供されているものがあります。

なんといっても、書籍で長年家庭の定番だった保健同人社の「家庭の医学」のiPhoneアプリ版(5月31日まで)。いつもは1,900円で販売されています。なかなか手が出にくい価格帯ですけど、今回の無償提供で被災者にとっては手が出やすくなり、役に立つだろうとおもいます。

Yakusokuの「薬速2016」も支援目的で無償提供中(通常価格2,800円)ですが(無償提供期限についてのアナウンスメントはないようです)、こちらはプロフェッショナル向け。基本的には、薬剤師が支援に現地入りしたときにつかえるといったイメージなんでしょうか。

Excite Japanの「寝たまんまヨガ 簡単瞑想」のiOSアプリはいつもだったらアプリ内課金となるコンテンツのうち、「Healing & Recovery」を無償提供しています。被災地の方たちのストレスは相当なものでしょうから、健康という面からも、こういったアプリは役に立ちそうですね。

アプリから離れると、看護の科学社は「英語で学ぶ災害看護 基礎とコミュニケーション」のPDF版を期間限定(6月末日まで)で無料公開しています。外国人の被災者は、異国の地での被災はとても心細いでしょうから、こういった支援が役に立てばいいですね。

また、医療分野とは直接関係ありませんが、インクリメントPはAndroidの地図ナビアプリ「MapFan 2015」を期間限定(5月18日まで)で無償提供(通常価格3,888円)しています。また、iOS版となる「MapFan+」はもともと無料アプリでオフライン地図をアプリ内課金で購入するのですが、期間限定(同日まで)で九州・沖縄地方のオフライン地図が無償提供されています。医療ボランティアの方たちにとってはべんりなのではないでしょうか。